DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第42話

 仲間を救うため、敵の隠れ家へと侵入したクラマ達。

 壁に開いた大穴を抜けると、まず最初に長い階段があった。

 5人の先頭をクラマが行く。

 

「時間が惜しい。突っ切っていくから、ついて来て! パフィーは道を調べてくれる?」

 

「わかったわ!」

 

 そう言ってクラマは運量を使用して「罠の無力化」と、「侵入が察知されない」という2つを願って走る!

 時間を惜しむ故の大雑把な願い。

 やはり罠が設置されていたのだろう、進むたびに運量がごりごりと削られていく。

 

 

> クラマ 運量:4502 → 996/10000(-3506)

> パフィー心量:190 → 139/500(-51)

 

 

 階段を降りきってから、何度か道を曲がったところで運量が残り1000を切る。

 

「間に合うか……?」

 

 このまま運量が尽きるまで行くべきかどうか。

 この辺で運量の使用を中止しておいて、いざという時のために残しておくべきか。

 あるいは片方だけ切るべきか。

 正解が分からない。

 運量は複数の願いを同時に使用すると、どこで減っているのかが分かりにくいため判断に困る。

 迷うクラマに、パフィーが告げた。

 

「クラマ、あと300メートル!」

 

 わざわざ地球の距離単位に変換して言ってくれるのが、今のクラマには有り難い。

 

「…………」

 

 このペースでは目的地まで運量はもたない。

 だがこの程度の距離なら、たとえ途中で見つかっても目的地に着く前に囲まれる事はないはず……。

 クラマはそう判断して「侵入が察知されない」方の願いを解除した。

 罠だけ無力化して突き進む!

 

「デル・ティケ! 侵入が察知されない願いを取り消し!」

 

 と、クラマが唱えた直後だった。

 

「なんだお前らは!?」

 

 願いを中止して早々に発見された。

 大剣を背負った女――トゥニスがクラマ達の前に立ちはだかる。

 背中から獲物を抜いて構えたトゥニス。

 その姿を見たイクスが叫ぶ。

 

「トゥニス!」

 

「むっ、イクスか……!」

 

 トゥニスとイクスの視線と声が交錯する。

 しかし構えた大剣に交わされたのは、別の手から伸びた刃。

 

 奔る双剣。

 ぶつかる剣戟。

 

 瞬時に躍り出たセサイルが、その双剣をもってトゥニスの大剣を抑え込んでいた。

 

「お前らは先に行け。オレもすぐに後を追う」

 

 気負いもなく、軽い口調で言ってのけるセサイル。

 その余裕すら見える横顔を信じて、クラマは先を急いだ。

 

「……………」

 

 イクスはトゥニスに目を向けて立ち止まりかけたが、すぐに迷いを振り切って、クラマの後を追った。

 今はこちらに集中する。

 そう言った自らの言葉を偽らないために。

 

 

 

 

 

 クラマ達4人が過ぎ去った後、トゥニスは気合を込めてセサイルを押し返した!

 

「はっ!」

 

「おっと……」

 

 セサイルはそれに逆らわず、自ら下がって距離を取り直す。

 トゥニスはつい先刻、ワイトピートに告げられた言葉を思い出していた。

 

「明日か明後日には来る……か。ふ、あの男にも読み違いがあったか。いや、あの言葉が本当かどうかも……考えるだけ無駄か」

 

 なにやらぶつぶつと独り言を言いだした相手に、セサイルは呆れて言葉をかける。

 

「おいおい、なに言ってんだか分からねぇが、敵を前にしてずいぶんと余裕じゃねぇか」

 

「なに、気にするな。余裕はお互い様だろう。私を前にして、すぐに後を追うなどと」

 

 言われてセサイルは、ニィッと犬歯を見せた。

 

「確かめてみるか?」

 

 その言葉と同時に、空気が変わる。

 セサイルの立ち姿から強烈な威圧感が発散された。

 気配なく刃を滑らせるワイトピートとは対照的。

 爛々と輝きを放つセサイルの瞳は、獲物を前にした肉食獣のそれだ。

 相手の気配を感じ取ることに敏感なトゥニスは、その荒ぶる気質を前にして――(わら)った。

 (たぎ)る戦士の血。

 死力を尽くす激闘への期待を抑えられない。

 

「ああ、お前の剣を私に見せてくれ」

 

「ハッ、上等だ! 後悔するんじゃねえぞ!」

 

 瞬間、セサイルは猛獣のごとき跳躍をもって躍りかかった。

 地下深くの通路にて、ふたりの戦士の魂が幾つもの火花を散らし、眩く激突した。

 

 

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> クラマ 運量:1196 → 668/10000(-528)

 

 

「はー、はー……こ、ここよ……この扉の奥……!」

 

 全力で走り続けて息も絶え絶えのパフィーが、一枚の扉を指さした。

 ついに目的地へ辿り着いたクラマ達。

 クラマは扉を調べたが、取っ手もドアノブもない。

 案の定ここも生体認証が必要な自動ドアのようだった。

 その扉の前にティアが歩み出る。

 

「皆様、下がってください。爆破します」

 

 言って、ティアは黒槍の先を扉に押し当てた。

 

「オクシオ・ヴェウィデイー……サウォ・ヤチス・ヒウペ・セエス・ピセイーネ……ヨイン・プルトン!」

 

 

> ティア 心量:438 → 388/500(-50)

 

 

 槍の先端より噴出した爆轟が扉を吹き飛ばす!

 クラマ達は立ち込める粉塵を掻き分けるように部屋へ突入した。

 

 幸いなことに、敵は部屋の中にいなかった。

 

 いるのは床に転がった2人の女性。

 

 イエニアとレイフ。

 

 

> クラマ 心量:36 → 257(+221)

 

 

「ひ、ひどい! イエニア! レイフ! 大丈夫!?」

 

 パフィーが倒れた2人に駆け寄る。

 レイフの周りには破り捨てられた衣服と、様々な体液が散乱していた。中には血も混じっている。

 一見するとレイフの状態は酷いが、目立った外傷は殴られた顔の痣くらい。

 逆にイエニアの方は深刻だった。乱暴に巻かれた包帯からは血が滲み出ており、今すぐにしっかりとした処置が必要だった。

 パフィーは医療の専門家ではないので確かなことは言えなかったが、おそらく輸血もしなければ助からないだろう……と思えた。

 ともかくパフィーは、まず止血を始める。

 

「ティア、包帯ある!?」

 

「はい、こちらはお任せください」

 

 答えたティアが、イエニアの体にしっかりと包帯を巻き直す。

 その間にパフィーは止血魔法の詠唱を始めた。

 

 パフィーとティアが作業をしている隣。

 クラマは倒れたレイフの前に来た。

 レイフは意識があったが、乱暴された体は痛みにうまく動かせないようで、ぎこちなく身をよじってクラマに目を向けた。

 レイフの美貌にはいくつもの痣ができ、目蓋は腫れ上がり、口の端から一筋の血が流れている。

 しかしそんな状態にもかかわらず、レイフは痛む頬を動かして笑顔を作ってみせた。

 

「あら、クラマ……遅かったじゃない……女を待たせるなんて……ふふ、悪い人ね」

 

「すまない。遅くなった」

 

 クラマは膝をついて自らのコートをレイフに被せた。

 いつも通りのクラマだった。

 声色も、しぐさも、誰の目から見ても普段通りのクラマにしか見えなかった。

 

 だから――それは小さな違和感だった。

 詠唱を行っている最中のパフィーが、目の端で捉えたクラマの行動。

 そのコートは彼にとっての防具であり、敵地の中で脱ぐのは合理的ではない。

 だが詠唱中のパフィーはそれを指摘することができない。

 そこへ……

 

「来た! 男が3人、全員武器を持ってる!」

 

 見張りをしているイクスからの声。

 クラマは立ち上がった。

 普段と変わらぬ動作で。

 普段と変わらぬ声でパフィーとティアに告げる。

 

「ふたりとも……イエニアとレイフを頼んだ」

 

 カラン、とクラマはイエニアの盾を落とした。

 クラマの手に武器はない。

 防具であるコートも。

 クラマは徒手のまま入口へと向かって歩く。

 

 歩くたび、クラマの首から下がった金属の札が揺れる。

 それは運量、そして心量の計測器。

 そこに出ている数値を目にしたパフィーは、激しい焦燥に駆られた。

 しかし詠唱中の動揺は許されない。

 パフィーは逸る気持ちを必死に抑え込んで、詠唱を続けた。

 

 部屋の中に響き渡るパフィーの詠唱。

 それに、もうひとつの詠唱が重なった。

 

「オクシオ・イテナウィウェ……ドゥペハ・イバウォヒウー・ペヴネ・ネウシ・オーバウェフー・トワナフ……打ち崩せ。万象五行を圧倒する力。境界を踏み越えて、その先へ」

 

 クラマの詠唱だ。

 唱えると同時に、彼のベルトについたバックルが輝きを放つ。

 黒い炎を象った魔法具が。

 

「おまえたちの軌跡はここで途絶えた――ジャガーノート」

 

 

> クラマ 心量:257 → 232(-25)

 

 

 クラマの心拍数が上昇。

 体の内側が熱くなる。

 まるで体の奥で小さな灯火がついたかのように。

 

 外から数人が慌ただしく走る音と、男の声が聞こえてくる。

 クラマは入口に向かって歩く。

 歩きながら、唱えた。

 

「オクシオ・イテナウィウェ……ドゥペハ・イバウォヒウー・ペヴネ・ネウシ・オーバウェフー・トワナフ……打ち壊せ。万象五行を圧壊する力。境界を踏み越えた、さらにその先へ」

 

 二度目の詠唱。

 輝く黒い炎。

 

「おまえたちの命運はここで途絶えた――ジャガーノート」

 

 

> クラマ 心量:232 → 207(-25)

 

 

 炎が、広がる。

 クラマの体の中で。

 灯った火は烈火の如く勢いを増して、己の身を焼き切りながら、渦を巻いて全身へと燃え広がっていく。

 それは黒い、黒い、果てしなく黒い炎だった。

 

 詠唱を終えたパフィーがクラマの背に向かって叫ぶ!

 

「だめ、クラマ! 誰かクラマを止めて!」

 

 言われて振り向いたイクス。

 そのイクスの体が、クラマの顔を見た瞬間にビクッと震えて硬直した。

 何か、ヒトではない恐ろしい何かを目にしたかのように。

 

 そうして三度、クラマの口が開かれた。

 

「オクシオ・イテナウィウェ……ドゥペハ・イバウォヒウー・ペヴネ・ネウシ・オーバウェフー・トワナフ……打ち殺せ。万象五行を圧殺する力。境界は壊れた、もはや先も後もない」

 

 黒い炎が包み込んでいく。

 体の隅々まで。

 やがて全身を毛の一本までも隙間なく満たした時――

 

「おまえたちの命はここで途絶えた――ジャガーノート」

 

 

> クラマ 心量:207 → 182(-25)

 

 

 そこには、ヒトの姿をした別のモノがいた。

 

 

 

 

 

 監禁部屋の入口に辿り着いた男たち。

 2人が入口の左右を固めて、中央のひとりを先頭にして中へ突入する――その手はずだった。

 しかし彼らが突入する寸前に、入口からひとりの男が現れた。

 クラマだ。

 

「投降か? 残念だがおまえら――」

 

 ――暴風が通り過ぎた。

 

 ……そうとしか認識できなかった。傍にいた彼の仲間には。

 聞いたことのない異音とともに、局地的に発生した暴風が入口にいた男を吹き飛ばし、横の壁に叩きつけた……そのように見えた。

 

 実際はクラマが無造作に振るった裏拳だった。

 クラマの拳で壁に叩きつけられた男は、あらぬ方向へと首が捻じ曲がっていた。

 ……その被害は、攻撃を受けた男だけではない。

 クラマは突き出したままの己の右腕を見る。

 攻撃したクラマの腕も、おかしな方向に折れ曲がっていた。

 

 そこへ――ドッ、という衝撃。

 衝撃の元。

 クラマは自分の脇腹に目を向ける。

 そこでは槍の穂先が突き刺さっていた。

 

「ハッ、ぼうっとしやがって、バカが!」

 

 横合いから突き出した槍を握って、嘲笑する男。

 男はさらに傷口を抉ろうと力を込める。

 ……が、何故か槍が動かない。

 いや、それどころではなかった。

 信じられない光景を目にして、男の顔が驚愕に歪んでいく。

 

 めり、みり……。

 

 脇腹に突き刺された槍の穂先が、ひとりでに押し出されていく。

 脳内麻薬により増強された異常なまでの筋肉の膨張。

 筋肉に押し出される圧力によって、脇腹に突き入れられた槍が、体の外へと押し戻されているのだ。

 やがて完全に槍が抜け……残ったのは穂先についたわずかな血と、穴の開いた服。

 筋肉の膨張に加えて、陳情句で追加されたセロトニンの止血効果によって、傷口は完全に塞がっていた。

 

 槍を刺した男は、あんぐりと大口を広げて一部始終を見ていた。

 

「は、はぁ? ば……ばけも……」

 

 その言葉を最後まで言うことはできなかった。

 クラマの繰り出した前蹴りが男の腹に直撃!

 体をくの字に折って吹き飛ぶ男。

 男は30メートル先の壁に激突し、崩れ落ちた。

 

 そして、残るはひとり。

 

「あ、あ……?」

 

 目の前の事態を受け入れることができずに、呆然とクラマの背中を眺める男。

 クラマの口から真っ白な煙が吐き出される。

 肺を通った空気が、体内の高温で熱せられた結果だ。

 クラマはゆっくりと振り返ると、肩越しに背後の男へと目を向けた。

 向けられた黒い瞳。

 その眼には、目の前の男の姿は映っていなかった。

 ただただ黒く……ぽっかりと空いた穴のように。

 

「な……なんだ……なんなんだテメエは!!!」

 

 直後、男は天井に頭から突き刺さった。

 クラマの蹴り上げによって。

 

 

 

 

 

 圧倒的な暴力。

 抗うこともできずに蹂躙された、惨憺たる光景。

 

「ほう、これは……」

 

 その惨状を眺めて、笑みを浮かべる男がひとり。

 遅れて姿を現したワイトピートだ。

 彼は今しがた己の部下を天井に埋めたばかりのクラマの後ろ姿を、興味深げに観察する。

 

「ふぅむ、身体強化の目的で精神を操るとは……面白い発想だ。心量上昇による身体機能向上とは、また質が違うな。だが、それにしても……」

 

 ワイトピートはクラマに打ち倒された男たちを、ちらりと横目で見た。

 ヒトの手で起こされた光景とは思えない。

 これだけの力があるなら、先刻の戦いであのような結果になっていなかったはずだが……

 

「前に見た時とは、まるで別物だな。重ねがけか?」

 

 軍の特殊部隊に所属していたワイトピートは、対魔法使いの素養もある。

 彼自身は魔法使いではないが、魔法使いの使用した詠唱から、おおよその効果を把握することができた。

 そこから分析を行うワイトピートに、クラマが目を向ける。

 その黒い眼を見たワイトピートは恐れることなく――嗤った。

 

「ふ、やめたまえ。その体はもう限界だろう。それ以上続ければ――」

 

 台詞を中断して、ワイトピートは両腕を胸の前で交差させた。

 その腕の上からクラマの膝がめり込む!

 

「ぬっ、ぐぅっ……!」

 

 みしり、とガードした腕の骨が悲鳴をあげる。

 さらに蹴りの勢いでワイトピートの体は宙を飛び、数メートル離れた場所に着地した。

 ワイトピートの顔が苦悶に歪む。

 クラマの蹴りを受け止めた左腕の感覚がない。

 折れてはいないものの、しばらくは使いものにならなかった。

 

「んんぬ……! はは、これでも鍛えているのだがね……いや、しかし……」

 

 ワイトピートが見下ろす先。

 そこではクラマが膝をついていた。

 

「残念だが、きみはちょっとばかり鍛え方が足りなかったようだね」

 

 クラマは身を起こそうと足に力を入れる。

 が、その半ばでガクリと崩れて地面に倒れてしまう。

 

「……?」

 

 βエンドルフィンの効果によりクラマは痛みを感じない。

 痛覚がないということは傷を負っても動ける反面……自分の体の異常に気が付けなくなるという事でもあった。

 

 限界を超えた代償。

 敵を破壊すると同時に、クラマの体も壊れていた。

 

 ワイトピートは腰から下げたサーベルを抜いた。

 

「だが、まあ、よくやったと言えるだろう。きみにやられた彼らは、もう使いものになるまい。これはどこかで戦力を補充しなけれ――ば――」

 

 喋っている途中で、その顔が徐々に喜悦に歪んでいった。

 ワイトピートの視線の先。

 クラマが立ち上がっていた。

 

「来るか……そう、そうだろうな」

 

 ぎ、ぎ……と足を軋ませながら、クラマは一歩ずつワイトピートに向かって歩いていく。

 

「フフ……ハハハハハ!! そうだ、止まるわけがないな! さあ来たまえ! 見せてくれ! きみの力を最期まで……!」

 

 剣を構えてクラマを迎え撃つワイトピート。

 ……しかし、それに答えたのは、背後からの声だった。

 

「そうかい、じゃあ行くぜ?」

 

「ぬ――!?」

 

 閃く双剣。

 耳をつんざく剣戟の響き。

 

 背後からの攻撃!

 間一髪で奇襲を防いだワイトピートは、大きく跳躍して距離を取った!

 ワイトピートの背後より現れたのはセサイル。

 セサイルは額から血を流していたが、余裕のある表情を見せる。

 

「たいした反応だ。こんな強えヤツが地下に隠れていやがったとはな。一度サシでやり合ってみてえところだが……」

 

 セサイルの視線の先。

 クラマの前に、黒槍を手にしたティアが立ち塞がっている。

 

「ティア……」

 

 クラマの喉から言葉が漏れる。

 ティアは背後のクラマには振り返らずに、ワイトピートから視線を離さず答えた。

 

「遅れてしまい申し訳ありません。後はお任せください」

 

 ティアの実力のほどは誰にも分からない。

 しかしその落ち着き払った様子からは、ある種の威厳にも似た緊張感を周囲の者に抱かせた。

 

「……おおっと、これは参ったな」

 

 そんな中にあってもワイトピートは、肩をすくめておどけてみせた。

 隙といえば隙。

 だが、不用意に間合いの中へ踏み込むことのできない不気味さを、セサイルもティアも感じていた。

 

「まさかこれほどの隠し玉があるとはね。ハハハ、これはどのみち無理というものだ。――うむ! しからば諸君! さようならだ!」

 

 ワイトピートが告げた直後、その周囲にもうもうとした煙が広がった!

 煙玉だ。

 

「ちっ! 逃がすかよ!」

 

 セサイルの双剣が閃く!

 しかし銀光が切り裂いたのは白い煙。

 

「ぬっははははは!! さらば諸君! また会おう!」

 

 明朗な高笑いが煙の奥へと遠のいていく。

 勝手の分からぬ施設内では、深追いするのはあまりに危険すぎる。

 見事に逃げられてしまった。

 セサイルは頭を掻いてぼやく。

 

「ったく、さっきの女といい、とんでもねえな。こりゃあ場数を踏んだパーティーも行方不明になるわけだ」

 

 ティアはその言葉に頷き、そしてその場のセサイルとクラマに向けて言う。

 

「とにかく、すぐ地上に戻りましょう。イエニア様の容態は一刻を争います。クラマ様も……クラマ様?」

 

 ……と、そこで異常に気付いたティアが、クラマの顔を覗き込む。

 クラマの反応はない。

 その様子を見て、セサイルが呟いた。

 

「……こいつ、立ったまま気ィ失ってやがる」

 

 その後、部屋から出てきたパフィー達と合流して、一行は隠れ家から脱出する。

 セサイルがクラマとレイフを、ティアがイエニアを背負って、ダンジョンの上へと急いだ。

 こうして、いくつもの被害を生じながらも、ようやく彼らは地上への帰還を果たしたのだった――

 

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