DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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B4F retry - 収束せし揺籃歌
第45話


 ニーオによるクラマの手術は、無事成功した。

 クラマの心臓の影に隠れるようにして出てきたのは、小さな小さな石。

 これ自体は何の変哲もない石だった。

 パフィーの見立てでは、石には“印”としての意味しかなくて、魔法具によって石のある場所を感知するのだろう……という事だった。

 

 手術が終わって全身麻酔から目覚めたクラマは、少し拍子抜けした。

 覚悟していた胸の痛みやら、吐き気やらといったものがない。

 これは術後すぐにパフィーが代謝を早める魔法を行っていたためだった。

 なるほどこれは召喚された直後に手術されてても気付けないわけだ、とクラマは感心した。

 

 その後はパフィーの指示で食べた。

 たくさん食べた。

 特に肉を。

 代謝を早めて体を治す。それには体の“素”になるものが必要になるからだ。

 クラマはとにかく食べて、食べて、食べまくった。

 

 たくさん食べて、パフィーの魔法治療を受けていると、みるみるうちに自分の体が回復していくのをクラマは実感していた。

 2日もすればひとりでベッドから降りられるようになり、4日もすれば折れた骨は繋がり、立って歩けるまでになった。

 その間に髪も伸び、見舞いに来たメグルに切ってもらうという一幕もあった。

 

 見舞いは、いろんな人が来た。

 クラマから2日遅れて手術を受けるサクラは、その直前に顔を出し、

 

「ほんとに痛くないの!? ほんとにほんと? べ、べつに怖いわけじゃないんだけどね!?」

 

 などとクラマの前で騒いでから手術室に引きずられていった。

 一郎や次郎……特に一郎は頻繁にクラマの病室に顔を出した。三郎はイエニアやサクラの治療を手伝っているとのことで来なかった。

 他にはノウトニーやマユミ。納骨亭から、マスターの手料理を持ってテフラも訪れてきた。

 それからメグル達のパーティーに、アピリンおばちゃんなど街の人まで。

 毎日代わる代わる誰かしら来るので、昼間はほとんど常に誰か人がいるような状態だった。

 

 クラマの快復は順調だった。

 しかしそれは、パフィーの心量を引き換えにしている。

 クラマは自らの心量をパフィーへ移していた。

 だがそれだけでは足りない。

 見舞いに来るメグルやマユミから心量を受け取っても、まだ充分とは言えない。

 もっと心量を高めなければならない。

 そこで発案されたのが――

 

 

 

 

 

「あのさ。助けてもらったお返しをしたい……とは思ってたけどさ」

 

 ベッドの上で上半身を起こしているクラマの前に、メグルが立っていた。

 メグルは呆れたような、微妙に蔑むような視線でクラマを見下ろして言う。

 

「こんなところでコスプレさせられるとは思わなかったんだけど?」

 

 ――そう。

 メグルが着ている服は普段とは違う。

 それはナース服であった。

 しかもひどく薄地で、ミニスカートの。

 

 メグルのストレートに伸びた黒髪に、白いナース服がよく映えていた。

 改めて見るとメグルはとても整った顔立ちをしている。

 真っ直ぐで綺麗な黒髪も相まって、どこか日本の古いお姫様のような雰囲気があった。

 体系も背がやや高めで、全体的に細くてスマート。

 街を歩いていればモデルとしてスカウトされそうだった。

 その長くて細い脚は否が応でも目を引く。

 太腿には当然と言わんばかりにガーターベルト。

 ニーソックスとミニスカートの隙間から覗く肌色が目に眩しい。

 

 メグルは自分を見つめるクラマを半眼でじろりと見返して尋ねる。

 

「……なに、好きなの? こういうの」

 

 ナース服が好きかということを、クラマはこれまでの人生でとりわけ深く考えたことはなかった。

 この衣装はダイモンジがいつの間にか製作していたものだ。

 しかし今、クラマはダイモンジに感謝していた。

 

 そして、その場にいるのはメグルだけではない。

 納骨亭の看板娘、テフラもメグルの隣にいる。

 

「あの、もう少し大きいサイズありません? 少しきつくて……」

 

 テフラは水色のナース服だった。

 こちらは微妙にフリルがついて、ガーターベルトもない。靴下も短く、生足が強調される作りとなっている。

 細部の違いにダイモンジの拘りが窺えた。

 

「ごめんね、サイズはどれも一緒だって」

 

「うう……そうなんですか」

 

 そう言ってテフラはしきりに胸のあたりを気にしている。

 なるほど確かにきついだろう、クラマは納得した。

 テフラは胸のあたりが一杯に張って、仕方なくボタンをひとつ外している状態だ。

 その胸元には、窮屈そうな谷間が見える。

 

 メグルとはまた違った方向で、こちらもモデル体型だった。

 メグルが和なら、こちらは洋といった具合だ。

 2人並ぶとコントラストが映える。

 

 クラマは感謝した。

 ありがとう、ダイモンジさん。

 本当にありがとう。

 

 ――はは……これくらいお安い御用だよ……。

 

 そんなダイモンジの囁き声が聞こえたような気がした。

 

「うーん、それじゃあ私はだめですねー」

 

 部屋の隅にはケリケイラもいた。

 確かに大柄なケリケイラでは、きついどころか着る事すらできない。

 ちなみにケリケイラはメグルが来る時は常に同行し、まるでクラマとメグルを2人きりにさせないよう監視しているかのようであった。

 

 ……そして、最後にもうひとり。

 

「ところで、あなたは入らないんですかー?」

 

 ケリケイラが部屋の外に向けて声をかける。

 すると外から慌てた声が返ってきた。

 

「無理無理無理! 私には絶対無理すから、こういうの!」

 

「わざわざ着替えて部屋の前まで来ておいて、今さらですねー。皆さん待ってますよ。はい、覚悟を決めましょー」

 

「ぎゃああああああ!? 待って待って待ってー!?」

 

 そうやって騒がしく引きずり出されたのは……マユミであった。

 彼女も例によってミニスカナース服。

 マユミが着ているのはピンク色だ。

 メグルやテフラとの違いは、上下に分かれているへそ出しスタイルな事だ。

 しかし目を引くのはへそよりも……むっちりとした下半身。

 慢性的な運動不足、そして30を過ぎた年齢により蓄積された――それは敢えて率直に言ってしまえば――贅肉であった。

 サイズオーバーでパンパンのミニスカート。

 そこから伸びるむちむちした太腿。

 さらには腰の上には、微妙に腹の肉が乗り上げている。

 ……そのわりに胸の方はそこまででもない。

 

「う……あぅ……」

 

 ケリケイラによって無理やり部屋に入れられたマユミは、自分を見ているクラマの視線、すでに中にいるメグルとテフラ、そして最後に自分の体を見比べて……

 

「うぐぅぅぅ……こんなの罰ゲームだぁ~!」

 

 と言って、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 クラマはしゃがみ込んだマユミに目を向けながら、上半身を傾ける。

 ……と、その目がメグルの手で塞がれた。

 

「何を見ようとしてるの?」

 

 無論、ミニスカでしゃがんだマユミのパンツである。

 しかしクラマは流れるように嘘をついた。

 

「いや、体がうまく動かなくてさ。ふらついてしまった」

 

「ふーん。スケベとは聞いてたけど、本当なんだ」

 

 クラマの嘘は見破られた。

 そこへケリケイラがクラマの方へやって来た。

 しゃがみ込んだままのマユミのために、ケリケイラが提案する。

 

「じゃあ、見られなければいいんじゃないですかねー? クラマさんはこうしてー……」

 

 ごろん、とケリケイラはクラマをうつ伏せになるよう転がす。

 

「おうっ」

 

「はーい、皆さん上に乗ってくださーい」

 

 ケリケイラに言われてメグルとテフラが、ぎこちなくベッドに乗り上げた。

 最後にメグルもクラマの足の付近に乗る。

 

「じゃあ皆さん、マッサージ始めてくださーい」

 

 ……そう。

 彼女達がこのような格好をしているのは、単なるコスプレショーに興じているわけではない。

 壊れたクラマの体をマッサージでほぐして回復を助ける――それが今回の主題であった。

 そのついでに衣装を変えて心量回復も兼ねよう! ……という、非常に合理的かつ効率的なクラマのアイディアによるものだった。

 女性3人の手が、クラマの腕を、肩を、背、腰、脚にくまなく触れ、揉み解していく。

 

「お……おぉ……おぉぉぉ~…………」

 

 極楽浄土(エルドラド)

 クラマは地上の楽園をその身に感じ取っていた。

 気の抜けた声を漏らすクラマの肩回りを揉みほぐしながら、メグルが尋ねる。

 

「……ねえ、このくらいの力加減でいいの?」

 

「んん……んおぉ~……おぉん……」

 

「あの、ちょっと声がきもいんだけど?」

 

 それに対してテフラが、クラマの腰に両手の親指を立てて上から圧力をかけながら言う。

 

「あはは……しょうがないですよ。それくらい気持ちいいってことで」

 

「……なんか慣れてない? マッサージ」

 

「はい。子供の頃からおじいちゃんやお父さんによくやってたんで、得意なんですよ。今度やってあげましょうか?」

 

「んー……うん、今度ね」

 

 などと女性2人はクラマの背中の上で交友を深めていた。

 一方のマユミはというと……

 

「へぁ~……つかれた。マッサージって思ったより重労働なんだ……」

 

 クラマの足の間で座り込むマユミ。

 そんなマユミにケリケイラが横からアドバイスをする。

 

「そうですねー、足の裏に乗るっていうのもありますよー」

 

「……ほむ」

 

 言われた通りに立ち上がって、クラマの足の裏に乗ったマユミ。

 

「そうそう、その土踏まずの部分にカカトを乗せるようにしてー……左右の足で交互に体重をかけて……」

 

「おおー、これはらくちん」

 

 楽なやり方を発見してご機嫌のマユミ。

 だったのだが……

 

「……あの~……その~……ちょっといいかなあ……?」

 

「はい~?」

 

 遠慮がちに上がったクラマの声。

 クラマにしては珍しく、とてもとても言いづらそうな様子で、その言葉を告げた。

 

「……あのね、その、大変ありがたいんだけどね。足の裏がね……なんというか、ちょっと…………重くて」

 

「―――――」

 

 マユミがぴたりと停止する。

 マユミだけではない。その場の全員が止まっていた。

 

 そろそろとクラマの足の裏からマユミは降りて……

 

「う……うぐぅぅぅぅぅ……!」

 

 頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 あまりにも哀れな光景に、誰もフォローの言葉を入れることができなかった……。

 なお、この日を境にマユミの長く険しいダイエットへの道が始まったわけだが……それはまた別の話なのであった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、女性達によるクラマの心量回復マッサージが終わった後。

 ケリケイラは帰り際、クラマに何事かを言おうと口を開いた。

 ……が、途中でやめて、「気をつけてくださいね」とだけ告げると、メグルと一緒に去っていった。

 

「……わかりやすい人だなあ」

 

 女性たちが帰った後の病室で、クラマはそんなことを呟いた。

 ……例の悪徳高利貸しの調査をしていた際に、冒険者ギルドが裁判へ推薦する魔法使いにケリケイラの名前が出てからというもの、クラマはケリケイラの動向を注意して観察していた。

 そうして見ると、何やらクラマ達の内情を探るような言動が多いことに気がついた。

 また、そうした話を振る時のケリケイラは決まって相手の目を見ずに、どこか遠くを見ながら喋っていた。

 ……嘘をつくのが下手な人だった。

 さらに冒険者ギルドで受付嬢から資料を見せて貰うと、公的機関やヒウゥースの関わる企業が相手の裁判では、ケリケイラが斡旋される確率が異様に高いことが分かった。

 

 ケリケイラはこの国の権力者――ヒウゥースやディーザの手下だ。

 

 これがクラマの結論だった。

 そして恐らく、ケリケイラ自身はそれを望んでいない。

 節々(ふしぶし)から見える態度。

 それからダンジョン内でクラマに魔法具を譲った際の「私が持ち帰ってもろくなことに使わない」という言葉が、それを示している。

 以上によりクラマがパーティーに提案した方針が、これだ。

 

 “こちらの黒い部分は、ケリケイラの目に触れないように。”

 

 大怪我をしたのは、逆に都合が良かった。

 手術をしても不自然にならない理由ができた。

 クラマが発信器を取り除く手術をしたことは関係者には口止めをして、サクラは病院の奥で隔離している。

 

 ……だが、秘密というものは、易々と隠しおおせるものではない。

 クラマはそれを理解していた。

 自分たちの不正が明るみに出る前に、できるだけ早くダンジョンの攻略を進めなければならない……。

 

 

 

 

 

 その日の深夜。

 真っ暗闇の病室。

 灯りは消され、窓から光も入らない。

 暗闇の海へと沈み込み、誰もが寝静まった静謐の街。

 クラマも街の人々と同じく眠りに落ちている。

 そのクラマの病室へと、ひとつの人影が音もなく侵入した。

 熟睡しているクラマの枕元へ立ったそれは、クラマの首元へ両手を伸ばして――

 

 ゆさゆさ。

 

 肩に手をかけて揺すった。

 しかしクラマに起きる気配はない。

 

「……………」

 

 ぺちぺち。

 

 頬を軽く張った。

 やはり起きる気配はない。

 

「…………………」

 

 一向に起きないクラマに業を煮やしたその人影は、クラマの顔に手を伸ばすと、左右の頬を思いきりつねりあげた!

 

 ぎゅう~っ!

 

「ぁいひゃい!」

 

 たまらずクラマは飛び起きた!

 クラマは痛む頬をさすりながら、自分を起こした人物を見上げる。

 

「イクス、もうちょっと優しい起こし方をだね」

 

「……起きなかったから」

 

 イクスはふいっと顔を横に向けた。

 なかなか起きないのは睡眠薬のせいなので仕方なくはある。

 無理やり起こされた今のクラマは、頭の中がぐらぐらしていた。

 クラマは頭の揺れを押さえ込むように手を当てながら、イクスへ尋ねる。

 

「……それで、僕に何の用かな?」

 

「トゥニス――このまえダンジョンにいた、わたしの仲間について」

 

 地下で冒険者を襲撃していた連中に混ざっていた、イクスの仲間の大剣使い。

 地下で見た限りでは、彼女は例の連中に協力していたのは間違いない。

 しかも瞳の色は(だいだい)から、連中と同じ青色に変わっていた。

 邪神――悲劇の神の信徒へと改宗した証だ。

 イクスはクラマの枕元で言う。

 

「何か理由があって協力させられてるんだと思う。他の仲間を人質にとられてるとか。……だから、できるだけ早くダンジョンに行って、トゥニスを探して話をしたい」

 

 つまりイクスの主張としては、この前の敵地突入ではイエニアとレイフの救出を優先したので、今度はこちらを優先して欲しいということだ。

 イクスからすれば当然の要求だった。

 彼女がクラマ達に協力しているのは、彼女の仲間を探すためなのだから。

 クラマは頷いて答える。

 

「そうだね。次の探索では、彼らを探すのを優先していこう」

 

 それに――とクラマは考える。

 気を失う前、最後に対峙したあの男。

 あの紳士風の男も、おそらく一緒にいるだろう。

 ……あの男を野放しにしておくのは危険だ。

 クラマはそう考えていた。

 

 話がまとまったところで、イクスはクラマに背を向けた。

 

「……それだけ確認したかった。じゃあ帰る」

 

 その背に向けてクラマが言う。

 

「ついでに、早く探索を始めるために協力していかない?」

 

「……? いいけど。わたしに何かできることがあるなら」

 

 良い答えだった。

 クラマは早く探索したいという彼女の希望に応えるため、彼女が協力する方法を提示した。

 

「パンツを脱いで、僕にください」

 

「………………たぶん聞き間違えたと思う。もう一回言って」

 

「この場でパンツを脱いで、僕に手渡してください」

 

 言い直させたら注文が増えた。

 クラマは続けて、魔法治療のために心量を補充する必要があることを説明した。

 説明を聞いて押し黙るイクス。

 ……イクスは苦悩していた。

 しかし羞恥と目的を天秤にかけるのならば、答えは決まりきっていた。

 その苦悩の表情は、暗い闇に遮られてクラマには分からない。

 

「………………ひとつだけ言っていい?」

 

「なにかな?」

 

「……変態」

 

 侮蔑の混ざった罵倒の言葉。

 クラマは何故だかその言葉に、胸の高鳴りを覚えた。

 何かに目覚めそうな感覚だった。

 

 そして、決心したイクスは、自らの穿いたスパッツへと手をかけた。

 輪郭くらいしか判別できない闇の中。

 別に見られているわけではない。

 ただ目線が向けられているだけ。クラマの目には映っていない。

 そうとは分かっていても――下着ごとスパッツを下ろしていくにつれて、言いようのない気恥ずかしさ、居心地が悪くなるような感覚をイクスは感じていた。

 

「……っ」

 

 意を決して下まで降ろす。

 ぱさ、と重力に導かれて布が床へと落下した。

 イクスはスパッツの中から一緒に脱いだパンツを引き抜くと、クラマの前に差し出した。

 クラマはその柔らかな布――脱いだばかりでほんのり温かさの残った下着――を手に取った。

 

「ありがとう、イクス」

 

 ――ああ、これって……お礼を言われる事なんだ。

 

 イクスはそんな他人事のような感想が浮かんだ。

 そしてイクスは手に残ったスパッツを穿く。

 ……普段と違う感覚。

 いつもは下着越しだが、肌に直接当たって擦れる慣れない感触。

 それは否が応でも、自分が下着を脱いで男に手渡したという頓狂な事実を、改めてイクスに意識させた。

 

 恥ずかしい。

 というか何やってんだろう自分、という思い。

 そもそもなんで、クラマはこんな布を欲しがるのか。

 体を触るとか、もっと言えば直接的な性交渉……そうした要求をするべきじゃないかと思う。

 むしろこれなら、胸を揉ませろと言われた方がまだマシだった気さえする。

 そして自分には揉めるほどに胸のボリュームがないことに気付いて、さらに陰鬱な気持ちになる。

 

 そうした、あれやこれやの思いが頭の中でぐちゃぐちゃになった結果――

 

「…………じゃあ、帰る」

 

 イクスは考えるのをやめた。

 すべて忘れて帰って寝ようと思った。

 

「うん、気をつけて」

 

 クラマが手を振る。

 夜目の利くイクスには、ひらひらと揺れる自分のパンツが見えた。

 それを見てイクスの頭に疑問が浮かんでしまう。

 

「……それ、何に使うの?」

 

 貰ったパンツの用途。

 クラマは手にしたパンツを両手で広げて思案し、口を開く。

 

「そうだね、まず目を閉じて――」

 

「――待って。言わないで。やっぱり聞きたくない」

 

「イクスの顔と、この温かさを思い出して……」

 

「っ……!」

 

 クラマが言い終わる前にイクスは逃げ出した!

 

「ふうむ」

 

 ひとり残されたクラマ。

 夜はまだ長いが、目が冴えてしまって眠れなくなった彼は、手に入れたパンツの用途について深く思索することにした。

 

 

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 地球人召喚施設の執務室。

 所員がすべて出払った深夜の施設で、ディーザはケリケイラから報告を受けていた。

 

「――ということで、おそらくは10日ほどで彼らは復帰する見込みになります。報告は以上です」

 

 ディーザは報告を行うケリケイラを見据える。

 

「ふん、今回は隠し事もないようだな。無能なりに学習したか。……もう行っていいぞ」

 

「はい、失礼します」

 

 ケリケイラが退出した後、ディーザは頭を押さえて大きく息をついた。

 胃がきりきりと痛む。

 ディーザは机の引き出しを開けて胃痛薬を取り出し、水差しを口につけて飲み下した。

 そして右拳を机に叩きつける!

 

「くそっ! 一体どうしろというのだ、これは……!」

 

 地下で始末するはずだった冒険者は大怪我を負って帰還した。

 始末を依頼した連中とは連絡がつかない。

 ……これは依頼が失敗したことを意味している。

 しかもおそらく交戦し、敗北するという形で。

 

 非常にまずい事態だった。

 敗北したワイトピート達から、裏にいる自分らの存在が知られてしまった可能性がある。

 ケリケイラを使って調べさせたところでは、そうした事はなさそうという報告だったが……無能者の報告では安心できない。

 

「こうなったらヒウゥースに……いや……」

 

 ヒウゥースは相変わらず、記者への接待にご執心だ。

 事を荒立てようとはしないだろう。

 下手に相談などして、「今は動くな」などと言われては何もできなくなってしまう。

 怪しい地球人――クラマ=ヒロの件については、自分で解決する他ない。ディーザは改めてそう考えた。

 

 悪い報せばかりだったが、幸いな点もあった。

 例の地球人は魔法治療を行い、早期にダンジョン探索へ復帰するという話だ。

 つまり、始末するチャンスはすぐに来る。

 

「やりようはある……」

 

 ダンジョンで使える戦力はワイトピート達だけではない。

 むしろ、あんな連中は体裁を整えるための“張りぼて”に過ぎない。

 ヒウゥース達はギルドとは無関係に独自の私兵を所持していた。

 彼らはヒウゥースがこの国に亡命してくる以前からの私兵で、冒険者を装ってギルドに登録しているが、平時はギルドを通した依頼という形でヒウゥースの屋敷の警護を行っている。

 ……だが、それとは別にディーザも自身の私兵を用意していた。

 

「……仕方あるまい。使うか、あいつらを……」

 

 いずれヒウゥースを追い落とす時のために隠しておいた私兵だが、そう悠長にしていられない状況になった。

 

 ディーザはこれからの自分の動きを頭の中で組み立てる。

 まずヒウゥースにワイトピートが冒険者に敗北した事だけを伝え、ワイトピート達の始末はヒウゥースから私兵を出させる。

 それから例の地球人がダンジョンに降りるのに合わせて、自らの私兵を行かせる。

 ダンジョンの奥で地球人を始末し、あわよくばヒウゥースの私兵も同時に消す……。

 ヒウゥースの私兵はこちらの私兵を知らないが、こちらは向こうを知っている。これほど有利な戦いはない。

 

「……ふ、固まってきたか」

 

 むしろ上手くすれば、これはヒウゥースを追い落とすチャンスかもしれない。

 度重なる現地住民の裁判、こうした不信感と状況を上手く利用すれば……と、ディーザの思惑が広がっていく。

 

「奴に代わって一国の首長か。悪くない」

 

 来たるべき己の未来を想像して、ディーザはひとりほくそ笑んだ。

 

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