DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第54話

 ……さて、うまくいっただろうか。

 

「安心おし。眠りの魔法は発動した。おまえさんの勝ちだよ」

 

 僕の?

 ふっ……いや、違うね。僕の、じゃない。これは……

 

「おまえさんたちの勝利だね」

 

 いいセリフを横から取ってくのやめてもらえないかな!?

 

「はん、もったいぶるのが悪いのさ。あたしにゃ、もう時間がないもんでね」

 

 ああ……ここまで消えないでいてくれて良かった。

 

「分かってて合わせたんだろう、あたしが消える前に。探索の日取りを早めて。まったく、本当に人使いの荒い男だね」

 

 ……まあ、ここで嘘をついてもしょうがない。

 探索を早めた理由のひとつではあるね。

 パフィーの心量が少ないぶんを、あなたの知識で補うことを期待した。

 結果として、知識を貰うんじゃなくて心量が0になった僕の体を動かしてもらう形になったけど……。

 

「戦いはあたしの領分じゃあないからね。……それより、よく覚えていたね。あの娘の魔法具の効果を」

 

 レイフの魔法具、『眠れ、母の胸に』。

 消費心量200。

 心量の低い周囲全員を眠らせる魔法。

 陳情句なしなら心量100以下の者が、陳情句が完璧ならば心量200以下の者が対象となる。

 

「こっちからしたら向こうの心量は見えないから、だいぶきわどい賭けだったね」

 

 そうかな?

 相手が心量を半分にした魔法は、律定句に範囲指定がなかった。

 つまり使った自分も半分になってるんだ。

 最大値の500あったとしても、これで250。

 その前に何度か大きい魔法を使っていたし、“奉納”の内容は僕の目から見てもお粗末だった。

 あの時点で高くても200付近だったはずだ。

 そこから重りを飛ばす魔法を使ったのだから、すでに200は確実に下回っているはず。

 

「……そうさね。しかし陳情句が完璧に成功して、200だよ。届かないかもしれないとは思わなかったのかね?」

 

 可能性はあるね。

 でもまあ、それは別にいい。

 

「別にいい?」

 

 うん。レイフが失敗して全滅しても、別に構わない。

 

「……そうかい。いや、野暮なこと聞いたね」

 

 などとグンシーは自嘲気味に呟いたのであった。彼らの絆の深さを垣間見た彼女は、自らの若い頃を思い出していた……。

 

「変なナレーションつけるんじゃないよ!」

 

 ごめんちゃい。

 

「ふん……もうあたしの若い頃を語れるほどの心量は残ってないよ。残念だが、そろそろお別れだ」

 

 そっか。寂しくなるね。

 

「ここのダンジョンでの用事が終わってまだ生きてたら、イードの森まで会いに来な」

 

 いいの?

 

「ま、あたしの記憶は本体には行かない。その時は初対面になるけどね。パフリットと一緒なら会えるだろうさ」

 

 記憶は本体に戻らない。

 ここにいる彼女は、本当の意味で消滅するというわけだ。

 ……イードの森の魔女、グンシー。

 

「なんだい、改まって」

 

 ありがとう。

 あなたに会えて良かった。

 

「……ふん。あんたの中は居心地が最悪だったけど、消える前の思い出作りとしちゃあ悪くなかったよ」

 

 最期まで憎まれ口を貫く姿勢は変わらない。

 しかしその声も次第に小さく……

 

「最後にパフリットと少し話せた……それに……前も言った……感謝するの……こっちの…………ありが………………」

 

 

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「……て………きて……! 起きて、イエニア!」

 

「う……」

 

 パフィーに体を揺り動かされて目が覚めたイエニア。

 イエニアの周りではクラマ、レイフ、そしてワイトピートが眠りこけていた。

 ワイトピートは縄で後ろ手に縛られている。

 これはクラマの指示でレイフの魔法の効果範囲外に離れていたパフィーによるものだ。

 

「勝ったのですね……よかった」

 

 イエニアは状況を把握して立ち上がった。

 そうして、これからどうするかをパフィーと話し合う。

 

 クラマとレイフは心量がないので起こしても動けない。

 しばらくここで待機するしかない……というのが結論だった。

 しかし気になるのはイクス。

 後ろをついて来ていたはずだが、最後まで姿を現さなかった。

 

「ひょっとして、あのレーザービームに巻き込まれて……」

 

「ま、まさかそれは……」

 

 ふたりは大部屋の入口を見る。

 奥まで続く破壊の爪痕。

 トンネルのようになってしまった通路の姿に、冷や汗が流れる。

 

「…………確認しに行きましょう」

 

「わ、わたしも行くわ!」

 

 熱線により抉り抜かれて変わり果てた通路を、ふたりは足を滑らせないよう進んでいった。

 

 

 

 

 

 通路を戻ったイエニアとパフィーが目にしたのは、蹴とばされて地面を転がるイクスの姿。

 そして、それを取り囲んだ大勢の男たちだった。

 

「ぐぅっ! う、ぅぅ……!」

 

 うめき声を漏らして震えるイクス。

 すでに体中が傷だらけの、まさに満身創痍。

 起き上がることすらできない様子だった。

 

 そして男たち。

 数は8人。

 格好からして冒険者と見て間違いなかった。

 

「イクス!」

 

 パフィーの声に男たちの目が向く。

 

「なんだぁ? この娘のお仲間か?」

 

「いやいや違うだろ。あっちが本来の標的だ」

 

 などと男たちはイエニアとパフィーを見て話している。

 イエニアは無駄だとは分かっていたが、男たちに向けて言った。

 

「その子に何をしているのですか。ダンジョン内での冒険者同士の争いはご法度ですよ」

 

 イエニアの言葉に対し、男たちは互いに顔を見合わせると、鼻で笑った。

 

「ハッ、こいつは賞金首じゃねぇか。“善良”な冒険者が、ダンジョン内でギルドの依頼をこなしてるだけじゃん?」

 

 その言葉には含みがあった。

 周りの男がクスクスと笑う。

 

「ま、俺らにとっちゃアンタらの首も同じなんだけどな!」

 

「いやいや違うだろ。あっちの首の方が何倍も高い」

 

「そういやそうだった!」

 

 ハッハッハッと笑いが巻き起こる。

 

「く……!」

 

 イエニアは歯噛みするが、剣の柄に手をかけることができない。

 目の前の男たちは弱くない。

 地下4階まで来られるあたり、当然ではあったが。

 さらにイクスを人質にされる位置取りとあっては、どうする事もできなかった。

 

「とまあ、そういうワケで……」

 

 男たちの目がイエニアとパフィーを射抜く。

 獲物を狩る獣の視線だ。

 

「抵抗しないで捕まってくれると助かるんだけどなぁ?」

 

 その目は「楽しいから抵抗してくれ」と言っていた。

 

「イエニア……」

 

「パフィー、彼らの言う通りにしてください」

 

 イエニアは抵抗せずに捕まることを選んだ。

 

 

 

 

 

 イエニアとパフィーは後ろ手に縄をかけられ、大部屋に連れて来られた。

 大部屋の床には眠ったままのクラマとレイフ。

 ……イエニアはすぐに気がついた。

 

「う……」

 

 ワイトピートがいない。

 代わりに小さな血だまり。そして人の手首が残されていた。

 男たちがそれを見つけて声をあげる。

 

「なんだぁ? この手首は」

 

「おいッ! こっちには生首も転がってるぞ!」

 

 男たちはクラマとレイフを縛りながらイエニアに訊く。

 

「なんだこいつら? ってゆーか、なんだこの部屋? ムチャクチャじゃねぇか」

 

 そう言いたくなるのも無理もない惨状だった。

 水の刃で大きく切り裂かれた壁、天井。熱線でくり抜かれたように穿たれた出入口と通路。そして地面に転がった2つの生首。惨憺たる有り様であった。

 イエニアは男たちの中に魔法使いらしき者がいるのを見て、適当な嘘で誤魔化すのは得策ではないと判断した。

 

「彼らは邪神の使徒。悲劇の神の信者です。この部屋を破壊したのも彼らの魔法具です」

 

 イエニアの言葉を聞いて男たちは話し合う。

 

「ホウ……手間が省けたって所か? 邪魔な奴らって言われてたよな」

 

「そだな。この生首も持ってきゃ、報酬上乗せできるかもしれん」

 

「おい待て、本当にこの部屋を壊したのは、そっちの連中なのか」

 

「どういうことよ?」

 

「そのヤベー魔法具をこいつらが持ってるんじゃないかって事だよ」

 

 男たちの目がイエニアとパフィーに向く。

 

「……嘘だと思うなら魔法で判定してはいかがですか」

 

 イエニアの返答に魔法使いらしき男が口を開いた。

 

「そんな無駄な事はせん。お前らが危険な魔法具を持っていようと、詠唱を始めたら首を飛ばせば良いだけだ」

 

 男の指摘通り、この状況での魔法の使用は無意味。自殺行為だ。

 

「ええ、それに、その魔法具はダストシュートに捨てられてしまいました。……ときに貴方たちはギルド所属の冒険者ですね。見覚えがあります。誰からの依頼を受けて私たちを?」

 

 イエニアは聞かれてもいない事をぺらぺらと喋りだす。

 とにかくイエニアとしては時間を稼ぎたかった。

 なんでもいいので会話を続ける。

 そうしなければ、目の前の連中は……今にも自分達の首を刎ねてきそうな、剣呑な空気を発していたからだ。

 男のひとりがイエニアの問いに答える。

 

「……言うと思うか?」

 

「察しはつきます。一国の首長たる者が冒険者を頼るとは……兵隊の都合に苦労しているようで」

 

「ぷっ、へへ、そうか……」

 

「……?」

 

 男たちの妙な反応。

 イエニアの言葉に対して、誰もがニヤニヤと口元を緩ませている。

 この反応……彼らの雇い主はヒウゥースじゃない?

 ならいったい誰が……とイエニアの中に疑念が膨らむ。

 

「クク……まあ何だっていいだろう。ここで何を聞いても結果は一緒だ」

 

 そう告げる男の凄惨な表情。

 イエニアは察した。

 この男たちは「生死不問で連れて来い」ではなく、おそらく「地下で全員始末しろ」と言い含められている。

 

 イエニアは自分の盾や武器の位置を再確認した。

 全員で逃げるのは不可能だ。

 かといって立ち向かうのも無理。

 となれば、自分ひとりでも逃げなければならない。

 ひとりでも逃走すれば、向こうは残ったクラマ達を殺すのが難しくなる。

 なぜなら、逃げた者をおびき出すための人質、撒き餌に使えるからだ。

 

 イエニアは床に落ちた手首を見た。

 最悪、自分の手首を斬ってでも――

 そう覚悟を固めた時だった。

 

 大部屋の入口、裏手、さらに壁と思われた場所が突如として開き、大勢の男たちが一斉に雪崩れ込んできた!

 

「な、なんだてめぇら……ぎゃっ!」

 

 問答無用で斬りかかってくる男たち。

 いたるところで斬り合いが始まり、大規模な乱戦になる。

 響く怒号と剣戟、そして血しぶき。

 瞬く間に大部屋は阿鼻叫喚の舞台と化した。

 

「パフィー! もっと近くに!」

 

 いった何が起きたのかイエニアにも分からなかったが、とにかく巻き込まれないように仲間と固まろうとする。

 その時、ざりっと背後で音がした。

 

「縄は切ったぜ。嬢ちゃん、仲間を連れて逃げな」

 

 背後から聞き覚えのある声。

 セサイルだった。

 

 

 

 

 

 クラマとティアはダンジョンに入る前に話して、あらかじめ予想を立てていた。

 ダンジョンに潜った自分たちに向けて、刺客が放たれるだろうと。

 その予想通り、クラマ達からだいぶ遅れてダンジョンに入っていった2組の冒険者パーティーがあった。

 ティアの依頼を受けたセサイルは隠れてそれを尾行。

 しかし手練れの8人パーティー相手に向かい合うのは無茶が過ぎる。

 さらにセサイルはダンジョン内での尾行の最中、別の怪しい一団も見つけてしまい、迂闊に手を出せない状況になってしまった。

 それがこうして乱戦となったことで、ようやく紛れて近付くことができたという訳だった。

 

 

 

 イエニアは盾を拾い上げた。

 そして仲間を確認する。

 しかし……

 

「ちょっと待ってください、クラマが!」

 

 視線の先には床に倒れ、眠ったままのクラマ。

 

「今は無理だ、諦めろ。いったい誰が連れてくってんだ」

 

「う……」

 

 セサイルの両手は抱え上げたレイフとイクスで塞がっている。

 乱戦を抜けるには、仲間を守る者が必要だ。

 イエニアは苦渋に奥歯を鳴らした。

 

「……行きます。皆さん、ついて来てください!」

 

 イエニアは皆に告げると、盾を振るって乱戦の中を突破した。

 

「クラマ……必ず……必ず助けますから……!」

 

 騒音に掻き消された言葉を、その場に残して。

 

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