DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第77話『クラマ#08 - 狂瀾既倒の夜』

 ヒウゥースの背後に降り立った僕に、その場にいる全員の視線が集まる。

 

「クラマ様……!」

 

「き、貴様……何故ここに」

 

「おまえの野望を打ち砕くために、地の底から這い上がってきた……ってのはどうかな?」

 

「ぬうぅ……!」

 

 悔しげに呻くヒウゥース。

 僕はヒウゥースのたるんだ首筋にナイフの刃筋をたてつつ、配下の人達に向かって告げる。

 

「さあて、きみたち分かってるよね? こいつの命が惜しかったら、まずは彼らの縄を解いてもらおう」

 

 なんだか悪役みたいなセリフだけど気にしない。

 さて、僕の言葉に周りを囲むヒウゥース配下の人達は……

 

「ヒウゥース様……」

 

 彼らは一様に主人の顔色を窺う。

 考えるまでもない事なのに、指示待ち。

 これだけでもヒウゥースのワンマン経営ぶりが見てとれる。

 良く言えばカリスマ、求心力か。

 

 だがヒウゥースが言葉をかけた相手は、配下の彼らじゃなかった。

 背後にいる僕に向けて、ヒウゥースは言う。

 

「お前と共に崖から落ちた男がいたはずだが……そいつはどうなった?」

 

「ガーブは死んだよ」

 

 僕は真っ直ぐに答えた。

 

「そうか……」

 

 落胆しているのか。

 背後からでは、その表情が分からない。だぶついた頬肉しか見えない。

 ただ、全員の視線がヒウゥースに集まっていた。

 

 ――そして、それは、不意に爆発した。

 

「ぬぅぅうああああああ!!!」

 

 ドンッ! と部屋全体を揺らす大きな振動。

 また地下でティアの黒槍(ヨイン・プルトン)を? いや、違う――

 揺れの発生源は目の前。

 ヒウゥースの足元。

 それに気付いた時には、僕の腹にヒウゥースの肘が当てられていた。

 

 よし殺そう。

 

 迷いなくナイフをヒウゥースの首に突きこむ。

 それと同時。

 僕の腹部を衝撃が貫いた。

 ――爆弾が、爆発したと思った。

 腹部を中心に感覚が消失。その消失が亀裂となって瞬間的に広がり、僕の全身を木っ端微塵に打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 ……気付いたら地面に倒れていた。

 

 体は……砕けてない。

 そういう印象を受けただけだ。

 意識はハッキリしている。状況もだいたい分かる。

 僕はヒウゥースの肘打ちで吹き飛ばされて、壁にあたってバウンドして戻ってきたのだ。

 

「――、――――――」

 

 一言も言葉を発せられない。

 呻き声すらも。

 まず呼吸ができていない。

 それでも、状況を確認しないと――

 

 首から上だけをなんとか動かして見上げる。

 ヒウゥースが、首元から血を流してこちらを見下ろしていた。

 ああ――届いてない。

 衝撃で位置がずれてる。

 それと無暗に蓄えた贅肉のせいだ。

 ナイフの刃は頸動脈に届いていない。

 

「ヒウゥース様!」

 

「うろたえるな。かすり傷だ」

 

 ヒウゥースは床に落ちたナイフを蹴り飛ばし、メイド服を着た配下の女がそれを拾った。

 続けてヒウゥースは頭上に目を向けた。

 視線の先、天井では、空調となる通気口の蓋が外れている。

 ヒウゥースは配下から手当を受けながら言う。

 

「どこから湧いて出たかと思えば……ねずみのようなやつだ」

 

 僕はその間に自己診断する。

 痛みはあまりない。打たれた腹より壁に打ちつけられた背中の方が痛むくらいだ。

 骨もたぶん無事だ。

 だが……

 

「――――か―――ぁ――は、っ……!」

 

 ひとつ息を吸うにも全力を振り絞った大仕事だ。

 体が動かない。

 仕組みは分からないが、普通の打撃じゃない。

 痛みはあまりないのに、内臓がひっくりかえったような気持ち悪さ。

 体の芯に響く特殊な打撃を、こいつは使う。

 

「ずいぶんと逃げ回ってくれたが、最期は自ら飛び込んでくるとはなァ。大人しく街の外へ逃げておればいいものを……何度か刺客を退けたくらいで増長したか?」

 

 苦笑とともに何か言い返そうとしたけれど、悲しいことに声が出せない。

 答えられない僕にヒウゥースは一方的に言葉を告げる。

 

「まあ、逃げ出そうとしたところでもう遅いのだがな! ククフ……特別サービスだ、お得な情報を教えてやろう! なんと! 首都からこの街へ軍隊が向かってきておるのだ! それも既にあと2日で着くところに来ておるのだよ!」

 

 いや、それは知ってるけど。

 

「いまだに逃げ続けとる者もいるようだが……」

 

 ちらりとティアを見るヒウゥース。

 

「今からこの街を出たところで、逃げきれはせん! ろくすっぽ役に立たんこの街の憲兵に代わって、国軍の手で草の根を分けても見つけ出してくれるわ! うわっははは!!」

 

 ヒウゥースの哄笑が響く。

 ……軍隊の投入は奴にとっても最後の手段だったはずだ。

 軍を動かすには理由が要る。

 莫大なコストもかかる。

 さらには、騒ぎになればここで行われている悪事を誤魔化すために、大量に金をばら撒く必要も出るだろう。

 ヒウゥースの立場からすれば可能な限りやりたくない。

 

 だが、それを一気に解決できる存在が目の前にある。

 ティア……いや、本物の第19王女イエニアだ。

 今、奴の頭の中では犯罪者として捕らえた彼女を、どのように利用するかを考えている。

 それは笑いが止まらないだろう。

 

「ヒウゥース様!」

 

 ヒウゥースの配下数名が扉を開けて入ってきた。

 

「地下の壁を抜いてダンジョンから侵入してきた者がいましたが、ヤイドゥーク様の指揮により撃退いたしました!」

 

 ニィィッとヒウゥースの口元が歪む。

 

「聞いたか? 頼みの綱も切れたようだな? くく……分かるか? この状況が。……終わりだ! いいや、すでに終わっていた! 貴様がこの屋敷に忍び込む前に、最初から! くわっははははは!!」

 

 体はいまだに動かない。

 動けるようになったところで、戻ってきたヒウゥースの配下で周りは囲まれている。

 この状況を覆す力は……僕にはなかった。

 

「貴様らがどれだけ駆け回ろうとも! 勝てん! 勝てんのだ! 財力……権力……資金力!! 圧倒的な物量の前に、人は抗う術を持たん! 戦場で無双を誇る英雄も! 戦いの頂点を極めた競技者も! 王に連なる高貴な血筋も! 金の力の前には無に等しい! これが現実だ!!」

 

 ヒウゥースの言葉は正しい。

 個人が軍隊――国家に太刀打ちすることはできない。

 二倍や三倍の戦力差ならともかく、十倍を超えれば、もはや人の身ではどうにもならない。

 そんな戦力差を覆すことができるとしたら、僕の知る中では、今そこにいるセサイルただひとり。

 ……一体どんな手を使ったか知らないが、その彼もこうして敵の手で捕まっている。

 残念な事だけど……どれだけ必死になって身を削ろうとも、僕なんかが一人で動き回ったところでどうにもならないのだ。

 ヒウゥースの言っていた通り、それが現実。

 さらには個人での力でも負けて、こうして無様に地面を這いつくばっている。

 動けないし、動く意味もない。

 僕の出来ることはもう何もない。

 だから、そう――

 

 ここから先は任せたよ。

 

「ぐぅっ!?」

 

 突然の苦悶の声。

 見るとヒウゥースの配下のひとりが腹を押さえて、地面に崩れ落ちた。

 

「なんだ、どうした!?」

 

 答えはない。

 代わりに、その隣にいた別の配下が動いた。

 そいつは何を思ったか、周囲の仲間を次々と打ち倒していく。

 

「やめろ、何をする! ……ぐおぁっ!」

 

 突然の同士討ちに部屋の中は騒然。

 味方を殴り倒す裏切り者に向かって、ヒウゥースの怒声が飛ぶ。

 

「な、なんだ貴様……いや! 誰だ!? 誰だ貴様は!?」

 

 ヒウゥースは混乱した様子を隠すこともできずに叫ぶ。

 それは混乱するだろう。

 この男のことだから、配下の顔と名前は覚えているはずだ。

 その彼の記憶と、相手の顔が合致しない。

 まったく知らない者がいつの間にかそこにいて、今の今までそのことに誰も気が付いていなかったという異常事態。

 いや……まったく知らないというのは正しくなかった。

 

「覚えていませんか? 貴方とは話したこともあるはずですが」

 

 そいつは……その女は、そう言ってヒウゥースに正面から相対した。

 

「しかし名前は名乗っていませんでしたね、これは失礼しました」

 

 彼女は名乗りをあげた。

 彼女らしい、堂々とした振る舞いで。

 

「我が名はエイト。ラーウェイブ王国、第二百八十三号正騎士です」

 

 イエニアだ。

 本名を名乗りはしたが、別にかつらを取っていたりはしない。

 いつも通りのイエニア。

 いつも通りに、格好いいイエニアがそこにいた。

 

「エイト……」

 

 呟くティア。

 その背後で、後ろ手に縛られた縄がぶつりと音を立てて切られた。

 

「……!?」

 

 ティアが驚いて背後を向く。

 そこには、よく見知った者の顔。

 

「んっふふ~、みんな久しぶりね。待った?」

 

 いたずらっぽく笑うレイフがそこにいた。

 そして、僕の方にもウインクしてくる。

 

「はは……」

 

 可愛らしい。

 抱きしめたい。

 でも体が動かないから引きつった笑いしか出せなくて悲しい。

 

 レイフはそのまま他の人達の縄を切っていく。

 拘束を解かれたティアは壁に立てかけられた箒を掴み取った。

 そして、その箒で周囲の敵を打ち倒していく。

 瞬く間に部下たちが倒されていく様子を見て、ヒウゥースは歯ぎしりをした。

 

「ぬぅぅううう!! きさまら好き勝手しよってえええええ!!」

 

 ドガンと足を踏み鳴らす。

 怒号と振動。

 ――そこへ小鳥のような声が飛ぶ。

 

「オクシオ・ヴェウィデイー!」

 

 パフィーの詠唱だ。

 彼女は胸当てと銀の鞭を手にして唱える。

 謡うように麗しい、魔法のさえずりを。

 

「ボース・ユドゥノ・ドゥヴァエ――」

 

「魔法!? ……ちぃぃぃっ!!」

 

 慌ててヒウゥースは駆け出し、部屋を飛び出した。

 おそらく彼は魔法について詳しくないのだろう。

 詠唱を聞いて効果を予測できない者は、必要以上に魔法を警戒しなければならない。

 ワイトピートがおかしいだけで、普通はこうなるのだ。

 

 

 

 ……そうしてヒウゥースがいなくなり、すべての配下は倒れた。

 戦いを終えたイエニアは、担ぐように僕に肩を貸す。

 

「少し遅くなってしまいました。大丈夫ですか、クラマ?」

 

「いや、完璧だよ……ありがとう」

 

 僕が微笑むと、彼女も笑い返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 昨日の夜。

 ヤエナと別れた直後のこと。

 歩きだそうとした僕は、その声に気がついた。

 

「エグゼ・ディケ……クラマがいるのはこっち……っと」

 

 コロコロっと僕の足元まで転がってくる小石。

 小石が転がってきた先を見ると、道の角からメグルが顔を出してきた。

 

「えっ!? ホントにいた!」

 

 などと驚いているメグルに僕はダッシュで駆け寄り、両手でガシッと肩を掴んだ!

 

「お願い! 手伝って! いいよね!? やった! ありがとう!」

 

「え? えっ? なに? い、いいけど……え?」

 

 そのまま勢いで押して、メグルには運量を使ってイエニア達を探してもらうことにした。

 彼女がイエニア達を探している間に、僕は地元の建築業者の所に行ってヒウゥース邸の間取り図をもらった。

 以前カジノに忍び込んだ時にもやってた事だったから、スムーズに話は通った。

 この時点で朝。

 そこから日が沈むまで、ほぼ丸一日かけてダクトを通ってヒウゥース邸を探索。ティア達が囚われてる場所を探す。

 監禁部屋を特定した僕は一度みんなの所へ帰還。

 そこで僕はようやく、メグルが見つけ出してくれたイエニア達と再会した。

 しかし再会を喜ぶ暇もなかった。

 みんなにティア達の救出計画を伝えて、僕はもう一度ダクトを通ってヒウゥース邸に侵入。

 そうして僕はひとり、監禁部屋の上で待つ――。

 

 一方のイエニア達はどうしたかというと、ヒウゥース邸の出入りの業者から使用人のお仕着せを融通してもらって、彼女たちに着てもらった。

 そして変装した上で、パフィーに魔法で認識を誤魔化してもらう。

 具体的に言うとノウトニーの魔法具の再現だ。

 魔法具とは詠唱を固定することで、充分に集中できない緊急時でも必ず成功できるようにしたアイテム。

 それはすなわち、緊急時でなければ、パフィーなら魔法具と同じ事が出来るということでもある。

 こうして彼女たちには使用人に扮してヒウゥース邸に忍び込んでもらった。

 使用人とはメイドのことだ。

 つまり……そう。

 イエニア、パフィー、レイフ。

 彼女たちは今、メイドの格好をしている。

 繰り返しになるが重要な事だ。

 メイド服を着ているのである。今、彼女たちは。

 

 ……ダンジョン地下1階には、サクラ達に行ってもらった。

 僕らの貸家に開いた穴から。

 貸家を封鎖している憲兵たちはケリケイラ達に相手をしてもらった。

 ケリケイラは「私ならうまく誤魔化せるかも?」と言っていたけど、どうなったのかは分からない。少し不安だ。

 とにかくダンジョンからヒウゥース邸の地下への侵入は成功したようだ。

 侵入に使ったのはティアの黒槍。

 これで壁をぶち抜いて、ダンジョン地下1階からヒウゥース邸の地下に入ってもらった。

 

 黒槍は僕が地下6階でなくしたものだが、これをヤエナに拾いに行ってもらった。

 たった一日で6階までの往復。

 はっきり言って無茶を言ってる自覚はあった。

 言われたヤエナも顔が引きつっていた。

 しかも道中でイエニア達を探せるようなら探してという無茶振りまで加えた。

 戻ってきたヤエナはばったりと倒れて、今はニーオ先生に見てもらっている。

 

 サクラ達の役目は陽動だ。

 敵が来たらすぐに撤退するように言ってある。

 黒槍が壁を破壊した音と振動に気が向いている間に、僕は通気口の蓋を外し――頃合いを見て飛び降り、ヒウゥースを人質にとる。

 

 以上が、昨夜から現在にかけての顛末だ。

 

 

 

 

 

 そうして、今。

 

「皆さん、脱出しますよ!」

 

 イエニアの号令で全員が動く。

 薬で動けないセサイル、ベギゥフ、ノウトニーを皆で担いで部屋から外に出た。

 すると通路の左右両方からヒウゥースの配下が駆けつけようとしていた。

 まだ人数の少ない彼らは、大声で仲間を呼ぶ。

 

「こっちだ! もっと人を呼んで来い!」

 

 このままでは囲まれる。

 体が動かない3人を担がないといけないので、倒しながら進むこともできない。

 ディーザが叫ぶ。

 

「逃げ場がないぞ! どうするつもりだ!?」

 

 それに対してイエニアが答える。

 

「大丈夫です。逃げ道は――」

 

「こっち」

 

 と、声がしたのは、すぐ傍の窓。

 開いた窓の外から、ひょこっとイクスの顔が出る。

 イクスは窓枠に固定したロープを掴んで、ざっと鮮やかに外の庭へと降りていった。

 イクスに続いてレイフやパフィーが、ロープをつたって降りていく。

 

「待て! こいつらは自力で降りられんぞ!」

 

 ディーザの指摘。

 そう、こちらには薬で動けない3人がいる。

 

「では、私が受け止めます」

 

 そう言ってイエニアはロープを使わずそのまま飛び降りた!

 ここは2階。だが、ヒウゥース邸は大きい。城のような大邸宅だ。

 2階でも普通の家の3階以上の高さがある。

 イエニアは着地と同時に転がって受け身をとり、すぐに立ち上がった。

 

「どうぞ! 投げてください!」

 

 僕の隣でディーザが呟く。

 

「……なんて女だ」

 

 いやはや、まったく。

 僕らは上からセサイル、ノウトニー、ベギゥフを落とし、ディーザは自力で降りる。

 そうしてヒウゥースの配下を牽制しているティアを最後に残して、僕がロープをつたって降りる。

 ……が、途中でロープを掴む手が滑った。

 いや、滑ったんじゃない。手に力が入らなかったのだ。

 

「クラマ!」

 

 パフィーの悲鳴。

 落下する。

 浮遊感。

 地面に叩きつけられる寸前で――僕の体はイエニアに抱き留められた。

 

「っと……無茶ですよ、そんな体で」

 

「う……ごめん」

 

 体がいくらか動くようになったので大丈夫……と思ったけど甘かった。

 ヒウゥースから受けたダメージだけじゃなく、そもそもからして地底湖で目覚めてからおよそ丸二日間、寝ずに休まず動き続けてきたのだ。

 さすがに無茶が過ぎた。

 

「いいです、クラマの無茶はもう慣れましたし」

 

 そう言いながら、イエニアは腕の中の僕をぎゅっと強く抱きしめる。

 

「だから、もう目を離さないことにしました」

 

「イエニア……ぐえ」

 

「あ」

 

 そこに上から降ってきたティアに踏みつけられた。

 僕の顔をクッション代わりにして、スタッと華麗に地面へ降り立ったティア。

 

「失礼いたしました。声はおかけしたのですが、聞こえていらっしゃらなかったようで」

 

「ぐおおおお……なんか最近踏んだり蹴ったりな気がするぞ……!」

 

「些事にかかずらっている暇はございません。すぐに追っ手が集まってきます」

 

 見ると建物のいたるところからヒウゥースの配下がわらわらと出てきている。

 僕らは急いで逃げた。

 正門からは抜けられない。

 走って行きついた先は……敷地を囲む塀。

 高くて分厚い石の塀だ。

 

 行き止まり――ではない。

 脱出経路は最初から予定している。

 イエニアはあらかじめ草花の陰に隠しておいた大槌(ハンマー)を拾い上げた。

 

「壊します。塀から少し離れてください」

 

「待て!」

 

 それを制止したのはディーザ。

 

「オクシオ・ヴェウィデイー!」

 

 ディーザは塀に手をついて呪文を唱えた!

 

「ヨハイーオハ・シポガ・フヨナウェツヤエ・トレエウナ・ペウー・タツノ・ジャエヨゥ・ナ・シヨゥ・イーチネ・ドテウ! ――オクシオ・センプル!」

 

 詠唱を終えたディーザは、塀にあてた手を押し込んだ。

 すると塀の一部が回転扉になったように、ぐるりと開いた!

 

「おお!」

 

「わあ! すごーい!」

 

 パフィーが驚いている。

 確かにこれだけ長い詠唱となると、心想律定も複雑になるはず。

 それを追っ手が来ている状況で成功させるとは。

 素人目にも、相当な技術力と胆力が窺える。

 そして塀に作られた回転扉を全員が通った後……

 

「オクシオ・ビウヌ! ヨハイーオハ・シポハ・スウォヨガ・サノウ!――オクシオ・センプル!」

 

 再びディーザの詠唱。

 それをパフィーが解説してくれる。

 

「塀に出来た切れ目が癒着して固定されたわ! これで向こうの人達はこっちに来られないわね!」

 

「塀を破壊しては連中も通り抜けて来てしまう。逃走を計画するなら、そのあたりも考えて欲しいものだな」

 

 クイッとメガネを押し上げて嫌味を言っていくディーザ。

 

「ディーザさん……」

 

 僕はディーザの顔をまじまじと見て言う。

 

「本当に魔法、使えたんですね!」

 

「な、舐めるな小僧! この私を誰だと――」

 

「よおし、みんな今のうちに戻るよ!」

 

「き、貴様ッ……待て、まだ――」

 

「こっちだ、走れーーーい!」

 

 ディーザの台詞を途中で食い取って走る。

 ……彼には悪いけど、こうした馬鹿にされるポジションに収まってもらおう。

 そうでないと周囲との収まりがつかない。

 今まで非道を働いていた敵を受け入れるには、コミュニティ内で最下層のポジションでないと納得できない人が多いものだから。

 

 そうして僕らは、ヒウゥース邸からティア達を連れて脱出することに成功した。

 ……だが、まだマユミが中に残っている。

 地下に行ったサクラ達も無事だといいが……。

 

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