DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第8話

「ただいまー」

 

「おかえり~」

 

「おかえりなさい!」

 

 買い出しから帰宅したクラマとイエニアの2人を、レイフとパフィーが玄関に出てきて出迎える。

 クラマ達が荷物を持って一緒にリビングに入ると、中ではサクラたち4人が何も置かれていないテーブルを囲んでいた。

 

「おそーい。いつまで遊んでたのよ」

 

 テーブルに突っ伏して足をぶらぶらさせるサクラ。

 その様子を指さして、クラマは隣のレイフに問いかける。

 

「この娘、いきなり馴染みすぎじゃない?」

 

「そうねぇ。でもそれ、あなたが言う?」

 

 

 ……などと楽しくお喋りをしつつ、買ってきた食材をレイフとパフィーが調理する。

 それから全員で談笑しながら夕飯。

 素朴な家庭料理で空腹を満たして、みんなで片付けを終えて……そうしてパフィーが淹れてくてたお茶に口をつけながら、夜の話し合いが始まった。

 

「まずは報告します。冒険者ギルド内では、サクラ達の事は知られていないようでした。ただ、警備隊の管轄はギルドではなく行政ですから、警備隊に手配されているかを調べるのは、少し時間がかかるかもしれません」

 

「じゃあ私が調べてみるわ。そういうのは得意だから」

 

 レイフが挙手して言った。

 イエニアが頷いて、後の調査はレイフに任せることになる。

 

「調査後のことも少し考えておきましょう。彼らをずっとここに置いておくわけにもいきませんし」

 

 イエニアの言葉にサクラが答える。

 

「外に出ても大丈夫なら出ていくわよ。もともと使ってた貸家もあるし。ダメなようだったら……どうしよう?」

 

 どうしよう、と振られても、周りは困った顔をするしかなかった。

 そこへクラマが手を挙げる。

 

「それなんだけどさ。ダンジョン攻略を協力できないかな?」

 

 建設的な提案。

 と思ってクラマは言ったのだが、見ると皆一様に渋柿を口に含んだような面持ちだった。

 

「あれ? だめ?」

 

 事情の分からないクラマにパフィーが説明する。

 

「あのね、クラマ。ダンジョン内で複数のパーティーが協力して動くのは、冒険者ギルドの規約で禁止されているの」

 

「え? なんで?」

 

 理解しがたい話だった。

 パフィーの回答も歯切れが悪い。

 

「うん……それに登録してダンジョンに挑戦できるのは、1パーティーにつき4人まで。うち地球人は1人まで。負傷等による交代は1人までと決められていて、これに対する明確な理由は、公には説明されていないの」

 

「うーん、わけがわからないね。攻略させる気あるのコレ?」

 

「ないんでしょうね、それは」

 

 横から答えてきたのはレイフだ。

 

「この街ってね、数年前までは小さな田舎町だったの。でも現評議会議長のヒウゥースが冒険者の誘致を始めてからというもの、あっという間に大都市の仲間入り。これには以前から手広く商売を広げていたヒウゥースの経営手腕によるものが大きいとされているわ。最近では観光地としての開発も進んでるみたいね」

 

「それってーのは要するに……最初から街興しが目的ってこと?」

 

 レイフは肩をすくめる。

 

「……っていうのが、冒険者の間でまことしやかに流れてる噂。ま、本当に攻略したパーティーが出たとして、冒険者なんていうならず者たちが、お行儀よくギルドに5割を上納するとは思えないしね。運営してる側にとっては、実際にダンジョンを攻略されたら困るのは確かでしょうね」

 

「……なるほどね」

 

 クラマはそう言ったきり、黙り込んで何事かを深く思案する。

 その間にパフィーは説明を補足する。

 

「でもね、協力禁止とはいっても、ダンジョンの中で偶然居合わせた場合の、一時的な協調行動は認められているわ」

 

「そうね。だから実際のところは、おおっぴらに協力してます~、って言わなきゃ問題ないはずよ。他のパーティーに見られた時に、すぐ離れるとかして誤魔化せばね」

 

「でもでも、ばれたら10万ロウの罰金よ。密告の報奨金をねらう冒険者もいるから、あぶないわ」

 

 レイフとパフィーがそれぞれに意見を言い合い、サクラはそれを眺めて興味なさげに頬杖をついている。

 

「……ま、協力したってあたしたちじゃ3階にも行けないし。ぶっちゃけ足手まといになるわよ?」

 

 サクラはそう言って、テーブルにべたっと突っ伏す。

 その格好のままサクラはぶつぶつと愚痴を言い始めた。

 

「しかしねー……やっぱりこっちの世界も、世の中お金なのね~。ハァ~、夢がないわ~」

 

「お金は……でもアネゴ……お金は、おっかねぇっすよ」

 

「い、一郎ォ!? それは……!」

 

「地球語ジョークでござるよ!? まさかそこまで使いこなすとは……一郎のインテリジェンス、甘く見ていたでござる」

 

「オヤジギャグ! バカ! おもしろくないから、それ!」

 

 場が騒然としてきたところで、それまで沈黙していたイエニアが手を叩く。

 

「はいはい、これ以上何もないなら、今日はもう終わりにしましょう。クラマは……クラマ?」

 

 イエニアはクラマが妙な顔をして自分を見ているのに気付いた。

 困ったような、申し訳ないような、それでいていたずらっぽく誤魔化すような、なんとも言えない半笑い。

 

「ごめんね」

 

「?」

 

 クラマの言葉の意味が分からず、頭に疑問符を浮かべるイエニア。

 そうしてクラマは、全員に向けて言った。

 

「うん、やっぱり協力しよう。でもサクラ達にはここにいてもらって、僕達だけがダンジョンに潜る」

 

「え? ここで何するの? 料理?」

 

「それもいいけどね。本命はこっち」

 

 と言って、クラマは人差し指で真下を指した。

 

「サクラ達には、地下から戦利品をここまで引き上げてもらう」

 

 全員が呆気にとられていた。

 その中でいちはやく衝撃から立ち直り、応答したのはレイフだった。

 

「え~っと……それってつまり……このまえ掘った穴を使って、入口で払う上納金から逃れるってこと?」

 

 クラマは満足そうに頷く。

 

「そう。せっかく苦労して手に入れたものを、半分も持っていかれるのは馬鹿らしい。ただ、全部引き上げたらダンジョンを出る時に怪しまれるから、自分達で使えるものと、お金に換えるのが簡単なものだけだね。残りは普通に入口へ持っていく。使えないものの換金と販売手数料と考えれば、5割もそう高くない」

 

 予想外の提案に皆が戸惑い、思案している中で、クラマの発言は続く。

 

「もちろん引き上げ作業中は冒険者が通らないように、僕らで周囲の見張りをする。オノウェ調査の対策はパフィーと三郎さんの意見を聞きたいな。1階に来た新人が運量で偶然見つける事の対策は、サクラの運量で対抗すればいいと思う」

 

 そこまで言い切ったクラマは、一呼吸置いて全員を見渡す。

 皆の視線が集まっているのを確認すると、ゆっくりと人差し指を立てて――

 

「向こうが汚い真似をするなら、こっちも素直にやる事はない。ズルしていこう」

 

 ニヤリ、と口の端を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 抜け道を使うというクラマの提案に、サクラとパフィーは賛成。レイフとイエニアは保留という形で、翌日に結論を回すことになった。

 

 話し合い終了後、オノウェ隠蔽に関してクラマはパフィーと三郎に尋ねたところ、

 

「拙者、女の子の情報を得るためオノウェ調査は磨いてきたでござるが、隠蔽の経験はないでござる」

 

 ということなので、やるならパフィーの担当になる。

 

「うん。任せてくれていいわ」

 

 と快く受け持つパフィーだったが、三郎は懸念を表す。

 

「オノウェ隠蔽は大罪でござるよ。見つかればタダでは済まないでござる」

 

 そうなのか、とクラマが尋ねると、パフィーは少しの静黙を経て、笑顔を見せた。

 

「わたしは大丈夫よ。みんな頑張ってるから、わたしもみんなの役に立ちたいの!」

 

「そっか……ありがとう、パフィー」

 

 自然とクラマの手はパフィーの頭を撫でていた。

 背後では三郎が、天使だ天使だと震える声で繰り返していた。

 

 

 

 

 

 それぞれ自室に戻り、夜も更けてきた頃。

 ノートにこれまでの情報を整理していたクラマの所へ、意外な人物が訪ねてきた。

 

「旦那、ちょっとよろしいですかい」

 

 声を受けたクラマは、メガネを外して振り向いた。

 

「一郎さん。どうしたんですか、こんな時間に。……てゆーか旦那ってなに?」

 

 クラマの見たところ、一郎の年齢はクラマの2倍以上はあった。

 

「嫌でしたら変えやすが」

 

「や、べつに嫌なわけではないけど。……それで、何の用ですか?」

 

 神妙な佇まいをしていた一郎だったが、クラマに促されると、やおら頭を垂れた。

 

「アネゴを助けてくれて、ありがとうごぜえやす」

 

 クラマは慌てた。

 

「え? いやいやいや……そんな、いいですから。頭を上げてください」

 

 言われて一郎は下げた頭を戻す。

 

「いえね、旦那には一度、改めて礼を言っとかにゃならんと思いやして」

 

 どうやら一郎は、恩義だとか、そういった事にこだわる性格らしかった。

 クラマはそれから、一郎が「自分たち」ではなく「アネゴを助けてくれて」と言ったところが気になった。

 

「いやあ、ずいぶん慕われてるんだなあ。サクラは」

 

「えぇ、まぁ、アッシらはアネゴに救われたみたいなところがあるんで」

 

「そうなの?」

 

「元々、アッシは冒険者じゃなくて漁師だったんでさぁ、ダンジョンに潜るのは無謀だったんすよ」

 

 一郎はクラマに己の身の上を語った。

 

 漁師であり料理人であった彼は、この歳でようやく一人前と認められて船をひとつ任されるようになった。

 しかし大勢の部下をまとめるプレッシャーに耐えられずに、逃げ出してしまう。

 そうして放浪していたところを、居酒屋で会った次郎に儲かる場所があると誘われて、この街へやって来たのだった。

 次郎と三郎も似たようなもので、皆それぞれに自分の居場所から逃げてきた、負け組の集いであった。

 船の上での暮らししか知らない彼は、船を降りてしまってからは、人生の目的も、楽しみ方も分からず、ただ漠然と流れのままにダンジョンの中で朽ち果てるのだろうと考えていた。

 

 そんな時に現れたのが、サクラだった。

 

 彼女は子供ながらに強力なリーダーシップを発揮し、腑抜けた彼らを強引にグイグイと引っ張っていった。

 サクラの言う事、やる事はいつもムチャクチャだったが、そんな彼女の後ろをついて、一緒に馬鹿騒ぎをするのが、一郎は楽しかったのだ。

 

「人に話すにはみっともねえ話ですがね、アネゴに出会ってから今までが、アッシの人生の中で一番楽しかったんですわ」

 

 親子ほどに歳の離れたサクラが、彼らのリーダーを務めていた経緯が分かって、クラマは色々な疑問が腑に落ちた。

 しかし一郎は先日、サクラの無茶に付き合って本当に危険な事態になったことで、自分らがしっかりサクラを守らなければと思うようになったと語る。

 

 なお、一郎次郎三郎という名前もサクラが名付けたもので、それぞれの妙な口調も、「あんたたち分かりにくい!」という理由でサクラが割り振ったとのことだ。

 

「ムチャクチャだなあ……ってことは、ちゃんとした本名があるんだよね?」

 

「えぇ、アッシはテデス、次郎はチナエ、三郎はニシイーツって言いやす」

 

「じゃあテデスさんって言った方がいいのかな」

 

 クラマが訊くと、彼は首を振った。

 

「いや、今のアッシはソードマン一郎でさぁ」

 

 言って、一郎はくしゃっと顔を崩して笑った。

 つられてクラマの顔も綻ぶ。

 

「なるほどね。じゃあ、これからもよろしく。一郎さん」

 

 クラマが手を差し出すと、一郎は両手で握り返した。

 

「えぇ、それじゃあアッシはおいとましますや。長ぇことつまらねぇ話に付き合わせちまって、すいやせんでした」

 

「そんなことないよ。話を聞けてよかった」

 

 そうしてクラマは立ち去る一郎を見送る。

 人に歴史あり。その言葉の意味を、一郎の背中を眺めてクラマはしみじみと実感したのであった。

 

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