僕のヒーローアカデミア HとVの軌跡   作:火影みみみ

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Vの同胞

「♪〜〜」

 

 兎のパーカーをかぶり、今流行りのアニメソングを口ずさむ。

 

(本来の予定にはないけど、これで凡そ物語の筋書き通りに物事は進むはずですよね? 後はOFAを貰ったら儲けもんだけど、そこはやっぱり彼の頑張り次第かな)

 

 道ゆく人は彼女のことなど気に求めずいつも通りに日々を過ごす。

 例えそれが一ヶ月前に一人を除いてとある一家を惨殺した凶悪犯だとしても、外見からそれを見破ることなど一般人には不可能なのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「そう言えばあの子の様子も気になりますね、ちょっと寄っていきますか」

 

 くるりと向きを変え、人気のない路地裏へと足を踏み入れる。

 キョロキョロと周囲を確認し、浮浪者やヴィラン、その他の何か一般人やらがいないことを確認すると、ゆっくりとした動作で片腕を横に振るった。

 その直後だった、彼女の目の前に不可思議な物体が出現したのは。

 カーテンのように揺らめくそれはまるでオーロラのような輝きを放ち、まるで別世界へと続く扉であるかのようにそこに存在している。

 いや、実際そうなのだろう。

 それが現れたことを確認した彼女は何の疑問も抱くことなくその中へと足を踏み入れる。

 ほんの瞬き程度の短い時間、それが彼女がそれを通り抜けるのにかかった時間である。

 だがその刹那に彼女の周りの風景は一変していた。

 人気のない薄汚れた路地裏から雄大な自然あふれる山林の中へと移り変わっていたのだ。

 だが、驚くべきはそこだけではない。

 彼女が見上げる先にある建築物、それはとても奇妙なものであった。

 その殆どが木材で造り上げられたその建築物は地上からおよそ五十メートルを超える高さを持ち、その全てが赤色の塗料で統一され緑あふれる山々の中で異彩を放っている。

 しかしそれ以上に奇怪なのはその建築方法である。

 増築に次ぐ増築を繰り返したためか、左右対称とは程遠い造りになっており、それどころかまるで子供が思い描いた建築物が現実へと現れたかのように所々物理法則を無視したような無茶な建築が見られる。

 例えば柱一本で床下から支えられている部屋があったり、そもそもこの建造物全体に釘や接着剤などが一切使われていない。古き日本の建築様式に木材を加工して組み合わされる技法があるが、それを用いたわけでもなく、ただ建材を並べただけなのにそれが世間一般の住宅の強度を上回るような耐震性と耐久性を秘めているのが最も理解に苦しむところである。

 そこへ続く赤く長い橋を渡り、《大都会ずんだ館》と書かれた暖簾をくぐると、旅館のエントランスのような空間が広がっていた。

 

「あら、ゆかりちゃん? 久しぶりね、どうしたのこんな早くに?」

 

 その受付と思われる場所に、緑色の長い髪と和服が特徴的な美少女が佇んでいた。

 

「ああ、ずん子さんちょうどよかった、ちょっときりたんの様子を見に来ました、どうです?ちゃんと馴染んでますか?」

 

 彼女、ゆかりと呼ばれた少女はパーカーを下ろしてそう尋ねる。

 対してずん子と呼ばれた和服の少女は、ああ、と納得したようでこう答える。

 

「きりたんなら今ウナちゃんと一緒にゲームしてますよ、やっぱり友達がいるのがいい方に作用したみたい……ただ、完全に適応するまでちょっと時間がかかりそうなの」

 

「まあ、そこは仕方ないですね、元の家庭のトラウマもあるでしょうし、すみませんがまだしばらく面倒おかけします」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「いいのいいの、きりたんは私の妹でもあるし、この世に三人しかいない家族なんだものこれくらいのことは当たり前よ……あ、だったら今日の晩御飯食べてく? ゆかりちゃんが来るならきりたんもイタコ姉様も喜ぶと思うの」

 

「そうですね……よければご馳走になろうと思います」

 

 少し考えて、了承する。

 

「じゃあそれまで暇でしょうし、きりたんとウナちゃんはゲーム室で遊んでるからゆかりちゃんも混ざりに行く?」

 

「えっと、ゲーム室はどこでしたっけ……? どうもごっちゃごっちゃで覚えづらいのですよね」

 

「ここを建てたのゆかりちゃんなのにね」

 

 すぐ側に設置されている案内板からゲーム室を探し出し、思ったより遠くの場所にあったのを思い出し、ここに来た時と同じようにオーロラカーテンを通り、ゲーム室と大きく筆で書かれた襖の前にたどり着く。

 

「お邪魔しまーす」

 

 小声で話しかけるが、反応はない。

 襖を引き、室内へ入るとそこは廊下や外観とは異なり純洋風の派手な内装と様々なゲーム台がひしめくゲームセンターのような造りとなっていた。

 一歩足を踏み入れれば様々なゲームが織りなす爆音と目を刺すような光に包まれ、外界とは途絶してしまう。

 

「えっと、きりたんとウナちゃんは……あっち」

 

 人差し指を頬に当て少し考えるような仕草を見せた後、ビシッと右斜め前の方へ指を指す彼女。

 そのまま一分ほど歩くと、奥からさらに騒がしい声が聞こえ始める。

 

「うおおおおおおおいけえええええええええ!!」

 

「わわ!? きり!! 右右!! ゾンビきてるから!!」

 

「なあああああああ!? どこにいたんですかコイツ!? あ、回復尽きた」

 

「きりーー!? あと30秒耐えたらそっちに行けるぞ!」

 

「ごめん死んだわ」

 

「きりーー!!? ぎゃーーーーー!?」

 

 ゲーム室の壁際、65インチはある壁掛け大型テレビでよくあるゾンビを撃退するゲームを遊ぶ二人の子供の姿があった。

 方や頭に包丁を模したアクセサリーをつけた和服の少女、もう一人は頭に青いうなぎのような被りものをした元気そうな少女だ。

 

「もう、きりのせいで負けたじゃんかよー」

 

「ごめんごめん、次は気をつける……ん?」

 

「どうしたきりー?」

 

 きりと呼ばれた少女が振り返る。釣られてもう一人も振り返る。

 

「ちゃお、お邪魔してます」

 

 軽く手を振る彼女。

 

「ゆか姉様!! いらしてたんですか!」

 

「ゆかりさんだーーーーー!!」

 

 それが誰かわかると、まるでロケットのように二人は突撃する。

 

「おっとっと、二人とも元気そうで何よりです」

 

 それを優しく受け止め、そのまま抱きしめる彼女。

 

「どうですかきりたん、ここの生活には慣れましたか?」

 

「はい! イタコ姉様やずん姉様も優しいですし、友達もできました! ここはまるで天国みたいです」

 

 顔をあげ、目をまるで宝石のように輝かせ、満面の笑みでそう話すきりたん。

 それを受け彼女も嬉しそうに微笑む。

 

「そうですかそうですか、それはいいことです、ウナちゃんは何か不自由とかありませんか?」

 

「ゆかりさんて会うたびにいっつもそれ聞くよね、ウナはここに来てとても幸せだぞ、元の生活なんて比じゃないくらいに」

 

 そう言ってウナもきりたんに負けないくらいの笑みを見せる。

 

「あははいけませんね、こういう性分ですので……、ああそう言えばまた一人同類を増やしたんですよ」

 

「本当ですか!?」

 

「へえ、どの子をあげたの?」

 

 新たな同類の誕生に我が事のように喜ぶ二人。

 

「見込みのある子がいたので取って置きの子を、ミクちゃんをあげてきました」

 

 その事を聞いた途端、キャッキャと喜んでいた二人がまるで動画の停止ボタンを押したかの様にピタリと停止する。

 

「え、あの子はゆか姉様のお気に入り兼切り札でしたよね、本当にあげてしまったのですか?」

 

「……いや誰をあげるかなんてゆかりさんの勝手だろうけど、そんなに見込みのある人だったのか? あの子は並の人間には使いこなせないぞ」

 

「はい、前々から目をつけてはいたのですが、このご時世に珍しい無個性の子で()()()()()()なんですよ、本来あげる予定はなかったのですが、ついつい勢いであげてしまいました」

 

()()()()、ですか?」

 

 きりたんが聞き返す。

 

「はい、……あ」

 

 頷いてから、しまったと彼女は思ったが、時すでに遅い。

 あれだけ輝いていた瞳から光が消え、鬼気迫る様子で話し出す。

 

「どうしてそんなクズを目指すようなゴミにゆか姉様の切り札をあげでしまったのですか? いえ、ボカロ系がヒーローに進む傾向があるのはイタコ姉様やずん姉様に聞いています、ですがあれはゆか姉様に並ぶほどの知名度とバリエーションを持つ偉大な子ですよ? いえ影響力だけでいうならばそれこそゆか姉様を凌ぐことだって考えられます、そんな私たちにとって大先輩に当たる子を何処ぞの馬の骨ともわからぬゴミに与える必要なんてありません、ゆか姉様のためにもすぐに取り返した方がいいに決まってます、あんな、あんな名声だけが一人前なヘドロ以下の産業廃棄物があの子の力を得るだなんて、いえ、ゆか姉様の手を煩わせるつもりはありません、ここに来て一ヶ月、大分力の扱い方にも慣れてきました、私がそいつを抹殺して死体を届けます、私たちの挿入と抽出はゆか姉様にしかできませんから、まずはそいつの名前と住所を教えてください、今すぐにそいつをぶっ殺してーー」

 

 きりたんの言葉を遮るように、彼女はきりたんの目の前に中指と親指を合わせた手を差し出す。

 

「ごめん辛いこと思い出させちゃったね、慰めになるかどうかわからないけど、少しの間優しい夢で癒されてくれると嬉しいな」

 

 彼女が指を鳴らすと、ふっときりたんの体から力が抜け、そのままスヤスヤと眠りに入る。その寝顔からは先ほどまで狂気に陥っていたとは思えないほどに安らかな物だった。

 

「思ったより根が深いですね、そろそろ大丈夫だと思っていたのですが」

 

「ううん、最近はヒーローを見ても苦い顔するだけで済んでたよ、けどゆかりさんの取って置きをヒーロー志望の人にあげたのがダメだったと思う」

 

 眠りに入ったきりたんの頭を太ももの上に、所謂“膝枕“という体勢にする。

 

「……同調率、稼働率共に問題ないようですね、やはり心因的な問題ですか、きりたんの前であの子の話をするのは避けた方がいいですね」

 

「ウナもそう思うけど……本当にその子は“初音ミク”足り得る奴なのか? 並の奴や俗な考えしかない奴だと乗っ取られてミク擬きが完成するだけだよな?」

 

「はい、その点は問題ありません、人並み以上の正義感がある優しい子なのは確認済みです、彼……いや彼女ならミクちゃんも喜んで手を貸してくれるでしょう」

 

「そうか、それなら問題ない、のか? いや、ちょっと可哀想な部分があったような気がするけど」

 

 主に性別の部分で、と小さく呟く。

 

「で、ウナちゃんはどうします? きりたんは寝かしちゃいましたし、私が代わりに相手をしましょうか?」

 

 そう尋ねると、う〜んと一頻り悩んだのちに、照れながらもウナはこう言った。

 

「いや、せっかくだしウナもゆかりさんに膝枕してもらいたいなって」

 

 両手の人差し指をモジモジと合わせ、顔を真っ赤にして下を向くウナ。

 それを微笑ましそうに見つめ、少ししてちょいちょいと手招きすれば、とても嬉しそうに彼女へと歩み寄るウナであった。




結月ゆかり
転生者、身内にはとても甘い
他のボイロにとても慕われている

東北きりたん
稼働日数は一ヶ月、設定年齢は小学生程度、家族や自分を産んでくれたゆかりに狂信的な愛情を持つ
時々病む

音街ウナ
設定年齢は小学生程度、ゆかりさん大好き、きりたんとは下の名前で呼び合う仲


余談
個人的趣味できりたんは“ウナ”、ウナは“きり、もしくはきりの字”と呼ぶようにしてます
苗字でもいいのかもしれませんが、個人的にはこっちの方がいいと思ったので
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