ロリな勇者と全身凶器   作:喜多見 健

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素手の戦い

「エストさんは、どんな魔法を使えるんですか?」

 

 そんな素朴な疑問は、やっとのことで地下墓地から抜け出した一行が宿についてから投げかけられた。

 

 既に食事も摂り終えた三人は、宿屋のロビーにて各々の時間を過ごしている。もちろん、部屋は二つとってある。

 

「んー、炎の魔法なら一通り使えるかなー。治癒魔法は苦手だけど、ちょーっとだけ操れるよ」

 

 備え付けの堅いソファに腰かけたエストは、隣に座るシャーロットの問いに答える。テーブルをはさんで向かいに座るアルベルトは、興味深そうにその話を聞いていた。

 

 魔法。それは神の御業と呼ばれる技法。あらゆる物理法則をねじ曲げ、新たな法則の下に構築される「新世界」だ。その魔法を使えるものは、世界でも決して多くはない。現にアルベルトは一切使用できないし、シャーロットも知る限りでは、彼女の村の神父しかないのだ。

 

「機会があれば見せてあげられるけど、あんまりバンバン撃つと倒れちゃうんだよねー」

 

 エストはけらけらと快活に笑う。アルベルトは鋭いまなざしで彼女を見つめる。

 

 彼がまず感じたことは、「慣れている」ということである。快活な雰囲気とは裏腹に、彼女の体からは触れたものを全て切り裂きそうな危険な香りがにじみ出している。

 

 常人であれば気付かないだろうが、アルベルトはそうではない。敏感にその雰囲気を感じ取り、エストに自らの雰囲気をぶつけているのだ。

 

 しかし、エストは気にした様子はなく、いまだにシャーロットと談笑をしている。

 

 話が魔法の話から何やらわけのわからない菓子の話になった時、アルベルトはするりと部屋から抜け出した。

 

 

 

――――

 

 

 

 鋭すぎるミドルキックが炸裂し、ゴブリンの首が骨を巻き込んで後ろにのけぞる。

 

 アルベルトは先日グリーンスライムと戦闘した草原で、「狩り」を行っているのだ。自らの修練のために、もう二度と、少女に剣を抜かせないために、少女に「もの」を殺させないために。

 

「かかってこい。まだ一匹が死んだだけだ」

 

 びくびくと震える死骸に少し目をやり、アルベルトはそう言った。言葉が通じているのかすらわからないが、アルベルトは、そう言った。

 

 仲間を殺されたゴブリン達は激高し、手に持った武器を振り上げながら襲い掛かる。だが、アルベルトは意に介した様子はない。飛びかかってきたゴブリンの胴体を正拳でブチ抜いて貫通させ、ゴブリンがぶら下がる右腕を引き戻しながら左腕のアッパーでもう一匹を空高くへ弾き飛ばす。

 

 仲間が立て続けに虐殺される様子を見た最後の1匹は、武器を放り出して逃げ出す。アルベルトは、それを追いかけた。

 

 わずかに3メートルほどの距離をほんの数瞬で詰めると、ゴブリンの頭を潰すように、全体重をかけた掌底を打ちこんだ。

 

 アルベルトの両腕、白かったバンテージは真っ赤な血に濡れ、そのところどころには臓物や脳が付着していた。心底汚らしげに両腕を振ると、アルベルトはその場に胡坐をかいた。

 

 まるで岩のような表情で、アルベルトは空を見上げる。何処までも蒼く、透き通った空だ。

 

「これ、あんたがやったの?」

 

 いつまでそうしていただろうか。唐突に背後から声をかけられ、アルベルトは驚愕を込めて振り向いた。エスト・アイギスが、二メートルほど離れた場所からハルバードに手をかけたままアルベルトを見つめていた。

 

「そうだ。何か用事か?」

 

「勇者ちゃんが心配してるわよ」

 

 呆れたようにエストが言うと、アルベルトは立ち上がった。胴着も返り血にまみれている。

 

「よくもまああれだけ悲惨な殺し方ができるものね」

 

「この戦い方しか知らないからな」

 

 街に向けてアルベルトは歩きだすが、ふと思い出したように立ち止まると、背後に向けて歩きだした。

 

「え? ちょっと、どうしたの?」

 

「戦利品の回収だ。すっかりと忘れていた」

 

 どこか抜けているその答えに、エストは大きくため息を吐き、言った。

 

「……手伝うわよ。二人の方が早いでしょ?」

 

 その言葉に、アルベルトは軽く口角を釣り上げる。

 

「女性には少しキツいと思うが?」

 

「冒険者なら経験済みよ」

 

 くつくつと、エストは笑い声をあげる。

 

 数時間後、心配そうな顔で部屋をぐるぐると回るシャーロットに、戦利品を売却した金の一部で買った甘い菓子類が届けられたのはまた別の話。

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