夢想の矛先、そのありか   作:ぽんる

5 / 6
夢想家スターダスト

「熱くないですか?」

「うん、平気」

 

 自分と同じシャンプーの匂いがする濡羽色の髪の毛へ、丁寧にドライヤーをかけていく。

 今は結ばれていないこの髪が揺れるのを、玲は目で追いかけ続けていた。今だって視線の先には、いつも彼女がいる。

 

 玲は、楽羽の隣で並んで歩いていく事をずっと夢見てきた。

 あの雨の日、あの楽しそうに笑っていた顔を見て、目で追いかけ始めて。この感情の名前を知って、それでも目で追いかけることしかできなくて。楽羽がシャンフロを始め、勇気を振り絞り、少しずつ彼女に近づく事ができた日々を経て、女の子同士でいいのかなんて悩んだりもしたけど。

 

 玲は、楽羽と『恋人』という関係になった。玲は彼女の隣で歩いていく権利を得たのだ。それが、堪らなく。そう。堪らなく嬉しい。

 

「こんなこと毎日毎日しなくてもいいのに」

 

 めんどくさくない? 放っておいても乾くよ? なんて言う楽羽は、気をつかってくれているのだろう。

 

「めんどくさくないですよ」

「そう?」

 

 楽羽は、自分でやるにはめんどくさい、と感じるからいっそう不思議に感じているのかもしれない。乾かしきったのでドライヤーを置き、今度は手にオイルを広げて、髪に馴染ませていく。

 

 玲と楽羽は、ルームシェア、すなわち同棲をしている。そんななかで、毎日楽羽の髪の毛を乾かすのは玲の役目である。

 

「瑠美さんにも言われたじゃないですか。毎日の手入れが大切なんですよ」

「うへぇ……」

 

 瑠美には「お姉ちゃん、放っておいたら自分の事なんかとことん何もしないので、玲さんお願いしますね」と念を押されている。楽羽が実家にいた際には、瑠美がこの役目を担っていたと玲は聞いている。

 

「そ、それに、」

「ん?」

「ま、まえを向いていてくださいっ」

 

 振り向こうとした楽羽を止め、玲はぽつりとこぼす。

 

「わ、私が、し……したい、んです」

 

 ───楽羽さんの手入れを。髪の毛だけじゃなくて、楽羽さんのためならなんでも。

 

 楽羽がしたいことならば、楽羽がすればいい。だけど、楽羽がしないと言うならば。玲は、それをする権利を請う。

 楽羽の事ならば、どんなにしても負担ではないし、めんどくさくもない。

 

 ずっと、ずっと、玲は楽羽の隣に並びたかった。その権利が欲しかった。星屑にだって願い続けていた。

 だから、隣に並んでいる今だからこそ持ち得ることのできるひとつひとつ、その全部が、玲にとっては喜ばしいことなのだ。

 

「えっと、ダメ……でしょうか?」

「……ううん」

 

 楽羽がわずかに下を向く。髪の隙間から、少し赤く染まった首筋がのぞいた。

 

「玲ちゃんがしたいなら、いいよ」

 

 楽羽がぼそりとつぶやいた「かなわないなぁ」という言葉は、玲には届かなかった。

 

 

 

 





サブタイは『想い、夢見ていた者の願い事』の意です。ずっと願い続けていたその先にいる彼女は、たった一人の、彼女の一番星に請う。

ありがとうございました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。