無防備ラバードール
最後の仕上げとして、目の前にいる彼女へ口紅を塗る。
「できました。もう目を開けても大丈夫ですよ」
その言葉を聞いてどこか人形めいた動作で目を瞬かせた楽羽に、玲は見とれた。
いつも低めにひっつめられている髪はきっちりと編み込まれ、顔には化粧がほどこされている。普段化粧なんてほとんどしないからか、そこにいる彼女はいつもと違って見えた。表情すら動かないからか、無機質でいて、それでいて神聖さのような雰囲気を醸し出している。髪の艶やかな黒と肌の白のコントラストが、唇の赤を引き立てていた。
恋人の家に遊びに来た玲は、瑠美の発案で楽羽をめかしこもうという事になった。服を選び、髪の毛を玲に編み込ませ、途中まで楽羽に化粧をほどこした瑠美は、あの服で溢れる彼女の部屋へ髪飾りを探しに行ってしまった。そのため途中から化粧を引き受けた玲が、楽羽へと化粧をしていた。
楽羽の目元はいつもよりキリリとして華やかだ。それでもいつもと変わらない黒い瞳が綺麗で、口紅を塗って少し近い距離のまま、玲はその黒に吸い込まれそうになる。
「玲さーん。お姉ちゃんの化粧、終わりましたー?」
その声に我に返った玲は、楽羽から目を離し、瑠美に答えようとした。その横で先ほどまで人形のように動かなかった楽羽が、ごく自然な動作で玲へ顔を寄せる。
「へ?」
「んー、終わったってさ」
ほんの一瞬、唇に柔らかな感触。
化粧をほどこし終わった際の無機質さが嘘のように、彼女は着飾っただけですでに普段通りで、そのまま立ち上がりながら瑠美に返答を返す。
ぴょこりと部屋に髪飾りを持った瑠美が顔をのぞかせる。
「あーあ。お姉ちゃん黙ってれば顔はいいのに。私の姉なんだし」
その口調なんとかならない? なんて言う瑠美に、楽羽は「ならない」なんて平然と返し、瑠美に持ってきた髪飾りをつけさせる。
「ん、お姉ちゃん似合ってるよ。さすが私」
「そこで自分褒めるとこお前だよな」
「だって私いなかったらあの芋ジャージとかでしょ? 髪の毛の手入れとか欠片もしないし」
「それとこれとは話が別だと思うが?」
まあ、似合ってるのには変わらないね。なんて言って瑠美は満足げに笑う。
「玲さんもそう思いますよね?」
こちらを向いた瑠美を見て、先ほどの姿勢のまま固まっていた玲は、楽羽になにをされたのかやっと認識した。
「~~~~~~~~~~~~ッッ」
「あれ? 玲さんどうしたんですか?」
真っ赤な顔を抑え膝から崩れ落ちた玲に、不思議そうに瑠美は首をかしげる。その後ろで、楽羽がいたずらが成功したような顔で笑っていた。
目を開けたら息がかかりそうなほど近くに自分に見とれる無防備な恋人がいたので(自分の口紅が相手に移った事に満足感を覚えている)