朔月の巫女   作:Hiso=サダネ

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初投稿。
リスペクト要素有り


Prologue
第零話 幻想平行絵巻 ~ Mystic Flier


 あの人は夢見た、正義の味方を。

 あの人は願った、人類の継続を。

 あの人は願った、たった一人の幸せを。

 そして、二人は出会った。その蒼玉と紅白は、運命のように。

 

 

 

    朔月の巫女 ~ charismatic ideal strongest shamanism magus ~

 

 

 

 絹のような、綺麗な黒髪の少女だ。

 赤い瞳は、山吹色の瞳の少女を映す。

 確信もあるが、新学期に入ったと言っても肌寒さの残るこの頃に、その袖のない薄着は目に留まりやすかった。

 黒のドレスの少女は、赤いリボンの結んだ黒髪に目を奪われていた。

 自分の髪のような黒髪ではあるが、少女と目を合わせた時に不思議と噛み合っているような感覚を、素足を通して伝わるアスファルトの冷たさをも忘れるほどに覚える。

 夜8時を優に超えた、まだ冬の夜も去っていない夜。けれど今日は不思議と星の輝きと月の光に満ちた夜空で、円蔵山と学校に続く通学路の脇道は赤い街路灯の光で満ちているのに、二人は夜空の光によって照られているように思えた。

 この出会いは決して必然ではなかったが、そこに意図も偶然もなく、善悪も明確な因果もない。

 赤い瞳は揺らぐことはない。けれどその表情は柔らかく、決してあそこのような冷たい意志はなく、どことなくあの人のような印象を抱いた。

 冷たげな声色であったが、胸の中にその暖かな意思が伝わる。

 

 

「───その恰好だと、風邪引いてしまいますよ? この時期はまだ肌寒いですし」

 

 

 先の通り、ドレスの少女は薄着で素足であり、そのドレスの長さとこの時期の寒さも相成ってとても外着には見えなかった。いかなる理由であれ、何らかの訳ありであることを察するのは難しくない。

 少女は世間に疎くとも、すれ違う人々の姿を見れば自分の服装が目立つことは、ここに来た時から察してはいた。

 少女は意識が彼女から離れて、言われた言葉を咀嚼する。

 

「…………大丈夫、です。……あの、あなたはどこから来たんですか?」

 

 その言葉に赤い少女は首をかしげる。いまいち言葉の意図が見えないようだ。

 

「どこから、って……そこから」

「さっきの道にあなたのような人影が見えなかったのに、いきなり後ろから話しかけられたので、ふと疑問に思いました」

 

 その言葉に目を丸くした少女は、ようやく意図が見えたように「ああ」と納得を漏らす。

 

「そこから来ました。まっすぐ」

 

 赤目の少女は、路地を出た───ドレスの少女が入って来た道路の向こう側の虚空を指さした。丁度その先には満月が静かに照らしていた。

 よもや空を飛んできたとでもいうのだろうか。まさか。人間が翼も無く飛べるなどありえない。常に重力という地球からの引力が働いているのだから! 

 自分の中で整合性を取ろうと思考をめぐらすと、反対側のレールの向こうが坂になっているのを思い出した。

 まさか、舗装された道を使わずにまっすぐ上って来たのだろうか。一般的には舗装された道を歩くのが普通と学んだが、そういう人もいるんだ、と彼女は納得する。

 ドレスの少女が小さく声をこぼす。赤目の少女はその様子を見ながらしばし思考すると、柔らかに提案する。

 

「あの、ならこれをお貸ししましょうか?」

 

 赤目の少女は来ていた赤いパーカーを脱いで差し出した。パーカーを脱いだ彼女は紅白の一般的な巫女服であり、ドレスの少女は巫女服の防寒性は知らないが、暖かそうには思えない。

 少女は今なお乾布摩擦で温めているように、寒さに震えている。

 

「あ……」

 

 差し伸べられた手に困惑した。見ず知らずの人間が見せる初めての善意に、どう答えればいいのかわからなかったからだ。

 思い浮かぶのは、自分を道具として見ていた人たち。決して少女のために善意を向けてくれる人たちなどいなかった。

 どうすればいいのかわからず、視線が泳ぐ。流れ着いた先は路地に入る前に、目に入った服──捨てられていたジャージ。

 ドレスの少女は何も言わず、ゴミ捨て場の紙袋を取り出す。赤目の少女は、当惑した声を上げる。

 

「え、何してるんですか!?」

「この服を着ます。丁度暖かそうですので、お気遣い結構です」

 

 ドレスの少女は突き放すような───実際は突き放す気はない物言いでその善意を断った。赤目の少女は少々苛立ちを浮かべる。

 

「む……いくら捨ててあったとしても、勝手に盗っていくなんて犯罪じゃないかしら?」

「?捨てられたものは所有権を失って、国の所有物になります。そして所有の意志を持って占有すれば、その所有権を獲得できると、民法239条に書かれています」

「他人の悪をよく見る者は、己が悪これを見ず。私だったらあなたの行いを見て反省するわよ、そんなことしない、って」

「……ダメなことなんですか?」

「ん?」

 

 眉尻を下げ、瞳を震わせながら、少女は不思議に思う。

 不安に思っている?それとも……

 

「……ダメじゃないわよ。今のはからかっただけ。別に寒いから近くにある服を着るのは悪いことじゃないし、他人から何言われたって構わないわ」

「そう……なんですか?」

 

 震えが収まり、困惑の色が浮かぶ。

 だが、赤目の少女は思うままに言う。

 

 

「怖がる必要はないわよ」

 

 

 

「え……?」

「他人なんてどうだっていいのよ。自分の感情は自分だけのものなんだから。自分を信じていれば、他人なんて怖くないものよ」

 

 

「……自分を信じる」

 

 ドレスの少女は視線を落とす。赤目の少女の言葉を反芻しているのだ。自分を信じる、限られた世界で過ごしてきた少女は、信じるという気持ちを知らない。

 赤目の少女はどことなく歩みだし、少女が持っていたジャージを掻っ攫う。思わず当惑した声を上げた。

 

「ともかく着替えましょ。風邪ひいたら死んじゃうわよ?」

 

 ジャージをひらひらと掲げると、道の奥へと進んでいく。

 

「……医学が発達してない時代ならともかく、今の風邪による死亡率は下がっています」

 

 半ば本気の忠告を冗談と思いながらも、ドレスの少女は付いて行った。

 

 

    ●●●●〇

 

 

 ドレスからぶかぶかのジャージへと着替え、ついでに入っていたサンダルを履いた少女は、公園の水道で水を飲み顔を洗うと、備え付けのベンチに座る。赤目の少女は向かいの遊具に座る。

 街路灯が一つしかない小さな公園。道路よりも暗いここならば道中よりも星々を、月明りもまた感じられる。

 赤目の少女が月の光に祝福され、まるで月からの使者の様だ。

 

「───何があったの? 誘拐か遭難? 迷子ではあるでしょ」

 

 赤目の少女は問うた。その丸みを帯びた目は鋭く彼女を射貫く。どこかで見た事がある。使命を背負っているような意志がそこにあった。

 怖い。でも、あの時感じたやさしさは、あの人たちには感じられなかったもの。少女はどことなく希望を持ちながらも、あの時の様に裏切られてしまうのではないかと考えずにはいられない。

 それでも。自分にはもう何もないから。この人に頼るしかない。少女はそう思い、話してよいことを分別しながら、言葉を選び答える。

 

「……私に戸籍はありません」

「…………」

「住む場所も、食べ物も、服もありません。だから権利もありません。……何があったのかは、言えません」

「それはどうしてよ?」

「それは…………」

 

 彼女は黙ってしまう。それは秘匿する義務があることや、事情が複雑であることもある。

 だが一番は、信じてもらえないのではと思っているから。信じてもらえるわけが無い。

 自分が聖杯と呼ばれる願いを叶える力を持っているだなんて。

 その聖杯をめぐる聖杯戦争の勝者に願われてここに来ただなんて。

 自分が別の世界からやってきただなんて! 

 こんな非現実的なこと、信じてもらえるわけがない、と。

 いつの間にか下を向いてしまった彼女に、赤目の少女は「そう」と小さくつぶやく。

 まただ。あの人たちを思い浮かべる。興味が無いと言外に言われた時と同じ声。この人も、興味を無くして、自分を見捨てるのだろうか。

 彼女は諦めるように瞳を曇らせた。

 

「───じゃあ、家に来なさい」

 

 それは、意識外からの言葉であった。

 

「……え?」

「私は一人暮らしだし、一人増えた所で養えるし。戸籍とか権利とか、私にはよくわからなかったけれど、まあばれなきゃ大丈夫でしょ?」

 

 そうじゃない。そういう問題ではない。

 思わず赤目の少女の方に振り向く。

 

「……戸籍は家族集団単位で国民を登録するために造られるもので、権利はその行為を行うことができる地位についていることです」

「ふーん」

「戸籍が無いなら、国のどこにも家族がいないです。権利が無いから地位にもついてないです。そんな私をどうして……」

 

 あきらかに怪しいはずだ。本には戸籍を売買する犯罪もあると書いてあったのに。犯罪者だと思われても仕方ないはずなのに。そんな自分を、この人は保護してくれるというのだ。

 

「困っているからよ」

「……それだけでですか?」

 

 困っているから、この人は助けてくれるというのか。

 

「大なり小なりなんて私には関係ない。異変を解決するのが、博麗の巫女の務め

「異変……?」

「……あー、ごめん。貴女の名前なんだっけ?」

 

 何か、空気が足を転げたような気がした。別に空気に足はない。妖怪でもない限り足は無いと思うけど、こけた音が聞こえた。こけた音とは何だろう?

 しかし彼女は揺るがない。何故なら雰囲気に合わないということを知らないから。無知とは時としてもろくもあるが、単純にして強靭な一面もあるのであった。

 

「私は……

 …………私は美遊です」

 

 彼女───美遊は、苗字を言おうとしたが、寸前まで考えて、自分の名前だけを言った。衛宮を名乗ることもできたし、朔月を名乗ることもできた。

 しかしこの別世界に美遊の家族も、兄もいない。この世界に衛宮も朔月も存在しないかもしれなから、名乗っても問題はないだろう。だが、もし赤目の少女と共に過ごすのなら、苗字も同じである方が、都合が良いかもしれないと考えたのだ。これは美遊が朔月家と衛宮の両家で過ごしてきたことによる印象からくるものであった。

 

「美遊ね。はいはい。じゃああなた、なんか不思議なことに巻き込まれてるんでしょ」

 

 また意外であった。美遊は言葉が出ずに口が開いたままになった。それと同時に距離を置こうと身を引いた。

 まさか、この人は知っているのだろうか。自分が聖杯だと。だから私に近づいて……

 そこまで考えて、それはないと考えた。もし本当に自分を狙ってきたのであれば、ここまで回りくどいことはしない。もっと簡潔に攫って行くはずだと。

 美遊は疑問に思った。ならばどうしてわかるのだろう、と。

 

「どうして、それを…………」

「勘よ」

「カン」

「勘」

 

 言葉が出なかった。勘で自分の現状を当てられるだなんて。美遊は世界の広さを思い知ったのであった。

 ふと、ある可能性を美遊は思い浮かべる。

 彼女は魔術師、それも魔術使いではないかと。美遊に魔術の世界の事はわからぬ。なぜなら兄が魔術を使っていたことと聖杯戦争に巻き込まれた事だけが、美遊の魔術に関する記憶であるためだ。だから簡単な魔術の知識しか教えられていない。

 不思議なこと……魔術関連の事件に関する仕事をしていて、それを察知して解決するために魔術を習得しているのではないかと。

 だとすれば先ほどの異変を解決するという言葉も、その事件のことを異変と呼んでいるとも取れる。

 赤目の少女は先ほど美遊が身を引いたのを見ても、詰め寄るようなことはしなかった。美遊が怖がっていたからである。怖がっている子に無理やり近づくなんてしない、と。

 

「あなたが異変に巻き込まれているのなら、その渦中にいるあなたを保護するのはおかしな話じゃないでしょ?」

 

 そう言って赤目の少女は笑いかける。

 

(……あ…………)

 

 その姿に、今は亡き母を思い浮かべていた。声が似ている訳ではない、姿も長い黒髪ということ以外は似ていないはず。なのにどうしてこんなに安心できるのだろう。

 美遊はこの人しかいないと思い、彼女の提案に承諾する。

 

「……あの、よろし「待って」

 

 承諾しようとしたら、止められてしまった。赤目の少女は口元に人差し指を立てて手招きする。どういうことかわからずに固まっていると、「こっち」と言って美遊の手を取って木の木陰に隠れた。

 

「まったく、ルヴィア様にも困ったものです」

 

 誰か来た。女の人の声、だけどどこか機械じみた声。機械じみているといっても、感情を感じさせる抑揚を持っていて、美遊は機械音の声を聴いたことが無いため、そう感じることはなかった。

 赤目の少女は木の陰から声の主の正体を見やる。

 そこにいたのは、子供のおもちゃのような物体であった。そしてそれが宙に浮いている。別段恐怖映像と言うわけではなく、本当におもちゃが浮いてる姿を想像したままである。おもちゃといっても、その装飾は青を基調としたもので、蝶型のリボンが結ばれたような形をした羽がついており、六芒星を囲んだ金のリングと、ぱっと見で本格的な材質に見える。

 何故だろう、あれは危ない気がする。とても残念な方向に。赤目の少女は一言しか聞いていないのにそう思った。

 

「私たちにはカード回収という大事な役目があるというのに……」

「カード!?」

「ちょっ!?」

 

 カード。連想するのはサーヴァントカード。エインズワース家が創り上げた魔術礼装。強力な力を持つ、聖杯戦争の参加条件。

 美遊は思わずオウム返しをしてしまう。赤目の少女はただでさえ関わってはいけないとにらんでいるのに、自分も思わず狼狽してしまう。

 あのおもちゃもまた、美遊たちの存在に気が付いたようである。

 美遊は木陰から出てきて、おもちゃに対面する。なお、手を繋いでいたために、赤目の少女も追従する形で出てきていた。

 

「その話、詳しく聞かせて」

 

 赤目の少女は面倒なことになりそうだと、小さくため息をついた。

 

 

    ●●●●〇

 

 

「サファイアー! サファイアー! ……もう、こんなこと大師父に知られたら……」

 

 カレイドステッキであるマジカルサファイアを探しに来たルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは、住宅街を捜し回っていた。先ほどまでマジカルルビーの主である同業者みたいなの───少なくともルヴィアはそう考えている、との戦闘の際、ステッキに契約を切られ、高高度から冬木大橋近くの未遠川に落とされた後であった。その後は強化とか飛行だとか魔術を用いていろいろ頑張って生還した。まだゼルレッチ卿からの指令である事件にも関わっていないのにボロボロである。

 その後は執事のオーギュストによって服装を整えられて、こうして名を呼んで探していた。傍から見れば大金持ちの典型的な外国人お嬢様が宝石の名前を付けた犬を探しているように見える。だが実際に探しているのは7人ともいない魔法使いによって造り上げられた最高峰の魔術礼装であり、価値は犬どころかシロナガスクジラの比ではない。が、自分で判断する人口精霊を飼いならさねばならないので実質犬とどっこいどっこいである。

 そうして探していく内に小さな公園に辿り着く。

 

「サファイアー! サファイ……貴女は…………!」

 

 そこにいたのは、二翼の羽のようなマントに体のラインが映える蒼い服を着た少女───美遊が、マジカルサファイアを握っていた。

 後ろではその同年代くらいの赤いパーカーを羽織った巫女服の少女である、赤目の少女が苦い顔をしながら「競泳水着……」と言っている。

 ルヴィアはすぐに察した。この少女は、サファイアと契約していると! 

 美遊はルヴィアに向かって、話を聞いている最中に出てきた金髪縦ロールという前契約者の特徴から、ルヴィアがその前の契約者で持ち主なのだろうと考えた。

 

「……カード回収なら、私にやらせてください」

 

 ルヴィアは、美遊を困惑と警戒を混ぜた表情で見やる。

 

「その代わり、

 私に戸籍をください。

 住む場所をください。

 食べ物をください。

 服をください……」

 

 聞くものが聞けば単調な抑揚で、美遊は願い続ける。ルヴィアはどこか憐れむような視線がこもってきたように見える。

 ただ一人、赤目の少女だけは、その覚悟を理解できた。

 

「私に、居場所をください」

 

 その場に静寂が訪れる。永い、永い時間が訪れた。

 

「じゃあ、早速行きましょうか」

 

 永い時間は須臾に消えた。思ったより早く去っていった。クラウチングスタートでフライングした時のような脱力感だ。

 ルヴィアは静寂を破った少女の方へと見やる。

 

「……いや、どういうことですの? どうしてそちらの方はサファイアと契約をして……貴女たちは一体……?」

「私は私よ。それじゃあ、早速カード回収とやらに……「待ってください」ぃえ?」

 

 出鼻をくじかれた。赤目の少女は素っ頓狂な声を上げた。

 善意を無碍にする。美遊は振り向かず俯いて、覚悟を持って少女に答える。

 

「あなたは参加しなくていいです」

「……どういうことよ」

 

 不満げに投げかけられた疑問に、申し訳なさを抱く。

 

「あなたはただ巻き込まれた一般人です。だからこんな危険なことに介入しなくてもいい。だから、参加しないでください」

 

 初めて、人の思いをはねのける。しかしそれがこの優しい人を巻き込まないための最善。

 少女にもらった優しさが、この世界が怖い世界ではないことを教えてくれた。

 自分の知らない世界にも、兄のような優しい人がいるとわかった。

 だから、これが自分にできる最大の恩返し。

 エインズワース家のサーヴァントカード。転移の際について来た魔術礼装。なら、その始末は転移の中心である自分が始末をつけなければならない。

 

「だから、私には関わらないでください」

 

 だから、これは私の問題で、あなたは巻き込まれなくてもいい。

 

「……そんなの」

 

 赤目の少女がつぶやく。

 

 

 

「一般人ならば、忘れてもらいますわ」

 

 銃声が、鳴り響く。

 美遊はその音の発生源に、振り向いた。

 続いたのは、ルヴィアであった。

 ルヴィアの指先に消炎のように小さな煙をあげている。

 ガンド。北欧に伝わる呪い。指先から魔力を飛ばすことで相手に呪いをかける魔術。指を差してはいけないというマナーの起源でもあるその魔術は、未熟者であれば眩暈や風邪を引く程度に収まり、熟練者であれば物理的なダメージさえも発生するフィンの一撃を放てるという。

 ルヴィアは後者であった。それも有数の、フィンのガトリングとも称されるほどの魔術師であった。

 十数発のフィンのガトリングが放たれた。ルヴィアは昏睡させる程度に手加減したガトリングを放ったのだが、それを美遊は知らない。

 知らなかったのだ。魔術を秘匿することに、魔術師は一切の油断もしないことを。魔術に携わる者としか交流しなかったことが、悲劇を生んでしまった! 

 すぐさま赤目の少女へと振り向く。何も考えられなかった、信じられないと思うことすらできなかった。

 振り向きざまに、ルヴィアの目が見開いたのが見えた気がした。

 ……そして次に見た光景を、別の意味で信じられなかった。

 

「───そんなの、知ったこっちゃないわよ!」

 

 弾丸の隙間を縫うように、少女は躱していた。

 事実を認識する前に───ルヴィアが躱されたと認識していた時に、少女は動いた。

 一歩を踏み出し、そのまま滑空してルヴィアに突き進む。

 

(跳躍……?)

 

 接近戦を仕掛けてくると踏んだルヴィアは得意のレスリングの構えを取り、迎撃態勢をとる。得意技のバックドロップを決めれば、いくら熟練者であっても抑え込める自信があった。なにせ相手は身体能力が高いだけの魔術師ではない年下の少女。自分が負けるヴィジョンなど見えない! 

 空中で足を勢いよく突き出す、その動きには武道の要素は見当たらない。

 勝った! ルヴィアは躱して掴みかかる。

 だが、少女を掴むことはできなかった。

 

(跳躍ではない……!)

 

 ルヴィアの掴みを空中で旋回して躱し、回り込む。

 

(これは、飛行!)

 

 少女は身体を縦に大きく振り回し、脚を大きく振り上げる。

 

(強化で防御を!)

 

 脚が振り下ろされる。

 魔力を回す。攻撃されるとすれば急所である頭部から延髄。ならばそこに強化をかけて防御を試みる。耐えれば仕切り直し、マジカルサファイアとサファイアと契約した少女を回収し逃走。しかしエーデルフェルトの誇りにかけて負けるわけにはいかない! 

 魔力が回り、頭部から延髄にかけて強力な強化魔術が施される。

 そして彼女の逆空中昇天脚が振り下ろされた。

 ……立っていたのは、少女であった。

 ルヴィアは少女のかかと落としを喰らい昏倒。そのまま前のめりに気を失った。

 信じられなかった。自分のせいで、また人を傷つけてしまった、そう思ったのに。この人は、傷一つすらつかなかった。

 

「そんな……! たとえルヴィア様でも、あのレベルの強化は戦車を貫通する威力が無ければ突破はできないはず……いや、これは。もっと根本的に……」

「ほら、逃げるわよ!」

「え……」

 

 少女は美遊の手を掴んで地を蹴る。

 ───そしてそのまま美遊を連れて空を浮いていく。

 

「───え」

 

 空を、飛んでる?

 自分は今、空を飛んでいる……飛んでいる!?

 

「嘘……あり得ない」

「何言ってんの」

 

 美遊は少女の方へ視線を向ける。その瞳はまっすぐと空の彼方を、月を超えて星を超えて、どこか遠くを見つめているようだ。

 

「空を飛ぼうと思えば誰だって飛べるわ。飛べると思えば、どこまでも飛べる。何より今あなたが飛んでいるんだから、もうあり得なくない」

 

 黒い髪が、夜空に溶ける。赤い瞳が街の光で星々の様に瞬く。その横顔はまるで月の横顔の様で。

 

「礼装も無しに追従者を含めて飛行魔術を……! このような逸材が眠っていたとは……。失礼ですが、貴女のお名前は?」

 

 まるで……

 

 

「───博麗霊夢(はくれいれいむ)。博麗の巫女よ」

 

 

 世界から連れ出してくれる、幻想(ユメ)のような人であった。

 

 

 

 

 

 ……幸せを掴めますように、っていう、お兄ちゃんの願い。ちゃんと受け取ったよ。

 でも、今の私には何もないから。何もかも無くしちゃったから。

 だから今度は、皆が当たり前に持っているものを手に入れることから、始めようと思う。

 だけど、もしかしたら。もっとすごいものに出会うかもしれない。

 




タイトルこれでいいのかなぁ?

追記
・話の都合でルヴィアには極端に排他的な魔術師っぽい立ち回りをしてもらっている。
・美遊の知識は小説上はwiki知識。物語的には本で得た知識として扱う。
・うろ覚えで書いているため、ガバガバな部分が存在すると思われる。(特にルヴィアの強化の部分とか)

20/10/27:靴(サンダル)を履く描写を追加・アスタリスク追加
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