朔月の巫女   作:Hiso=サダネ

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寝ぼけながら書いたため、後々推敲し直すかもしれない。
書いていたら文章がとても長かったため、前日譚・前編・後編みたいに分けていく。
前編は今日7時ごろ投稿予定。
後編は最後の仕上げの最中のため、締め切り今日中の気持ちで仕上げる所存。
なお、この小説は美遊と霊夢を中心に描くため、両者共のネタバレを含むことになっているため注意。特に美遊は重大な秘密持ちであるため、特に雪下の誓いのネタバレが散見すると思われる。注意されたし。
まあ、この小説を読んでいる人は二人の事好きな人が多いだろうから大丈夫のはず…



鬼形獣で神子様の知り合い出てきてびっくりした(話題が遅い)。





博麗■■■伝説
第一節 第一話 覚悟の少女 Last Up to you


「到着、っと。……とと、足はちゃんと地面につけてから降りなさい」

「…………」

 

 未遠川を飛び越え、僅か十数分。山吹色の瞳の少女、美遊は赤い瞳の少女、博麗霊夢によって、あり得ないと思っていた世界を駆けてきた。

 初めて空から見下ろした地上に。自分の力でなくとも、初めて空を飛んだことに。興奮と爽快さに浸っている。言い知れない解放感を、忘れることが無いだろう。

 なお、今の美遊の服装は先で拾ったジャージ姿であり、既に転身は解いていた。移動中は低体温賞を防ぐために転身したままで、高度が下がって来た辺りでサファイアが解いたのである。途中からは安定させるために背負って飛んでいる。

 

「素晴らしいフライトです。まるで仲睦まじい姉妹を見るような趣でした」

「姉妹ねえ」

「はい、1歳差の年齢であっても、年上の少女が年下の少女を背負っていく様は姉妹のようにも見えて当然かと」

「ちょっと、私年齢とか言ってないでしょ。なんでわかんの」

「カレイドステッキに付随された機能を使えば、外見的特徴からでも年齢は割り出せます。血液を採取すればDNA情報から偉人との関係性も割り出せる占いもありますが」

「血液型占い、ってやつ? 世の中いろんな占いが増えたよねえ。私の知らない占いがテレビで流れていて」

「ちなみに美遊様は10歳、霊夢様は11歳です」

「当たりだけど、見ただけでわかるなんて、どんな目をしてるのよ」

「こんな目です」

 

 どーん! 目の前にサファイアの双玉の宝石がドアップで現れる。急接近してきたサファイアに思わず距離を置く。

 

「近い!」

 

 霊夢とサファイアがそんなコントをしている内に、美遊の意識が世界に向き始める。

 川を挟んで円蔵山の反対側の山肌に接する小さなアパート。市町のはずれにある住宅街の端というイメージが浮かぶありふれた光景だが、美遊にとっては新鮮な光景でもある。

 彼女の知っている世界は、屋敷の庭に広がる四季の移ろいと、冬の街だけなのだ。

 住宅街を眺めていると、霊夢が向き直り腰に手を添えて気持ちを切り替える。

 

「さあ、とりあえず上がって。部屋は016号室だから」

 

 016号室、って。016(レイム)だからだろうか、と疑問に思う。

 

「それは016=レイムだからでしょうか?」

「なんかそこが開いているから、丁度いいんじゃない? って言われた」

「…え、あの……」

「何よ?」

 

 八ノ字に眉を上げる霊夢に尋ねる。

 

「私は……あのサファイアの持ち主の人の所で住む予定では?」

 

 思い浮かぶのは、サファイアから語られた、カード回収の任務について。

 

『この町には、高度な魔術理論で組み上げられた魔術礼装であるこのクラスカードが各所に散らばっています。協会が確認したオドの反応は七か所。うち二枚は前任者によって回収されていますので、あと五枚のカードがこの地に眠っているのです。そしてそのカードの回収に先んじて、私と姉であるカレイドステッキが前契約者のルヴィア様と凛様に貸し出されたのです』

 

 カード……ここではクラスカードと呼ばれるカード。協会と呼ばれる魔術結社では英霊の力を持った強力な力を持つ魔術礼装だと認識されているが、その正体は英霊と自身を置換することによって英霊の力を振るえるようにする礼装にして、聖杯戦争の儀式を完遂させるためのもの。あの巨大な箱を通して置換されているらしいが詳しいことはわからない。けれどそれが多くの危険性を持つことには変わらないのだ。

 故に、この世界を巻き込んでしまった始末を自分がつけなければ、と。

 その際に、カード回収をするのであれば、そのルヴィアという持ち主と交渉するのが良いと提案され、そこで戸籍と衣食住を提供してもらうことになっていた。

 だが、今の言い方だと、今後もここで住めと言っているのだろうか。

 

「駄目よ。あんな出会い頭に呪ってくるようなのの所。一緒に暮らしてたら、碌なことにならないわよ。……不満?」

「いえ…迷惑じゃ……」

「さっきも言った通り、今更一人増えた所で養えない訳じゃないわよ」

「……そうですか」

「予定なんて、常に未定よ。いちいち予定通りになんてしてられないもの」

 

 自分の中の迷いを見抜かれて、やはり聡い人なのだと改めて実感させられる。

 美遊は予定を立てたことがほとんどない。だけど一般的に予定は守るものだと教えられた。予定を守るのは兄曰くケーキを焼く時間を守るようなものだと。一番記憶に新しい予定は先ほどのことと───外の世界に出かけることである。

 

「確かに戸籍が無いことは不利なことですが、あのあまりにアレなルヴィア様の所にいるのは確かに危険です。マスター、ここは予定を変更して、霊夢様の元で過ごされるのがよろしいかと」

 

 あまりにアレ、って言って危険だと思ってるのに勧めたのね。霊夢は露骨にいやそうに顔を歪ませた。

 アパートの通路を進む。白くてそれなりに年季の入った建物に、美遊は無意識に胸を弾ませていた。不安の気持ちは確かにあるが、いつの間にか霊夢に心を開いていているから、始めよりも胸が軽いのだ。

 

「……そうだ、霊夢さん」

「ん? 何」

「契約時は霊夢さんしか住むことを承諾してないと思います。ですので、私はあまりアパートの住民と、特に管理人にあたる人とは出会わない方が良いと思います」

「あー……一応、大家の部屋はそこ。それ以外は普通の人たちが住んでるから」

「わかりました……霊夢さん?」

 

 霊夢はこらえるように静かに笑っていた。何か可笑しなことを言っていただろうか、と美遊は尋ねる。

 

「あの……何かおかしいことがありましたか?」

「いや、昔霊夢さん、って呼んでくれる子がいてね。里の子だったけどいろいろあって異変解決屋になった子を思い出していただけ」

 

 言われて気づいた。自分が“霊夢さん”と呼んでいることに。

 

「あ……ごめんなさい。その、いつの間にか……」

「いいの。別に嫌じゃないから」

 

 親身になってくれることを、兄と重ねているのだろうか。美遊の中では、霊夢は“霊夢さん”と呼ぶようになっていた。名前が似ている訳でもないのに、同じように呼んでしまう。

 

「さて、ここが私の部屋よ……さ、上がって頂戴」

 

 パーカーのポケットから鍵を取り出すと、鍵を開け、灯りをつける。何気にこの人、鍵を入れたままパーカーを貸し出そうとしていたのである。そのまま取られたらどうしたのだろうか。

 「お邪魔します」と言い、「お構いなく」と答えられる。部屋は15畳ほどの部屋で、一人暮らしにしては広い。自分にはなじみのある畳に戸箪笥とちゃぶ台。あとは冷蔵庫とキッチンに白い20インチくらいのテレビがそこにあった。

 

「…………」

「なにぼー、としてるの。……とと、そうだ。待ってて、タオル持ってくるから」

 

 洗面台に入りタオルを水で濡らして絞った後に戻る。霊夢はそのタオルを差し出し、困惑している美遊に向かう。

 

「足、拭いてから上がってね。掃除面倒だし」

「足……? そうだ、私裸足で歩いて……ごめんなさい」

「そういう時はありがとう、っていうものよ」

「……ありがとう、ございます」

 

 美遊は言葉を噛み締めて、タオルを受け取り、上がり框に座って足をぬぐう。水で冷えたタオルは冷たかったが、確かに温かった。

 

 

   〇●●●◎

 

 

 その後、美遊は霊夢が沸かした風呂に二番目に入り、霊夢が用意した服を着た。

 初めて入る、他人の家の───自分を人として扱ってくれる人が用意してくれた風呂は心地よく、今まで入って来た檜風呂を思い出す。聖杯戦争、別の世界、兄の願い、エインズワースのカード。多くの記憶が頭の中に巡る。

 そして浮かんできた気持ちはやはり覚悟であった。エインズワースのカードを回収する。自分が起こしてしまった()()なのだ、と。

 風呂を出た後に着た巫女服は少々大きい気もしたが、先のジャージほどサイズが合っていないなんてことはなかった。

 なお、先ほどのジャージとサンダルは霊夢がとっとと処分したそうな。

 

「お風呂戴きました。……ありがとうございます」

「どういたしまして。夕飯用意したから、食べなさい。そうだ、遠慮する方が失礼だからね」

「わかりました」

 

 霊夢がキッチンから料理を運んで、ちゃぶ台に並べていく。美遊が正座すると、サファイアが飛んできて美遊抑揚の低い声で話す。

 

「美遊様。今夜の献立は、ごぼうの天ぷら。もやしとエリンギの炒め物に、ご飯と鮭の切り身の塩焼き。そして味噌汁とお茶と煎餅でございます。確かに霊夢様からは絢爛さもなければ貧困した様子もありませんでしたが、カレイドサファイアの門出の日には質素と思われます」

「質素で悪かったわね! 全く……美遊、もうこれは封印しちゃいましょ。明らかに残念な方向に危険な奴よ」

「大丈夫です。タンパク質となる料理が鮭しかないのと、全ての野菜が油を使っていることが気になりますが、おいしそうな料理です」

「それは褒めてるのかな?」

 

 若干青筋を浮かべているが、美遊は気づかなかった。

 最後の食事を並べ終えると、ドサッ、と座りこみ正座して、手を合わせる。

 

「いただきます」

「……いただきます」

 

 

 箸を取り野菜から食べていく。質素だとは言うが、味はしっかりと付いているし、素材の味を引き出している料理であった。だが、兄の料理と比べれば劣るものがある。何よりも食材に心がこもってないように思えた。食材に対してなのか、作る時の思いなのかは判別できないが。

 おいしいが、不思議の方が強かった。この人は優しい人なのに、どうしてそう感じるのだろう、と。

 霊夢の方を見やる。

 不思議な人。その表現が最もこの人に合っている。綺麗な黒髪で赤い瞳。赤いリボンにその巫女服を着る姿はとても自然体。身体能力も高くて飛行魔術を用いた戦闘を行う人。勘が聡くて、さっきの発言から封印に関する魔術も使える。

 そして何より、人の気持ちに接してくれる優しい人。一歳しか違わないのに、いろいろなことを教えてくれる。異変に関わっているから保護してくれているのかもしれないけれど。───まだ自分には、信じるという気持ちはわからない。それでも、信じたい、って思える人だと思う。

 霊夢と、視線が合った気がした。

 

 

 箸でつまみながら思考する。芯の入った姿勢で食事を食べている姿は、知り合いの歴史編纂家の様な印象を受け、良い所で育ったのだろう清廉さを感じる。巫女服を綺麗に着られることから、普段から巫女服か、和服かをよく着ていて、勝手がわかるからだろう。

 何より知識が偏っているのを見るに、最近初めて家から出てきた少女なのだ。

 美遊の方を見やる。

 不思議な子。どこか他人とも思えない。綺麗な黒髪で、こういう髪を絹の様、と言うのだろう。自分には絹が特別綺麗だとは思わないが、月並みに表現するのであれば、そういうことになる。その清廉さは、ここまでいけば純真無垢で、閉ざされた世界しか知らないがために、自由になることがわからないのだ。

 最初は異変に巻き込まれただけの人間の少女だから、不安にさせないようにしてきたが、どうしてか、自分はこの子を放っておけない。妖怪に取りつかれでもしただろうか、しかし悪い気は一切感じられないのだ(サファイアに関しては無視)。

 美遊と、視線が合った気がした。

 

 

   〇●●●◎

 

 

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

「お粗末様です」

「お粗末様でした」

「食べてないでしょうに……お粗末なものになりたいのかしら」

「美遊様、この方もルヴィア様に負けず劣らずの暴力性をお持ちの様です」

「大丈夫、霊夢さんは簡単には暴力は振るわないと思うよ」

「いいえ美遊様。私のセンサーは察知しております。この人は通り魔の如く暴力を振るっていくお方だと」

「さて、確かここら辺に金づちが……」

「このままでは私は哀れなスクラップにされかねません。今すぐ撤退しましょう」

「逃げる、ってどこへ?」

「何かしらそれは、逃げる算段かしら。その程度の作戦で、私から逃れられるとでも」

「マスター!」

 

 どことなく見た事ある光景だが。霊夢の雰囲気と、若干楽しんでいるサファイアに当てられて、特にフラッシュバックはしなかった。むしろ、霊夢さんは冗談が好きなんだな、程度の認識であった。もしかしたら、自分の覚悟が、それに気づかせなかったのかもしれない。

 

「霊夢さん」

「……何?」

「私に、カード回収をさせてください」

「良いわよ」

「……え?」

 

 断られるのかと思った。美遊は説得するための、納得のゆく説明を使用としていたのに───それこそ、自分の秘密を話してでも、意思を通すつもりだったのに。この人は当たり前のように、私の目を見て答えてくれる。

 

「ただし、ちゃんとサファイアの力で自衛くらいできることを私に見せる。そしてまあ、私が闘うから、あなたは後ろに引っ込んでて。それが異変解決に参加するための約束」

「……それだと、霊夢さんも巻き込んでしまいます」

「いいじゃない、巻き込まれてあげるわ。それが巫女の務めだもの。要は強い亡霊が相手、ってだけでしょ。その程度の相手なら何度か相手したこともあるわ」

 

 思い浮かべるのは緑の道士服を着た足の無い亡霊。歴史上の人物で亡霊ということで現れた仮想敵。手強いと言えば手強い。だが、話に聞く英霊は正気を失っているというのだから、敵ではないだろう。桜の散る亡霊も浮かんできたが、あちらの方が手強いのではなかろうか。あの亡霊くらいの強さが5人と考えると骨が折れるとは思うが。

 それでも美遊は迷う。助けてくれたこの人を、自分が起こした異変に巻き込んでしまっても良いのかと。本当は巻き込みたくはない。できることなら手を引いてほしい。自分のせいで、優しい人を傷つけたくない。

 美遊は知らない。もし、最初に触れたものが善意や優しさではなく、カード回収であれば、迷うこともなかったことに。この世界に来て初めて得たものが覚悟であったのなら、同じ覚悟を持っている霊夢の意志を尊重していた。だが、初めて得た温かさは、その気持ちに報いたいという気持ちを抱かせているのだ。

 

「やりたいんでしょ」

「でも……」

「それに、私が止めても。きっとそのよくわかんないのを連れて出て行っちゃうでしょ」

 

 言葉が詰まる。確かに、もし説得できなかったら、自分は迷いなくサファイアを連れてカードを回収に行っていた。そう思えるほどに、美遊の中でこの覚悟は強かった。

 

「やりたいと思ったのなら、やって見なさい。自分に嘘なんてつけないし、嘘ついたって自分が傷つくだけよ。本当にやる覚悟があるのなら、気持ちは答えてくれるもの」

 

 覚悟があるのなら、気持ちは答えてくれる。気持ちが答えてくれるという表現はよくわからない。が、力を貸してくれるという意味なのは分かる。けれど、気持ちが物理的にエネルギーを与えてくれるわけでも、魔力を得られるわけでもない。

 だけど、本当に答えてくれるのなら、心強く思えて、嬉しい。

 

「あとはそうね……恩返ししたい、って思ったんだったら。それこそ私を連れ行きなさい。目の前の異変を解決しにいかないで何が専門家、ってものよ」

「マスター、美遊様。この方は戦闘面において、たかがルヴィア様といえども、あのルヴィア様を初見で破って見せた猛者です。英霊に有効的な攻撃を与えられなくとも、戦闘経験などの面からのアドバイスもいただけることを踏まえれば、むしろこちらから願い出るべきかと。先ほどの話が本当ならば、霊夢様は英霊に匹敵する神秘を持つ存在と渡り合ったことのあるということです。いざという時は、この方に頼られるべきと思います」

 

 一度目を閉じて、静かに考える。気持ちを整える。

 まだ迷いはあるけれど、自分の気持ちを答えよう。

 

「わかりました。……どうか、よろしくお願いします。私と一緒に、カードを回収してください」

 

 美遊が一歩踏み出したことを、霊夢は小さく微笑んで祝った。

 

 

   〇●●●◎

 

 

 食後の片づけをした後、早速美遊と霊夢は一度空を飛んで人気の無い森の開けた場所でサファイアの力を試してみた。説明されたとおりに杖を振るうと、最適な攻撃を放つことができ、十分な防御力があることもサファイアが説明したことで、「まあ及第点か」と言って霊夢は認めた。美遊の表情から緊張が解けたのが見て取れた。

 そのままカード回収を行こうとすると。サファイアが、早急な回収が求められるが今でなくとも回収には行けること。今日は色々あったために一度休んで明日回収に向かうことを提案した。美遊は、自分は大丈夫だと言っていたが、霊夢はそれならば、ということで一度ゆっくり休むことに。美遊は今まで、世界を移動して、空を飛び回り、またサファイアの性能テストをしている。事の大きさなどを踏まえれば、疲労困憊になっていても当然である。

 美遊が目を覚ましたのは次の夜の23時であった。寝坊どころか一日かけて眠ってしまったのである。

 

「ごめんなさい、霊夢さん! まさかこんな時間まで起きられないなんて……」

「大丈夫よー、いつもの生活を送っただけとも言えるんだし。まあ、一日部屋を半分占拠していたから、ご飯が食べづらかったくらいよー」

「……ごめんなさい」

 

 明らかに後悔している美遊。からかいすぎたかと、小さく微笑む。

 

「冗談よ、少しからかっただけだから」

 

 霊夢は目線のすぐ下辺りの美遊の頭を優しく撫でる。髪型が崩れないように、力を加えずに髪の流れに沿って。

 その温かな気遣いに、気が楽になる。美遊の表情に綻びが浮かんでくる。

 

「ま、悪いと思ってるんだったら、明日は早く起きて、一日ご飯を作ってもらいましょうか」

「! はい、是非作らせてください!!」

「お、おう。そんなに料理が好きなのね」

「……はい」

 

 懐かしむように、あの日々を思い浮かべる。兄と料理をしてきた日々。一生懸命追いつこうと、練習してきた。

 表情が綻ぶ。兄の願いが、胸の内からあの時の気持ちが溢れ出す。

 霊夢はただ、それを眺めていた。

 

「……それで霊夢様。カードの回収ですが、どこを探されるのですか? 協会が確認した観測情報は我々の手元にはありませんし、今から探すとしても、霊脈を用いなければ見つけることは困難を極めます。セカンドオーナーである凛様でなければ、その霊脈から探す方法は行えません」

 

 サファイアがふわふわと、霊夢の周りを飛ぶ。霊夢はただまっすぐ前を見つめている。

 

「勘よ」

「……カン?」

「勘よ」

「勘ですか」

「……カン」

「勘よ」

 

 サファイアの表情はとても胡乱げだ。表情筋どころか、顔すらないけれど。その六芒星が胡散臭いものを見るような表情になってる気がする。

 

「サファイア。霊夢さんの勘はすごい。相手の秘密から未来までを全て当てられるほどの的中率を誇るから」

「そうなのですか? ……マスター」

「普通の人の勘は疑うけれど、霊夢さんの勘は信じられるから」

 

 そこまでわかるわけじゃないんだけど。美遊のその過大評価を、少々重たく感じていた。美遊の秘密に迫る的を射た言葉と、美遊の気持ちを察していた実績が、美遊の中でどこまでもわかるのではないかと感じさせていた。むしろ美遊の思考には、霊夢は心が読める説も挙がっている。

 

「それに、カードは強力な力を持っているんでしょ。ならその魔力なり妖力なりは少しくらい感じ取れるはず」

「大丈夫ですか、その調子で?」

「まあ、前から気になってるのはあったし……」

 

 目を閉じて、意識を集中させる。静かにたたずむ霊夢を、美遊は後ろから眺めていた。

 

(……今がねらい目ですね)

 

 するとサファイアが、美遊の耳元へ近づく。

 

「美遊様。ああは言いましたが、霊夢様には気を付けた方がよろしいかと」

「……どうして、サファイア?」

 

 表情がこわばる。サファイアに純粋な疑問をぶつけた。

 

「あの方は飛行なさった時もそうでしたが、魔術の使用時に魔術回路を用いておりません。魔術回路を使わなければ魔術は行えないのに、あの方はそれを平然と行っていらっしゃる」

「だから?」

「少なくとも、魔術回路を用いる魔術師から見れば、異質だという話です。元々この国の魔術師は魔術回路を使わないという話もありますから、マスターの判断に任せます」

「……わかった。サファイア」

 

 美遊は少々棘のある声色で返した。どうして自分の胸がチリチリとするのかわからない。

 サファイアはそんな美遊の霊夢への信頼を感じ取りつつも、それを心配に思う。

 

『……魔術回路を用いずに奇跡を起こせるものとして、幻想種がいます。近づこうとすればすぐによけられてしまいましたから、DNA検査はできませんでしたが、おそらく人間。けれどそれ以前に───彼女が空を飛んだ時、微弱ながら力が発生していた。しかも、漏れ出たわけではなく、奇跡の余波として』

 

 サファイアは、疑いながらも確信していた。霊夢の力は本物であると。その直感もまた、真実であると。

 だからこそ警戒する、霊夢が我が主に害をなす人物であるか否かを見極めるために。

 

「……あっちね。飛んだ方が早いわね。行きましょうか」

「はい……」

 

 美遊の引け目に感じている気持ちを察する。サファイアの言葉は聞こえていた。きっとサファイアが警戒していることを気にしているのだろう。

 

「……自分が信じている、って思ったなら」

 

 顔を上げて霊夢を見やる。

 

「そのままでいいのよ。自分の感情は自分だけのものなの、もう忘れたの?」

 

 言われて思い出す。そうだ、自分の感情は自分だけのもの。なら、サファイアがどれだけ疑っていようとも、自分の気持ちに変わりはないのだから、変わらずに信じていれば良いのだ。

 明るくなった気持ちが、霊夢の眉尻を下げた優しい表情に向いた。

 




ここでは美遊は何等かの魔術的な事件の事を異変と呼ぶようになっている。ルヴィアとの関係性も含めて、こんな感じの事がままあることを理解してほしい。
何らかのタグをつけるべきだろうか?
あとこれもしやロリ霊夢タグ必要かな?

追記
20/10/29:感を勘に訂正。原作読み返したら普通に勘だった。コメント感謝。
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