朔月の巫女   作:Hiso=サダネ

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連続投稿三回目。寝ぼけ(ry

間に合った!!



第一節 第三話 水月鏡花の確信 ~color magus ───スネークストーン

「────!!」

 

 悲鳴のような慟哭が響く。

 

「…………っ!」

 

 霊夢は咄嗟に霊力を込めた針を数本投げつけた。その慟哭よりも早く、鋭く。

 しかしその鋭き迎撃は、十全に警戒されていたために回避されてしまう。

 

「────!!」

 

 言葉に成れない慟哭が響く。

 美遊はその針の先を目で追い、驚愕に目を見開いた。

 死に体のライダーが、そこに立っていたのである。

 

「ほえ!? なんかまだやる気なんですけど!!」

「へ……なっ、てっきりもうカードになってるものだと!!」

 

 遅れて全員がライダーに気づく。

 全身はボロボロ。どうにか動けるまでに回復してはいるが、もはや立っているのもやっとなのだろう。意識のない怪物となったライダーの足取りに意識は感じられない。

 何より、今もなお我が身を焦がす、喉の霊符が、煩わしかった。

 

「なっ……!?」

 

 誰の声であったかはわからない。

 だが、ライダーが自分の手を口に突っ込んだことに驚いたのは、同じ気持ちであった。

 

「……何か、妙に懐かしい気配だとは思っていたけれど……」

 

 引き抜かれる。その手には今もなお己が右手を焼く原因が握られている。霊符を投げ捨て、英霊の修正力をもってしても戻るかわからない喉を震わせる。

 

「今わかった。……あんた、あの守矢の祟り神に似てるんだ。もしかして妖怪落ちした蛇の神様か何か?」

「────────!!」

 

 意識のない怪物の慟哭から、確かな憎悪の意志が放たれた。

 地面を蹴る。今警戒すべき敵対者へ向かう。目の前の妖怪に向かう。

 交差する。鉄杭の短剣を突きつけ、懐に飛び込んで衝霊気(両手突き)を放つ。

 吹き飛ばされる、追撃する。

 ライダーは吹き飛ばされながらも、その脅威を睨みつけ、短剣を振るう。

 霊夢は浮いて追撃しようとするが、短剣に繋がった長い鎖が、とぐろを巻く蛇の如く襲い掛かり、回避するために後退する。

 距離は中距離。接近も射撃できる距離。ライダーにそのスキルはないが、どうにか仕切り直すことができた。

 

「くっ、イリヤ。迎撃よ! 今なら宝具を警戒せずに仕留められる!」

「……へ! あの中に入るの!!」

「大丈夫だから! 遠慮せず速攻よ!」

 

 霊力を練り上げる。宙に浮かぶ二つの双玉を創り上げる。霊夢の傍らに二つの陰陽玉オプションが備えられた。

 二人の魔術師は驚愕する。その膨大な力の存在感に。

 

「いいわ。ならとことん、その体が朽ちるまで相手してあげる」

 

 陰陽玉より御札が発射される。その軌道は二つ。直線と曲線を描き、婉曲した弾幕は確実にライダーを捉えている。

 

「!? 英霊に魔術は効かないわ、この子に任せて……」

 

 ライダーは多方向から飛揚する御札を回避する。直線の御札は避けたものの、曲線の御札はライダーを追う。

 

「「回避した……?」」

 

 霊夢の術がライダーに通用するのは、現状をしっかりと理解していないリンと途中からやってきたルヴィア以外の全員がわかっていた。

 回避し続けるライダーはあることに気づく。自身を追尾する御札が、直前まで自分がいた場所に放たれていることに。何故このような攻撃をしてくるのかはわからない。

 だが、ならば。その性質を利用して、回避しつつ攻めればよい、とライダーは感じる。

 

 

   〇●●●◎

 

 

 どうすればいい。美遊の思考が巡る。復活したライダーには驚かされたが、相応のダメージを負い、かつ宝具は封じられている。こちらが優勢であることには変わらない。

 

 

 

 ライダーはその高い素早さ───敏捷Aを持ってかく乱しつつ近づいていく。そして初撃としてその鉄杭を投げつけた。

 霊夢はその攻撃をぎりぎりまで引き付けて身を捻り回避する。カリカリという音がする気がして、懐かしい感覚を霊夢は覚えた。

 

「ちょっ! 今かすったよね!」

「グレイズは乙女の嗜み!!」

 

 

 

 だが、彼女には宝具に勝るとも劣らないスキルがある。あのバイザーの下に存在する目は、何らかの魔眼を持っているはず。魔眼については良く知らない。相手の目を見なければよいのか、そもそも見られてはいけないのか。前者であれば、あの人ならその勘で回避できる。だけど、後者であれば、自分にはその回避方法がわからない。

 今すぐにでも知らせるべきか……いや、違う。伝わった時点で使われてはダメ。なら、使われる前に倒す。

 

「サファイア」

「!? ……わかりました、美遊様」

 

 

 

 近接戦闘における得意な範囲内にまで霊夢を追い詰めると、拳を突き出しつつ、ライダーは投げつけた短剣を操作して後ろからその凶刃を振るう。しかし霊夢は頭部を狙っていた鉄杭を、少し頭を傾けるだけで回避し、前方の攻撃の起動を避けつつ、ライダーの懐へしゃがみつつ飛びあがった。

 

「神技「天覇風神脚」!!」

 

 霊力の籠った脚で、宙返りしつつライダーを蹴り上げる。それを三回、霊夢は()()()()()()放つ。三重のサマーソルトキックを受けたライダーの体は宙を舞うも、その怪力で持ってその短剣を地面に投げつけることで突き刺し、体を地面に引き寄せ、先の距離に戻る。接近戦が不利と判断したのだろう。

 

 

 

 魔力が杖の先に集まるのをイメージする。今放てる最大火力をぶつける。さっきは倒すことはできなかったけれど、今度こそ倒して見せる。倒さなければ、今闘っている霊夢が傷ついてしまうかもしれない。霊夢が魔眼に対応できないとは思えない。けれど同時に、自分だったら、躱せる気がしない。あそこにいるのが自分であれば、魔眼を受けても、他の人が何とかしてくれると思う。けれど、あそこにはあの人がいるのだ。

 ステッキに魔力が集まる。純粋な魔力の塊が、イメージによって収束する。

 ふと浮かんで来るのは、さっきの記憶。一撃で屠るつもりであったのに、耐えられてしまったこと。もし、倒せなかったら? むしろこれによって追い詰めてしまうことで、魔眼を解放させてしまったら?

 

「……美遊様?」

 

 それで、霊夢さんが、傷ついてしまったら……

 

 

 

 

 

 浮いたままの霊夢は懐から小さな紙を取り出して、そのカード名を宣言する。

 

 

「霊符「夢想封印 散」!」

 

 赤と白の御札に大量の色彩鮮やかなる霊弾が、扇状で広がり、ライダーに向かっていく。

 それは簡潔に弾幕ごっこを表現したスペル。ただ直球に、相手を簡潔的に倒すという意志の表れ。

 眼前に広がる面制圧。しかもそのどれもが自身に効果的であることを、ライダーは理解する。

 ライダーは低姿勢になって構えた。

 

「───、────────」

 

 ライダーはその敏捷性を振るって、躍るかのように攻めかかる。弾幕が迫っている都合上、範囲外に出れば確実に仕留められると考えて、まともに受けないようにその範囲内で回避していくしかないと踏む。

 そのアクロバティックな動きに霊夢は驚く。ただ一言「そう」と呟く。

 その敏捷性をもってしても、霊夢の弾幕を躱しきることはできない。四肢に霊弾が被弾して肉を焼き、腹部を御札が切り裂き、焼き焦がす。直線的に突撃したり、受けに回っていればより被弾していたが、それでもダメージは馬鹿にならない。

 近づけば体術で倒される。離れれば射撃される。中近接で戦う自分では相性が悪すぎる。

 ならば、いっそ動きを止めて確実に殺す。ライダーはそう確信した。

 

 

   ◎〇●●●

 

 

「───きれい」

 

 鮮やかな光。二色の御札。色が重なり、合わさり、宙に色彩を描く。

 隣にいるリンは言葉を無くして、その光景を眺めていた。自分には理解できない事を考えているのか、それとも見惚れているのかはわからないけれど、たぶん同じものを見ている。

 

「……美しい…………」

 

 後ろから青いドレスの人が言葉を漏らしているのが聞こえた。たぶん、あの女の子もそうなのだろう。

 ルビーは何も言わない。見惚れているんだと思う。だって、自分も同じだから。

 光が奔る。流れるように、彩るように、瞬くように。戦いの際にどんな意図であの色彩を表しているのかはわからないが、まるでファンタジーのようで───夢を見ていると思った。

 星が、暗い夜空を彩る。

 紅白の御札が、流星群になる。

 色彩の中心の巫女は、月だ。

 ……でも私は、何故か。

 

 ───あの色彩が、本当の星だったらなと、思った。

 

 

   ◎●〇●●

 

 

 霊夢さんだ。自分がそう確信したのは、紅白の色彩が流れるのを見た時だ。この色彩が何を表しているのかはわからない。印象派の芸術は自分にはわからない。

 けれど、この色彩には、あの人の気持ちを感じた。純粋で、素直な思い。その心が、この弾幕そのものに表れているんだ。

 

 ───やりたいと思ったんなら、やって見なさい───

 

 素直になれ、と言われた。自分の気持ちに従え、と。

 目を閉じる。

 ステッキはまだ構えている。だけど、本当の意味で、構え直す。

 杖の先に気持ちを込める。もうイメージはできている。だから、今足りないのは気持ちだ。

 

 ───自分の感情は自分だけの者なんだから───

 

 強い力が欲しい……違う、それは手段であって、目的ではない。

 ライダーを倒したい……何か違う、それは目的だけど、気持ちではない。

 

 ───本当にやる覚悟があるのなら、気持ちは答えてくれるもの───

 

 ああ、そうだ。

 

 私は───霊夢さんを、助けたい。

 

 

   ◎●●〇●

 

 

 跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。ライダーはダメージを負いながらも、着々と近づいていく。構える余裕が無いのか、回避に専念して突き進んでいく。

 飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。霊夢から放たれる弾幕は、僅か十数秒でその量を増していた。その表情に余念無く焦り無く、もう一枚のスペルカードを構える。

 15、12、9。どんどん距離が迫っていく。霊夢がライダーの得意距離に入る。

 ライダーは構えなかった。

 代わりに、そのバイザーに手がかけられた。

 

 

 

 ステッキの魔力が唸りを上げた。純粋な魔力の塊が、思いによって練達していく。

 思考する余裕はない。だが今ならいける、と確信した。

 目を開いた。……そして瞠目した。

 

 これから起きる日食の如く、標的ライダーに、霊夢が重なりかけていた。

 唇を開く。まずい、このままではあの人に中ってしまう!

 気持ちがぶれる、覚悟が揺らぐ、思考が蘇る。

 

 ああ、そんな。ステッキを握る手が、震えた。

 

 

 

 

 

 ───空を飛ぼうと思えば誰だって飛べるわ。飛べると思えば、どこまでも飛べる───

 

 

 あの月の美しさを、思い出した。

 ぶれさせない。もはや自分が砲になる錯覚。

 思考はない。だが、飛べると思えば飛べるなら、避けてと思うから避けて、と子供っぽく感じていた。

 飛べると思えば飛べるなら、

 避けてと思えば避けてくれるなら、

 この思いが、届いてと思うから、どうか届いて……!

 

 

 ───避けて!

 

 

 もはやそれは、願いであった。

 

 

 

 

 そして、

 

「神技…───」

 

 

 霊夢は右に避けた。

 

 

 

「───射出(シュート)!」

 

 一条の流星が、ライダーの霊格を貫いた。

 

 

 

「──、─ァ……」

 

 ライダーの身体が粒子となって宙に溶けていく。

 動き出す心臓。響きだす体動。回り始める思考。

 霊夢は降り立ち、茫然とした表情で美遊に振り向く。

 

 

 

 

 二人が見たのは、絹のような黒い髪の、赤い瞳の少女であった。

 

 

   ◎〇〇〇●

 

 

 宙に浮かぶカード。クラスはライダー。

 あの華麗にして苛烈なるクラスカード弾幕決闘は、美遊と霊夢の勝利であった。

 

「…………勝った?」

 

 イリヤはライダーが消失していくのを見て言った。現出したカードは淡い光に包まれて、ゆっくりと降下してくる。

 その小さな声は、事実を述べて淡々と鏡面世界の静かな夜空へと消えていく。

 イリヤは目の前で起きた出来事を頭の中で処理しきれない。

 カードを回収するだけだと思えば、英霊と言う強大な敵と戦わなければならない事。

 蒼い魔法少女が助太刀してくれたと思えば、紅白の巫女が強力な力で英霊を圧倒した事。

 かと思えば、英霊が復活して、その巫女と激闘を繰り広げた事。

 そして……あの弾幕。

 綺麗。ただその一言が頭の中で浮かんで来る。ファンタジーのようだと、夢の様だとも思ったけれど、周りに残っている荒れ果てた校庭を見れば、それがすぐに白昼夢でもなんでもないことがわかる。いや、今見ているものが夢ならば、もう夢か現かわからなかった。

 今にして思えば、自分の散弾や砲弾と比べると明らかに桁違い。散弾の一つ一つが自分の砲弾と同じかそれ以上かに見えたし、振り返れば巨大な球体や派手な格闘術など、多種多様な技を見せていた。

 

(…………ハッ、まさか!)

 

 少女は幻視した。

 

(あの人は…………魔法少女のエキスパート!!)

 

 マイフェイバリット、マジカルブシドー・ムサシの姿を。

 

(弾幕凄かったし空も飛んでたし! 巫女で御札ドパーだけど和風魔法少女と思えば違和感ないしあのインファイトはムサシもしてるし!)

 

 意外でもなし、ムサシはインファイトするのであった。むしろインファイトしかしないのであった。むしろムサシはサマソできるのか? いや、無限を破って零に至ればできそうではある。というか魔法少女の魔法とは一体? ん、○○キュア? ま●●ギ? そんなことより、僕と契約して、プリ●●●になってよ!

 ぐわん、と身体を捻り、美遊と霊夢に羨望のまなざしを送る。目がキラキラしてやがった。

 二人が見つめ合う。赤い瞳が、赤い瞳を見つめ合う。当人たちにしかわからないだろう何かが、その二人だけの神聖な空間で交わされている。

 

(こ……この雰囲気は! まるで先代魔法少女が主役魔法少女に教え諭すシーンだ! ブシドーササキが「力不足だ。お前には家族が待ってるはずだ……」、って言ってたヤツ!!)

 

 イリヤは完全にミーハーの野次馬根性を発していた。ガッツポーズまでしている。

 

「……あの魔術はもはや大魔術の域だったけれど魔術回路を開いていなかったように見えるしならまさか幻想種でもそれならわざわざ鏡面世界に穴をあける必要性はもし幻想種なら幻獣でも100年くらいの幻想種が英霊に勝てるとも……」

 

 リンは何やら小声で自問自答している。しかしイリヤには魔術の事などてんでわからぬ。イリヤには針金を操る魔術も、人形に魂を移す魔術なんかも使えぬド素人なのだから!

 

「……オーッホッホッホッホッホ!」

 

 突然、蒼い派手なドレスの女性、ルヴィアが派手な高笑いを上げた。全員がその声がした方向に振り向く。

 

「まずは一枚目。このルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが頂きましたわ!!」

 

 ルヴィアの手にはライダーのクラスカードが握られている。それを自慢げに、特にリンに見せつけていた。

 

「はあー! 何勝手に横取りしてん訳!? それはアタシのよ!」

「……倒したのはあの()()であって、別にあの人でもリンさんでもないんだけど……」

「相変わらず成果だけは搾取していきますね~。イリヤさんは、あんな大人になってはいけませんよ。あーんな肉だけ付いた猛獣なんかになっては、イリヤさんの魅力が半減してしまいますよ」

「そこ、うるさいですわよ!」

 

 ルヴィアがビシッと指をさす。

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした美遊と霊夢だったが、霊夢は針を構えながらけだるげに言う。

 

「……あー。とりま、懲らしめてさっさと持って帰っちゃいましょうか」

「アレッ、横暴!? 何かイメージと違う、むしろ自由人!!」

「イリヤさん、どんな想像してたんですか?」

「なんかものすごく使命感に溢れてて、覚悟決めすぎて未熟な後輩を突き放しちゃう系の真面目な人かと……」

「それ、どっちかと言うと妹さんの方が雰囲気合ってません?」

「確かに……」

「これは魔術協会からの指令……なら、あの人が持っている方が、都合が良いかと」

「ふーん……まあ、いいわ。私はこの英霊札異変を解決できるのなら、それでいいし」

 

 遠くではいつの間にかルヴィアとリンがプロレス技と八極拳をぶつけ合う異種格闘技戦が繰り広げられていた。二人とも急所をよく狙っているが、ルヴィアは特に延髄への攻撃を警戒していることに、イリヤは気づくわけもなかった。

 そんな二人を背景に霊夢と美遊が会話しているが、雰囲気は対照的である。

 

「……え、なに!?」

 

 世界が揺れ動く。空間の軋む音が響く。空にヒビが奔り、空気が捻じれるような重々しさを感じさせる。地面が割れていくことが、イリヤに地震を彷彿とさせた。

 

「あらー。原因であるカードを取り除いたことで、鏡面世界が閉じようとしていますね。早くしないと、崩壊に巻き込まれますよー」

「うわっ! 空にまでヒビが!」

 

 霊夢は物珍しそうな物を見るかのように、辺りを見回している。

 

「へぇ。世界が壊れる、ってこんな感じなのね。思ったよりすごくないわね」

「そうなんですか? 霊夢さん」

「結界が壊れる感覚と大差ないわね」

「マスター。それは恐らく霊夢様だけかと。結界とは魔力の網をはることでその地形と境界部に手を加えるものです」

「あー。似たようなこと、あいつもしてたわね。結界なんて自分とそれ以外がいれば簡単にできるものよ。その境界を意識すればいいだけだし」

「それは…………」

「どうしたの、サファイア?」

「いえ…………」

「ともかく脱出しますよー。ほらリンさん、ルヴィアさん! 反射路形成しますから。おーい、聞いてますか~」

 

 ルビーが大仰に……手足もないが、大手を振るように全身を揺らす。今だに喧嘩を続けているリンとルヴィア。仲が悪そうにしているが、ここまで熱中できるのなら仲が良いのでは? イリヤはどことなくそう思った。

 

「帰りましょうか、行くわよ」

「あれ。そこの素敵な巫女さん、どちらへ?」

「あそこからよ。戸締りはしないと大変なことになるし」

「施錠管理をしないと、貴重品および個人情報の漏出に繋がりかねません」

「家が壊れたら大変だもの」

「戸締りで家は壊れないのでは、霊夢様?」

「少なくとも。あそこの戸締りしとかないと、ここと元の世界同じ事になっちゃうし?」

 

 全員がギョッ、と霊夢に振り向く。なんか取っ組み合いながらも魔術師組も唖然としている。

 

「ここは鏡そのものの世界で、隣にはたくさんの世界があるでしょ。なら繋がったままだと、まあ隣の世界とで良くないことくらいは起きるでしょ」

「そんな魔術を気軽に使ってるんじゃないわよ!? それで神秘の漏洩でもしたらどうするわけ!」

「はあ? ……って。もうそろそろヤバイや。急ぎましょ」

「わかりました」

 

 そそくさと美遊と霊夢は裂け目に向かっていく。

 

「…………なっ、待ちなさい! サファイアを返して頂きますわよ、この泥棒猫!」

 

 美遊と霊夢に続いて、ルヴィアが裂け目に飛び込んで行く。それと同時にその裂け目は静かに閉じていった。

 

「……えーっ、と。半径2メートルで反射路形成! 境界回廊、一部反転します!」

 

 イリヤとリンもまた、この閉ざされた世界から去っていった。

 

 

   ☆☆☆☆☆

 

 

「…………」

「…………」

「…………なんというか。英霊よりも嵐みたいな方々でしたねえ?」

 

 どっちかというと、あの巫女さんがでは? イリヤはつねづねそう思った。

 ルヴィアを嵐のような人だったとすれば。美遊は嵐の前の静けさで、霊夢はそのまま嵐と嵐の影響そのものであった。

 派手な印象を残すルヴィア、イリヤと同じステッキの所有者の美遊。どちらも気になる人々だったが、イリヤは……おそらくリンやルビーも、霊夢の事が頭から離れないのだ。

 自分と同年代くらいには見えるけれど、もう雰囲気とかが年上のようで、自分より先輩の中学生くらいの人。イリヤの霊夢への印象はまさしくそれであった。

 なにより、今でもあの弾幕が、自分の中で瞬いていた。

 

「……とにかく、あの子のことはルヴィアからしっかり聞かないと。神秘の漏洩なんてしてたら、ただじゃ置かないんだから」

「あの……神秘の漏洩、って何ですか、リンさん?」

「あー、まあ。魔術師世界における禁忌みたいなものよ。原則のルール、これを破るものは魔術師ではない、ってこと」

「えーっと。法律とか……憲法みたいなものですか?」

「イリヤさん。憲法は方針みたいなもので、ルールではありませんよ」

「あ、そうなんだ」

「ルールであることと、破ったら犯罪者とされるということであれば、まあその理解で良いわ。神秘……魔術に関する事は一切誰かに漏らさないこと。いいこと、カードの事も、ルビーのことも、もちろん魔術の事も。誰かに話してはいけないわよ!!」

「は、はーい」

 

 眼前に指さされながらも、イリヤは答える。とにかく魔法少女と同じことをすればいいんだよね、と納得した。

 

「にしても……同じステッキを持ってる子かぁ……」

「普通であれば、ライバルキャラ登場だとかなんですけどねえ?」

「むしろ謎の魔法少女現るみたいな印象。敵か味方かライバルかもわかんないあやふやな感じ……」

「私からすれば。対抗馬どころか、第三勢力なんだけど……」

「結局あの人たちがどちら様なのかわかりませんからねえ? 魔術師である以上、自らの身の上を話すとは思えません。まあ、サファイアちゃんの新しいマスターであることですから、気になりますが……」

 

 むー

 

「どうしたんですか、イリヤさん?」

「いやー……何となくの勘なんだけど」

 

 イリヤは空を見上げながら、たそがれるように言う。

 

「あの妹さん、わたしと同じくらいの年だったよね」

「ですね。それが何か?」

 

 大きな雲が、夜空の光を隠す。

 

「パターンでいくと、これってさ……」

 

 風が流れ、雲より月が出でた。

 

 

 

 

「はーい、みんな! 今日は転校生を紹介します!」

「うんやっぱ、こうなるよね……」

(なるほど転校生展開ですか……なんともベタな展開ですねー。いわゆるアニメや漫画の“いつもの”ということですか……)

 イリヤの表情から「ベタだな~」という言葉が発せられる。口にせずとも、顔が言っていた。

 虎柄先生、藤村大河がざわつく児童たちに声をかける。

「こらー、静かにしなさい! さあ、美遊ちゃーん。入ってきてー!」

 

 

 

 

 

 ガラガラ、と扉が開く。

 夜空の様に艶やかな絹の黒い髪が靡く。後ろに髪を束ね、前髪を髪留めで止めた少女が、ゆっくりと教室の壇上に進む。綺麗な姿勢で歩むその様は清廉だ。

 黒い黒板に白いチョークで、彼女の名前が記される。

 黒髪の少女が黒の黒板と白い文字を背に前を向く。

 月のような琥珀の瞳を湛え。

 ───()()()()()、自分の名前を揚言する。

 

 

 

 

 

「───博麗(はくれい)美遊(みゆ)です」

 

 

 

 その瞳には、赤と白の星が瞬いていた。

 




ここには美遊・エーデルフェルトはいないけれど、博麗美遊はいる。それを理解してほしい。



最初はアニメ1話で一話分のつもりが、予想以上に話数を使ったため、一話につき2~3話くらい使うことに。
そしてアニメ1話分を書くのに3日はかかるから、少なくとも三日以上かけて数話分を書くことになる。
そんな感じの小説になることを了解してほしい。
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