「...ラインハルト、か?」
「そうだよ、スバル。 さっきぶりだね。 遅れてすまない」
驚愕するスバルに、ラインハルトは申し訳なさそうに薄く微笑む。
屋根を貫いて、おおよそ五メートル近い落下をしたにも関わらず、軽く足を踏み出す姿には一切の影響が感じられない。埃を払う一動作にすら洗練されたものを感じ、スバルは路地裏でのトンチンカンとの相対とは一味違う、彼の本質の一端に触れた。
「トウマ、僕が君を止めよう」
小さく、ラインハルトがそう呟く。
と、それを見た
「チッ、なンでここにいンだよ」
「アクセラレータこそ。 探し人は見つかったかい?」
「おかげさまで。 それより邪魔すンじゃねェよ」
一方通行の言葉にラインハルトは肩をすくめる。 やりとりを見るに、2人は知り合いなのだろうか_______。
「...って言い争ってる場合じゃねぇぞ! 早く当麻を止めないと...!」
スバルは、苦しそうに右腕を押さえる上条を見て歯噛みする。 自分に力さえあれば、今すぐにでも飛び出して行きたかった。
「異様な右腕だ。 周囲のマナが全部消し飛ばされている...やり辛いな」
ラインハルトが紅の髪をかき上げながら呟く。 対して、一方通行も独り言でも言うかのように口を開いた。
「あの右手には異能の類が全く通じねェ。 物理で攻めるしかねェのは確かだが...」
そこで一方通行は言葉を切る。
過去に、一方通行は上条 当麻と2回に渡って戦いを繰り広げており、例の右手の特徴は朧げながらに把握しているつもりだった。 が、今の上条は明らかに様子がおかしい。 そもそも、右手が切断されているのにあの能力は効果を発揮するのだろうか。
(デフォルトで設定してる反射は発動しなかった。 それが野郎の右手の能力のせいなのか、あるいは切断されて出てきたあの得体の知れない『なにか』のせいなのか...)
まだ判断はつかないが、どちらにせよ切断面から飛び出してきたエネルギーの塊が危険だということに変わりはない。
と、ラインハルトがスバルの方へ顔を向ける。
「仕方ない。 スバル、少し離れていて。 できればあの少女と老人を安全圏へ。 そのあとはあの方の側にいてくれると助かる」
「できればあんま手荒な真似は...」
「わかってるよ。 僕が必ずトウマを救い出す」
そう答えて、ラインハルトは上条の元へと足を踏み出した。 腰に下げた剣には手も触れず、無手のままの前進だ。
「ライン、ハルトか...?」
「さっきぶりだね、トウマ」
交わす言葉は少ない。 上条の視界はまだぼんやりとしていた。 そもそもかなりの失血で立っていることすら難しい。 しかし、気を失うわけにはいかなかった。 意識を飛ばせば、今度こそ取り返しのつかないことになるような気がする。
が、意識がある今でも右手を制御することは叶わない。 間合いに入ってきたラインハルトに対して、『なにか』が迫っていく。
対するラインハルトは完全な無防備。 防御に剣を抜くどころか、回避行動すら取ろうとしない。
「先に謝っておくよ、すまない」
その言葉と共に、とてつもない振動が盗品蔵を襲った。ラインハルトの踏み込みで床が破裂し、彼の蹴りが衝撃波と共に上条、いや、その先の『なにか』を襲う。
そして次の瞬間、
「な、何が起こったんじゃ!?」
ロム爺が驚きの声を上げる。 スバルとフェルトも、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「バケモンが...」
一方通行が忌々しげに呟く。 見るからに規格外のラインハルトを吹き飛ばした『なにか』はもちろん、対するラインハルトの蹴りも凄まじいものだ。 なんの変哲もない前蹴りに見えたが、その威力の余波だけで家屋を揺るがす風を生んだのだ。
「なるほど...。 どうやら、加護も彼の右手には通用しないようだ」
吹き飛ばされたラインハルトが易々と立ち上がる。 焦りの表情は見られない。 あくまでも今のは小手調べだということか。
対して、上条も立ち上がってくる。 酷い出血にも関わらず、未だに意識を手放していない。
(結局、本質は
「めちゃくちゃ手荒じゃねぇか!」
「すまない、トウマは思ったより遥かに強力な力を持っているようだ。 努力はするが、多少は手荒な真似も必要かもしれない」
慌てたスバルの声に、ラインハルトが申し訳なさそうに答える。 彼は盗品蔵を見渡すと、壁際に立てかけてあった古い両手剣の柄を足で蹴り上げて手に収めた。
「...少しだけ本気を出そう」
「おいおい待て待て! そんなことしたら当麻のやつ木っ端微塵になるだろ!?」
「スバル、僕を信じて欲しい。 さっきの攻撃でトウマの右手の力が大体掴めてきた。 それを少し上回る程度の力で叩けば彼に深刻なダメージは与えない筈だ」
「そんなことが...」
いくらラインハルトだとしても、不可能としか思えない。 まるでチェーンソーで卵の殻を潰さずに割るかの如き神業だ。
「アクセラレータ、少々時間が欲しい。 任せられるかい?」
「言われなくても俺がやる。 オマエは引っ込ンでろ」
一方通行が自分だけで十分だ、と言わんばかりに地面を蹴る。 そのまま凄まじい速さで上条に迫り、一気に後ろに回り込んだ。
(右手を気にする必要はねェ。 右腕以外の場所ならどこでもイイ。 触れさえすれば、あとは電気信号をかき乱すだけで意識を奪える!)
一方通行が上条の後頭部へと手を伸ばす。 ...だが。
「!?」
寸前のところで避けられる。 同時に、一方通行は『なにか』に吹っ飛ばされた。
(前兆の感知...!! 普通使えねェだろその出血じゃ!!)
壁に直撃する前にベクトルを操って体勢を整える一方通行。 そんな彼が見えているのかいないのか、上条が途切れ途切れに声を発する。
「だ、めだ! 俺が意識を手放しちまえばコイツが更に暴走しちまう!」
「面倒くせェな! どうすりゃ抑え込めンだよそのバケモン!!」
「アクセラレータ!」
「チッ」
その声を受け、一方通行が舌打ちをしつつラインハルトの前方から退避する。
ラインハルトは全員の無事を確認すると、再び両手剣を構えた。 いや、今までの構えとは何かが違う。
初めて、『剣聖』として剣を構えた。 何となくだが、スバルにはそのように思えた。 すさまじい剣気が室内を押し包む。
「_______ッ」
息を詰める叫び。 それが上条のものだったのか、ラインハルトのものだったのか、はたまたスバルのものだったのかは定かではない。 が、次の瞬間には、誰もがその結果を目撃することとなった。
極光が屋根を失った盗品蔵を引き裂き、空間ごと真っ二つに切り裂いた。 ラインハルトの目前へ迫っていた『なにか』も斬撃で二つに分裂、文字通り時空ごと切断される。
世界がずれたとしか思えない光景、放たれた極光は一瞬の間、室内を白く塗り潰していたが、光が晴れた直後に世界が激変する。
ずれた空間が元に戻ろうと収束を始め、大気が歪曲するほどの威力の余波が部屋の中を暴風となって荒れ狂う。 逆巻く風が盗品を、家財を、廃材を巻き込んで暴れ回り、その二次災害からスバルは必死で偽サテラを守り切る。 ロム爺も同じようにフェルトを庇っていた。
一方で、上条の右腕辺りから噴き出ていた『なにか』は完全に消滅しており、上条自身は地面に倒れ伏していた。 右腕以外に目立った外傷はなく、ラインハルトの規格外さが窺える。
「『剣聖』より『バケモン』の方が肩書きとしては似合ってンじゃねェか」
「そう言われると、さすがに僕も傷付くよ、アクセラレータ」
先程の余波を受けても涼しい顔で立っていた一方通行のそんな言葉に、ラインハルトは苦笑する。
「無理をさせてしまったね。 ゆっくり、おやすみ」
手に持っていた両手剣が崩壊していく。 その粗末な作りではラインハルトの一撃に耐えることができなかったのだ。
「終わったんだよな!? 当麻は!?」
ようやく余波が収まり、スバルが慌てて上条の方へと向かう。
「サ...じゃなくて、ハーフエルフの君! 治療魔法とか使えたりする?」
スバルの言葉に応じて、偽サテラも上条の元へと向かう。 芳しくなかった体調は元に戻ったようだ。
「任せて!」
意気込む偽サテラ。 だが...。
「無駄だぜ。 そいつの右腕は異能の類を拒絶すンだよ。 治療魔法とやらも恐らく例外じゃねェ」
「でも! この人、このままだと危ないの! 私を助けてくれたのに...」
偽サテラが悲壮な表情を見せる。 自分を庇ったせいで上条が危険な状態になってしまったことに相当な罪悪感を感じているのだろう。
と、その時だ。 スバルがあっ、と声を上げた。
「当麻の右手って、トカゲの尻尾とかと同じ類?」
愕然とした表情でスバルは顔を上げる。 彼の不審な発言に眉を顰めて、偽サテラと一方通行も上条の身体に目をやる。
「そんな...」
「オイオイ、幾らなンでもこれは、人の域を超えすぎじゃねェか?」
両者とも思わず目を見開く。
視線の先には、
ラインハルトは魔神とタイマンはっても勝てるくらいのチートだと勝手に思ってます()