第13話 『見知らぬ天井』
目を覚ますと、そこには見知らぬ天井が広がっていた。
「えーっと...」
上条は困惑する。 なにがどうしてこうなったのか、イマイチ記憶がない。右手をエルザに切断され、そこから『なにか』が飛び出してきたところまでは覚えているのだが...。
寝返りを打って、頭の下の感触が普段と違うことに気付く。 普段の寝床より何倍もふかふかだ。まるで高級ホテルのような寝心地である。
「とにかく、スバルの死は回避できたのか...?」
死に戻りが発動したのなら、スタートポイントはあのファンタジーな街の中だ。つまり、屋内で目を覚ましたということは死に戻りが発動しなかったということ_______。
「...でいいのか?」
自信はない。 とにかく、スバルの姿を確認しないことには完全に安堵はできなかった。
「とりあえず、一旦外に出るか...」
ベッドから起き上がり、大きく伸びをする。 そしてそのままドアの方へと向かい、上条は慎重にドアノブを回した。
部屋を出ると、目の前には長い廊下がどこまでも続いていた。 もしかしたらここは本当に高級ホテルなのではないか、と上条は場違いな感想を抱く。
「にしても、全然人いねぇ...」
こんな広い屋敷(?)でいきなりスバルに出会えるとまでは思わないが、ここまで誰もいないと正直不安な気持ちになる。
が、考えてばかりいても仕方がない。 とりあえず、上条は先の見えない廊下を左へと歩いていくことにした。
「しっかし、何とも殺風景な廊下だな...」
上条は小さくつぶやく。 絵などは飾られているが、すべて抽象画で面白味がない。 ずらずらと並ぶ似たような扉たちも相まって、散歩をする場所としては落第点の空間だ。
「あれ...?」
しばらく歩いているうちに、上条は決定的な違和感に気づく。
「この絵、さっきも見たような...」
抽象画であるため確信は持てないが、再び同じ絵が目に付いた気がする。同じ絵を2枚飾る馬鹿はいないだろうし、明らかに異常だ。
さらに異様に長い廊下も相まって、上条の頭の中に一つのある仮説が浮上した。
「この廊下、ループしてるのか...?」
こんな考えは普段なら馬鹿馬鹿しいと切り捨てるが、何せ上条がいるこの世界は剣と魔法のファンタジーワールド。何者かが何らかの魔法でこの廊下をループさせているとしても不思議ではない。まぁ、そんなことをする目的が不明ではあるが...。
「ええい、考えていても仕方がない。こうなったら手当たり次第にドアを開けるしか...」
上条は、とりあえず1番近くのドアに『右手』をかけた。
バキッッ!!
と何かが弾けるような音とともに、目の前の空間がぐにゃりと歪む。次の瞬間、永遠に続くように思えた廊下のループが終わった______つまり、突き当たりが見えたのである。
「...趣味の悪い悪戯だな」
幻想殺しが通じるということは、それすなわち異能の類だ。廊下をループさせる魔法などかける輩は絶対に性格が悪いなと上条は心の中で悪態をつく。
そこまで考えて、上条は何となくすぐそばにある扉に手をかけた。別に無限ループは終わったんだから部屋に戻って二度寝をかましても良かったが、そんなことができるほど気楽な状況ではなかった。現状を把握する必要がある。
「悪趣味な魔法をかけた誰かがいるなら、その誰かに聞くまでだ。...ついでに上条さんがお仕置きをしてやる」
私情半分で扉を開けると、そこには______。
「...ほんと、心の底から腹の立つ奴ばかりなのよ」
見覚えのない書庫の中、こちらを見つめる巻き毛の少女の恨み節を受けた。
そこはまさしく、『書庫』と呼ぶしかない部屋だった。
広いスペースは二十畳ワンルームの倍ほどもあり、壁際を始めとして至るところに書棚が設置されている。どの書棚にも本がみっちりと詰められていて、蔵書数はどれほどになるのか想像するのも難しい。
「どれも読めねぇ...」
無数の本の中に一冊くらいは読める本もあるかと思ったが、背表紙の文字を見て断念する。日本語の訳がなかった。当然異世界ファンタジー文字など日本人の上条に理解できるはずもなく。
「どいつもこいつも、人の書架を見てため息をつくなんてやっぱり喧嘩を売ってるとしか思えないのよ」
「そいつは悪かったな」
上条は、目の前の少女に改めて目をやった。
年齢はフェルトよりさらに幼く、おそらくは十一、二歳といったところ。豪奢でフリルを多用された藍色のドレスを着用し、その過剰装飾がやたらと似合う愛らしい顔立ちをしている。可憐、とその言葉が具現化したような容貌の少女だ。
「でも、魔法で人を惑わせて楽しむ趣味はどうかと思うぜ。おかげで上条さんはヘトヘトだよ」
「ベティーも、まさかその右手で全部ぶち壊されるとは思ってなかったのよ」
絶対にその右手で触れないでほしいのよ、と少女は苛立ちを隠さずに呟いた。
ともかく、ここで少女と押し問答をしていても埒が開かない。説教はひとまず置いといて、まずは現状の確認をせねば。
「で、ここは?」
「ベティーの寝室なのよ」
「こんな本いっぱいの場所でよく寝れるな。埃とか大丈夫か?」
「......」
少女は半眼でこちらを睨みつけるが上条はそれを無視。さきほども言ったが、ここで押し問答をしている時間はないのだ。
「オーケー、質問を変えるぞ。俺はここの住人じゃない____詰まるところ、客人ってことになるのかな。...ともかくだ。現時点で、俺以外にも客人はいるのか?」
上条が気になっているのは、スバルと偽サテラ...そして一方通行だ。あの後何があったのかは上条の知るところではないが、スバル達がこの屋敷にいる_______つまり上条たちと一緒にこの屋敷に招かれた可能性は高い。
そんな上条の質問に対して、目の前の少女は吐き捨てるように答えた。
「失礼な白髪赤眼が1人。もっと失礼な人相の悪い男が1人。...以上なのよ」
それを聞いて上条は安堵した。白髪赤眼は一方通行、そして人相の悪い男というのはスバルのことだろう。ひとまず、2人とも無事という訳だ。あとは偽サテラの所在が気になるが...。
「その忌々しい右手のせいで仕返しもままならないのよ。腹に立つ順で言えば3人の中でお前が1番かしら」
「心外だ!」
やいのやいのと騒いでいると、突然書庫の扉が開け放たれた。
「当麻! 目を覚ましたみたいだな!」
驚いて振り返ると、そこには見覚えのあるジャージ姿の男がキメ顔で立っていた。
「スバル!!」
「おう俺だぜ。右腕が吹き飛んだ当麻も元気そうで何よりだ!」
名前に余計な枕詞が付いているのはさておき(事実なのが難しいところだ)、スバルも元気そうだ。この様子だと、偽サテラもきっと無事だったのだろう。その旨を問うとスバルは親指を立てて、
「おうよ! エミリアたんは俺がきっちり助けておいたぜ!」
ととても良い笑顔で言った。
「エミリア...?」
聞き覚えのない名前に一瞬戸惑い、すぐにそれが偽サテラの本当の名前だということに気付く。どうやらスバルに先を越されてしまったようだ。
上条の口元が若干緩む。一方のスバルはそれに全く気付くことはなく、上条の後ろを指差し、
「当麻、この性格の悪いドリルロリからは離れた方がいいぜ」
あからさまに嫌そうな顔をして言った。
「まだマナ徴収され足りなかったかしら?」
「ごめんなさい」
なんでコイツはすぐ扉を当てるのよ、とぷんすか怒る少女。スバルの反応を見る限りでは、恐らくこの少女に何か痛い目に合わされたようだが...。
(ま、ピンピンしてるし目くじらを立てることでもなさそうだな)
「この子が性格悪いのは知ってるけど、それよりスバルはなんでここに?」
「サラッと言われるのが逆にムカつくのよ!!」
怒る少女を無視してスバルは質問に答える。
「あ〜そうだった、お前ら、朝食の時間だぜ。エミリアたんに双子のメイドにロズワール、そしてアクセラレータさんがお待ちかねだ」
頻度についてはマジで気まぐれです。