スバルに書庫から連れ出され、ベティーと自称していた少女とも一緒に何やらどでかい食卓へとやって来た。
ここで席あってるのかな、と思いつつ、上条は適当な椅子に腰掛ける。スバルの隣だ。
「上座に座ろうと思ったがやめといたぜ」
「スバルの冗談はたまにとんでもないよな」
軽口を叩き、改めて周囲を見渡す。一緒に来た少女の他に、席に座っている人物がもう1人。そいつは真っ白な髪に血のような赤い瞳をしていて...。
「
上条の呟きを聞いているのかいないのか、一方通行は気だるげに首を振った。どうやら、会話に花を咲かす気はないようだ。
「どいつもこいつも、おかしな奴ばかりなのよ」
憐れむような顔で言って、書庫の少女は椅子に体重を預けてため息をつく。そのまま卓上にあるグラスを持つと、琥珀色の液体をすっと喉に通した。形状的にワイングラスに近い食器だ。まさか中身は酒じゃあるまいか。
上条の視線に気付いたのか、少女は意味ありげな笑みを浮かべた。
「何よ、飲みたいのかしら?」
「いや、未成年飲酒はまだ慣れてないから...」
「つってもロム爺んとこの酒よりは飲みやすそうだな。ワインっぽいし」
「からかいがいがなくてムカつくのよ」
不満げな少女は今度はスバルに視線を向けた。
「それよりお前、ベティーに感謝の言葉はないかしら?」
「感謝って? 貴重な三次ロリの罵倒、ありがとうございますって? 別に俺の業界じゃそれご褒美じゃないし。誰でもいいわけじゃないんだよ!」
「どうしてお前が怒るのかしら! 怒りたいのはベティーなのよ! 誰が死にかけのお前のことを助けてやったと...」
尻すぼみになる少女の声に、スバルが「はぁ?」と疑問を返す。しかし、少女がそれに明確な答えを出す前に食堂の戸が開かれ、
「失礼いたしますわ、お客様。食事の配膳をいたします」
「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳を済ませるわ」
台車を押し、食堂に入ってきたのは見覚えのないメイド服姿の二人組だった。二人は容姿が瓜二つで、髪色こそ違うが(片方は青色で、もう片方は桃色)どうやら双子のようだ。先ほどスバルの言っていた双子のメイドとはこの二人組のことだろう。
青髪がサラダやパンといった、オーソドックスな朝食メニューの載った台車を押し、桃髪が皿やフォークなど食器の乗った台車を押している。二人はテーブルを挟んで左右に別れると、テキパキとそれらの配膳を開始。
「久しぶりにこんなちゃんとした朝飯食べるなぁ...。こちとらインデックスさんの食費のせいで毎朝もやしオンリーまであり得るのに...」
「お前たまにめちゃくちゃ悲壮感出すけど大丈夫?」
豪華な朝飯を前にして思わず遠い目をする上条。そんな彼をよそに、メイド達は驚くべき速さで配膳をしていく。
「つーかロズワールとエミリアたんまだ? 待ちくたびれたんだけど」
スバルがナイフとフォークを構えて不平を漏らす。
「雅さに欠けるのよ。もっと優雅に典雅に待てないのかしら」
「いや、食事はどんな時も全力でだ。なぜならいつ満足に食べれなくなるかわからないから」
「理由はちょっとよくわからないけど前半部分には同意するぜ!! はいメーシ! メーシ!!」
スバルの催促が無遠慮になってきたところで、食卓の入り口のところに人影が見えた。その人物は______。
「あはぁ、元気なもんだねぇ。いーぃことだよ、いーぃこと」
「...どなた?」
背の高い人物だ。身長はラインハルトを上回り、百八十センチの半ばほどまで届くだろう。肉体は力仕事とは無縁そうな細身であり、しなやかというよりは純粋に痩せぎすといった印象が強い。瞳の色は左右が黄色と青のオッドアイであり、病人のように青白い肌と合わせて儚げな親和性を保っている。一般的な感性であれば十分に美形、そう断じていい容姿の持ち主だ。
やたらカラフルででかい襟の服を着たその男は、上条に気がつくと眉を上げた。
「おやぁ、目が覚めたみたいで何よりだよぉ」
「コイツはロズワール。変態だ」
「手厳しいねぇ」
ロズワールと呼ばれた男は、スバルの辛辣な言葉も気にしていないかのように薄く笑う。上条はその笑みに何となく胡散臭いものを感じた。
と、ここで上条はロズワールの後ろにもう一つ影があることに気付く。それは、彼も見知った顔で_____。
「トウマ! 元気そうで良かった!」
「アンタは_____」
透き通るような銀髪に、端正ながらも幼さの残る顔立ち。街で見たローブ姿ではないが、その顔は見間違えるはずもなかった。偽サテラ____否、エミリアは無事だったのだ。
「あ、私は____」
「エミリア、だろ? 悪かった。危険な目に合わせて」
「そんな、お礼を言うのは私の方で! むしろトウマにはすごーく助けてもらったから!!」
「ともかく、良かった。これでもうあんな名前名乗る必要もないだろ?」
「あ____」
エミリアが目を見開く。
二人の間に、しばらくの間沈黙が流れた。
「ちょ、当麻。なにイケメンムーブかましてんの? エミリアたんに色目使ったら消されるから!お付きの猫に!」
長い沈黙を破ったのはスバルだ。彼は慌てながら上条に詰め寄る。
そんなスバルに呼応したのか、エミリアの髪の毛からこれまた見知った顔が飛び出した。それは、猫の姿をしていて_____。
「君には僕からもお礼を言いたいね。リアを助けてくれてありがとう」
「パック!」
姿を現したのは、精霊のパックだ。一周目で謝って上条が消してしまった存在だが、今はもちろん健在だ。彼にはエルザ戦でも非常に助けられた。
こちらこそ、とお礼を返そうとした上条だったが、それは書庫の少女に遮られた。
「にーちゃ!」
弾むように席を立ち、ぱたぱたと長いスカートを揺らしながら少女が走る。その表情には花の咲いたような笑みが浮かび、これまでの少女の生意気な評価を忘れさせるほどの愛嬌が満ちていた。
ようやっと見た目相応の振舞いをする少女、その小走りに反応したのは銀の髪の中に埋まる灰色の猫だ。顔を出した彼は表情をゆるめて、
「や。ベティー、二日ぶり。ちゃんと元気にお淑やかにしてた?」
「にーちゃに会えるのを心待ちにしてたのよ。今日はどこにも行く予定はないのかしら?」
「うん、大丈夫だよ。今日は久しぶりにゆっくりしようか」
「わーいなのよ!」
あまりにも今までと異なる彼女に唖然とする上条とスバル。そんな二人にエミリアが苦笑を浮かべながら近づいた。
「ビックリしたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」
「ビックリっていうか、なんだよあのロリの態度。猫の前で猫被ってるとか狙いすぎじゃねぇ?」
「座布団2枚」
「ごめん。ちょっとなに言ってるのかわかんない」
感心する上条とは反対にエミリアは困惑した表情を見せる。やはり向こうのことわざや特殊な単語はこちらの世界には通じないのだろうか。
その後しばらくして、食事の配膳が完了した。全員が席についたのを確認してロズワールが口を開く。
「では、食事にしよう。_____木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」
手を組み、目をつむってロズワールは何事か呟き始める。それにならうエミリアと双子。席に戻ったベアトリスは目をつむっているだけだが、それが食前の祈りだと気付くと慌てて上条とスバルも所作を真似る。
キリスト的な祈りは世界移動しても共通なんだな、とどうでもいいことを考えていると、祈りを終えたロズワールが話しかけてきた。
「それじゃ、お客人たち。いただいてみたまえ。こう見えて、レムの料理はちょっとしたものだよ?」
そう勧められ、上条とスバルも食事に加わる。メニューはおそらくサラダと、パンのような食材にハム的なものの乗ったトースト風の感じ。かなり曖昧な表現だが、一般的な洋食での朝食メニューといった風情に思える。
「む……普通以上にうめぇ」
「う、美味い...!!」
「姉様、姉様。ツンツン頭のお客様が何故か泣いていますわ」
「レム、レム。賞賛の仕方もここまで来ると気持ち悪いわ」
第三次世界大戦以前からひもじい食事が続いていた上条の目に涙が浮かび、それを見た一同はちょっと引き気味。
「いや、マジで美味いなこれ。この料理は青髪の……えーと、レムちゃんでいいのか。が作ったの?」
気まずい空気を払拭しようとスバルが話題を変えた。
「ええ、その通りですわ、お客様。当家の食卓は基本、レムが預かっております。姉様はあまり得意ではありませんから」
「ははーん、双子で得意スキルが違うパターンだ。じゃ、桃髪は料理苦手で掃除系が得意な感じ?」
「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としていますわ」
「じゃ、レムりんは料理系得意で掃除・洗濯は苦手か」
「いえ、レムは基本的に家事全般が得意です。掃除・洗濯も得意ですわ。姉様より」
「桃髪の存在意義が消えたな!?」
「姉より妹の方が優秀、だと...!?」
それぞれ違うポイントで驚愕する上条とスバル。そのやり取りを見ながらロズワールは小さく笑い、
「いーぃね、君たち。ラムとレムの二人は個性が強いから、初対面のお客さんにぃはなにかぁと敬遠されがちなんだけどねぇ」
「あん? このくらい全然普通だろ? 俺の知り合いに比べりゃ一般人一般人」
「こぉれは驚いたねぇ。レムとラムを一般人呼ばわりとはぁ恐れ入るよ」
そもそも家事ができる時点で感動だ、と上条は内心で双子を称賛する。思えば、上条の周りは家事のできない奴らばかりだった。
「オイ」
と、その時だ。突如として、底の冷えた声が場を震わせた。
「いつまで仲良しこよしやってるつもりだ? 本題に入ろォぜ」
声の主は一方通行だ。彼は相変わらず冷たい声で続ける。
「ロズワールにエミリア。オマエら、何者だ」
一方通行の問いかけにロズワールはしばし沈黙し、手をテーブルの上で組む。その表情には笑みが張り付いているが、こちらを見る瞳の感情は明らかに雰囲気が変わった。
なんか不味いことを聞いたのではないか、と上条は不安を感じつつ、デザートのリンガをしゃくりと齧ったのであった。