Re:とあるヒーロー達の異世界生活   作:ちるみる

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第16話 『初日』

 _____長引いてしまった朝食の場が片付くと、自然と各々が自分の時間になだれ込んでいくのが常であると思う。が、

 

「とぉりあえず、エミリア様はいつも通りのスケジュールでお願いします。ラムには彼ら_____スバルたちに屋敷の案内を。レムは普段通りに...とその前に」

 

きびきびと指示を出すロズワールの姿は、さすがに屋敷の主の貫録に満ち溢れていた。襟のでかさでその雄大さも霞みがちだが、そんな上条の内心を見透かしたように彼はにんまり笑い、

 

「そぉの前に、自己紹介しなきゃだぁね。幸運にも、屋敷の居住者は全員がこの場にいるわけだから」

 

「そりゃ助かる。間抜けなことに遅くまでぐっすりだったからな。そこの女の子...確かベアトリスだったか?くらいしかまともに会話してないんだ」

 

「君は仕方ないんじゃぁないかな? 右手が吹き飛んだと聞いてるけぇど、それが本当なら今立ってられるのがおかしいくらいだぁもの。...いぃや、もっとおかしいのは右腕が生えてきたことだぁね」

 

ロズワールが苦笑するが、上条にはイマイチ実感がない。何なら右腕を吹き飛ばされるのも初めてではないので、右腕がいつの間にか復活していることにもそろそろ違和感を覚えなくなってきた。

 

「当麻のそれも気になるんだけどさぁ、屋敷の居住者これで全員って少なすぎねぇ!? この屋敷の広さに対してメイド二人ってブラックすぎるだろ!!」

 

スバルが突っ込む。確かに、上条たちを除けばこの場には五人と一匹しかいない。その頭数はこの館の広さに明らかに見合っていないだろう。スッカスカである。

 

「...いちいちうるさいニンゲンなのよ。ロズワール、ベティーは戻っていいかしら? にーちゃとゆっくりしたいのよ」

 

疲れた態度で目頭を揉み、少女らしくない仕草でベアトリスはロズワールに向き直る。

 

「相性があんまぁりよくないのはわぁかるんだけどね。これから仲良く一緒にやってこうって関係なんだから、もう少し歩み寄ってよ、お願い」

 

「ベティーにできる譲歩はし尽くしたつもりなのよ。それ以上を求めるなら、メイザース家の当主といえど覚悟することかしら」

 

「待て待て。仲良くやろうって話なのにお前らが喧嘩してどうすんだ。一旦落ち着けよ」

 

「ベティーは今、機嫌が良くないのよ。口の利き方に気をつけるかしら、ニンゲン。その気になったらお前なんて、石にして砕いてやっても...」

 

ベアトリスは威圧感を放ちつつ上条の言葉に答えるが、なぜかその途中で押し黙ってしまった。

 

「ま、君の右手のせいだね。それは精霊にとって天敵だ。もちろん僕にとってもね」

 

ラスクのようなものを食べていたパックが会話に割り込んだ。ベアトリスはパックによく懐いていたし、この二人(?)には何かしら深い関係があるのだろう。

 

「精霊、ねぇ。人間じゃないなとは思っていたんだが...」

 

「ベティーはロズワールのお屋敷にある禁書庫の司書さんなんだ」

 

「禁書庫?」

 

「ロズワールは“それなり”の魔術師だからね。メイザース家は歴史もあるし、色々と人目に触れるのが好ましくない本とかも置いてあるんだよ。ベティーはそういう本が人目に触れないように、契約によって禁書庫の番をしているってこと」

 

パックの解説で何となく理解できた。彼の言う禁書庫というのは恐らく...。

 

「さっきまでいたあの部屋だな」

 

悪趣味な悪戯を経てたどり着いた空間。あの空間は書庫と呼ぶに相応しい、おびただしい数の本があった。まぁ、そのどれもが上条には読めないものだったが、今の話を聞いた後だとむしろ読めなくて良かったと感じる。

 

「ちょっと待って、トウマ。禁書庫に入ったの?」

 

「ん。あぁ、不味かったか?」

 

「ちなみに俺も入ったぜ、エミリアたん」

 

エミリアは視線をベアトリスに向けた。

 

「ベアトリス...まさかスバルたちを書庫に招き入れたの?」

 

「それこそまさか、なのよ。ベティーがこんな卑しい奴らをわざわざ呼び込む理由がないかしら。...勝手に、『扉渡り』の正解を引きやがったのよ。そこのツンツン頭に至っては右手で『扉渡り』を破壊してきたかしら」

 

「被害者ぶンなよ。つまンねェ悪戯仕掛けてきたのはオマエだろォが」

 

「アクセラレータも入ったの!?」

 

エミリアは驚いている。今日初めてこの館に来た三人が、結果的に全員禁書庫に入ってしまっているのだから無理もないだろう。

 

「うんざりなのよ。あとは勝手にやっているかしら」

 

とうとう堪忍袋の尾が切れたのかベアトリスが席を立った。彼女はそのままつかつかと食堂の扉へ向かい、乱暴にそれを押し開ける。

 

「あん?」

 

思わず疑問の声が出たのも仕方がない。

なぜなら、屋敷の中央へ通じる廊下と繋がっていたはずの扉の向こう____そこに、上条が一度入った書庫が広がっていたからだ。

 

これ以上は無理、とばかりに詰め込まれた書架の森、その部屋の中に足を踏み入れたベアトリスは、どこか勝ち誇るような顔を上条たちに向け、

 

「これが『扉渡り』なのよ。その高尚さを目に焼き付けて、せいぜい震えるがいいかしら。_____しばらく、お前たちの顔なんて見たくもないのよ」

 

捨て台詞とともにドアが思い切り閉められる。一瞬静寂に包まれる食堂だったが、それを破ったのはスバルだ。

 

「なるほど。つまり、屋敷の扉のどことでも、自室に繋げられる魔法ってわけだ。ひきこもり御用達だな」

 

「理解がぁ早いね。して、ところでトウマくん。その扉、ちょぉっと開けてみてくれないかい?」

 

私も実際に見てみたいなぁ、とよくわからないことを言うロズワール。頭にハテナマークを浮かべる上条だったが、とりあえず言われた通りに食堂の扉に『右手』をかけた。

 

「あ...」

 

扉を開くと、そこにはそろそろ見慣れてきた禁書庫が。その中央に座りながらぷるぷると震える少女の姿もあった。

 

「...言い忘れていたことがあったのよ...」

 

ベアトリスは額に青筋を浮かべて、

 

「今後一才、屋敷の扉は()()で開けるかしら!!!」

 

大声で叫んで再び扉を閉めた。

 

その後、周囲が唖然とする中でただ一人、ロズワールだけが堪え切れずに吹き出したことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、すごいねぇ君の右手は」

 

「昨日はその右手にだいぶ困らせたぜ、マジに」

 

「その件に関しては本当に申し訳ございませんでした」

 

軽口を叩き合いつつ、上条は今が自己紹介の途中だったことを思い出す。現状、自己紹介が終わったのはベアトリスだけだ(彼女がちゃんとした自己紹介をしたかどうかは怪しいところだが)。

 

ちなみにパックはいつの間にか姿を消していた。恐らくベアトリスのところだろう。少女はパックによく懐いていたみたいだし。

 

そこまで考えたところで、上条は言った。

 

「俺は上条 当麻。人呼んで不幸の避雷針だ」

 

「俺はナツキ・スバル! 天下不滅の無一文!!」

 

「...一方通行(アクセラレータ)

 

上条の自己紹介に便乗してスバル、一方通行と続く。何とも不安になる上条とスバル、そして一方通行の自己紹介を聞いた一同は微妙な表情をしている。

 

「...卑屈な自己紹介だぁね」

 

「アクセラレータに関しては名前以外の情報がないし。もっと自分をアピールした方がいいわよ」

 

「...興味ねェな」

 

そっぽを向く一方通行。どうでもいいから早く終わらせろ、といった感じだ。

 

そんな一方通行の心情を理解したのか、ロズワールが双子のメイドに続きを促した。

 

「レムです。この館のメイドをしています」

 

「ラムよ。この館のメイドをしているわ」

 

何とも簡潔な自己紹介だった。何なら一方通行のそれと大して変わらない。メイドであることは服装を見れば一目瞭然だし。

 

と、自己紹介がひと段落したところでロズワールが手を叩いた。

 

「ほぉら、そぉろそろ水の刻も半分が過ぎてしまう。時間は有限だよ、テキパキといこうじゃぁないか。____ラムとレムはさっき言った通りに。エミリア様は私の部屋に一度寄ってください。それじゃ、解散」

 

ロズワールのその言葉を最後に、完全に朝食の団欒は終了だ。

 

レムが食卓に並ぶ食器類を手早く片付け始め、エミリアが今後のスケジュールを思ってか物憂げに吐息。ロズワールはそれこそ弾むようなステップでスバルたちに歩み寄ると、

 

「それじゃぁ、君たちの仕事ぶりに期待させてもらうよ。もちろん、雇ったからにはお給金も出すし、そこの心配はしなぁいようにね。あとアクセラレータくんにもちゃあんと部屋を提供するから。あとでラムに案内させるよ」

 

黄色の方の目をウィンクさせて、ロズワールは軽く手を振ると食堂を退室。その直前にラムに軽く目配せし、それを受けた桃髪の少女は頬を赤らめると無言の指示を与えられたように何度も頷く。

 

表情と語調の変化に乏しい双子なのだが、ロズワールと接するときだけはその淡々とした姿勢が崩れる。忠犬、といった単語が上条の頭をかすめた。

 

「それじゃバルスたち」

 

「おい! それ目潰しの魔法になっちゃってるから!」

 

「そのネタ、恐らくこっちの世界の住人には通じないな」

 

スバルの突っ込みを完全無視するラム。彼女は一方通行に視線を向けた。

 

「あら、そういえば食客扱いのあなたには敬語使うべきかしら」

 

「いや、構わねェ。好きにしろ」

 

「そう。じゃあバルス、トウマ、アクセラレータ。まずはあなたたちに屋敷の案内をするわ。ちゃんとついてくるのよ。...それではエミリア様、また後ほど」

 

スカートの端を摘まんでお辞儀、それから扉へ向かうラムの背中に上条たちは続く。最後にエミリアが言った。

 

「これは私もだけど...スバルたち、頑張ってね...」

 

「なにそれ超嬉しい、やる気モリモリ出たわ、女神か」

 

「お互い頑張ろうぜ」

 

「俺は頑張らねェけどな」

 

少ない言葉を交わし、上条たちは食堂を退出した。

 

「まずは...そうね」

 

その後はわざわざ説明するまでもないだろう。屋敷の案内に始まり、上条たちに割り当てられた部屋の案内。そして上条とスバルにはこの屋敷で働くための制服が支給された。

 

ともかく、こうして屋敷での生活が始まったのだが。

 

...それが激動の一週間になることを上条たちは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




説明パートも終わりです。
そろそろ話が進むと思います。
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