「ところで...お前ら」
ラムの言いつけ通り、その後スバルの部屋に集まった転生者三人組。
部屋に集まってからしばらくして。スバルは未だに魔法の才能0のショックを引きずっている上条と、非常に面倒臭そうな表情をしている
「ぶっちゃけ、屋敷の女性陣で誰が一番好みよ?」
真剣な表情のスバルの口から漏れ出たのは、至極くだらない話題だった。
予想通り、と言うべきか。一方通行が呆れた表情でため息をつく。
「くだらねェ」
「お前口を開けばそればっかりなのずるくね!? いいじゃんかよ〜俺ってばこういう恋バナに憧れてたんだよ!」
言ってしまえば修学旅行のノリみたいなものか。恋愛経験0の上条的には少しキツい話題ではあるが、スバルが可哀想なので乗っかってやる。...なお一方通行はてこでも口を開く気はない模様。
「俺のタイプは寮の管理人のお姉さん(代理でも可)だ!! ...というわけで屋敷の女性陣の中に好みのタイプはいませんね、はい」
「すっげー異世界にそぐわないかつ具体的なタイプきた!? なんだ、つまり年上がタイプってこと?」
レムとラムは同い年、もしくは年下か。そうなると消去法的にエミリア(実年齢不祥)が上条のタイプということになるだろうか? ベアトリスは...まぁ、うん。
「誤解を招かないように言っておくと俺のタイプがいないってだけで全員魅力的な女性だと思いますよ!」
「誰への言い訳?」
上条の謎言い訳を軽くスルーするスバル。彼はそのまま一方通行に視線を向ける。...やはり諦め切れないらしい。
「アクセラレータ〜教えてくれてもいいじゃんか〜」
「.....」
「わかった、わかりました。もう聞かないからその殺意に満ちた瞳で見るのやめて。...当麻はなんか知らないの? アクセラレータの女性遍歴」
スバルに話を振られ、上条は考える。そもそも一方通行との面識自体あまりないので難しいところだが...。ロシアで見た時のことをもとに考えると、
「なんかちっちゃい子連れてたな」
「え? まさかのそっち趣味? そうなるともしかしなくてもアクセラレータの好みのタイプはベアト_______」
「殺されてェよォだな」
「誠に申し訳ありませんでした」
「騒がしいわ、バルス。もう夜なんだから、静かにしなさい」
一方通行に半ば本気の殺意を向けられてスバルがガチ謝罪していると、ラムがノックもせずに扉を開けて部屋に入ってきた。それどころか彼女は中に入ってから戸をノックする。
「謎ルールすぎない?」
上条の呟きにラムがハッ、と小さく鼻を鳴らす。彼女はそのまま寝台_____ではなく、その手前にある小さな木の机に向かった。
「いやぁ、別に期待とかしてなかったけどね」
「三人がかりでラムを襲おうとするなんてケダモノだわ、怖い怖い」
「そこまで言ってねぇよ!?」
スバルの発言で何故か冤罪の巻き込みを喰らう上条と一方通行だった。
「ほら、早くこっちきなさい」
犬でも躾けるようなぞんざいな言い方に、スバルの額に青筋が浮かんでいるのが見える。が、ここで相手のペースに巻き込まれても損をするだけ。上条は寛大な心でラムの発言を許容することにした。
「そこのケダモノツンツン頭も。早く」
「なんだとぅ!!」
前言撤回。海より広い上条の心もここらが我慢の限界だ。
...とはいえ、先ほどラムを押し倒してしまったのは上条のミスだ。彼女がそれを根に持っているのだとしたら上条は素直に従うほかない。
上条が渋々とラムのもとへ向かうのと同時に、スバルが疑問の声をあげた。
「それで? 今度はどんな無茶を持ってきてくれたんだ」
「なにを言っているの? 文字の読み書きを教えてあげるから、早く座りなさいって言ってるでしょう」
「「初耳だ!?」」
すらすらと初耳学を述べるラムに驚く上条とスバル。ラム自らこのような提案をするとは一体どういうことなのか。
スバルがその旨を問う前に、今まで黙って聞いていた一方通行が会話の流れを遮った。
「じゃァ、俺には必要ねェな。帰らせてもらうぜ」
「え...?」
一方通行の発言を受けて、前回の『文字を解読した』発言はやはり本当だったのかと改めて驚く上条。一方で、その発言を聞いていなかったスバルは目を白黒させている。
「へぇ。バルスとトウマが読み書きできないってことはあなたも同じかと思ったけれど」
「コイツらと一緒にすンじゃねェよ」
「それどういう意味か聞いてもいいかな!?」
大声を出すスバルを無視し、当ての外れたラムはしばらく考え込む。その後、名案を思いついたかのようにポン、と手を叩いた。
「アクセラレータにも手伝わせましょう」
「はァ!?」
「ラム一人でバルスとトウマの面倒見るのは現実的じゃないもの。レムはレムで忙しいし。読み書きのできるアクセラレータを利用しない手はないわ」
フフン、とドヤ顔のラム。本音をまったく隠さないのはもはや彼女の良いところだと言ってもいいかもしれない。『利用』とか言っちゃってるし。
対照的に非常にうんざりした表情を見せるのが一方通行だ。...が、意外にも彼はこう言った。
「...チッ。面倒臭ェが、オマエらが読み書きを覚えた方がいろいろと効率がイイのは確かだ。仕方ねェ」
「あの〜話がトントン拍子に進んじゃってるとこ悪いんだけど、どっちがどっちの担当?」
スバルがそろそろと手を挙げる。ラムと一方通行。教育者としてどちらが優秀か、と言われれば非常に微妙なところだ。というかどちらもSっ気が強すぎる気がする。
「より馬鹿じゃねェ方が相手だと助かるがな」
「辛辣! やっぱり俺ラムちーがいい!」
「任せなさい。死ぬほど厳しくいくわよ」
「ちょっと待って。どっち選んでも茨の道だなこれ」
その後しばらく押し問答が続き。結局、ラムがスバル、一方通行が上条の教育担当となった。あと一部屋に四人は狭かった(机も一つしかない)ので、上条と一方通行は上条の部屋に移動することになった。
そんなこんなで自分の部屋に戻ってきた上条。彼は恐る恐る一方通行に視線をやり、
「...優しくしてね」
「うるせェ。まずは基本のイ文字からだ。これが完璧になるまでロ文字とハ文字は理解できねェぞ」
こうして上条の文字習得レッスンが始まった。一般的な男子は自分の教育者が異性かそうでないかでモチベーションに差が出ると思うが、上条の場合一方通行もラムもそう大差ないS属性なので気にならない。
一方通行から淡々と指示を受け、上条はこれまた淡々と筆記していく。ページ一枚に400字ほど書き連ねていくその作業はとても地道なものだ。思えばここまで真面目に勉強したのはいつぶりか。高校留年にリーチがかかっている上条にとって、今回の猛勉強は非常に珍しいものだった。
その後、何とかイ文字を把握した上条。一方通行に指示され、童話の読解に入る。たまに一方通行から罵倒を受けつつも、着々と読み進めていった。
「そもそも日本語すら怪しいヤツが異世界の言語を習得できるワケがねェよなァ」
「わからない? 俺はこんなこともわからないオマエの方がわからねェよ」
「...なるほどなァ。本当の馬鹿は吸収面からして馬鹿になってるってワケだ」」
...とまぁ、こんな感じで数々の罵倒を受けつつ、だ。
その後、上条はきっちり夜の1時まで異世界言語の勉強をこなした。なぜ1時までだったかと言えば、一方通行が眠い、と言って欠伸をしながら部屋を出ていったためだ。どちらかと言えば1時で勉強は『打ち止め』された、と言った方が正確か。
とにかく、ようやく就寝の時間である。上条はベッドに倒れ込み、無数の文字を書き連ねたせいで痛む右手に顔を顰めつつ、意識を手放したのであった。
「トウマくん。お待たせしました、大丈夫ですか?」
「ん、あぁ。そっちは?」
「はい、滞りなく。トウマくんは、色々と大変そうでしたね」
荷物の入った手提げを前に、小首を傾けてそう労うのは青髪の少女____レムだ。変わらぬメイドの装いの彼女は風に揺れる髪を押さえ、その表情をほんのわずかだけゆるめて上条を見ている。
現在、上条とレムは近くの村に買い出しに来ていた。本来____というか前回はスバルがこの役目を果たしていたはずなのだが、今回は偶然上条が暇だったので代わりに来たというわけである。
「犬に噛まれるわちびっ子たちに取り囲まれるわで参った。上条さんは保育士じゃないっつーの」
そう返す上条の執事服は泥で汚れている。
「ずいぶんと人気でしたね」
上条とレムが買い出しに来たのは屋敷のもっとも近くにある村落だ。
あれで辺境伯、という立場にあるロズワールは当然、いくつかの土地を領地として保有する一端の貴族である。 屋敷の直近であるこの村落も例外ではなく、暮らす人々は当たり前のようにこちらの顔を見知っている。特にメイド二人は買い出しの機会も多いのか、通りがかるたびに声をかけられる率はかなりのものだ。
その一方で上条もまた、いつの間にか存在だけは周知されていたらしい(恐らくスバルや一方通行も)。実際に足を運ぶのは初めてだったにも関わらず、友好的に迎え入れられたのはむず痒いながらも嬉しかった。
「そういえばトウマくん...これはスバルくんにも聞きたかったことですが、勉強の進み具合はどうですか?」
「順調だよ。先生が良いからな」
いや、実際一方通行は教育者として優秀なのだ。わかりやすいし。...ただ、あの罵倒さえなければもっと良いのにと上条は思う。
多分ラムにも同じことが言えるだろう。
「アクセラレータくんは見るからに優秀ですもんね。トウマくんやスバルくんと違って」
「辛辣! やっぱり姉妹だな...」
ラムが夜の個人レッスンを提案してからすでに四日が経過している。当初はレムも交代で教育係に入るという話だったが、やはり忙しいのだろう、この四日間、講師役がレムであったことは一度もない。
状況的に見て、レムが仕事に穴を開けられる状態ではなかったということなのだろうが、それが彼女にとっては負い目になっていたようだ。
「ま、気にすんなよ。俺もスバルもちゃんとやってる。一方通行もな。...ラムはたまに教えてる途中にベッドで普通に寝るってスバルから聞いてるけど」
「姉様は鬼がかってますからね。スバルくんのやる気を発奮させようと、あえてそう振舞っているんですよ」
「鬼、がかる____?」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げる上条。神がかりみたいなものだろうか。
一方で、レムは自慢げに胸を張った。
「スバルくんに教えてもらったんです。神がかるの鬼版だと」
そんな言葉はない、という野暮な突っ込みはさておき。
とても嬉しそうに笑うレムを見て思わず上条も口を緩めた。
...それにしても、意外とスバルは女たらしの才能があったりするのだろうか。鬼がかる、という言葉を出した時の非常に嬉しそうなレムを見て、上条は何となくそう思ったのであった。
上条さんと一方さんのヒロイン役に悩んでます。エミリアとレムはスバルのヒロインとしか考えられないし、かと言って他の女性陣って大体記憶無くしたりするし。