Re:とあるヒーロー達の異世界生活   作:ちるみる

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第20話 『襲撃』

屋敷に来てから四日目の夜。上条がレムと村に買い出しに出かけた、その夜のことだ。

 

「...馬鹿の相手は疲れる」

 

今日も今日とて、上条は異世界語学の勉強に励んでいた(with一方通行(アクセラレータ)の罵倒)。

 

毎晩開催されるだけあって、四日目にして上条は基本のイ文字をマスターしかけていた。それはやはり一方通行の教育者としての優秀さのおかげでもあるのだろうが、それはそれとして口の悪さだけはどうにかしてほしいと上条は思う。

 

「ラムの方もこんな感じなのか、やっぱり」

 

「今夜のスバルの担当はエミリアだそォだ」

 

「なんだって!?」

 

一方通行の言葉に驚愕する上条。恐らく双子メイドが何らかの理由でどちらも顔を出せない故の代打、と言ったところだろうが、それはさておき。

 

「スバルずるくない?」

 

ラムと一方通行の二択ならともかく、そこにエミリアという第三の選択肢が加わるなら話は別だ。ドS気質の二人とは違いエミリアは優しさの塊。彼女ならさぞ優しく教えてくれることだろう。まさしくE・M・T(エミリアたん・マジ・天使)である。

 

...最近スバルのエミリア病がうつってきたと内心微妙な上条だった。

 

「ま、仕方ないか。ここは一方通行で我慢だな」

 

「喧嘩売ってやがンのか?」

 

羨ましいのは確かだが、スバルの恋心を何となく察している上条は野暮なことはしない。人の恋路を察し、密かにサポートする大人な上条当麻、ここに誕生である。

 

「...わかってると思うが」

 

と、一方通行が声を低くする。

 

()()()()()()()

 

その言葉の意味するところは、上条も理解していた。

 

「わかってる。スバルに何かあるとするなら、それは今夜だ」

 

思えば、前回は庭で四人で会話をしていたような。それが今回は語学勉強とはだいぶ変わったものだ。その分、状況が変わった可能性もあるが。願わくば何事もなく五日目を迎えたい。

 

「スバルのデートの約束も叶えてやろうじゃねぇか」

 

「...どォでもイイ」

 

死に戻りのせいで叶わなかったスバルとエミリアのデート。五日目を迎えることができたなら、きっとそれも叶うだろう。スバルは今回もエミリアをデートに誘うことができているだろうか?

 

「何にせよ、今日が正念場、だな」

 

今夜は前回のように呑気に眠るつもりはない。つまり、確実に朝が来るまでは安心できないと上条は考えている。

 

「というわけで、一方通行。今夜はお互い気張ろうぜ」

 

「...心底面倒くせェが、アイツに死なれると困るのは確かだ。やるしかねェな」

 

かくして今夜、徹夜の籠城戦が幕を開けることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあ...」

 

時刻はついに深夜1時を回った。いつまであればそろそろ就寝している時間だが、そうも言ってられない上条は欠伸を噛み殺す。

 

普段は常時ダルそうにしている一方通行も、今回ばかりは真剣に見える。彼はベッドに腰掛け目を閉じていたが、それが寝ているわけではないということは上条にもわかる。

 

「あ...?」

 

ふと、上条は窓の外に人影を見た気がした。この部屋の窓からはちょうど屋敷の庭が見渡せるのだが、

 

「スバル...と、レムか?」

 

上条が改めて庭へ視線をやると、そこには二つの人影が。遠くからでもわかる人相の悪い三白眼と、同じく遠くからでもわかるメイド服_____つまりスバルとレムが相対している。

 

二人の表情はここからではよく見えない。何にせよ一方が一方を呼び出した、という形だろう。もっと言うなら恐らくレムがスバルを呼び出したのだ。スバルがエミリアを差し置いてレムを呼び出すとは考えられない。

 

「一方通行...」

 

「なるほどなァ。きな臭くなってきやがった」

 

どうするべきか考えあぐねて一方通行に呼びかける上条。一方通行はいつの間にか瞼を開いていた。

 

「どうする?」

 

「どォするって、そりゃ決まってンだろ」

 

一方通行はベッドから重い腰を上げると、部屋の窓に向かって歩みを進めていき、

 

「悪党はさっさと潰すに限る」

 

「お、おい!!」

 

それだけ言って彼は窓から身を乗り出し、そのまま外へと飛び出していった。思わず呼び止める上条だったが、第一位が聞く耳を持つはずもなく。

 

「仕方ない、俺も...」

 

最強の一方通行と違って上条はただの高校生。窓(ちなみにこの部屋は三階に位置している)から飛び出すなどできそうもない。_____否、正直気持ち的にはそうしたいのも山々だが、負傷して足手纏いになるのは勘弁だ。スバルを助けたい気持ちがはやって自分が死ぬなんて間抜けにもほどがある。

 

ショートカットを断念した上条は勢いよく部屋を飛び出した。途中でエミリアやロズワールに助けを求めることも考えたが、悠長なことは言っていられない。

 

「全部、勘違いであれよ...」

 

そんな呟きを口から漏らし、上条は屋敷の玄関に向かって全力疾走するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、同時刻。

 

スバルはレムから呼び出され、屋敷の庭へとやってきていた。

 

「で、何の用だよ」

 

「......」

 

呼び出しの目的は全く謎。尋ねても、レムは顔を伏せたまま何も言わない。

 

今夜は四日目______正直、自分のことに集中するべきだとは思ったが、それ以上にスバルはレムのことが気になっていた。いや、もちろん恋愛的に、というわけではなく。

 

「あー、もしかしてそういうこと? ごめんだけど、俺にはエミリアたんっていう心に決めた相手が______」

 

何となく気まずい場の雰囲気を払拭しようと、スバルがおどけた次の瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

かすかに鼓膜を捕えた違和感、それを感じ取った瞬間、スバルの体は一切の躊躇もなく横へと飛んでいた。

 

直後、さっきまで自分がいた場所を巨大な何かが通過する。

 

そう、それはまるで_____。

 

「モーニングスター!?」

 

スバルを襲ったものの正体、それはひと抱えほどもある棘付きの鉄球だ。ボーリング玉に殺傷機能を持たせたといってもいいそれは、長い長い『鎖』で使い手と結ばれたロマン兵器______その名も、モーニングスターだ。

 

その殺人武器を誰が振るったのか_____とはもはや聞くまでもない。

 

「レム...なんで!」

 

スバルの悲痛な叫びを受け、レムはその短い青髪をそっと空いた手で撫でた。もう一方の手にはもちろんモーニングスターが。いつのまに取り出したのか、さっきまで確かにレムは両手に何も持っていなかったはずなのに。...いや、そんなことはもはやどうでもよかった。

 

スバルは額の汗をぬぐりながら何とか言葉を紡ぐ。

 

「どうしてこんなことを...って、ありきたりな台詞言っていいか?」

 

「そう難しいことでは。疑わしきは罰せよ。メイドとしての心得です」

 

「汝、隣人を愛せよって言葉はねぇのかな?」

 

「もうレムの両手はどちらも埋まっておりますので」

 

時間稼ぎに付き合うつもりはないのか、受け答えに応じるレムの視線は片時もゆるまずスバルを見ている。 彼女の動向はわからない。だが、たったひとつだけわかること。

 

それは、今動けば、確実に死ぬということだ。

 

まがりなりにも三度死んだスバルの本能が、そう絶叫しながらアラートを鳴らしている。

 

(くそっ、四日目は正念場だってのに完全に油断してた!! まさかレムが俺を狙っていたなんて...)

 

スバルは内心で自分の愚かさを責める。そう、屋敷の人間がぽっと出の自分を信用するはずがなかったのだ。まるでそこに考えが至らず、呑気に屋敷での生活を享受していたスバルの何と怠惰なことか。

 

(ざまぁねぇよ、俺。うまくやってたなんて、勘違いしやがって)

 

黙ったまま動かない...否、動けないスバルに、レムは痺れを切らしたかのように尋ねた。

 

「...あなたは、エミリア様に敵対する候補者の陣営の方ですか?」

 

「何のことだ...。俺の心はいつでもエミリアたんの_______」

 

「質問を変えます。_____あなたは、魔女教の関係者ですか?」

 

聞き覚えのない単語が飛び出し、スバルは困惑に眉を寄せた。それがこの場のどんな状況に則した単語なのか。レムの真意がわからず、返答を保留する。そんなスバルにレムは、

 

「答えてください。あなたは、『魔女に魅入られた者』でしょう?」

 

「...魔女、に?」

 

「とぼけないでください!」

 

激昂したかのように声を高くして、レムは心なしか鋭い視線でスバルを射抜く。それは本当の意味での初対面から、ここに至るまで全ての場面を通じて、初めてレムが感情を露わにした瞬間だった。

 

普段は冷静さを決して失わない白い面に、わずかに怒りの朱を差したレムがスバルを殺意すら浮かべて見下ろしている。

 

その身に覚えのない殺意を向けられ、スバルは首を横に振り、

 

「知らねぇ。そもそもうちは代々無宗教だ」

 

「まだとぼける。_____そんなに魔女の臭いを漂わせて、無関係だなんて白々しいにも程がありますよ」

 

レムはスバルの前で腕を振り下ろし、唇の端を歪めて怒りの形相を作った。そのこれまでにない感情表現に、スバルは彼女の本質にわずかに触れたような気がして目を見張る。

 

「姉様も他の誰も気付かなくても、レムだけはその臭いに気付きます! その悪臭に、咎人の残り香に、嫌悪と唾棄を抱きます」

 

レムの言葉はスバルには身に覚えのないことばかりだった。それでも、彼女の怒りが本物だということはわかる。

 

身に覚えのない殺意を当てられ怖気付き、スバルは思わず一歩後退りをしてしまった。それをレムが見逃すはずもなく、

 

「絶対に逃しません。逃げれないように、まず死なない程度に足を潰しましょうか」

 

恐ろしい宣告とともにスバルの足に鉄球が迫る。その凄まじいスピードにスバルは反応できず、彼の両足は見るも無惨な姿に______。

 

「なに...?」

 

なるはずだった。

 

「よォ。俺も混ぜてくれよ」

 

スバルの足に迫るモーニングスターを勢いよく蹴飛ばし、両者の間に割って入ったのは、

 

「アクセラレータ!?」

 

スバルが思わず大声を上げる。その呼びかけに応じず、一方通行は改めてレムに向き直った。

 

「どォいうつもりだ、オイ?」

 

「あなたには関係ありません。私はそこの魔女教徒に話があるだけです」

 

「話にならねェな」

 

一方通行は呆れたように首を振ると、今度はスバルの方を見る。彼は有無を言わせない様子でスバルに、

 

「さっさと行け。前も言ったが、オマエに死なれると困るンでね」

 

「わ、わかった! ...死ぬなよ」

 

「誰にもの言ってやがる」

 

「あと殺すなよ!」

 

「...本気で言ってンのか、それ」

 

珍しく驚いた様子の一方通行に、スバルは返事を返さずその場を逃げ出す。後ろは振り返らない...というか今から始まる壮絶な戦いを想像すると振り返る気にもならなかった。

 

「逃がしません...!」

 

我に帰ったレムがスバルに向けてモーニングスターを振るうが、

 

「オマエの相手は俺だ」

 

一方通行がそれを阻止する。モーニングスターを足で受け止める形だ。

 

その隙にスバルの姿は完全に見えなくなった。レムはそれを確認すると舌打ちする。

 

「ただ者ではないと思っていましたが...。人間ですか、あなた」

 

「想像に任せるぜ」

 

一方通行は取り合わない。

 

彼は内心で、先ほどのスバルの発言を思い出していた。

 

(自分を殺そうとしていた相手に『殺すなよ』とは恐れ入る。繰り返す死で頭がおかしくなりやがったか? そうでなけりゃ引くくらいのお人好しか)

 

『引くぐらいのお人好し』で脳内にツンツン頭が思い浮かび、うんざりする一方通行。

 

「まァ、何にせよやることは変わらねェな」

 

彼は切り替える様にそう呟いて、スバルの死を阻止するためにレムと向き合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はあっ...!!」

 

一方通行とレムの戦いから背を向けて逃げ出したスバルは、屋敷の玄関に向かって走っていた。庭と言っても、屋敷が広いだけあって玄関からはかなり距離がある。スタミナがないスバルは早くも痛む横腹を押さえていた。

 

「くそっ...!」

 

喘ぎ、肺に空気を押し込みながら思考と足を走らせる。

 

これがレムの独断だとすれば、スバルの命を拾う算段はまだ立てられる。屋敷まで駆け戻り、雇い主本人に直談判できれば可能性はあるはずだ。

 

...が、ロズワールの意見もまたレムと一緒だとすれば、わざわざライオンの檻から抜け出し、狼の檻へ駆け込む愚行に他ならない。

 

「それ、でも...」

 

エミリア、そして上条。確実に信用できる相手ならいる。彼らを頭に思い浮かべて、それだけを頼りにスバルは走った。

 

そして_____。

 

「、あ?」

 

超高速度の風の刃が一閃____スバルの右足の膝から下を吹き飛ばしていた。

 

勢いのままに大きく跳ねる右足の先端を見ながら、スバルの体は大きく体勢を崩す。バランスが狂い、走る勢いが回るままに体が傾いで地面に激突。衝撃で頬の傷が再出血したのと、肩口を思い切り木々にぶち当てて鈍い音が響き渡り、脳に直接電極を刺したような痛みが駆け巡る。なにより、

 

「ぁああああが! あ、足がぁぁっ!!」

 

痛みがない、それが逆に恐ろしい感覚だった。

 

右足は膝下が消失し、吹っ飛んだ断片は茂みの向こうへ飛んだきりだ。傷口は桃色の肉を鮮やかに見せつけ、鮮血はまるで切断に気付いたのが今さらであったかのように遅れて噴き出す。同時、痛みも遅れて神経を侵した。

 

「______ッッッ!」

 

地面を引っかき、声にならない苦痛を盛大に上げる。傷口を押さえ、体を振り乱し、空いた右腕は地面を叩き、木を殴りつけ、爪が盛大に剥がれ、その熱さに意識が沸騰する。

 

苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いた。

 

痛みが神経を鑢で削り、脳を直接鉋掛けするような自分が損なわれる感覚。一秒ごとに血がすさまじい勢いで失われ、それはそのままスバルの命の源の消失を意味していた。

 

そこへ、

 

「____バル! スバル!!!」

 

悲痛に顔を歪めた上条が視界に映る。待ち望んでいた顔に、スバルの足の痛みが一瞬和らいだ。

 

しかしながら刻一刻と血は失われていく。それは見るまでもなく、手遅れだということはスバルが一番理解していた。

 

「くそっ、回復を...。エミリアを呼んでくる!!」

 

判断を間違えたかのように後悔を顔に浮かべる上条。そんな彼に、スバルは最後の力を振り絞って言った。

 

「いい...。多...分、手遅れ...だ。痛みも...もう感じない」

 

スバルがそう途切れ途切れに言葉を紡いだ時には、上条はもうすでに走り去っていた。まだスバルを救うことを諦めていない上条のお人好し具合に、瀕死なはずのスバルの口が思わず緩む。

 

確実な死の前に、彼の思考はなぜかよく回った。

 

何故か自分を殺そうとしていたレム。助けに来てくれた一方通行と上条。...そして、恐らく自分の足を切断したであろうラム。

 

「...んでだよ」

 

次々と頭をよぎる過去の光景。それは恐らく走馬灯だろう。

 

「わかって、たよ。...想像、ついてたさ」

 

喉がしゃくり上げ、込み上げてくる熱いものが次々と瞼を通って頬に落ちる。死ぬ間際であるはずのスバルは、滂沱と止めようのない涙を流した。

 

「なにがいけねぇんだよ...なにが悪かったんだよ。...アイツら、どうしてそんなに俺が憎いんだよ...?」

 

感情が制御できない。八つ当たりも甚だしいとわかっていながら、それでもスバルの心が、魂が叫ぶのをやめられない。

 

異世界に呼び出され、理不尽に追いやられ、それでもなお歯を食いしばって過ごしてきた。だが、もう限界だった。

 

「俺は...お前らのこと、だい」

 

その後の言葉は続かなかった。原因は、スバルの意識の消失。

 

すなわち、とめどなく流れ続ける血がある一線を超えた瞬間______スバルがこの世界で四度目の死を迎えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 




このままだと上条さんの活躍の場が三章までねぇぞ!?
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