上条、一方通行、そしてスバル。
彼らが待ち望んでいたはずの5日目の朝は、『レムの死』という血塗られた真実で上書きされてしまった。
もちろんそんな真実は誰も望んでいないもので。だからこそ、スバルはエミリアを振り切ってでもこの場から逃亡を図ったのだろう。
しかし、それは________。
「そんなの、認められるか...!」
レムのためにスバルが自ら犠牲になろうとしてる_______彼の『死に戻り』がなければレムを助けることができないのは上条も痛いほどわかっているのだが、それでも決して認めてはならなかった。
綺麗事なのはわかっている。綺麗事に縋りつかず、自分のやれることをやろうとしているスバルは自分の何倍も強いということも。
「トウマ!」
「ッ!?」
思考が乱れ、迫り来る風の刃への対応が一瞬遅れるが、何とか右手で抑える。エミリアが前を見据えたまま上条に声をかけた。
「スバルの心配なら後! きっとベアトリスが何とかしてくれるわ!」
「そうそう、よそ見しながら戦える相手じゃにゃいんだよ?」
二人(?)からの言葉を受け、右手を強く握りしめる。
そう、いずれにせよ目の前にいるラムを何とかしなければスバルは無事ではすまない。スバルが自分のやれることをやろうとしているというなら、自分も自分のやれることをすべきではないのか。
「わかった、とりあえずラムを抑えよう」
「私としてはロズワールと戦ってるアクセラレータも心配なんだけど...」
「人の心配は後って、今アンタが言ったんじゃねぇか!」
どこまでもお人好しなエミリアに若干呆れつつ、上条はちらと窓の方に目をやった。
「心配する必要はありませんよ、エミリア様。ロズワール様に勝てる人間などほとんどいませんから」
凍りつくようなラムの声が耳に刺さる。確かにロズワールはかなりの強者なのだろう。だが________。
「そいつはどうだか。アイツは、何てったって『
「わぁざと吹き飛んでくれて感謝するよ。屋敷を荒らすのは勘弁願いたいしねぇ。そぉれに、レムのことも傷つけたくない」
「そりゃどうも」
屋敷の庭で向かい合う形の一方通行とロズワール。お互いに緩い雰囲気は一切なく、そこにあるのは純粋な殺意だけだった。
「アクセラレータ君は見たところかぁなり優秀そうだけど...スバル君にそこまでこだわる理由はあるのかな?」
「言ったところでオマエにはわからねェし、言うつもりもねェよ」
ロズワールの言葉に一方通行は取り合わない。あくまで低く、冷たく、もはや戦闘しか道がないということを暗に示す。ここで停滞しているのが一番の悪手だ。
そこまで思考し、痺れを切らして一方通行が自分から攻撃を仕掛けようとした時だった。
「ウル・ゴーア」
決して大きくない呟きが聞こえたと同時に、一方通行の視界を巨大な火球が覆い尽くした。その火球はなすすべもない一方通行に直撃し_______。
「...わかってンじゃねェか」
彼の体を避けるかのように、真っ二つに割れて後ろに逸れていった。二つに割れた火球はそのまま庭にあった小屋へと直撃、盛大に爆発する。
後ろで起こる大爆発も気にせず、一方通行とロズワール_______二人の強者は無言のまま向き合う。
(...案の定、こっちでもオカルトのベクトルは解析しきれねェか。炎は炎でもただのそれじゃねェ。マナだの何だのから生成してるってのがベクトルを正常に変換できない原因か?)
「こぉれは驚いた。自分で言うのもなんだけど、これでも私はかなり優秀な魔術師でねぇ。そんな私の魔法を眉一つ変えずに防ぐとは」
流石にびっくりだよ、とあくまで冷静に言葉を紡ぐロズワール。その表情にまったく焦りは見えない。恐らく先ほどの火球もただの小手調べなのだろう。何といっても______。
「全属性に適性のあるオマエだ、そりゃ優秀だろォな」
「私、それアクセラレータ君に話したっけ? もしかして君も結構魔法に長けてたりするのかなぁ?」
「あいにく、オカルトは専門外でねェ!」
その言葉と同時に一方通行は凄まじい速度でロズワールに迫る。そのまま必殺の右手を伸ばし、一気に勝負を決めようとするが_____。
「魔法使いは肉弾戦はできない、というのは完全に先入観というやつだーぁね」
すんでのところで避けられる。その身のこなしを見るに、彼の言葉に嘘偽りはないようだ。そのまま一方通行に肉弾戦で攻撃をしかけてくれれば彼としては楽だったのだが、ロズワールは手を出してこない。何かを警戒しているのか、いずれにせよその判断は正しい。
「君、結構な化け物みたいだーぁね? 私としても本気を出さざるを得なくなるが_______」
「そりゃ、お互い様みてェだけどな!」
拮抗する。ロズワールが魔法を出せば、一方通行がそれを逸らす。一方通行が攻撃を仕掛ければ、はたまたロズワールがそれを逸らす。まさに千日手。お互いに力が尽きる気配はなくただただ時間だけが過ぎていく。こうしている間にも、スバルが________。
「さっきの話じゃないんだけどね________君には、全属性に適性のある私にしかできない、ちょぉっとした小技を見せてあげよう」
自分の魔法をいなし続ける一方通行に痺れを切らしたのか、ロズワールが肩をすくめ、そのまま両手を上に掲げる。
現れたのは六つの魔法。火、水、土、風、陽、陰。その六つの属性すべてに適性のあるロズワールにしかできない、決して小技とは言えそうにもない必殺。それぞれ違う六色に輝く六つの魔法は、そのベクトルを解析仕切れていない状態で食らえばいくら
「なるほどなァ。腐っても魔術師か」
だが、と一方通行は前置きをする。
「あの化け物_______剣聖の野郎に比べればだいぶぬるい」
「比較対象がちょぉっとおかしくないかい?」
その言葉を皮切りに六つの光球が一方通行へと襲いくる。対する彼は身動き一つせずに、平常と変わらぬ様子でその場に立っていた。
______否。先ほどまでとは異なる点が一つ。
「ケリをつけてやる」
その背中から伸ばすのは純白の翼。かつて一方通行が第三次世界大戦の終盤において
「なんだ、それは_______」
ここにきて初めてロズワールが焦りの表情を浮かべた。それでもなお、彼が魔法の力を弱めることはない。
一方通行の白い翼と、ロズワールの六色の魔法が激突する。
その激突の衝撃は空間に歪みを入れ、そして________。
文字通り、世界が割れた。
一方通行とロズワールの全力の攻撃が激突する少し前、上条&エミリア(&パック)とラムの戦いも熾烈を極めていた。数的には上条側が有利なように思われるが、いまだ決着はつかない。
「このままじゃ、埒が開かないな...」
「いっそのこと、その右手切っちゃう?前みたいにさ」
「絶対ダメ。トウマがすごーく強くなっちゃってラムが無事じゃすまないんだから」
パックの冗談混じりの発言にエミリアが憤慨する。とはいえ、状況は明白だ。上条はラムの魔法を防ぐことができるが決定打がない。エミリアは決定打はあるがなるべくラムを傷付けたくなくて手加減をしている。一方、ラムは本気でこちらに攻撃を仕掛けてきてた。彼女に上条たちを殺すつもりがあるのかはさておき、いずれにせよこのままでは時間の問題である。
「エル・フーラ」
ラムの冷たい詠唱とともに再び風の刃が上条を襲う。刃はご丁寧にも右手で処理しにくい体の左側からえぐるように向かってくる。
「くっ...」
かろうじて避けるも上条は体勢を崩してしまう。その隙をラムが見逃すはずもなく、自ら攻撃を仕掛けてきた。
「動かないで」
が、ラムの体は途中で動きを止める。原因はその足元。彼女の両足は屋敷の廊下に縫い付けられているかのようにぴたりと静止していた。そう、エミリアの氷魔法によって。
「無理に動くと怪我しちゃうから」
「こんなもの...!」
「やめといた方がいいと思うなぁ、女の子なんだし。リアがスバルに事情を聞いて戻ってくるまでそこで大人しくしてなよ」
「ひとまず、終わった、のか...?」
上条は体を起こしながらラムの方に目をやる。氷で廊下と繋がれた彼女の両足を見ていると正直嫌な記憶が蘇ってくる。思い出すのだ。自ら足の表面を切り落として氷の拘束から脱した、あの狂った女を。
「トウマ、どうかした?」
「...いや」
「じゃあ早くスバルのところに行きましょう? スバルったら、すごーく心配かけるんだから________」
そんなエミリアの言葉が上条の耳に届くその直前。
凄まじい衝撃音とともに、上条の体が吹き飛んだ。否、上条だけではない。視界の端にかろうじて衝撃に耐え体勢を保つエミリアとラムの姿を捉える。つまり幻想殺し以外に自分の身を守る術のない上条だけが吹き飛ばされた形だが、一体この凄まじい衝撃はどこから________。
(ラム、じゃない? もっと遠く...外にいる一方通行たちか!?)
「がぁッッ!!」
衝撃で吹っ飛んだ体は屋敷の壁に強く打ち付けられ、上条の視界は明滅する。意識を手放すその直前、窓の外に白い翼のようなものが見えた。
「トウマ!!!」
遠くでエミリアの声がする。いや、実際はそれほど遠くないのだろう。遠く感じるのは上条の意識が消えかけているからだ。
最後に視界に捉えたのは白い翼。何かを心配するかのように窓の外を眺めるラム。そして、こちらに慌てて駆け寄ってくるエミリアの姿だった。
しかし、エミリアが上条のところへと辿り着くまで意識がもってくれる気配はなく。そのまま上条の意識は闇へと沈んでいき_______。