「呪術師について詳しく知りたい?」
「ああ。魔法使いとか精霊使いと違って、そういう系統の使い手がいるってのは知ってんだけど、それ以上の知識はなくてな」
「またけったいなことを聞きたがる奴なのよ。あんな連中について知っても、得なことなんて微塵もないかしら」
あからさまに嫌そうな顔をするベアトリスだったが、呪術がスバルの死と深く結びついている以上、話してもらわないわけにはいかない。
そして、上条たちが聞きたいことは至ってシンプル。
「俺たちが知りたいのは呪いを防ぐ方法について、だ」
呪術師の迎撃、これ自体は相手の正体が掴めない限り難しい。が、上条たちがこの状況で得ているアドバンテージは、『襲撃があるということを知っている』という点に尽きる。
すなわち、呪術の対策さえ知っていればこの問題は解決できるはずだ。
しかし_______。
「ないのよ」
「何だって?」
「一度発動した呪術を防ぐ方法は、存在しないかしら」
予想外の答えに上条の息が詰まる。先ほど見えた一筋の希望が音もなく消えていく。必中必殺なんて、そんなのルール違反が過ぎるだろう。
「ちなみにその右手でも無理かしら。一時的に消したところで、後から無限に湧き出る。最終的に物量に負けるのよ」
「んな、バカな...」
青ざめた顔で呟くスバルだったが、ベアトリスの言葉は上条にも覚えがあった。消しても消し切れない物量攻撃。それは、とある魔術師の
「ただし」
と、ここでベアトリスが意趣返しかのように指を立てた。
「発動前の呪術_____つまり単なる術式の状態の時なら、比較的簡単に妨害できるかしら。この屋敷で言えばまずベティー。もちろんにーちゃ。それとロズワールと______小娘三人は無理かもしれないのよ。あとはその右手も発動前なら十分に役立つかしら」
そっちの二人は言うまでもなく無理、と一方通行とスバルを交互に見るベアトリス。だが、上条たちとしてはそれどころではなかった。上げて下げて上げられた感は否定できないが、何にせよ希望の光が再びその姿を見せたのだ。
「発動前ってのはどォいうことだ? その呪術とやらが仕掛けられてから効果を現すまでにタイムラグがありやがンのか」
「時間差、というよりは準備期間と言った方がいいかしら。人を殺す呪いなら、もちろんその対価も重いものになるのよ。準備をしっかり重ねて初めて実用的な殺人の手段になるかしら」
つまり、呪術の効果をしっかりと発揮させるためにもその時間は必要不可欠ということだろう。それがわかっていれば話は早い。呪術が仕掛けられてから発動するまでに猶予があるのだから、その猶予の間にベアトリスに解呪してもらえればいいだけだ。
ちなみに、とベアトリスは続けて、
「呪術には、絶対に外せないルールが存在するかしら」
「というと?」
「呪術を行う対象との接触。これが必須条件なのよ」
その内容を頭に入れた瞬間、上条の脳はめまぐるしく回転する。呪術を行うには、術者と対象の接触が必要。これは即ち、一回目でスバルが、三回目でレムがそれぞれ同一人物と接触したということだ。屋敷の人物を除けば、消去法的に怪しいのは______。
「「ふもとの村だ」」
同時に声を上げ、お互いに顔を見合わせる。
そう、一周目にスバルが。そして二週目には上条が。それぞれふもとの村へと買い出しに出向いている。そして、これで二周目に呪いの効果が現れなかった理由もハッキリした。すなわち、呪術師は確かに何らかの方法で上条に呪いの術式を刻み込もうとしたが、上条の右手______幻想殺しによって未遂に終わったのだろう。
「そうか、だから三週目はレムに...」
三週目で上条たちは、レムとラムを警戒し彼女らとなるべく関わりを持たないようにして、禁書庫に籠城するという作戦をとっていた。その結果、食客扱いの上条とスバルがふもとの村へと買い出しに行く理由もなくなり、代わりに買い出しに行ったレムが呪いの毒牙にかかったというわけだ。
「よし、光明が見えた。そうと決まれば早速村に______」
「待て待て、今は夜だぞ。どれだけエミリアの膝の上で寝ぼけてたか自覚がないのか?」
スバルの代わりに俺がどれだけこき使われたと思ってる、とうんざりした顔で言う上条。
スバルは恥を思い出したのか赤面し、空気を変えようと咳払いをした。
「まぁ、当麻がどんだけレムとラムにこき使われようと正直知ったことではないんだけど...一応謝っとくよ、ごめんな」
「前半の文章いらなかったよね!?」
思わず怒鳴るが、当のスバルは耳を抑えて聞こえないフリ。彼はそのまま何かを思い出したかのように首を傾げ、
「呪術についてはとりあえずこれでヨシとして...。問題はレムとラムからの信頼______つまり俺が魔女教とやらの組織の一員だと勘違いされてることについてなんだけど」
「あぁ、確かにお前から漂ってくる魔女の臭いは酷いものなのよ」
「やっぱり? というかそれって俺だけ? 当麻とアクセラレータは?」
「お前だけ、かしら。 嫉妬の魔女に魅入られるなんて、それこそ世界で一番不幸な男なのよ」
「なん、だと...?」
「なんでそこで当麻が反応すんだよこの不幸マウント男!」
不幸マウント男、とかいう酷すぎる蔑称はさておき。
「スバルから魔女の臭いがしてるのが事実ならだいぶ不味い状況だよなぁ。疑ってくださいって言ってるようなもんか。消臭剤とかで消せないのかよ、その臭い」
「多分無理」
「多分をつけるあたりどこまでも楽観的な男かしら...」
呆れ顔で呟くベアトリス。とはいえ、何となく察しはしていたが彼女は(上条の周りにもよくいる)なかなかの説明好きのようで、呆れながらも渋々といった感じで嫉妬の魔女について語り出した。そう、あのラインハルトでさえ名を出すときに怯えの表情を見せた嫉妬の魔女、その存在について。
「嫉妬の魔女『サテラ』。かつて存在した大罪の名を冠する六人の魔女を全て喰らい、世界の半分を滅ぼした、最悪の災厄なのよ」
感情の凍えた声で告げて、ベアトリスはそのまま瞑目する。
「いわく、彼女は夜を支配していた。いわく、彼女には人の言葉が通じない。いわく、彼女はこの世の全てを妬んでいた。いわく、彼女の顔を見て生き残れたものはいない。いわく、その身は永遠に朽ちず、衰えず、果てることがない。いわく、竜と英雄と賢者の力を持って封印させられしも、その身を滅ぼすこと叶わず」
つらつらとそう述べ、上条たちに言葉を差し挟ませないベアトリス。
そして羅列した情報を締めくくるように、いわく、と最後の前置きを置いて言った。
「______その身は、銀髪のハーフエルフであった」