戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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第二十三話~挑戦~

 九鬼本社ビルの一室に序列一桁の人間が集まって話し合いをしていた。

 時間は既に深夜と言ってもいい時間である。

 集まっていると言っても全員ではない、三人――第0位ヒューム・ヘルシング 第2位マープル 第3位クラウディオ・ネエロの3人だ。

 三人とも立っている、深夜だというのに背筋をピンと伸ばして。

 彼らは九鬼の従者と言う事に誇りを持っている、故に椅子などと言う軟弱なものを必要としない。たとえ主人がいない話し合いの場だとしても仕事上で集まっているのであれば立つ、それが従者と言うものだ。

 

「項羽が目覚めて二日、初日も含めてそれほど大きい混乱はなかったな。想定外と言えば、既に項羽が二回も敗北しているというくらいか……」

「初日の千信館皆様、そして本日の百代様、共に文句のつけようがない程の敗北でしたな。まさに完敗……と言った所でしょう」

「ふんっ、まったくふがいないねぇ。西楚の覇王たるものがあの様じゃ、若者なんか導けやしないよ」

 ヒューム、クラウディオ、マープルがそれぞれに項羽覚醒から今日までの事に言及する。

 

「敗北は……まぁ、目覚めたばかりだし、相手も悪い。致し方ないとも言えなくもないが……」

「そうですな……その敗北をまるで糧にされない。その辺は、天が我を滅ぼすそうとしたのだ、自分が負けたわけじゃない、と最後の最後まで自らの負けを認めなかった歴史上の項羽らしいといえばそうでなのですが……」

「その為の覚醒時期の設定であり、葉桜清楚の人格だったんだが……ふんっ、やはり覚醒時期が早すぎたね」

 ヒュームとクラウディオの言葉にマープルがやれやれと首を振る。

 

「フンっ……まさか、鼻っ柱を折られてもまた同じ長さに伸びてくるとはな……」

「まるでピノキオですな、はてさてどうしたものか……」

 そう言いながらも二人の老執事の顔は何とはなしに楽しげだ、

 それを面白くなさそうに一瞥しマープルが言う。

「随分と楽観的じゃないか。お気に入りの柊四四八が何とかしてくれると思っているのかい」

 

「適任……だとは思っている」

「はんっ!人のことは言えたもんじゃないが……九鬼の従者部隊が雁首揃えてなさけないねぇ」

「女性を変えるのは愛しい男の声、というのは古今東西、不変の真理ですからな」

「ふんっ!男だって似たようなもんじゃないのさ」

「ほほ、これは一本取られましたな……」

 マープルの手厳しい返しにクラウディオがまいったというふうに笑う。

 

「全く、武神と柊四四八との一戦がここまで影響しようとはね……」

「揚羽様には俺から伝えておこう、ここまで来たら一旦腹をくくるしかあるまい」

「そうですな。柊様でもダメなら……正直、項羽様を穏便に更正させる手立ては現状見当たりません。こちらとしましてもあまり手荒なことはしたくありませんし」

「やれやれだね……再封印や軟禁なんて手は使いたくないし……それでも最悪の場合は想定しとかなきゃならない。その時はヒュームもクラウディオも頼んだよ?」

 

「フンッ、解っている。が、そこまで来たら不始末どころか懲戒ものだな」

「そうならないように、なんとか動きましょう」

 そう言って二人の老執事は音もなく部屋から出ていった。

 

 部屋には一人マープルが残った。

 

 ふぅ。とマープルが大きくため息をつく。

「まったく……若者に絶望してあたしが立てた計画の修正がその若者頼りとはね……」

 なんていう皮肉だと力なく笑う。

――そして、

「こんな事、頼めた義理じゃないのは百も承知だが……あの娘を頼んだよ、柊四四八……あんなじゃじゃ馬でもあたしにとっちゃ娘みたいなもんだからね」

 そう一人つぶやき星の図書館は瞑想に入る。

 娘――項羽の今後を左右する大きな契機は恐らくそう遠くないだろう。

 願わくば娘にとって幸せな転機であることを……マープルはそう願わずにはいられなかった……

 

 

―――――翌日 川神学園 3-F―――――

 

 

 朝、まだ始業のチャイムには幾らか時間がある。

 クラス内はガヤガヤと生徒たちのざわめきで溢れている。

 そんな中、百代は燕と二人はPSvataのスーパー神座大戦に興じていた。

 

「ちょっ!ちょっ!燕!緊急回避って全部の超必よけられるんじゃなかったのかよ!」

「えー、それもしかして千信館の娘が大会でやったってやつ?やー、ムリムリ、あんなの100回やって1回出来ればいいほうだって」

 喋りながらも二人は携帯機の画面から目を離さない。

 百代はゲーム機を右へ左へと大きく動かしている。

 それを見たクラスメイトが――あ、川神さんそっち系(コントローラー自体を動かしてしまう)の人なのね――という目で見ている。

「くー、モロの奴がこの前練習してたからいけるもんだと思って……あーーっ!あーーーっ!!」

「ほい、ほい、ほい。一丁あがりっと」

 画面には燕の使用キャラ、遊佐司狼が『ったく……デジャヴるんだよ……』と勝利ポーズを決めている。

 

「だーー、もう1回、もう1回だ!」

 百代が画面から顔を上げて、人差し指を立てて燕に詰め寄る。

「いいけど、これでももちゃんの0勝7敗だよー」

「ふん、次こそ私の螢タンがお前の自滅因子を消滅させてやる」

 

 そう言って百代は画面に視線を戻す、それを見た燕も自機の画面に目を移しながら、

「……やっぱさ、ももちゃん、ちょっと変わったよね」

と、画面を見ながら言う。

「あん?」

 それを聞いた百代は画面から目を離して燕を見る。燕は百代の方を見ずに画面に目を向けたまま続ける。

「ちょっと前までは、なんていうか空気がパンパンに入った風船みたいであんまり余裕がない感じがしたんだけど……なんか最近いい感じに空気が抜けたというか、余裕が出来たというか……今日も私の手のタコ見てもなんにも言わないしさー。正直、いまのももちゃんには勝てる気がしないんだよねぇ」

 画面では既に対戦が始まっている。

「なんだ?一学期のうちに私の誘いに乗らなかったのを後悔してるのか?」

「後悔?してるよ、すっごいしてる。あのとき勝負してればなぁ……でも、まぁ、これ完っ全に自業自得だしねー……ほいっと!」

 一戦目は危なげなく、燕が勝利した。

 

 そして画面では二戦目が始まる。

「だからさ、私、柊くんと勝負しようと思ってるんだよね」

 司狼を手馴れた感じで操りながら、燕が言う。

「ほう……柊は私より強いぞ?」

 百代の螢は防戦一方といった感じだ。

「んー、知ってる、でも、ここまで来ててっぺん狙うなら柊くんでしょ?」

「確かに……まぁ、私も柊がこっちにいる間に再挑戦するつもりだ」

「そっか、んじゃ、どっちが先に柊くんの首あげれるか競争だね」

「ああ、いいぞ……もし、私より先に燕が勝ったら四天王筆頭の名は燕に譲ろう」

「マジで?んじゃ、頑張らないとなぁ――っと、ちょいなっ!」

「なっ――!!」

「はーい、これで8連勝ーー。ももちゃん《愛》が足りないよ、《愛》が」

「あーーー、もーーー、放課後、大和捕まえて特訓だ。また明日勝負だ、燕」

「OKー、首を洗って待ってるよー」

「くうぅ……」

 

 そんな平和な朝礼前のクラスに乱入者がやってきた――

 

「さぁ!武神!!昨日の続きだ!!」

 なんの前触れもなくガラッと戸を開いて項羽がツカツカと百代の前にやって来る。

 

「ん?あぁ、清楚ちゃんか、おはよう」

「おお!おはよう……じゃなくて!昨日の決着はまだついてない、勝負だ!武神!!」

「えー、私は今、燕に神座大戦でボッコボコにされて凹んでいるんだ、他を当たってくれ。お、それとも清楚ちゃんもやるか?神座大戦。因みに私の使用キャラはなんとなく他人とは思えない属性の黒髪美人の残念キャラ・櫻井螢タンだ」

「俺は獣殿に決まってる!覇王の俺が使うにふさわしいキャラだ!……って、違う!!そうじゃなくて、勝負だ、武神!!なんだ負けてこの川神学園No1から落ちるのがそんなに怖いのか!!」

 

 それを聞いた百代が首をかしげて項羽に問う。

「なんだ?清楚ちゃんはこの川神学園で一番になりたいのか?」

「そうだ!俺は覇王だからな、常に一番がいい。本当は今にでも日本征服、そして世界征服に乗り出したいところだがマープル達が五月蝿いからな……まずは手始めにこの川神学園を制圧する。それには学園のNo1を倒すのが一番だろう!」

 どうだ、よく考えてあるだろう。という様に項羽がググッと豊かな胸をそらす。

 

「ふーん、なるほどね。だとしたら私より適任がいるじゃないか」

 そう言って百代はニヤリと笑い、横にいる燕はアチャーというふうに顔を覆う。

「ん?誰だそれは?」

 

「――柊四四八に決まってる」

 

「柊だと?」

「ああ、今学園でウチのやヒュームのジジイ達なんかを除けば、いま学園で一番強いのは柊だ、現に私はついこの前完敗している……」

「……むっ」

「今、柊に勝てたら、自他共に認める川神学園最強の座は清楚ちゃんのものだ……」

 その言葉を聞いた項羽は少し考えて……

 

「そうか!わかった!手間をかけたな!!武神!!」

 そう言って、来た時と同じように唐突に去っていった。

 

 それを見送った燕が、

「ねぇ、いいの?」

「なにが?」

その言葉に百代が答える。

 

「だって今のまんまじゃ、負けちゃうよ?」

「清楚ちゃんがか?だろうなぁ。だが、柊と戦えば何かを掴める。そうすれば清楚ちゃんはもう1つ高見へ至ってくれる……そうしたら、またいい勝負ができる……それにそれは清楚ちゃんにとって必要なことだと思う」

「ふーん、そんなもんかねぇ。私はライバルは少ないほうがいいんだけど……」

「まぁ、燕にしたって柊の戦いは見たいだろ?」

「そりゃ確かに、データは多いにこしたことはないからねぇ」

「私も今度は柊の戦いを外から見てみたい」

「なに?ももちゃん、彼女のこと体よく使ったってこと?」

 そう言って燕が意地悪そうな笑みを浮かべる。

「そういうつもりはないんだが……それに遅かれ早かれぶつかるさ、今の清楚ちゃんは少し前までの私と同じだからな」

「ふーむ、先達は語る。というやつですか」

 その燕の言葉には答えず、百代は項羽の出て行った方に目をやる。

 

キーンコーンカーンコーン――

 始業の鐘が鳴る。

 

 早ければ今日にでも項羽は柊と戦うかもしれない。

 柊には面倒事を押し付けてしまったかもしれないが、奴なら苦笑と小言の一つか二つで了承してくれるだろう。

 

――清楚ちゃん、早く上がって来い。

 

 担任の注意事項を右から左へとながしながら、百代はかつて自分が戦った場所であるグラウンドへと目を向けていた。

 

 

―――――

 

 

 昼休み、花壇で一人胡座をかいて座り、自らの頭よりも大きいおむすびを豪快にかじりながら、項羽はひとり考えている。

 

 今、四四八が項羽の范増役を受けているのは、項羽の覚醒に自分が携わったからであり、その責任からである。

 つまり、四四八自身が項羽に心酔したわけでも、忠誠を誓ったわけでもない。

 ということは何かの拍子に、昨日の様に四四八が自分から離れていってしまうことも十分考えられる。それはイヤだ。何故だか知らないがそれを考えただけでとても嫌な気分になる。

 ならば、自らの偉大さを見せつけて四四八に忠誠を誓わせればいい。

 そのために四四八自身と戦って勝つというのはシンプルで良いのではないかと項羽は考えた。

 

「よしっ!!!」

 

 そう言って、食べかけのおむすびを一気に口の中に放り込むと、勢いをつけて立ち上がる。

――俺は柊四四八を倒して、柊四四八と川神学園を手に入れるっ!!

 そう心に決めて、花壇をあとにする。

 

 善は急げ、目指すは放送室だ――

 項羽は意気揚々と廊下を歩いていく、もちろん負けることなどその心には欠片も想像してはいない……

 

 

―――――

 

 

ピンポンパンポーン、

 昼休みも終わろうとしたとき、放送が流れる。

 

『おい、これ、もう話していいのか?……そうか、わかった。――んはっ!川神学園の皆、西楚の覇王・項羽だ』

 スピーカーから流れてきたのは項羽の声だ。

『今日は俺から皆に伝えたいことがあるっ!今日の放課後、グラウンドにて俺は柊四四八と決闘をする!!もちろん九鬼の了解もとってある!!』

 それを教室で片肘を付いて本を開き聞いていた四四八が、驚きでガクンと肘を机から落としてしまう。

 四四八はこの件については何も聞かされていない。

『今日の放課後、川神学園最強の称号はこの俺、西楚の覇王の頭上に輝き、皆は俺の偉大さを知ることになる!!はーっはっはっはっはっはっ!!!』

 その高笑いを最後に放送はブツリと切れた。

 

「ねぇ、柊あんた本当にやるの?」

 隣にいた鈴子が聞いてくる。

「ああいうふうに言われて逃げるわけにもいかないだろう。まぁ、遅かれ早かれ……とは思っていたけどな……まさか本人の了解を取らないで行われるとは思ってもみなかったが……」

 小さくため息をつきながら四四八が答える……項羽と付き合いはじめてから、ため息が増えたか……等とも考える。

「ももちゃん先輩にでも焚きつけられたんじゃない?」

 それを聞いた水希が言う。

 確かにありそうな話だ、あとで恨み言の一つでも言ったほうがいいかもしれない……

 

「私たちは唯、倒すだけだったけど。あんたならまた違う形になるんでしょう」

「頑張ってね、柊教官」

 鈴子と水希言葉に、

「人ごとだと思ってお前等……」

と、四四八が呟く。が、四四八自身既に項羽と戦うことは決意をしている。

 

あとは――

 

「眠り姫の目を覚ますにはどうしたもんか……」

――チューでもしてみたらー、等と無責任なことを言っている水希の言葉を無視して、四四八は思案にふけっていった。

 

 

―――――放課後 川神学園 廊下―――――

 

 

コッ、コッ、コッ、

 規則正しい足音を響かせて、戦真館の制服に身を包み準備を済ませた四四八はグラウンドへと向かっていた。

 気持ちの整理はついている。

 あとは結果がどうなるか……結果の出方次第では、またほかの方法を探さなくてはならない……

そんなことを考えながら歩いていると――道中に着物姿の男が佇んでいた――彦一だ。

 

 四四八が小さく頭を下げてその横を通り過ぎようとした時、

「いくのかい?」

扇子を口にあて彦一が声をかける、目は合わせてはいない。二人とも前を向いている。

 

「先輩は言わば生まれたばかりの赤ん坊の様なものです、誰かが手をひいてやらないといけない……そう思っています」

「それが自分……だと?」

「立候補したわけじゃありませんし、この役割をすべき人物が他に居ることも知っています……ですが、指名をされましたので……」

「フッ……ならば、断る訳にはいかないな」

 彦一はそう言って口に微笑を浮かべる。とても優しい笑みだ。

 

「柊、覇王君を……そして葉桜君を頼んだよ」

「はい」

 そう言って四四八は止めていた歩みを再開した。

 

 それを見送ると、彦一はつぶやく、

「しれば迷い、しらねば迷わぬ、恋の道。か。覇王君も葉桜君もとんでもない男に惚れこんだものだ」

先だって四四八に貸した『豊玉発句集』にある、新撰組、鬼の副長土方歳三が詠んだ一句を諳んじながら、口には先ほどまでと同じく優しげな微笑が浮かんでいる。

「まぁ、気になる……と言うならば俺も葉桜君と同じようなものか……まったく面白い男だ、柊四四八」

 そういうと、自らもこの一戦を見届けるためにグラウンドへと向かう。

 

 

―――――

 

 

 四四八がグラウンドについたとき、

グラウンドには既に項羽が方天画戟を手に待っていた。

 傍らにはクラウディオが佇んでいる。

 

「んはっ!待っていたぞ柊!!今日は俺の偉大さをたっぷりと教えてやる!!」

 項羽はいつものように獣のような紅い瞳を爛々と輝かせながら四四八を見ている。

 

「昨日同様本日も、僭越ながら私が仕切らせていただきます」

 クラウディオが丁寧に腰を折り、お辞儀をして四四八と項羽の間に立つ。

「お二人共、ご準備の方はよろしいですか?」

 

「ああ!もちろんだ!!いつでもいいぞ!!」

 そう項羽が言ったとき、

四四八がすっと手袋に包まれた右手を伸ばし掌を開いて項羽に突き付ける。

「ん?」

 項羽が不思議そうな顔をしていると、

 

「五回です」

四四八の静かな声が響く。

 開き突きつけている掌は『五』という数字を意味していたようだ。

「五回まで……お付き合いします」

 

 そう言って右手を下ろすと、身体を半身にして項羽に向かい合う。

 左足が前、右足が後ろ、

腕は下がり、旋棍は――もっていない。

 

「ふん!まぁいい!どうせ勝つのは俺だ!!クラウディオ!始めろっ!!!」

 

「――では」

 そういってクラウディオはすぅと息を吸う。

 

「柊四四八様 対 項羽様 ……開始(はじ)めっ!!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 その合図と共に、項羽が四四八めがけて突進する。

 

 川神学園の視線が集まる中、

四四八の二回目の戦いの幕が切って落とされた……

 

 




こう言う戦闘に至るまでの流れの回がなかなか難しいですね……

次はお解りだとは思いますが、柊鬼教官による項羽更生プログラムの発動です。
でも、百代と同じじゃつまらないので、違う感じの戦闘描写にしようと思ってます。

お付き合い頂きまして、ありがとうございます。
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