にじさんじ妄想トーナメント戦 鈴原るる全試合 作:りら_らるらりら
──わっ
と、一同盛り上がった。そりゃあもう、エルフ・吸血鬼・鬼・ケルベロス・魔女・人間・神…………とにかく、その場にいた全ての者が等しくあらん限りの声を張り上げて狂喜した。長きに亘った…………という程でもなく、しかし本人達の体感では確実に人生の中でかなりの時間を使ったことになるだろう試合、死合、
喜ぶのも無理はなかった。
シェリン・バーカンティもまた声を上げる。嬉しい嬉しい、と。一生分の努力が今報われたのだから、当たり前だった。今しがた拾った遺品、いや、証拠品を握りしめていたとして、それも喜びの声を抑制する手段には選ばれない。誰だってそうだ。シェリンとて、そうなのだ。
第一試合、私の相手は渋谷ハジメ先輩だった。にじさんじライバートーナメント戦、乗り気ではない。でも、なんたか退く気にもなれない。どうせなら、最近の引きこもり生活から来る運動不足解消と、ついでに身体のシェイプアップを、というのが自分会議での折衷案。人外の人たちがウヨウヨしてる中、生き残れるのはゲームの中だけ。
だから、カラテとか柔道とかの試合のような感じになるだろう、勝手に予想している。
『Aブロック、第七試合、渋谷ハジメ対鈴原るるだ。始め!』
ともかく、試合開始だ。初めて聞くマスコットキャラクターの声をマイクを通して聞きながら、私は無言でファイティングポーズをとる。運動はあまりやってこなかった。学校の、体育で習った以上のことは出来ないから、小さい頃にテレビで見たオリンピック選手の真似でもしよう、と思った。
気付けば、目の前に軍服姿のハジメ先輩の姿が。右の腕を後方にやって、拳を作っている。行けない、ぼーっとしていた。
「
──猟ってない。
ボディを狙った右拳を危なげなく避ける。武道とか運動競技とか舞踊とかをやっているのならそれ用の足運びがあるんだろうけど、私の場合はそのいずれてもなく。適当に横に踏み込んで、伸びきったハジメ先輩の腕、肘の辺りを手の平でパンと弾く。
目を見開くハジメ先輩。こういう場面では『お返しっ!!』とするのがお約束だけど、何をすればいいのかよく分からなくて、これまた適当に、右肩に貫手を放つ。
コマンドに迷う時間もあって、ハジメ先輩は紙一重で私の手刀を避けると後ろっ飛びで距離を取った。両者、向き合う、
「…………目、めっちゃ良くない?」
「まあ、そこそこって感じです。先輩は随分本気なんですね?」
「というよりは大会が、ね。みんなそういう雰囲気だし、こういう機会もないからね」
「ゲームしてて試合は見れてないんですけど、お手柔らかにお願いします」
というと、先程マネージャーから聞いた死人もでたという話は本当のことなのかなぁ。
一生に一度の経験、というものに興味はそそられないけど、私もそんな雰囲気に飲まれてみたくなった。それだけ。
私は再びファイティングポーズをとる。
手は柔らかく開く。深呼吸、足は大股、半身に構えた。
──!!
ぐばっ、だろうか。それなりの勢いでハジメ先輩が突っこんでくる。先程のように右を振りかぶっているわけじゃない。寧ろ先輩の右は、肘を正中線に乗せている。手先は腰にある剣の柄を繊細に握っている。
居合だ。
握りが微妙に変わった途端、また加速した。ので、ビックリして反応できなく、胸を浅く切られてしまう。痛い。
──ズババババッ!
先輩は本気なのかなんなのか、 私の体はどんどん切り刻まれていくが、どの傷も浅く、血が出る程度。つまり血管に届くくらいでしかない。
まあ、でもこのままだと血が出すぎて倒れるかもしれない。
先輩の刃──軍刀は凄い速度で振るわれる。鈍色に光る刀の腹は1秒に1、2、3……いっぱい当たる。
流れる血、鉄の冷たさ、空気の流れを体の中身で感じる。
顔も浅く切れる。耳の先、頬。
……少しだけ、楽しくもある。日常から切り離された非日常、ゲームみたいです。
無造作に腕を掲げる。1秒後には無数の傷ができ上がる。肌に刃が食い込む感触を他人事のように楽しみつつ、斬撃の障壁を食い破って突き進む右腕。距離を取るように後退する先輩。先輩より大きい歩幅で距離を詰めていく。
とうとう私の、無手の間合いに入る。私は手指を柔らかく開いて先輩の首にかけ──
パシッ。
刀の柄を掴む右手、甲を使って、先輩は私の手を弾いた。一瞬、さらに速くなったことに目を見開く。口も少し空いた。鈴原、はしたない。
「降参してくれませんか?」
「それはこっちの台詞かな。次からはもう手加減しないよ?」
「それは…………ちょっと怖いかも。ちょっとだけね」
私たちは再び距離を取った。仕切り直し。
私もやっと、少しだけ、
お互いに退かないから、本気になる。
「僕の能力、教えてあげましょうか」
自己紹介した敵ってだいたい負ける気がする。冗長で、後に続くと対策を取らせるのが面倒だからだ。物語ならそう。
でも、現実だとしても、私はその間に傷が癒えてゆくと思う。全身から流れる赤い液で濡れ鼠なうちに、非日常なアドレナリンが続くうちに決着をつけたい。
……けど、私は少し興味が湧いて、聞いていることにした。鈴原気になる。
「僕はただ単純に速いんですよ。
物理法則・筋肉・ニューロンの許す限りであれば常に最高速がでる。同じような体型・体重・筋肉量であれば絶対に僕が早い。
──刺激が脳に届くまで、処理されるまで、筋肉に命令が届くまで、筋肉が滑り運動によって縮むまで、まあ、色々です。代謝関係も粗方早い。ので、傷の治りも早い。傷付けても無駄、戦えば貴方より絶対に早く、故に貴方より強い。
そもそも、無手と武器。
どうです、これを聞いて、降参して貰えますか?」
「いえ
私は諦めませんよ。まだ、何もしてないですから。やってみなくちゃ分からない。そうですよね?」
「残念ながら……」
言いつつ、刀の握りがきつくなる。──来る──!
息が荒くなる。血湧き肉躍る、なんて、ゲームでもないのにそんな性格じゃないけど、熱い血が流れて体が火照っているのは事実だった。
先程とは比べ物にもならない速さの斬撃の嵐、その第一刀が私に迫る。迫る速度はバッティングセンターの球くらい。驚愕に目と口もちょこっと開く。
──速い。
──けど、対応出来ないほどじゃない。
序盤の剣戟を浴びる限り、刃先は良くても刀の腹より柄側に触れてはいけない。逆に言えば、それにさえ注意すれば後はどうでもいい。
右手を振りかぶりつつ、剣閃から横にズレる。勢いよく踏み込んで、自分でもよく分からないくらいの、最高速で掌底を先輩に──。
!!
顎を打った感覚があった。完璧に捉えていた。実際、審判が決着を下したのは仰向けに倒れた先輩の姿を見た後。
お互いが最高速で、私はその速度の中にあってさらに掌底を打つ速度、腕のバネからもあって。
有り得ない角度に曲がった首を晒したまま体は仰向けに倒れた渋谷ハジメ先輩は、担架に運ばれていった。
──あっけないな
──先輩、弱すぎる。
…………実際の手応えからも分かる、初めてニンゲンを殺した感じ。
骨を砕く感触、生気が抜け落ちるのを肌で感じた。
こういう時、ゲームだとシナリオシーンでもどしてしまうのがお約束だ。印象的で、気持ちの切り替えがしやすい。
ゲームと現実は違うんだなぁ、とぼんやり逃避するように思いながら、自分の手がそのままなのがどうも落ち着かず、御手洗に急ぐ鈴原なのでした。
パイセンいつの間に剣持ってたっていう