にじさんじ妄想トーナメント戦 鈴原るる全試合 作:りら_らるらりら
女神様から再三に渡って説明されようとも、私の心は晴れなかった。あの時はアドレナリンだとかなんだとかで気が興奮していたけど、私は確かにこの手で……。
その実感は抜けようもない。
ゲームをして落ち着けようと思っても、上手くいかない。片手間に倒せていた敵に苦戦している。綺麗なはずなのに濡れている気がする手はいつの間にか震える。
何よりも嫌なのは──あの、戦いの匂いに充満した場所で、また同じことが起こることだ。それは他の選手たちもそうだし、私もそうだ。それぞれの心持ちは違うけれど、私に限って、戦いに盲目的な崇拝を置いているのが我慢ならない。
普通の美大生鈴原るるはどこかに行って、ここにいるのは今や私、次の戦いに、次の興奮へと怯える私だ。
次の相手をトーナメント表で確認、鈴谷アキ──と、書かれている。次は恐らくだけど、ジャンケン。勝つ。
──
勝った。
相手の最初は《グー》がジャンケン《ポン》に変わるまでの手の動きを見てから、手を変える。相手の手の動きに合わせて手を振りつつ、最速の後出し。
ただそれを3回繰り返しただけで勝てた。私は更なる戦いへと進み、且つ一人を救えた。それは純粋に良かった、けど……。
私はトーナメント表をもう一度見る。矢車りね、とある。さすがに190mは難しそうだ、と思えば、今までの戦いで消耗して小さくなったらしい。とはいえ、気は抜けない。
ちら、と控え室の中横を見てみる。そこには皮の防具含め、色々あった。鋸、鉈、ナイフ、刀、拳銃…………。
自分に馴染みのあるゲーム風衣装と武器を用意してみたはいいものの、使う気にもなれなかったもの。渋谷先輩と戦って勝った後にはもう使わない方がいいんじゃないかと思い始めた。
勿論、徒手空拳で勝てるとは思っていなく、それならそれでいい気がする。ゲームが好きなのと、戦いは別。同じにしてしまえば更にまた何かしらが悪く作用する気がして。
『続いて!
お待ちかね!
こんるるーの時間だゼ!』
マスコットキャラクターの声が響く。そろそろ時間みたいだ。
鋸の刃先に触れ、少しだけ押し込むと指をペロリと舐める。
『……殺人的な速度で動く手足はそれ自体凶器! 徒手空拳? いいや、ナイフが四本だ! 貫手と掌底はもはや弾丸! 漫画のようになりたきゃ来な! 間違いなく、Aブロック最強候補──鈴原るる!』
大仰な煽りで会場は沸きに沸いている。
声はビリビリと煩わしく私の鼓膜を揺らす。
自身の指に何の味もしないのを、鋸の刃先が一箇所潰れたのを見て、私は歩き出す。Aブロック、準決勝──。最悪、この試合を入れて三試合で終わり。そうすれば、ゲームの続きをしよう。
本人にしか見えない時計は何度も止まり、動き、矢車自体をほんの少しだけの未来におくる。この方法により、開始から十分、止まらない鈴原るるの猛攻から矢車は逃れていた。
(ウソ……ドンドン速くなってる!?)
一撃毎に、一秒毎に速度を上げていく鈴原るるの止まらない攻撃の間に、矢車りねの攻撃が入る隙間はなかった。鈴原るるは渋谷ハジメを下し、間で戦いの心得を多少なりとも得たが、矢車りねはそうではないのもそれに拍車をかけた。
何せ、矢車は自分の時空を歪めなければ鈴原るるの攻撃を《見る》事さえできない。巨大化パワーなき今、頼みの綱の時空能力も、鈴原るるの一挙手一投足を見つめるのと攻撃を《外す》ことで精一杯。
そして、矢車りねは戦いの中で成長できるタイプではない。ここで大きく差が出た。
「なんで当たらないの!?」
驚きに顔を歪めつつも鈴原の手足は止まらない。小足、上段回し蹴り、トウ・キック、膝蹴り、後ろ回し蹴り、組み付き、掌底、貫手、手刀、そして拳。その瞬間、鈴原るるの体と接触している部分だけがほんの少し未来に飛んでいるために、当たらず、鈴原るるは攻撃を続ける。
(この子、いつまで攻撃が続くの!?)
傍から見れば、何がなんだか、分からない、台風。鈴原るるのカーディガンの色だけが特徴的に見える、ピンク色のボヤけた球。
当たっているのに当たっていない。蜃気楼のように、視覚と感覚の伴わない現象に、しかして鈴原るるは冷静だった。
────
やっぱり! と、私鈴原るるは確信を持っていた。
一瞬気配が弱まるるけど、ちょっとのラグの後元に戻る。なら……。
相手のが避けた訳じゃなくて確実に当たっているのに、何故か当たっていない。よく分からない現象は面白くて、おかしくて、私を興奮させるには十分だったのです。
──凄い、凄い! なんで当たらないんですか!? どういうタネが──?
──それは教えられないね
向こうは防戦? 一方だからとラッシュを叩き込みながら、1ミリ足りとも伝わらない手応えに喜んで、悩んで、わからなくて、それがまた楽しくて。
顎を狙った掌底は当たったはずなのに、何故か手応えなく相手の顎に埋まる。まるでプロジェクターみたいだけど、実際にそうらしい。
ゲーマーの性なのかなんなのか、そういった状態に陥った時無意識に、コマンド入力を少し遅らせる・早める癖がある。重度のゲーマーである私もそうで、なんでかな、と考えつつも体は自然、ラグ対応の動きだった。
──!
少しだけ遅らせて同じ位置に《置いた》貫手に、何かしらの感触を得て、咄嗟に掴んだまま、急停止。不格好なまま時間が止まったように1秒すぎる。
鈴原、掴んだ……。
引き戻し、ゆっくりと指を開くと、手の中には小さな切れ端。紫色。矢車菊。確かに、彼女の髪飾りの一つに、切れ端がピッタリだ。
追いついた。今の感覚。
私は本当はどうすればいいのかよく分からないけど、感覚だった。何となく、やってみたら出来た。
なら、次は何となくじゃない。絶対に出来るはず。
自分と全力で距離を取っていた対戦相手との距離を一息にも満たない踏み込みで詰め、切るような鋭さで蹴りを放つ。例の如く当たらない。けど、それは元から分かっている。要は素振りと同じ!
最初は拳を作る。回し蹴り続いて手刀、穿つようなトウ・キック、貫手……
一瞬でトップスピードにまで加速した私は、ドンドン速度、というか回転数を上げながら相手をしっかり観察する。
何もしていなかった。いや、できていない。ただ、何らかの能力を任意に発動してるのでこちらの攻撃を認識はしているらしいけど……。
体が追いついてないのかな。
ともかく、私がやることは、さっきと同じ感覚で打ち込むこと。
──。
また当たった。今度はかする程度だけれども、蹴りの速度的に火傷くらいはしたはず。
暫くそうやって、追い詰める。
当たるようになる。クリーンヒットとは言えず、血が出る程度。少しミスかな。タイミング絶対分かってたのに、フェイントに思わず反応した。一瞬、判断が遅れた。
良く当たる。ガボッ、と音がして肉が削れる。いい感じ、と自分でも思うのは、吹き出す血のせいか、それとも、この戦いが予想外だから?
よく分からないままに、気分はどんどん突き上げられて、そしてよく分からないままに戦況はどんどん変わる。
抉ったのは肘より少し上の肉だったらしく、驚気に満ちた顔を見つつ、首を狙った残酷な手刀は、直前でラグに対応するように柔らかく開く。
首根っこを掴む。引っ倒す。トドメに顔に掌を食らわせる直前、迷う。
いいんだろうか。やっても。
どう考えても、相手に武術の心得なんてないのは明らかで、能力で勝ち進んできただけに思えて、つまりそれは、この大会を、大して重く捉えてないように思え、それは戦いの中の表情から明らかだ。
とはいえ。
戦いの中。昂る中。歓喜と悦楽の中。
麻痺した脳は、振り下ろす右手を止められない。
──
プレス機にかけられた