にじさんじ妄想トーナメント戦 鈴原るる全試合   作:りら_らるらりら

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鈴原るる、狂(エロ)い


総合準決勝 樋口楓対アンジュ・カトリーナ

 この大会、何か引っかかりがある。アンジュ・カトリーナはイチ錬金術師として、そう分析している──。

 

「なんやしぶといなあアンジュぅ」

「そりゃあ、()()()()るんで。中途半端には負けられないでしょ」

「は。ええ答えやな。何を背負っとるんか知らんけど……」

 

 ドン!! 

 

 振りかぶった樋口の拳はアンジュの拳と正面からぶつかり合い、その鈍い音は衝撃波を伴ってステージを駆け抜ける。

 ただの拳ではなかった。ただの錬金術師であるアンジュが樋口楓とぶつかりあえる理由。アンジュの腕は半ばより岩石を纏い、本来の腕の数倍の大きさを持っていた。所々に光る色の混じるその腕は、今大会で間違いなく上達した錬金術のもの。

 

「勝つんはウチやからな」

「あの子を放置するわけにはいかないんですよね……」

「もう次の相手のこと考えとんのかあ、余裕やなあ」

 

 錬金術によって次々に拳を作り出すも、躱され、また正面から打ち砕かれ、時折その鼻先に届く拳もお構いなしに樋口は突っ込んでくる。アンジュとてトーナメントを勝ち抜き、確かな力を持ってはいるが、その錬金術の腕はやはり未だ”完全”とは言い難い。また、この試合にはもともとアンジュは乗り気ではなかったこともあり、戦況はアンジュの劣勢だった。

 トーナメントをアンジュが勝ち進んだのは実力がすぐれていたからでは決してない。いくつかの運の重なりと、彼女自身の()()()だ。親友との戦いを経てなにものにも代えがたい精神を身に着けた。その経験はほかのどの参加者をも撥ね退け、打ち砕く牙となる。大いなる覚悟は彼女に力をあたえ、そして”ここ”まで導いた。

 優勝すれば、”どんな願い事でも一つだけ、実現できる”。アンジュはその商品を使って、このトーナメントで亡くなった人を生き返らせる。トーナメント参加者の想いは同じだろうが、やはりアンジュは自分が優勝するんだと思う。彼女がこのトーナメントで達成すべき目標は、優勝することを第一に、もう一つあった。()()()()()を優勝()()()()こと。

 それはトーナメントの最中、とある笑い話を聞いたことに端を発する。

 ──鈴原るるは、このままだと()()なくなる。

 未来人から聞いた100%の助言は、それを聞かなくとも冷静に全試合を観察していたアンジュはわかっていた。戦闘時に現れる彼女の性格。《それ》とうまく折り合いをつけなければ、このトーナメントの中で暴走した彼女の性格(うちがわ)はやがて自分自身をも呑み込む。その結果は……あえて聞かなかった。そこから先は真実にはならないから。アタシが──アンジュ・カトリーナがそれを変えるからだ。……なんて、かっこつけでもあるが、どうせやらなければならないことだ。かっこつけられるだけかっこつけていきたい。

 そのためにも、まずは目の前の戦いに勝利しなければいけないんだけど。眼前の対戦相手──樋口楓、先輩の前に『大』を三つほどつけたいくらいのレジェンド的存在──の言葉通り、余計なことを考えている暇はない。集中しなければ。

 

 瞬きもする暇なく繰り出される拳。迫りくるいくつもの拳を冷静に、土塊から生成した拳で相殺していく。もはや自分の動体視力では追い付いていない錬成速度。残像がくっきりと見えていることからそれは明らかで、しかし実際にアンジュは対応できている。なぜか。考える暇もなく次の拳、蹴り、油断していれば頭突きすら飛んでくる。それらすべてを錬金術でさばいていく。手元に転がした一つの石からいくつも石柱を伸ばし、拳を、蹴りを受け止める。頭突きは地面を針のように伸ばしてけん制。自分の知覚速度も超えた超速度の錬成。

 

 ──! 

 

 背後をとられる。振り向きつつ、右足で砂嵐を展開。今のアンジュなら極簡単な錬成なら利き足からも操作できる。舞い上がった砂を固めて手に集め、大振りの蹴りを受け止める。即興だが、これで案外錬成速度は上がる。足も使って錬成の一段階を済ませることで、両手での錬成とは手間が段違いだ。今見せたように、足元にある地面などの素材を一瞬で手元に寄せることで立ったまま地面の錬成ができる点もよいところである。砂嵐なんかで地面を供給すれば地に足をつけている限りではあるがノータイムの錬成すら可能だ。試合中ふとしたきっかけでできるようになったこの技は、習得した時点でこそ相手の意表を突くことができたので有効だったが、一発屋で終わらせない為には練度が必要で、この試合が始まる前にやっと形になったもの。メリットは高速での錬成、そして錬成が一部任せられることによって片手がフリーになることだ。デメリットは極々簡単な錬成しかできないことと、若干疲れやすいこと、集中力を使うことなのでフリーになった手でさえ普段通りの複雑なことはできない。この複雑なことができなくなるというのが厄介で、錬金術において”基点”というのは莫大なメリットであるけど、左手一本だけでもそれと釣り合うくらいのデメリットになりうる。

 例えば、錬成された拳はその形を成さなく、内部にも密に詰まっているかといえばそうでなく。要は出来が悪い。当然、蹴り砕かれ、左手をも巻き込んで振りぬかれた右足がアタシの体を宙に浮かせる。肩の骨が悲鳴を上げる。クリーンヒットでなくとも、加えて錬金術での減衰もあってなおこの威力。もしマトモに受ければ、もやしみたいなアタシの体のコト、とんでもないことになるだろう。

 さて、と。数歩後退させられ、崩れていた体勢をもとに戻す。後ろに引いた右手を握りしめる。一瞬、たとえ少しばかりの不利があっても、一瞬あればワンランク上の錬成が準備できる。それをどう察知したのか、追撃はない。ここで距離を詰めようとは思わない。にらみ合いになった時、強いのはこちらだ。

 

 ……。

 

 一瞬。錬金術にもどちらかの手が一瞬開けば有利をとれるが、無手でもそうらしい。そしてそれどうし牽制し合って膠着状態が生まれれば、それは長く続くだろう。

 

 少し、距離を開ける。アタシの間合いを考えれば少し距離が欲しい。警戒しながら後ずさりをする。

 詰めてはこない。

 

 にらみ合いは、しばらく続きそうだ。

 

 

 ♦

 

「──何か、()()()があるんですよねぇ」

 

 

 

 大会ステージ裏会館。敗退者の中でも生存者のみに与えられた小さな小部屋──本人は捜査本部と主張している──で、シェリン・バーガンディはソファに深く沈み込む。ズズ、と啜るコーヒーの味は甘い。ソーサーに戻したカップの中身は、モニタに映し出される試合模様のように渦を巻いていた。カチ、カチと壁時計の音だけが流れる。

 品の良い装飾のなされたローテーブルに並べられた《証拠品》。それらを手に取って弄ぶ。未来世界の工学銃、《賢者の石》との疑いのある一見ただの石、壊れた懐中時計、ダイヤモンドのスコップなど。これらは大会敗退者の残したものだったり、試合後舞台に残っていたものだ。証拠品だ、と思って考える前に回収していたが、今思えば何の証拠品かはよく分からない。何かつながりがあるような気はするが、考えてもよく分からないものでようするにはただのコレクション。

 

「違和感、ねぇ」

 

 入口の小さな木製ドアにもたれかかって聞いてくるのは月ノ美兎、先輩。もはや説明不要の偉人というか、この人の後輩だという事が一種の誇りにすら思えるが、今回に限っては助手(ワトソン)という立場だった。彼女自身がそう持ち掛けてきたのだ。この大会に潜む違和感、なかったことにされたことの正体を、彼女も探っているのだ。協力すれば早く終わる。証拠品集めの途中、そう持ち掛けられれば断る理由なんてない。まあ、問題は何一つとして解決はしていないが。これからだ。

 

「ううん、わたくしも少し考えてみたんですけど……どうにも分からないんですよね」

「そうですよね! 何か分からないことがあるのは分かっているんですが、いまいちつかみきれないというか……」

 

 違和感の正体は依然として分からない。喉のあたりまで出かかっている感覚はあるんだけど。遅々として進まない捜査とは裏腹に、砂時計の中の砂はサラサラ落ちていく。こんな無駄な時間を過ごしている間にも、絶望の未来は迫っているというのに。別に誰に何を頼まれたわけではないが、これはまさしく探偵の仕事。わたくしがやらねば誰がやる。あ、委員長がいるか。

 

「そもそもの話なんですけど……。ちょっとごめんなさい」

 

 コツコツ、靴音を鳴らして正面のソファに座った委員長は、唐突に話し出した、かと思うと、言いよどみ、突然口元を抑えて体をゆすり笑い出す。おかしくてたまらないといった様子で、本気で笑っている時にこういった笑い方を無意識にする人は往々にして秘密主義で、隠し事のある人だ。まあ、この人に重大な隠し事があるとは思いませんがね。

 

「いえ、分かってしまったかもしれません。──この大会の、真実ってやつがねぇ」

 

 先ほどまで自信なさげに考え込んで腕組みをしていた委員長はその腕を解き、少しだけもったいぶって、そう言った。

 

 ♦

 

 突如割り込んできた謎の飛行物体が巻き起こした砂ぼこりによって戦況は大きく変わっていた。

 右手に砂を凝集し視界を確保する。濃い砂ぼこりが渦を巻いて右手に吸い込まれていき、だんだん視界が晴れてくる。果たしてそこには予想通りの人影がみえた。

 ──ここで乱入ってマジか、やっぱ未来が変わってんのかもな。

 

 瞳の中は虚ろに、ギョロギョロと首の向きとは無関係に周りを見渡していてちょっと怖い。「やっぱり、足、しびれますね」なんてしびれる程度の高度ではないが、()()にとってはそうなのだろうか。およそ人体ではありえない耐久度。昆虫のような図太さで、鈴原るるは平気で立ち上がる。

 鈴原るる。彼女は本当に自分の知る彼女なのか? いまだ人間であるのか? わからない。自分の知る鈴原るるは戦いとは縁のない人物のはずであるが、実際は今こうして舞台に立っている。

 

「こんるる……や、ちょっと違うね。こういう時なんていえばいいんだと思います?」

「なんや、るるちゃん。相手してくれるんかいな。……ちょうど、アンジュじゃつまらんな思っとったとこや」

「ほぼ互角だと思っていたんですけど」

 

 手を抜かれているふうではなかったが。

 ようやく足の痺れが取れたらしい鈴原るるは、手の指を合わせていじいじと乙女のような仕草で躊躇いながら言う。

 

「…………その、恥ずかしいんですけれど。

 待ちくたびれてしまって。乱入とかしたら面白いかなって」

「うちらのコトバカにしとるんか?」

「……そ、んなつもりは。ないんですけどね」

 

 できる。そう思った。この状況で二対一に戦ったとして、彼女は勝つだろう。それを理解しているからこそ先輩もしかけない。そんな空気など知らない風にふるまう彼女は、やはりそんなところが自分の知る彼女だ。

 実際のところ、彼女についてはどうなっているのだろうか。この大会では自分を含む多くの人間が参加し、常人にはありえない優秀な成績を残しているが。それらと比べてもなお彼女の『それ』は人間そのものの枠を超えているようにしか思えない、明らかにおかしなスピード、人外のそれと比べても後れを取らないパワー、時折刃物にも変わる四肢……。そしてなにより異常なのは、たった一秒、一瞬ごとに、すべての要素が成長し続ける彼女の体そのものだ。硬くなる拳、速くなる突き、鋭さを増す蹴りと磨かれ続ける戦闘センス。今や大会が始まる前の鈴原るるなどどこにもいない。流動し続ける彼女の体は、端から見てとても……変に見える。コミックにも出てくるような超越的な身体能力はそれがフィクションだからこそ楽しめるものだ。現実に持ち込まれてもただただ困惑するだけである。や、それは錬金術師が言うなという話。

 

「うふふ……こんるるー」

「気に入ったん? 怖いからやめーや、それ」

「でもわたしってそういう()()()()じゃないですか」

 

 イメージ、か。たしかに。彼女はその清廉な声・態度とは裏腹にまるでRPGのラスボスのような扱いを受けることがある。だが、それがまさに現実になる状況があるとはまさか思わない。実際に今肌を打つこの圧力は比喩でもなんでもなく、空想上の大魔王なんかの比ではない。なんてことだ、とここで気づかないまでも、試合前から気づいていたと思いなおす。

 

 

 ──彼女の”性質”は、すでに自分を上回っている……。

 

 

 これが樋口先輩なら分からないが、先程は互角と言ったてまえ悔しくはあるものの、恐らく、自分はもう届かないだろう。あと一歩遅かった。未来を知ったことで大会の行方を少しだけ変えられたのではと思っていたが、どうやらそれも思い上がりだったようだ。改めて絶望する。今自分が彼女に立ちむかっていったとして、時間稼ぎ程度にしかならなさそうだ。

 しかし、絶望するばかりでもないかもしれない。本来なら、彼女の前にいるのは自分ひとりだった。先輩がいる分、有利に戦闘を進められる。鈴原さんもこの状況で一向にしかけてこないあたり、案外的外れでもない。こちらから仕掛ければ確実に一人持っていかれる。が、逆に向こうから仕掛けてくれば、相当な痛手を与えられるはずである。

 

 戦況は動かない。先輩同士で何やら他愛ない話をしているが、これも時間稼ぎだろう。しかし、なんのために? 果たして、この場にさっそうと現れる救世主はいるのだろうか。今はあくまで大会の途中、少しトラブルがあったもののあくまで対戦カード内。大会側の演出の一つという見方もできる。尚、他の選手は敗退している。クソ、本当に希望がないぞ。この状況をひっくり返せるとしたらライバーくらいで、そういう人たちはもう。ということはここにいる二人で対処しなければいけない訳だが、成功確率は低い。

 いったいどうすれば。

 

 鈴原るるの煮えたぎる闘志とは対照的に、腰に帯びたヘルエスタセイバーの輝きは徐々に失われていく。その分だけ相手の圧力に押され、後ずさりしそうになる。

 時間は、あまりなさそうだ。

 ♦

 

 どおん。轟音を立てて崩壊した”捜査本部”を呆然と見つめた。

 シェリン・バーガンディにとっては探偵ごっこの小道具に過ぎないこの部屋には特に未練なく、高価な家具や小物をそろえなおすのに、事務所に請求するのが忍びないなあという程度。シェリンは基本的には物にはこだわらない主義だった。まあ、今この時に限っては別に理由がある。木造の小部屋。その壁におもむろにあけられた大人二人ほどの大きさの穴。ドアを突き破ってあけられたそれよりも、今は”その原因”の方が重要だからである。

 シェリンは自分の足元に力なく倒れる赤髪の女性を見る。手首に手を当てて脈をはかろうとするも、うまくいかず、いやいやこんな瞬間(とき)に探偵ごっこなんてやっている場合ではない、慌てて顎のあたりに手を添え、血管がしっかりと収縮していることを確認した。良かった、とりあえず生きてはいるようだ。向かいのソファで、中腰の姿勢で顔を手で覆っていた委員長(助手)に声をかけた。委員長は安心したのか、ほっと胸をなでおろす。後輩どうしが殺し合いをすることになる彼女の心境は理解らないが、少なくとも取り乱したりはしていない。

 いや、それは彼女でなくとも言えること……。

 

「委員長ッ!!!」

「や、私は……逃げるとかではなく。怪我人をね? 先輩として運ばないとってことで。シェリンさんもほら、手伝ってくださいよ」

「そうではなくッ!」

 

 突然に大声を出した自分を見て嘘くさい言い訳をし始める彼女だが、今はそんなことはどうでもよかった。彼女にとって、取り返しのつかないことが起きようとしている……。

 シェリンは、委員長が背負う形で運ぼうとしている赤髪の女性、アンジュ・カトリーナを自分の背に背負いながら、当の本人が吹っ飛んできた方向を見つめる。今や意識すらないアンジュの開けた大穴の向こう、今はまだ砂煙で見えないが、その向こうにはいるはずなのだ。大会の様子は捜査室からでもモニターで来ていたので、舞台上でにらみ合っていた()()についてはシェリンたちも知っている。

 

「樋口先輩が……!!」

「え、──?」

 

 切羽詰まったシェリンの言葉にしばらくフリーズしたままではあったが、やがて状況が理解できたのかあからさまに慌て始めた。どんなときにも余裕を崩さぬ委員長の珍しい表情が二度も見れたとあっては、本日の探偵ごっこはかなりの収穫であろうか。

 

「わ、わわわわ。どうしましょう……。いえ、とりあえず行かないと!」

 

()()()()()()()()()()なんて蒼白な顔に似合わない、おどけた風に言ってすぐに舞台方向へと消える委員長。そういえば、走る姿は初めて見る委員長の足の速さに驚く。同じ状況になった時、自分も同じ早さで走れるだろうか。

 

「とりあえずアンジュさんを運びましょうかね」

 

 推理の続きはその後だ。

 








スマブラの参戦ムービーばっか考えている。
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