羽沢珈琲店の客寄せパンダは今日も女の子とお喋りします。   作:ARuFa

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お久しぶりです。2週間くらい空きましたね。色々忙しかったです。というかクリスマスや年末と私事で忙しいので、次も空くかもです泣。

今回は初めてポピパの子を書いてみたんですが。案の定バンドリがにわかなので、上手く再現出来てるか微妙なのです。もし違和感があるのなら指摘していただけると助かります。

それと、誤字報告ありがとうございます。とても助かりました。


市ヶ谷 有咲 Ⅰ

 

 

 

「え、えいっ!」

「イッつぁいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、今度こそ上手くしてやるからな。じっとしてろよ」

「…………」

 

 

 君子危うきに近寄らず、という言葉がある。

 

 綺麗に掃除された床。今度はフローリングではなく畳に、またもや身を転がされながら、低い視点でそんなことを考えた。

 さらに以前と違う点といえば今度は柔らかい枕がわりがあるということだろうか。いや、今はどうでもいいか。

 曰く、その言葉の意味とは教養と徳のあるものは自分の行動を慎むものなので危険なところには近づくな、ということらしい。

 

 

「…………」

 

 

 別に自分を教養のあるものだとか徳を積んでいるとかを言うつもりはないけれど。しかし確かに見えてる地雷にわざわざ足を突っ込むようなマネはしたくない。そんなことをしていては命がいくつあっても足りないのだ。

 しかし……まあ悲しいかな。ボク自身は特に何かをしているというワケではないはずなのに。なのにも関わらず普段から厄介事に巻き込まれるのは一体どういう了見なのだろうか。

 どういう訳か普段生活をしていると、その危うきものの方から此方に勝手に近づいてくるという訳だ。意味がわからない。

 

 

「市ヶ谷ほんとに大丈夫? それさっきも聞いたんだけど?」

「しつけーぞひたき。いいから大人しくしてろ」

「ホントだろうね」

 

 

 何故か男なのに貞操の心配をする必要があったり。接客中になにやらねっとりとした視線を感じたり。数え上げたらキリがない。

 とまぁそんな感じで。今回も、そんなワケで。

 

 

「耳掃除くらい……出来るってば!」

「そう言ってキミはさっきボクの耳を破壊したんだけどなぁ」

 

 

 というわけで今日もボクの身体……今回は耳が、今破滅の危機に瀕していた。

 

 

「……そんなに心配?」

「キミは前科ありだろう」

「い、いいからっ! あ、あたしに委ねろよ」

「ふふ、委ねるのはムリかなぁ〜」

 

 

 現在市ヶ谷に膝枕をしてもらい、竹の耳かきで耳掃除をして貰っているワケだが。正直、震えが止まらない。

 先程ガシュッっといったのだ。ガシュッって。リアルに。余裕そうに振舞ってはいるが、あんな音が耳から聞こえてくるものなのかと驚いた。

 思わず耳を疑った。ダブルの意味で。どうなってんだボクの耳はと。

 

 

「膝枕だけでよかったかな」

「あたしの耳掃除は気に入らねーと」

「そうは言ってないじゃない?」

「気持ちよくねーと」

「膝枕は気持ちいいよ?」

「そ、そうか?」

「ちょっとつぐみより高いけどね」

「それはあたしの脚が太いって言いてーのかぁ……?」

「いだだだだだ」

 

 

 ちょっと。こらこら。

 やめろやめろ。ぐりぐりするな。

 

 

「もう。不器用以外で痛くするの、やめてよね」

「もうってなんだよ。もうって。可愛いなおまえ」

「別に市ヶ谷の脚が太いなんて言ってないでしょ」

「でもそういうことじゃねーか」

「違くて。つぐみが細いんだよ」

 

 

 ぽんぽんと耳を叩いて痛みを和らげる。

 

 

「知ってる? つぐみのこと」

「羽沢さんだろ? そりゃ知ってるけど」

「ちょっとさ……細いでしょあの子」

「ノーコメントだな」

「ホラ、寝る時低い枕だと違和感あるじゃない?」

「てかひたきおまえ、妹に膝枕させてんのかよ」

「だって勝手にしてくるし」

 

 

 ため息混じりに言う。気まずそうに。別に好きにさせているわけじゃない。

 すると市ヶ谷はぽかんと開口し手を止めたが、残念ながら事実なのでね。受け入れていただきたい。

 朝起きると、ふと髪に違和感を感じる時がある。

 その正体はつぐみがボクのベッドの上で正座をし、その太ももの上にボクの頭をのっけて髪を撫でているものだった。

 そんな甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる妹と目が合うと、彼女は優しく髪を撫で梳きながら慈愛に満ちた表情で此方を見下ろし、

 

 

『ふふ……お兄ちゃん、おはよ』

『お、おはよう?』

 

 

 と、何故か若干恍惚とした顔で挨拶をしてくれる。

 そこにはなにやら得体の知れない恐ろしい圧を感じるので、単純にやめろとも言えない。

 

 

「まァ、いろいろあるんだ。羽沢家には」

「いろいろって。大丈夫なのかそれ」

「さあ」

 

 

 確かにちょっと心配であるけれど。

 しかし将来成長して、彼氏になった男を支えられるいい女になると思えばいいんじゃないだろうか。知らんけど。

 

 

「立派に育ってくれて、お兄ちゃん嬉しいよ」

「お兄ちゃんねー……」

「ん?」

「んにゃ。羽沢さんはおまえのことお兄ちゃんって思ってんのかなーって」

「え。なにそれ。もしかして兄って思われてない? そんなに信用ないのかな」

 

 

 確かに怒られることも増えているけれど。

 

 

「いやそーじゃなくて……いやなんでもねぇ」

「んー?」

 

 

 ボソボソと口ごもる市ヶ谷。何となく要領を得ない。

 

 

「ま、今はこっちが先だな」

「げっ」

 

 

 しかしすぐにケロッと元に戻った。ちくしょう覚えてたか。このまま妹の話で他愛のない雰囲気を作って、いい感じに有耶無耶にしようと思ってたのに。

 

 

「おら、とっとと済ませんぞー」

「ええ。まだやんの?」

「んだよ。やっぱ不満なんじゃねーか」

「だって市ヶ谷、キミ不器用すぎるぞ」

「ひたきがごそごそ動くからだろー」

「えぇ……」

 

 

 なにやら苦言を呈された。

 そんなに動いてないよ。酷い言いがかりだ。

 動いてたとしてもそれは恐らく危機回避なのでボクは悪くないと思う。

 

 

「市ヶ谷がヘタクソなのがいけないんじゃ」

「な〜んか言ったか〜?」

「えだだだだだ」

 

 

 ぐりぐりぐりぐりぐり。

 いてぇいてぇいてぇいてぇ。

 

 

「……仕方ねぇ。ちょっと固定するか」

「固定?」

「ちょっと向き変えてさ」

「向き?」

 

 

 はて、向きとな? 

 まーた意味のわからんことを。いったいどういうことだろうか。

 現在ボクは市ヶ谷の太ももの長い向きに対して垂直になるように……言わばボクの後頭部が彼女の腹側に向くような格好になっている。

 

 

「? どういうこと?」

 

 

 何となく理解が及ばないので彼女に尋ねる

 他人から耳掃除をされる体勢といえば、これ以外にあるだろうか?

 

 

「いやだからさ、方向を90度変えてさ」

「うん……うん? 頭頂部が市ヶ谷のお腹の方に向くようにってこと?」

「そうそう。それで脚でおまえの頭を挟んで固定するんだ」

「うんうん……うん?」

「だからぁ、太ももの間におまえの頭を落として挟んで固定して……」

「いや分かるけど。なんで?」

「そしたら余計な動きも出来ねぇし。おまえも抵抗出来ねーだろ」

 

 

 …………。

 

 

「なんだよ。また不満そうな顔しやがって」

「不満だよ」

「贅沢なやつめ」

「いやいや」

 

 

 贅沢て。

 

 

「それボクが窒息するんだけど。顔の向き的に」

「……いやらしいやつめ」

「……なんでだよ」

「女子のふとももに挟まれて窒息したいだなんて」

「言ってないねぇ」

「いやらしいにも程があるぜ」

「だから言ってないねぇ!」

 

 

 キミだよいやらしいやつは。

 だってボクじゃないもんそれ言ったの。

 ボクじゃないとすれば、キミしかいないだろうに。

 

 

「キミが提案したんじゃないの?」

「けどそんな発想はなかったっつーか」

「その言い方やめようよ。それだとボクが常にそんな発想してる変態みたいじゃない?」

「…………」

「違うからね」

 

 

 もう一度ため息をついた。先程と性質がまるで違うけれど。

 いや、もうやめようこの話は。優位に進められる気がしない。

 

 

「だから、市ヶ谷がヘタなんじゃないの?」

 

 

 とかく、自分の耳を守らなくてはならない。

 とりあえず耳掃除を終わらせる方向に舵を切る。

 

 

「だ、だってよ、耳の穴がよく見えねーんだよ」

「はぁ? そんなバカな──」

 

 

 はんっ、やれやれ往生際の悪いやつめ。

 市ヶ谷が見苦しくも言い訳をしてきた。そんな彼女を言いくるめるために、表情を見ようと身体を捻り、ここで初めて顔を天井の方へ向けた。

 

 

「こ……と……」

 

 

 しかし市ヶ谷の表情は伺うことは出来ず。

 

 

「あー、なるほどぉ……」

「あ? どした? てか勝手に身体の向き変えんなよやりづらいだろ」

「あ、はい。すいません」

 

 

 思わず敬語で謝ってしまった。というのも、すごく申し訳ない気持ちになったというかなんというか。

 なるほど……なるほど? 見づらいというのは本当らしい。現にボクも今の角度から市ヶ谷の顔は半分程しか見えていない。

 

 

「そういやひまりもヘタクソだったね」

「ん? なんでそこで上原さんの話が出てくるんだ?」

「気にしないで」

「……まあつまり、おまえはいやらしいやつだったってことだな」

「さては気づいてるなキミ」

「へんたい」

「てめぇ」

 

 

 楽しそうだなぁオイ。

 景気よくにやにやしてんじゃねぇよ。いや顔見えないから推測だけども。

 

 

「ほんと、ひたきはやらしいやつだな」

「…………」

 

 

 いや、これはニヤついてんなぁ確実に。

 案の定調子に乗っている。にっこにこだ。

 うーん、ちょっと癪に障るわねぇ。

 

 

「……どうせしっかり見えてても、市ヶ谷は不器用だと思うよ」

「……は?」

「だってそういうキャラじゃない? ねぇ?」

「あーん?」

「不憫だけど、金髪ツインテはそういう宿命背負ってるよねぇ」

「はーん?」

「ドンマイ市ヶ谷。略してドヤ」

「そのドヤ顔ムカつくんだけど……!」

 

 

 せめてもの抵抗として巨峰から目を逸らしつつ、愚痴ってみる。

 

 

「ふんっ、いい度胸だな」

「おや」

 

 

 すると僅かに垣間見えた市ヶ谷の額に青筋が浮かんでるのが見えた。

 その後、直後にスっと後頭部に手が差し込まれ、頭が持ち上がる。そして市ヶ谷は立ち上がりながらボクの頭を優しく畳の上に置いた。

 

 

「? あの?」

「膝枕は終わりだ」

「え? なにさ急に……ちょっ、市ヶ谷ほんとなに──ぐふぅ」

 

 

 彼女が立ち上がった刹那。

 

 

「……ちょっとぉ?」

「はは、覚悟しろよ?」

 

 

 腹部に衝撃を受けた。

 

 

「さんざんあたしの膝枕を堪能したんだ。もういいよな?」

「堪能?」

 

 

 出来ただろうか……。個人的には耳をガシュッってされてそれどころではなかった気がするけれど。

 いやこの際そんなことはどうでもいい。ちらりと、天井……いや自分に対してマウントポジションを取っている市ヶ谷が見つめる。

 彼女はニヤリと笑いながら腕をこちらの頭の両隣に置いた。

 

 

「何したいのキミは」

「耳掃除に決まってんだろ」

「継続するんなら膝枕のままでも良くない?」

「だってよく見えねぇし」

「結局かよ」

「うるせーな。それとも今度はあたしの抱き枕にでもなってみるか?」

「市ヶ谷さん、あなた今うちに来るお客さんと同じ眼をしてますよ」

「……おまえんとこにくる客大丈夫か?」

「それ自虐って分かってる?」

「ふふっ、そうかもなー」

 

 

 ひとしきりニシシと笑った後、オラ横向け横! と乱暴にボクの顔を抱え、横に向かせる。市ヶ谷はそのまま上から密着し、耳掃除を始めた。

 まあ確かにこれならよく見えるだろうが。しかしこんなやり方聞いたことがないんだけど? それに色々とやらかしてるような。とても先程太ももに挟む云々で恥ずかしがっていたとは思えない。

 

 

「やべー……なんか興奮してきた」

「こら」

「ドキドキすんなぁ」

「……」

 

 

 なんなんだ、もう。キミの方がへんたいではないか。

 市ヶ谷はどうやら悪い方向に開き直ってしまったらしい。やはり軽率な行動は慎んで、余計な挑発はしてはいけないのだ。

 

 君子危うきに近寄らず……。

 

 どうやらこのことらしい。なるほどな。でないとこのように危険なことになってしまうと。はぁ。

 やっぱり偉人は偉大なんだなと噛み締めながら。

 結局は市ヶ谷が満足するまで、ボクはよく分からない体勢で耳掃除をされ続けることになった。

 

 

 

 





読了感謝です。

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