羽沢珈琲店の客寄せパンダは今日も女の子とお喋りします。   作:ARuFa

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おねえちゃん系すき。


今井リサ Ⅰ

 

 

「男の人ってさ、自分のこと“俺”って言うじゃん?」

「言うね」

「でもひたきは違うよね」

「そうだね」

「なんでひたきは“俺”じゃなくて“ボク”なの?」

「……はい?」

 

 

 そのあまりに唐突な問いに、思わず素っ頓狂な声が出る。

 思わず磨いてる皿を滑り落としそうになった。危ない。昨日の今日で、また割る訳にはいかない。

 

 

「ねぇ、なんで?」

「なんでと言われても」

 

 

 別にこれといった理由なんてないんだけど。なんとなくじゃだめなのかな。

 しかし対面の彼女はそれで許してくれそうになかった。

 カウンター席に座り両手で頬杖をついた“今井リサ”は、そのくりっとした丸い目を煌めかせながら聞いてくる。

 

 

「あまりこれといった理由はないんだけど」

「でも男の子って“俺”の方が多くない? 気のせい?」

「いや、多いと思うけど」

「だよねー」

「でもボクは“ボク”だから」

「マスターはなんて言ってるの?」

「父さん? あの人は“俺”だよ」

「へぇ〜お父さんゆずりってわけじゃないんだ?」

「父ゆずりなのは技術だけかな」

 

 

 言ってもまだまだ稚拙だけど。

 

 

「けど確かにマスターって“俺”が似合うよね。寡黙な男、って感じで」

「そう? まあ寡黙は間違ってないけど」

「あはは、硬派っぽいよね」

「困るんだけどね。極度に人見知りだから。せっかく喫茶店を開いたのに接客が出来ないなんて……」

「そ、それ結構大変なんじゃない?」

「割と。だから接客は妹や母さんが頑張ってくれてるよ。この時間とかは、出来る時はボクも手伝ってるし」

 

 

 バイト代も出るからね。

 お年頃の男の子は欲しいものがいっぱいなのだ。

 

 

「ねぇ」

「なに?」

「ちょっと、“俺”って言ってみてよ」

「えぇ……」

 

 

 やっと最後の皿まで到達すると、リサはまた突然に意味不明なことをいいだした。

 

 

「なんなのまた」

「ちょっと新鮮なひたきも見たいなーって」

「…………」

 

 

 本当だろうか。いつもの悪ふざけやおもしろがっているだけではないのだろうか。

 正直やりたくはない。絶対不自然になるから。

 ただ母さんがお客さんが過ごしやすい環境を整えたり要望を聞くのも大切だよと言っていた気がする。

 

 …………。

 

 しばしの間逡巡して、皿を置いて、リサの方へ向き直る。

 

 

「……なにか要望は?」

「ふふ、やったぁ♡」

 

 

 仕方ない。一応客の要望だ。背に腹はかえられまい。

 もしかするとこれがきっかけでもっとうちに来てくれるかもしれない。

 

 

「それじゃあねー、『俺のオンナになれよ、リサ』とか☆」

「休憩入りまーす」

「ああっ待って待って!」

 

 

 ちっ、しょうもねぇな。帰ろ帰ろ。

 いやもう自宅だが。……冗談ではない。そんな歯が浮きそうなセリフ、同年代の女子に言えるものか。

 

 

「ふざけてるだけならそれ食べて帰りなよ」

「ふざけてないふざけてないよっ! 真剣!」

「ふざけてないなら頭おかしいから帰りなよ」

「あれ? もしかして選択肢ない?」

 

 

 あるよ。ひとつだけだけど。

 

 

「それ選択肢って言わないじゃん」

「…………」

「アタシは真剣に言ってるんだって」

「何が」

「ひたきは顔がいいよねっ」

「な、なに急に」

「けどちょっと男気がないと思うんだよね〜」

「なっ……!」

「つぐみにも頭が上がってないみたいだし?」

「ぐ……」

「美少年のひたきに男気が出たら、ここの集客力もアップするのにな〜?」

「…………」

 

 

 本当だろうか……。イマイチ信じたくない。

 しかしつぐみや蘭たちに頭が上がらないのは事実である。

 

 

「…………」

 

 

 昨日の白鷺さんのこともそうだが。

 自分の何事にも押す力が弱いのも、自覚はあった。

 

 

「……ぉ」

「……! お!?」

 

 

 集客力アップに繋がるかは正直眉唾物だが……。

 だけど、自分を変化させる良い足がかりにはなるかもしれない。

 

 

「……ぉ、おれの──」

 

 

 とても正面の彼女は見れない。いったいどんな顔をしてこの言葉を待っているのだろうか。

 恥ずかしい。他の人に聞かれたら、多分死ぬ。

 それでも意を決して、1文字1文字、言葉を紡いだ。

 

 

「……お、俺のオンナになれよ……り、リサ」

「REC.ON『正常に録音されました』」

「ぶち殺されたいらしいな」

 

 

 ピピっという機械音。刹那の時間。それが聞こえた瞬間に、俺は目の前の外道女にバターナイフを突きつけていた。

 

 くそが、嵌められた。

 

 恥ずかしくてこいつの方を見なかった弊害が、今ここに。

 当の彼女は嬉しそうな顔でいそいそとイヤフォンを取りだし、つい先程まで録音を実行していたスマホに差し込んだ。

 

 

「キミよく性格悪いって言われるだろ」

「ちょっと静かにして。今ひたきのイケメンゼリフ聞いてるから」

「こいつ……」

 

 

 バターナイフを突きつけても、リサは何処吹く風。キラキラした目でイヤフォンを耳に当て、はふぉー! っとよく分からない奇声を発していた。

 いや……もういいわ。諦めた。こいつはこういうやつだったわ。期待したこっちが馬鹿だった……。

 

 

「なんか、ちょっとゾクゾクするね」

「変態」

「ちょっと無理してる感じがかわいい」

「さいですか」

「餌付けしたくなってきたなぁ……ケーキ食べる?」

「もうそれは立場が逆転してるだろ」

「ええ〜食べさせてあげるのにな〜」

 

 

 あーんと、フォークに差したケーキをひと欠片此方に向けてくる。

 いやそのケーキはキミが頼んだやつだろうに。何故にわざわざ頼んでボクに食わすのか。確かに集客力アップというか、売上は上がりそうだけども。それじゃあまるでホストなんだよなぁ。

 

 

「まあ、いただきますけど」

「ふふふ、またやってね?」

 

 

 誰がやるか。絶対。もう二度とやらないからな。

 

 

 

 

 





読了感謝です。主人公の簡単なプロフィールを一応書いときますね(今更感)



羽沢 ひたき

都内普通科高校2年生。
羽沢つぐみの兄。誕生日は12月17日。身長167cm。血液型B型。好きな食べ物お寿司。嫌いな食べ物トマト。

蘭曰く子リス&クラゲ。ぽわぽわポケモン。寝顔がもう女子やんでお馴染みの羽沢珈琲店のマスコット。彼目当てで来店するお客も多いが、当人にその自覚はない。
ド天然で諍いは苦手。敗北許容型平和主義者。しかし身長が巴に1cm負けていることを非常に気にしている。
男らしくなるために最近筋トレを始めたが、つぐみとひまりに全力で止められたため断念した。

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