羽沢珈琲店の客寄せパンダは今日も女の子とお喋りします。   作:ARuFa

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日間5位までいってましたね。びっくりです。ありがとうございます。

あとこんかいのおはなしはゆるしてくださいいろいろと。


湊友希那 Ⅰ

 

「さあ、説明してもらうわよ」

「それはボクの方が言いたい」

 

 

 なんなんだよ、もう。毎度毎度出オチみたいな始まり方しやがって。

 ボクはため息混じりに言い放った。

 今自分がいるの自宅こと羽沢珈琲店ではない。妹たちがよく行く都内のライブハウス、名前はサークルとか言っただろうか。そこである。

 本日は土曜日で、練習に励む妹のためにお弁当を持ってきただけの筈だったんだけど。

 

 

「いきなり人を簀巻き状態にしておいて、何がしたいんだよ」

 

 

 そう、妹が弁当を忘れていたから、届けに来ただけの筈なのに。

 しかしどういう訳かボクは見知らぬ女子に毛布ごと縛られ、床に転がされている。なんでや。

 こうなった経緯はなんだっただろうか。朧気にしか思い出せないが、確か、店内の廊下でふたりの女の子に名前を聞かれてからだった気がする。

 

 天真爛漫な子と、おどおどした子。

 そんな対象的なふたりに名前を聞かれて、答えると、突如後頭部に衝撃を受けた。

 

 背後からのあまりに速い手刀(多分)を見逃し、膝から前に崩れ落ち、おどおどした子に受け止められた……くらいまでしか覚えていない。

 

 

「後頭部殴打で気絶させるなんて、半分くらい犯罪なんだけど?」

 

 

 で、目を覚ますと、掃除の行き届いたぴかぴかの床に転がされていたと。いやわけわからん。

 

 

「それにこの毛布は?」

「直接縛ると痛いと思って配慮してあげたのよ」

「優しいじゃん」

 

 

 配慮するんなら縛らないという選択肢はなかったんですか? よくよく考えたら全然優しくなかったね。

 

 

「うちのギタリストは器用なの。後遺症なしで気絶させるなんて、わけないわ」

「後遺症がなかったら何やってもいいと思ってるなら大間違いだと思うよ」

「うるさいわね。自分の状況が分かってないのかしら」

「こわっ」

 

 

 なんだこいつ。いやこいつら。

 ここにいるからつぐみ達みたいなもんだって思ってたけど、さっきから聞いていればバンドとかじゃなくて殺し屋じゃないか。

 

 

「……で、本題に戻るわよ。改めて説明してもらおうかしら」

「その前にひとつだけいい?」

「あら、命乞いかしら」

「パンツ見えてるよ」

「死になさい」

「おっと」

 

 

 あっぶな。

 スカートの裾を抑えた彼女の脚が飛んでくる。

 勢いをつくって転がり、なんとか躱した。

 

 

「……本当にいやらしい男ね」

「これはそっちにも落ち度があると思う」

「……女顔のくせに」

「ちょっと。それ気にしてるんだけど」

 

 

 やめてよ関係ないこと言わないでよ。

 あといやらしくもないから。

 

 

「で、何を説明すればいいんだっけ」

「……あなたね? 最近リサにちょっかいをかけているっていう男は」

「異議ありだが?」

 

 

 あまりにも酷い内容に思わず即答してしまった。何かと思えば、ぬかしおるわこいつ。

 どんどん自分の目が腐っていくのがわかる。自分、再審申し立ていいすか?

 

 

「……なんでボクがリサにちょっかい出さなきゃいけないんだよ。逆だよ逆」

「逆?」

「出されてるの。ボクが、リサに」

「嘘よ」

「嘘じゃないよ」

 

 

 3話見ろ。

 

 

「だいたい何を根拠に言ってるのかな」

「あなた、リサを口説いてたでしょ」

「記憶にございませんが?」

「……リサがね、聞いてるのよ」

「何を?」

「“羽沢 ひたき“っていう名前の音声ファイルをよ」

「は?」

 

 

 なんだそれは。

 ボクの名前の音声ファイル?

 

 

「……なに? それ」

「私もスマホの画面をチラッと見ただけだからよくわかんないんだけど……けど何回も何回もリピートしてるのよ。にやにやしながら」

「? ワケわかんないだけど」

「不審に思って、リサが席を立ったときに聞いてみたのよ」

「そしたら?」

「あなたがリサを口説いていたときの音声データだったわ」

「いやわからんわからん」

 

 

 だから全く身に覚えがございませんが?

 

 

「『俺のオンナになれよ、リサ』だなんて……いやらしい……」

「それは分かる」

 

 

 分かる、分かるぞぉ。

 ほんとやらしいよな。やり口が。

 

 

「…………」

 

 

 身に覚え、あったわ。

 いや、けどそれでボクが責められるのはやっぱり異議ありなんだけど?

 

 

「……なるほどね。そういうことか」

「思い出したかしら。どうやら事実のようね」

「事実ではあるんだけど、ただ真実ではないんだよな」

「哲学かしら」

 

 

 違うよ。

 

 

「それは本気で言ったんじゃなくて。言うなれば遊びみたいなモンなの」

「遊び? あなたリサが遊びだとでも言うの。どうやら本気で折檻されたいらしいわね」

「そういうことじゃなくて。その、なんて言うの? 他愛ない会話から始まった軽いジョークみたいな」

「怪しいわね……」

 

 

 発想がすごいな。余程おかんむりだったと見える。

 やっと事情が見えてきたのであの日の事を粗方の説明すると、目の前、いや上か。視界の上の方で此方を見下ろしている彼女は疑わしそうな視線を向けてくる。

 

 

「怪しいも何も。なら当人に確認したらいいんじゃない?」

「それもそうね。ならリサを呼んでこようかしら」

「その前にこの拘束を解いて欲しいんだけどな」

「ダメよ。まだあなたの疑いが晴れたわけじゃないもの」

「さいで」

 

 

 流麗な銀髪の揺らしながらそう答える。なんとも用心深いことだ。

 

 

「それにしても……暑くないのかしら」

「怒るよ? そっちがやったんじゃん」

「だってもし凶暴な男だったら暴れられると困るもの」

 

 

 そして今更ながら不思議そうな表情で此方に近寄り、腰を落とす。つんつんと毛布をつついてくる。

 

 

「楽しそうだね」

「ええ、悪くないわ」

「そういえばさ、ボクの荷物はちゃんとあるんだろうね」

「それなら心配しなくていいわよ。ちゃんと燐子が持っている筈だから」

「燐子って子は知らないけど、それならよかった」

「珍しい風呂敷だったわね。何が入ってるの?」

「お弁当だよ。出来れば昼までにつぐみに届けないと──」

「呼んだ? お兄ちゃん」

 

 

 いけない……そう、言おうとして。

 ルームの扉の方から聞きなれた声音が耳朶をうった。

 

 

「つぐみ……と、ああ皆もいるのか」

「ひ、ひたき? おまえ、何やってるんだ?」

「まあその反応だよねぇ」

 

 

 妹と4人の友人たち。中でも1番長身の宇田川 巴が素っ頓狂な声を出した。

 それにしてもどう説明しようかこの状況。

 この人の友人に手を出した疑いで縛られているんだよなんて、多分言ってもにわかには信じないだろう。

 

 

「……お兄ちゃん」

「……なんだよ」

 

 

 5人の前で1番に立っているつぐみ。心做しか眼が据わっている気がしないでもない。

 つぐみは深呼吸のような深いため息をついて1歩ずつ近づいてきた。

 

 

「そういう趣味なら言ってくれればいいのに……」

「バカっ。違うでしょ。この状況でボクを疑うな」

 

 

 そして彼女からの予想外の角度からの指摘に冷や汗が出るのを感じながらつっこむ。

 言ってくれればって、言ったら何する気なんだよ。怖いよ。

 1年前までは。ボクがうちの店でバイトを始める前まではもっと純粋な妹だったと思うんだけど。今も『ええ!? お兄ちゃん、何やってるの!?』みたいなリアクションをする妹だったはずなんだけど。

 

 

「大丈夫。別にいいんだよ? 私、お兄ちゃんが“よろこぶ”ことやってあげたいもんっ」

 

 

 だけど気がつけばこんなになってしまって。いったい何が原因なんだろうか。何だか“よろこぶ”のニュアンスが危ないぞつぐみ。

 バンドメンバーに手を出した疑惑があるだけ容疑者を昏倒させるような人達がいるライブハウスに通っているせいだろうか。

 ちょっとこのままだとまずいのかもしれない

 

 

「湊さんどういうことですか。ひたきに、何やってるんですか」

「強いて言うなら……事情聴取、かしら」

 

 

 まあそれよりも今は、こっちの方がまずいかもしれないけれど。

 蘭とこの銀髪女子。まさに一触即発。両者にぴりぴりとした空気が流れる。もしかして仲悪いの?

 

 

「モカ、とりあえずこれ解いてくれないか?」

「え〜個人的には面白そうだからもう少しこのままにしたいんだけどな〜」

「後でパンいっぱい買ってあげるから」

「でも今なら何やっても抵抗出来ないっぽいし……ねぇ?」

「こらこら。やめろやめろ」

 

 

 面白がってボクをごろごろと転がすモカをやんわりと諌めながら。ここに来たことを少しばかり後悔する。

 休日の真昼に妹の忘れ物を届けに来て、なぜ縛られて、さらにこんな修羅場に立ち会わなくてはならんのか。

 

 ただ、弁当を届けに来ただけなのに。

 

 こりゃ映像化しゃちゃうかもしれんな。いやねぇか。

 

 

 

 





読了感謝です。続きます。
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