ありふれた職業で世界最強 Bland new world 作:全て儚き名も無き遠い理想郷
召喚や事情説明の所は省いて簡単にまとめた形にします。
書いた方がいいんですけど文字数やばくなるし、いろいろやることがあるのでご了承ください。
感想お待ちしております。
それではどうぞ。
※サブタイトルの意味は「異世界に召喚されて」
教室で魔法陣から発せられた光に包まれた遊牙たちはトータスと呼ばれる異世界に召喚された。聖教協会の教皇の地位に就いているイシュタル・ランゴバルドと名乗る老人に連れられて会議室のような広い部屋に連れてこられて説明を受け、戦争に参加して欲しいという旨を伝えられて元の世界にも帰れないと聞いてクラスが混乱している最中の事。
その手の創作物を何度か読んでいたおかげか冷静さを保てていたハジメはイシュタルによる説明を受けている間、隣に座る遊牙が俯いたまま何も言わないことに違和感を抱いていた。
(珍しいな、遊牙がこういう時に黙ってるなんて…)
遊牙はクラスの決め事に対して何か言うことは少ない、というよりも何も言わない。ただ疑問に感じた事やわからない事は萌音やハジメに聞いてきて自分にとっての疑問を解消する。
そんな彼が疑問どころかわからない事だらけのこの状況でただ黙っているだけの筈がない。必ず何かしらの事で自分に聞いてくるはずだとハジメは思っていた。
「遊牙?どうかし…」
「…くぅー」
ハジメが肩に手を伸ばした途端、遊牙はガクッと体勢を崩して用意されたテーブルの上に塞ぎ込むような体制になった。まるで寝落ちでもしたかのように静かに寝息を立てており、嫌でも彼が熟睡していることを認識させた。
「嘘だろオイ…」とハジメは思わずこぼしてしまう。無理もない、仮にも異世界召喚という非日常に巻き込まれた挙句に戦争に参加しろと言われて冷静でいることの方が難しいというこの状況下で寝るなんてことをする輩が目の前にいたからだ。
流石にこのままではマズいと思い小声で遊牙を起こすハジメ。
「遊牙、起きて。流石に起きないとまずいよ」
「……ん?ハジメか」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ…」
こんな状況下だというのに変わらずにマイペースな親友にハジメは呆れてしまう。遊牙の自由さは今に始まったことではないにしろ、こんな時までこの調子でいられるとなると一周回って褒めたくなる。
しかし、こんな状況を見過ごさない者がいる。クラスのリーダー、天之河光輝である。光輝は欠伸をする遊牙に鋭い視線を向けて口を開いた。
「おい遊牙、まさか今の今まで寝ていたのか?」
光輝の言葉にその場にいる全員の視線が遊牙に向けられる。
いつもの倍は鋭い視線が向けられるが遊牙はそれらを全く気にすることなくハジメに対して口を開く。因みにクラスの状況は全員(一部を除く)で戦争参加を決めた直後で活気に満ちていた。
「爺さんの説明終わったのか?」
「…一応聞くけど、どこまで覚えてるのさ?」
「あの爺さんが一から説明するって言ったとこまで」
「説明始まる前から寝てたんかい!!!」
思わず大声でツッコミを入れてしまうハジメ。まさかの最初から説明を聞いていなかったことにクラスメイトは愚かイシュタルでさえも目を見開き、飲み物を持ってきたメイド達も一人を除いて絶句している。
当の本人はそんな空気に気付いていないのかケロリとしており、ハジメが説明しようと口を開こうとした時だった。待機していたメイドの一人、この場で唯一絶句していないメイドが遊牙に話しかけた。
「私がご説明いたしましょうか?」
「あんたは?」
「待機しているメイドの一人にございます」
「名前は?」
「リーシアと申します」
「それじゃあ、リーシア。説明頼む」
「かしこまりました」
銀髪のスタイル抜群なメイド、リーシアは先ほどイシュタルから説明されたことに付け加えて今の状況をもう一度話し始めた。状況こそカオスであるがハジメはもう一度整理するために耳を傾ける。
まとめるとこういうことだ。
・この世界はトータスと呼ばれている。
・トータスには大きく分けて人間族、魔人族、亜人族の三つの種族に分かれている。人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配していて亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きている。
・人間族と魔人族は何百年も戦争をしている。魔人族は数では人間に劣るが個人の持つ力は大きく、その差を人間族は数で対抗していた。
・戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないが、最近になって魔人族が魔物を使役するという異常事態が多発している。
・魔物とは通常の動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだと言われているが正確な生体は不明。強力な種族固有の魔法が使える。
・魔物を使役できるのはほとんどいなかったが、それが覆されて人間族は数のアドバンテージが崩れ滅びの危機を迎えている。
・自分たちを召喚したのは人間族が崇める守護神、正教教会の唯一神、この世界を創ったとされる至上の神エヒト。
・トータスよりも上位の世界の人間である自分たちはトータスの人間よりも優れた力を有している。その力を使って魔人族を打倒して人間族を救って欲しいとのこと。
・召喚したのはエヒトなので、帰還できるかはエヒトの意思次第で人間に異世界に干渉する魔法は使えないから現状での帰還は不可能。
・イシュタルに文句を言っても仕方ない、この世界の人たちが困ってるんだから救済しようぜ!救済したら帰してくれるかもだしな!的なノリで全員で戦争に参加するのが決定。
的な感じである。
「お分かりいただけましたか?」
「うん。助かった」
「それは良かったです。それでは私はこれで」
そう言ってリーシアが下がると光輝が口を開く。ハジメがチラリと見れば光輝だけでなくクラスメイト全員の視線が遊牙に向けられている。
「聞いての通りだ遊牙。俺たちは困っているこの世界の人たちを助けるために戦う。さっきのようなふざけたやる気のない態度はやめてくれ。みんなに迷惑をかける」
「あー、うん」
「何か言いたいことでもあるのか?」
「聞く気ないだろうし別に何もない」
余計な一言を付け加えて返す遊牙に光輝の視線がさらに鋭い物になる。
ハジメはいつも通りの親友に安心感のような物を感じながらも同時に危うくも思い始めていた。遊牙は良くも悪くもこのクラスで光輝に対して真っ向から物を申せる存在だ。
クラスメイトの大半は戦争をする事がどういうことなのか理解していないだろう。ハジメも本当の意味で戦争をするという事がどういう事なのか理解しきれていない。クラスが取ろうとしている行動はおかしくなりそうな精神を守るための現実逃避とも言えるものだ。
クラスで精神的支えとも言えるリーダー格の光輝に対して真っ向から物を申せる遊牙は色んな意味でこのクラスの起爆剤になりかねない。
(困ったことになったなぁ…)
ハジメはそう思いながら恒例になった溜息を吐く。
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イシュタルに連れられて神山を降りてハイリヒ王国に向かう一行を後ろから見送るメイドーーリーシアは一行の中でただ一人欠伸をしながらのんびりと歩いている少年ーー遊牙とその隣を歩く少年ーーハジメと遊牙の左隣を歩く少女ーー萌音に視線を向けていた。
ここは聖教教会本山のある神山。麓のハイリヒ王国で一行の受け入れ態勢が整っており、今日はそこで王族と騎士団や宮廷魔法師から選ばれた教官たちに挨拶をし、夜に親睦会を兼ねた晩餐会が開かれることになっている。
「彼らはあの集団の中で特別な立ち位置にいる」
リーシアは
「何にせよイシュタルが変なことを吹き込む前に彼らに話しておかなければ」
誰にも聞こえない声でそう言ったリーシアは他のメイドたちに続くように歩き始めた。
彼らは知らないのだろう。何故、自分たちが救世主として呼ばれたのか。
同情はするが、同時に愚かだとも思う。
戦争をするという事がどういう事なのかわかっていないのだろう。
だから戦争をしろと言われているのに即答で参加を表明できる。
戦うことも、殺すこともわかっていない。頭の片隅にあるぐらいが関の山だろう。
「何にしても、
それを知るのは現状この場でリーシアしかいない。
何にせよ、これが王道のありふれた異世界召喚でない事は確かだ。
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翌日から早速訓練と座学が始まった。
騎士団長メルド・ロギンズが遊牙たちの教育係を担当することになった。気楽な喋り方をする豪放磊落な性格で「戦友になるのに何時までも他人行儀に話せるか!」と他の団員たちに普通に接するように忠告するくらいだ。ハジメたちとしてもその方が気楽で良かったので結果的には当たりと言えるだろう。
まず最初にステータスプレートと呼ばれる銀色のプレートが渡され、各々のステータスを確認することになった。ステータスプレートとは神代のアーティファクトの類で身分証明に便利だからという理由で一般市民にも流通している。アーティファクトとは現代では再現できない強力な能力を持った魔法の道具のことでまだ神や眷属たちが地上にいた神代に創られたと言われており、ステータスプレートは昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトである。本来ならアーティファクトは国宝になる物なのだが上記の理由からステータスプレートは例外的に普及している。因みにステータスプレートを作成するアーティファクトも存在しており、毎年教会の厳重な管理のもと必要に応じて作製・配布されている。
ステータスプレートと一緒に渡された針で指先を刺して浮き上がった血を魔法陣に擦り付けるとステータスが表示された。
例としてハジメのステータスを見てみればこのようになる。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル1
天職:練成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
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レベルはその人間の到達できる領域の現在値を示しており、ステータスの上昇と共にレベルは上がっていき上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりはレベル100は潜在能力を全て発揮した極致ということだ。
ステータスは日々の鍛錬で上昇し、魔法や魔法具でも上昇させる事ができる。また魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなるとされており、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているからなのではないかと考えられているそうだ。
天職とはその者の才能であり、末尾の技能と連動しておりその天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少なく、戦闘系と非戦系に分類される。戦闘系は千人に一人、物によっては万人に一人の割合。非戦系は少ないが百人に一人、物によっては十人に一人と珍しくない物も結構あるとの事。
技能=才能の構図である以上、先天的なものであるため増えたりはしないらしいが唯一の例外として派生技能というものがある。これは一つの技能を長年鍛え続けた末に至った者、つまりは壁に越えるに至った者が習得する後天的技能である。
レベル1の平均が10。遊牙たちは数倍から数十倍は高いだろうとメルド団長は笑っているが、どうにもハジメのステータスは高くはないようだ。
「…遊牙のステータスはどう?」
「俺か?俺はこんな感じだぞ」
訓練内容の参考にするために表示されたステータスは報告しなければならないため、嫌な汗を掻くハジメは親友に遠回しの助けを求めた。
「ほれ」と投げ渡されたステータスプレートを受け取って確認してみる。
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八重樫遊牙 17歳 男 レベル1
天職:剣士
筋力:error
体力:error
耐性:error
敏捷:error
魔力:error
魔耐:error
技能:言語理解・error
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「え…?」
異常、その一言に尽きるステータスだった。
全ての数値がerror表記となっており、剣士という絶対に一人はいそうな職業でありながら技能の欄は言語理解以外が同じようにerror表記になっている。
目の前の遊牙はケロリとしている。異常に気づいていないのか、それとも知っていて放置しているのか。ハジメの答えは
(多分、
メルドにまずは光輝がステータスを報告しに前に出た。
公開されたステータスは、
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天之河光輝 17歳 男 レベル1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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メルド団長のレベルが62、ステータスの平均が300前後、この世界でもトップレベルの強さである事を考えればレベル1の時点で既に三分の一に迫ってる光輝のステータスが如何に規格外な事がわかる。メルド団長は笑顔で「規格外な奴め!」と喜んでいる。
だが、ハジメは不思議とそこまで驚かなかった。理由は遊牙のステータスが異常だったからに他ならない。
そんな風に考えているとハジメの番が来てステータスプレートを見せに前に出る。
ハジメの前の生徒たちが光輝に及ばないながら十分チートだったためにホクホクしていたメルド団長の表情が微妙な表情になる。これまで見てきたクラスメイトたちの天職が戦闘系だった事を考えれば仕方ない事だった。
それに食いついた檜山がハジメのステータスプレートを強奪し嘲笑する。それを取り巻きに投げ渡して爆笑と嘲笑を繰り返していく。クラスでよく思われていないハジメへの行いを多くの者が止めようとしなかった。
ついにそれを見かね憤慨した香織が動き出す、その時だった。
ハジメのステータスプレートを持っていた中野の顔面を遊牙が無言の左ストレートで殴り飛ばした。不意を突かれて殴られた中野はその場に尻餅をついてハジメのステータスプレートを落とす。
「ハジメ、簡単に身分証渡しちゃダメだろ」
「あ、ごめん。次から気をつけるよ」
「ほらよ」とハジメにステータスプレートを返す遊牙。あまりに突然のことに訓練場は静かな空気に包まれる。メルド団長も突然のことに驚いており、止めようとした香織も遊牙がした事に驚いて動きを止めていた。その空気を破るように殴られた中野が殴られた右頬を手で抑えながら声を上げた。
「な、何すんだよ!」
「泥棒から物を取り返しただけだ」
「殴ることはねえだろうが!」
「蹴られたかったのか?」
「そういうことじゃねえ!」
「利き手が良かったか?」
「ふ、ふざけんなよ!」
「へいへい」
声を上げる中野に手をひらひらと振りながら適当にいなしている遊牙に冷静になったクラスメイトの大半が鋭い視線を向けるが、当の本人は気にもせずに「利き手じゃない手で殴るもんじゃねえな」とハジメにボヤいており、相手のハジメは苦笑いを浮かべながら「殴らなきゃいいじゃん」と返している。
そんな遊牙に話しかけたのは社会科の教師である畑山愛子だ。
「八重樫君!中野君が南雲君のプレートを奪って笑っていたとは言え、暴力を振るうなんて許しませんよ!ええ、絶対許しませんよ!」
ウガー!と怒りの声を上げる愛子。愛ちゃんの愛称で呼ばれ親しまれている人気な教師である彼女に毒気を抜かれるクラスメイトが多い中、遊牙は違った。
愛子の方に視線を向けずに淡々と言葉を発する。
「…俺が殴る前にアンタがそいつらを止めれば良かったろ。ハジメがやられるのは良くて、そこに座ってる奴が殴られるのは良くないのかよ。っていうか……」
振り返った遊牙の表情に愛子は思わず手で口を覆ってしまった。
戦争参加を決める際にイシュタルに対して抗議する程生徒を大事にしている非常に生徒思いな愛子に向けられたのは怒りでも悲しみでも憎しみでもない表情だった。
「誰だよアンタ」
目は暗闇に染まっているように見えた。愛子が遠目に見てきたハジメや萌音と楽しげに会話している明るい遊牙を全く感じさせなかった。表情が元から存在しないかと感じさせるような、例えるとすればまるで日本人形のような、特撮で例えるとするならば女ヤプールのような無表情が浮かんでいた。
紡がれた言葉は冷ややかな刃となって心臓に深く突き刺さったように錯覚させるような鋭さと強い拒絶が込められているように愛子は感じられた。
次回、悪意と興味と