ありふれた職業で世界最強 Bland new world 作:全て儚き名も無き遠い理想郷
前回の話で愛子先生がアンチのような表現でしたが、アンチ対象ではありません。
雫や香織といったキャラにも厳しい態度や言動が見られますがアンチ対象ではありません。
感想お待ちしてます。
それではどうぞ。
※サブタイトルの意味は「悪意と興味と」
訓練初日から二週間が経過した。
ハジメは訓練の休憩時間を使って王立図書館で調べ物をしている。二週間の訓練で成長どころか自分の役立たずぶりがより明らかになっただけだったので、力が無いなら知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているわけだった。
遊牙はと言うと、初日以降の訓練に参加していなかった。座学にも参加せず王立図書館に来て様々な書物を読み漁っており、クラスメイトたちと別行動を取っていた。行動を共にしているハジメとも別れて行動を取るようになっており、休憩時間の図書館で時間が合えば一緒に書物を読み漁るが訓練と座学の時間では一緒になる事はなかった。
「遊牙、いい加減にするんだ」
ある日、いつも通りの休憩時間のことだった。
一緒に書物を読み漁っていた遊牙とハジメの元に光輝がやって来たのだ。ご丁寧に龍太郎と雫、香織の三人を連れて来ている。ハジメは苦笑いをしながらどう言い訳したものかと考えているが、遊牙は視線を向けることなく書物を読み続けている。
「遊牙、僕たちはこの世界の人たちを助けなきゃならない。不真面目な態度は改めてくれ。そうじゃなければ雫に迷惑がかかる」
光輝が如何にもなセリフを吐くが遊牙は依然として書物に視線を向けたままだ。
その態度に龍太郎が痺れを切らして「おい、聞いてんのかよ」と遊牙の肩に手を置いた途端、読んでいた書物をバンッ!と音を鳴らして閉じると「はぁ」とため息を吐きながら口を開いた。
「ハジメ、本は貸し出しできるか?」
「え?えっと、直接言えばしてくれるんじゃない、かな?」
「そうか」
そう言って立ち上がった遊牙に対して龍太郎が「待てよ」と肩に置いた手の力を強くする。逃がさないとばかりに光輝も遊牙の正面に立ち、遊牙は逃げ道を完全に塞がれてしまう。遊牙は基本的に関わりたくない人物とは口を聞くことなく何かしらの理由付けを行なってその場からフェードアウトする。しかし今回のように逃げ道を塞がれてはその手段は使えず相手をする他にない。
「はぁ」とめんどくさいと言わんばかりにため息を吐いてから遊牙は口を開く。
「…んだよ」
「お前、自分が何してるかわかってんのかよ」
「少なくともお前が望んでることじゃないことぐらいは」
「お前…」
「話は終わった。これから街に出る予定がある。邪魔だ。退け」
龍太郎に視線も向けずにそう言い切る遊牙。
ハジメは「まずいことになった」と内心気が気でなかった。遊牙は基本的に無干渉を貫くスタンスなのだが、初日の訓練の時や今の状況のように嫌いな相手と関わらざるを得ない状況になると無表情でズバズバとした物言いをする。それがきっかけで喧嘩になることが殆どだ。
「遊牙!龍太郎になんて事を言うんだ!」
「龍太郎?誰のことだ」
「なっ!?小学校の頃から一緒だろう!」
「そうなのか。知らなかったな。だからなんだって話だが」
そう言って立ち去ろうとする遊牙を今度は雫が呼び止める。
「待ちなさい」
「…んだよ、次から次に」
「訓練に顔を出すことぐらいはしたら?乗り気じゃない萌音も参加していて、あなたが顔を出さないことにきっと心配してるはずよ」
「萌音には伝えてある。夜に顔出すことを条件で許してもらった」
「けど、心配してるかもしれないでしょう?南雲君だってあなたといた方が楽しいだろうし、萌音だってそうよ。それにあなたがいてくれたら檜山君たちだって下手には出ないんだから。南雲君だって安全な方がいいでしょうし。私と香織もあなたのことが心配なのよ」
「…ハジメはどうなんだ?」
「うん。僕としてもそっちの方がいい、かな。前みたいなことがあったら面倒だしさ」
「…そうか。本を借りてくるから待っててくれ」
「うん。外で待ってるよ」
書物を持ってカウンターのほうに向かう遊牙。
ハジメとしては遊牙が訓練に参加しない理由や自分一人で行動する理由を何となくは理解していた。檜山たち四人組に絡まれるのもそうなのだが、クラス最弱のレッテルを貼られている身としては味方がいてくれた方が良かった。雫や香織、萌音といった面子はそんなことをしないにしても親友がいるといないとではメンタル面でだいぶ楽になる。
遊牙が去ってから龍太郎と光輝がハジメに声をかけてきた。
「南雲、悪いことは言わねえからあいつとの関係を考え直したらどうだ?流石に自分勝手が過ぎるぜ」
「それに南雲、君にも原因はある。遊牙は昔から
そう言って雫と香織を連れて図書館を後にする。
龍太郎の言い分はともかく、光輝の言い分はハジメにも責任の一端はあると何故かハジメを責めるような内容となっていたが、ハジメは光輝の言った言葉が気になっていた。
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光輝は自分の思い込みの激しい正義感から香織がハジメに構うのは「不真面目でオタクなハジメを心配しているから」的な感じに認識している。しかし、それでも「才能が無い」と檜山たちが言いそうな言葉を光輝が言うことはなかった。さっきの言い分から察するに光輝は前々から遊牙に対してそのようなことを言っていた事が読める。少なくとも思っていることは確かだろうとハジメは確信した。
悪意なしとはいえ、否、悪意なしでそんな事を言われるのは誰だって気分のいいものではない。特に幼馴染ともなれば尚更だ。遊牙が光輝をよく思っていないことにも説明はつく。仮に幼馴染じゃなかったとしても遊牙が光輝と仲良くしてる絵が想像できないが…。
(それに恵里と蜜璃って、確か…)
「おいハジメ、行くぞ」
「あ、うん」
そこまで思考したところで遊牙がやって来た。気づけば光輝たち四人は既に訓練場へと向かっていたようでハジメは「考えすぎてたな…」と呟くと前を歩く親友の跡を追った。
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白雪萌音は退屈だった。
特にここ一週間はため息を吐かない日が少ないほどに。
この世界に召喚されてから萌音はクラスの決定に逆らわずに過ごしてきた。光輝の(無駄な)カリスマに当てられてクラス全体が戦争参加を決意しても何も言わなかった。言う気が起きなかったのもあるが、言う必要がないと判断したからだ。
目前では何人もの生徒たちが談笑したり、自主練したりなどしている。
その光景を見ても萌音は何も感じなかった。
手元のステータスプレートに目を向けてみる。
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◾️◾️◾️◾️ 17歳 女 レベル7
天職:氷術師
筋力:30
体力:200
耐性:200
敏捷:50
魔力:1500
魔耐:1500
技能:氷結界・氷属性適性・炎属性耐性・魔力操作・魔力回復・限定範囲魔力感知・言語理解
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氷術師という天職についてメルド団長に聞いたところ萌音は後方での支援を担当とする魔術師の役割だと言われたので光輝や雫といった前衛に出る天職の者たちとは違って剣を振るう必要がない。
技能の“氷結界”は魔力範囲に入っている対象を氷結させる結界を自身を中心に展開する。魔法陣のような物は必要とせず、結界内であれば空気すらも氷結の対象となるので氷柱や氷塊を作ることが可能であり、魔力感知を行うこともできる。
後方での支援や攻撃が主な役割であるのに加えて破格のステータスから萌音はメルド団長の指示で光輝のパーティーに入れられたのも相まって余計にテンションが下がっていた。
(南雲が遊牙を訓練に誘わないかしらね…)
訓練初日の夜に萌音は遊牙を部屋に呼び出して聞き出していた。
遊牙がクラスメイトから孤立している理由を知る萌音はその事に対して毎晩自分の部屋に来てもらう事を条件に口を挟まない事にした。とはいえ、好きな人がいないのにこんな連中と同じ空間にいるのはただストレスが溜まるだけだ。
萌音はクラスに対して何も思っていなかった。どちらかと言えば嫌いな部類に入るぐらいにしか思っていない。
「あら」
思わず口に出てしまった。見れば二週間ぶりに遊牙が訓練場に顔を出していた。相変わらず不貞腐れたような表情を浮かべており、後ろにいるハジメは苦笑いをしている。
光輝や龍太郎といったいつもの四人組で遊牙の所に行くと聞いていたので流石に色々言われるのに嫌気が差したのだろうかと考えたが、恐らくはハジメに来てくれないかと言われたのだろうと考えを切り替える。
何にしても久々に顔を出した彼と話したい事はたくさんある。早速話してみようと萌音は遊牙の元に近づき話しかける。
「遊牙、珍しいじゃない」
「ハジメに来てくれた方がいいと言われたからな」
「そう。なら私と一緒に組まない?ついでに南雲も」
「僕はついでなんですね…。まあ、わかってましたけども…」
そんな感じで萌音は遊牙とハジメの二人と組もうとした時、割って入ってくる者たちがいた。光輝を始めとする勇者パーティーの面々である。
「萌音、こっちに来て訓練をしよう。彼らはどうにもやる気がないみたいだからね」
歯を輝いていると錯覚するような笑顔で少々痛い台詞を言う光輝。
ハジメは真面目に訓練に参加していたのだが、どうにも光輝の中では遊牙と同じようにサボっている扱いになっているらしかった。
しかし、萌音は光輝の言葉を無視して遊牙とハジメに対して言う。
「ほら、団長さんの所に行きましょう」
「待つんだ萌音。南雲はともかく、遊牙は…」
「何かしら?遊牙を訓練に参加させるみたいな事を言って連れてきたと思ったら、やる気がないようだからあっち行けとか勝手が過ぎるんじゃなくて?」
「光輝、萌音の言う通りよ。訓練に参加させるって言ったのは光輝でしょ?」
「…心優しい雫に感謝するんだな、遊牙」
悪役のような台詞を吐き捨てて光輝はパーティーの面々と戻っていった。
「災難だったね、遊牙」
「別に。気にしてないからいいさ」
「二人とも。団長さんの所に行くわよ」
そんな感じで三人はメルド団長の元に向かった。
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「なあ、ハジメさんや」
「どうかしたの?」
「こんなことして意味あると思うか?」
「僕に聞かれても知らないよ」
訓練場の隅にて遊牙とハジメの二人は自主練していた。
メルド団長に萌音を含めた三人でパーティーを組みたいと申告したのだが、萌音は勇者パーティーでの動きを想定して訓練してきたので今になって変えるのは難しいからと断られてしまった。加えて遊牙は訓練初日以来初の参加となるため、親友のハジメが着いて教えてやってくれと言われてしまったのでこうして隅の方で自主練していたわけだった。
遊牙の転職は剣士だが、ステータスの数値も技能も言語理解以外全てがerror表記のに加えて今日まで訓練に不参加だったためにメルド団長もお手上げだったようで「転職が剣士なら取り敢えずは剣を振らせるか」と支給された剣を振っていた。
軽口を叩きながら自主練していると二人に絡んでくる四人組がいた。檜山たちだ。筆頭の檜山がハジメの肩を馴れ馴れしく組みながら口を開く。
「よぉ、南雲。お前らが剣持っても意味ないだろうが。マジ無能なんだからよ〜」
「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさ〜、ギャハハハ」
「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ〜」
「なぁ、大介。こいつらさぁ、何かもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」
「あぁ?おいおい、信治、お前マジで優しすぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさぁ〜」
「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能どものために時間使ってやるとかさ〜。南雲と八重樫の出来損ない〜感謝しろよ?」
そう言ってハジメと遊牙は檜山たちに連れられて人目につかない場所へと連行される。連れていかれる最中、何人かのクラスメイトが気づいたようだったが見て見ぬ振りをして視線を外す。
「いや、僕らは二人でするから大丈夫だって。僕らのことは放っておいてくれていいからさ」
「はぁ?俺らがわざわざ無能のお前らを鍛えてやろうって言ってるのに何言ってんの?マジあり得ないんだけど。お前らはただ、ありがとうございますって言ってればいんだよ!」
やんわりと断ろうとするハジメの脇腹を檜山が殴る。ハジメは「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら呻く。檜山たちは段々暴力に躊躇いを覚えなくなってきているようだった。地球にいた頃は肩を組んで絡んでくるだけだったが、こっちに来てからは手を出すようになっている。
「があっ」
ハジメと檜山の背後から呻く声がした。
何事かと背後を振り返ってみると遊牙が倒れている近藤の腹に鞘に納めたままの剣を立てている光景だった。遊牙の後ろにいる斎藤と中野は怯えたように一歩引いて倒れている近藤に視線を向けている。
まさか反撃を喰らうとは思っていなかったのか檜山がハジメから離れながら震えたように声を出した。
「お、お前、何して…」
「あ?先に手を出したのはそっちだ」
遊牙は何言ってるんだと言わんばかりに檜山に対して無表情で言い放つ。
「お前には何もしてねえだろ!」
「ハジメに手を出したからな。喧嘩は買う主義なんだよ、俺は」
遊牙はそう言うと鞘から剣を引き抜き正面で構える。
「へ、へっ!訓練してねえお前が俺たちに勝てるわけがないだろうが!」
「そうか?ならやってみようか。お前ら四人と俺一人で」
遊牙が言った言葉を聞いて檜山たちは一瞬、口を閉じたがすぐに笑みを浮かべる。
ハジメは遊牙に向かって声を上げる。
「無茶だよ遊牙!」
「無能はそこで大人しくしてろよ」
「そうだぜ、南雲は黙ってろよ」
「お前の大事なお友達をボコボコにしてやるからよ〜」
幾ら遊牙でも今の檜山たちに勝てるとは思っていない。
檜山たちは腐ってもハジメよりも優秀なステータスだ。魔法適正もあり遠距離から魔法を撃てる上に暴力に対して躊躇いを感じていなくなっている。下手をすれば殺すことすらやってのけるかもしれない。
それに遊牙はこの二週間、まともな訓練を受けていない。相手にならないのは火を見るよりも明らかだ。
「後悔して泣くんじゃねえぞ?」
「いいから早く来いよ」
「絶対泣かす!!」
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ーInterlude side???ー
誰がそう言ったか、
私もそう思っている一人だ。
二人生まれた。
双子だった。
しかし
故に、私は
なぜ生まれてきたのかと。
お前など生まれてくる必要はなかったと。
しかし、泣いたのは僅か数秒の事。
俯いた
次回、月下にて