違うんです!ㅤちょっと幸せに(以下略   作:紫芋

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番外編[1]ㅤあるいは原作前のあれやそれ
エミールの日記(1)


 〇月✕日

 

 今日は世界中を飛び回っている画家の父さんが、旅先から珍しいデザインの日記帳を送ってくれた。手製の絵葉書とバースデーカード付きで。

 なんというか、息子の誕生日を忘れず祝おうとしてくれる気があるのは素直に嬉しいけれど。父さん……僕の誕生日は来週末だよ。それに八歳じゃなくて七歳だし。

 とりあえず書くこともないし、今日はこれくらいで終わりかな。三日坊主って言葉の通りにならないようにしよう。

 

 

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 〇月✕日

 

 七歳の誕生日おめでとう、エミール・ロワ。父さんの背中にまた一歩近づいたね。

 今日は僕の誕生日。だからって何かあるわけでもないけれど、おめでたいことだもんな。皆からお祝いしてもらって、ケーキも食べた。

 それと、アルベール叔父さんから飛行機の模型をプレゼントに貰った。明日箱から出して組み立ててみよう。

 

 

 

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 〇月✕日

 

 今日突然、父さんが家に帰ってきた。……おかえりを言う間もなく書斎にこもっちゃったけど。

 いつものお土産話も今回はなかったし、それどころか一言も喋らなかった。いつも笑ってる父さんの、あんな険しい顔を見るのは初めてだな。

 それから夜遅くにアルベール叔父さんが来て、書斎で父さんと言い合いをしてた。何かが割れるような音もした。

 

 一体、何の話をしていたんだろう。叔父さんはさっき帰ったみたいだけど、最後の最後で父さんの怒鳴り声が家中に響いた。「もうたくさんだ!」って。

 あの父さんが声を荒らげるなんて、何があったのか気になるけど、聞いちゃいけない事のような気がする。いっそ忘れた方がいいのかもしれない。

 

 

 

 

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 〇月✕日

 

 二十二歳の誕生日おめでとう。俺は、エミール・ロワを誇りに思う。この調子で夢を追い続けてくれ。

 さて、父さんたちからは相変わらず叔父さんの会社に勤めている件についての、苦言を添えた絵葉書とバースデーカードが届いているが。

 

 申し訳ないけれど、俺の夢の為にはそれなりにお金が必要なのだ。それなりに待遇がよかったので、このまま主任技術研究員としてデュノア社に腰を落ち着けようと考えている。

 俺が主導でやっている、第三世代機計画が軌道に乗れば、かなりの見返りが約束されているんだ。個人的に来週末のアーク・スフィア稼働実験に興味があるし、今の生活には満足している。

 

 この実験の成功が、俺にとって何よりの誕生日プレゼントになるかもな。ともかく、おめでとう。

 

 

 

 

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 〇月✕日

 

 なんということだ。マズい。マズいぞ……。

 稼働実験の事故から半年。今日、ようやく退院した。

 事故の後遺症も、第三世代機計画が無期限の凍結処分を受けたことも、今こうして俺の頭を悩ませている問題に比べたらほんの些事だ。

 正直今も混乱している。こうして文字に書き起すことで、少しでも頭の中を整理できればいいのだが……。

 

 俺は、エミール・ロワじゃない。いや、厳密にはエミール・ロワではあるのだが、そうではない誰かの記憶があるといった具合か。……俗に、前世と呼ばれる断片的な自分の記憶が。

 恐らく事故のショックで思い出したのだろうが、説明するにはちとややこしい。問題はかの篠ノ之束博士、数年前の白騎士事件、IS、デュノア社、叔父のアルベール・デュノア、これらの要素から自ずと導き出されるのは──これ、インフィニット・ストラトスじゃねぇか!?

 

 それはつまり、この世界が物語の設定に準じた世界で、おまけに俺はその物語の主要キャラクターの、年の離れた従兄ということになる。

 道理で両親が、叔父の会社に俺が就職することに対してあまりいい顔をしなかったワケだ。同時に十数年前の出来事にも納得がいく。

 既婚者である親戚が──それも自分の弟が、浮気した挙句相手の女性を孕ませた等と言い出したら、兄弟でなくても「もうたくさんだ!」、とそう怒鳴りたくもなるだろう。そのまま半ば縁切り状態になるのも頷ける。

 

 今日はその叔父から退院早々に呼び出しを受け、緊張の中でいくつか話をし、無事開放された。計画が凍結された件もあり、折り入って別の仕事を任せたいとかで、明日の昼前にもう一度社長室に顔を出せとのことだ。

 なんだかもう、既に嫌な予感がしている。俺はどうすれば良いんだ……。

 

 

 〇月✕日

 

 果たして、嫌な予感は見事に的中した。ある意味不意打ちのような形で。

 前日に昼前と指定があったので、余裕を持たせる為に朝早めに出社し、凍結された計画の資料を個人的にまとめていたところ、件の少女が俺のオフィスにやって来たのだ。

 

 シャルロット・デュノア。俺の、年の離れた従妹。可愛らしいが、何処か影のある女の子だ。

 慌てて駆け込んだ社長室にて、叔父とサシで話をしたのだが、肝心な会話の中身といえば、遠回しな事情の説明と、娘を暫く預かっていてほしいという頼みのみだった。

 

 シャルロット当人には既に、気持ちの整理ができるまで俺と生活するよう言ってあるらしい。元より頼みを断るつもりもないが……俺に拒否する権利は与えられていないんだな。

 

 話を要約するとシャルロットの母親──言いたかないが叔父の浮気相手──が鬼籍に入り、叔父がシャルロットを認知しようとしたものの、それを良しとしない不穏分子が排除に乗り出そうとしている為、有給扱いにしてやるから娘を連れて暫く会社から離れていてくれないか……と、まあそんな感じか。

 叔父嫁のロゼンダさんとの折り合いもまだ付いていないだろうし、嫁と娘の二人を引き合せるには時期尚早ってこともある。そういう意味でも、決着が着くまで代わりに面倒を見てもらいたいってハラなんだろうが。

 

 それにしたって、なんだってそんな大事な用件を俺に任せるんだ。もっと適任者がいるだろうに。

 そう例えば、父さんとか……ああ、そうか。叔父と両親はもう半分縁切り状態なんだったな。

 

 まあ、有給扱いなら遠慮なくバケーションとさせてもらうとしようか。この仕事、見返りは良いんだが大した休みを取れないのが問題だよな。

 シャルロットについては……追々考えていくことにしよう。形がどうであれ、俺にとっては可愛い従妹だ。それは間違いない。

 

 彼女の本質的な幸福はいつか出会うであろう主人公君に任せるとして、その前に従妹の人生をちょっぴり豊かに出来れば御の字だろう。

 それこそ、少しでも家族の温かさってやつを教えられればな、と。今のままじゃ、それも難しいだろうが。

 ……こういう時に父さんなら、どうするんだろう。

 

 

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 〇月✕日

 

 シャルロットを迎え入れてはや二日。着々と休暇の荷造りを進める俺だが、シャルロットの態度は相変わらず硬く、どことなく遠慮がちだ。まさに借りてきた猫。

 

 どうぞ自宅のような気持ちで、寛いでくれと言ってあるのだが、まあどだい無理な話だろう。いくら従兄妹とはいえ、あちらとしては見知らぬ大人の家なわけだし。

 

 ぶっちゃけ悩んでいる。今どきの女の子って何すれば喜ぶんだ。食の好みとか、流行りは? 欲しい物……服は試しに買ってプレゼントしてみたものの、反応は微妙なとこだ。

 

『自分なんかに……』という発言が目立つのもよくない傾向だと思うが……こればっかりは時間をかけて、ゆっくり仲良くなっていくしかないだろう。そもそも俺はセラピストでも、精神科医でもないんだからな。

 

 ……人間の心と体って講義、受けとけばよかった。

 

 

 

 

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 〇月✕日

 

 アメリカ滞在十八日目。

 最近になって、ようやくシャルロットが心を開いてくれつつある気がする。頑なに『ロワさん』呼びを続けていたのが、『従兄さん』呼びが混ざりつつあるのだ。

 

 それと、口調がやや男の子っぽくなっているような……やはりアレか、こないだのバンジージャンプが効いたのか、それともカイトボードか……スカイダイビングかもしれない。個人的には昔から続けてるスカイウィングが一強だな。

 

 相変わらず本社からは何の報せもないが……まあ、シャルロットにはもう少しだけ俺の休暇に付き合ってもらおう。

 

 明日はお待ちかねの日本行きだ。空港に着いたら、まずは京都行くぞ京都!

 

 

 

 

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 〇月✕日

 

 日本滞在二十二日目。

 今日は動物園に行った。たまには実験用のラット以外の生き物を見るのもいいものだ。うん。

 

 小動物との触れ合いコーナーでウサギと戯れるシャルロットはなかなか画になったが、なぜだか当の本人は始終謎のキリン推しを続けていた。そんなにキリンが好きなのだろうか。

 

 それはさておき、やはり事故の後遺症は動物に強い影響を与えるようだ。シャルロットには昔から動物に嫌われやすいのだと誤魔化したものの、疑問は拭いきれていないだろう。

 

 軽微な放電現象を単なる静電気とするのも苦しくなってきたし……彼女にはそろそろ事情を話しておくべきだろうか。

 

 

 

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 〇月✕日

 

 父さんが描いた絵の展覧会が、たまたま立ち寄った国で開かれていたので、ちょっくら道草を食ってみた。もちろん一般客として列に並んで、チケット代を支払ってな。

 

 俺が家を出てからは、母さんは父さんの旅に付いていくようになったらしいが……裸婦画って、なにやってんだよ父さんも母さんも。シャルロットの前で気まずかったので、問題の絵はあまり見ずにスルーした。

 

 ああ、そう。シャルロットといえば本社から近い内に彼女をテストパイロットとして受け入れる態勢が整うと報せが届いたので、この休暇もそろそろ終わりを迎えるだろう。非常に残念な話だが。

 

 驚いたことに、待遇についてはシャルロット本人が自ら選んだらしい。テストパイロットをやりたいと。

 

 あと、それから。シャルロットが慣れ親しんだ『従兄さん』ではなく、『エミールさん』と呼んできた。ううむ、これはよい傾向なのか?

 

 

 

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 〇月✕日

 

 ロクデナシ共が苦し紛れに送り込んできた最後の刺客を、ノして当局に引き渡した。連中、俺を温室育ちのもやしと甘く見たな。従兄は強いのだ。

 

 とまあそんなわけで、デュノア・グループの不穏分子一掃大作戦は無事完了し、俺の有給休暇もこれでお終い。週末には本国に戻らないと、そのまま無断欠勤になる。

 

 シャルロットの今後については当人次第。望むなら一人暮らしでも、叔父一家と住んでもいい。何にせよ、彼女にとって簡単な道は少ないかもしれないが。

 

 俺も今度の休暇で十分リフレッシュできたし、例の計画もさっさとリブートしてもらわないとな。これから忙しくなるぞ。

 

 

 

 

 

 

〇月✕日

 

 シャルロットが夜這いを仕掛けてきた。何故だ。




なんでだろうね


このまま原作行っちゃう?

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  • 待て、夜這いについてkwsk
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