違うんです!ㅤちょっと幸せに(以下略   作:紫芋

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見せますよ、ええ。


従妹は家族の余裕を見せるようです

ㅤSHRと最初の授業が終わり、休み時間。

ㅤ各々が次の授業に備える中、俺の元に少年がやって来た。

 

「えと、んと……ボク、お、織斑一夏ですっ。よろしくお願いしますっ」

 

ㅤよろしく、と握手に応じながら、ひっそりと下唇を噛む。

ㅤ知っての通り、織斑一夏は男だ。

ㅤしかし頭を下げ、必死に自己紹介をする彼の姿は、まるで小さな女の子のように見える。

ㅤもっとも彼が普通の感性を持つのであれば、俺が見た目に流された対応をした場合、もれなく嫌われるのだろうが。

 

ㅤまあ、何と言えばいいのやら。

ㅤ困惑もそうだが、それと同じ程度に合点(がてん)がいく。

ㅤあの容姿なら報道で大々的に取り上げられなかったのにも頷けるし、道理で情報が眉唾物(まゆつばもの)だと蹴られるわけだ。

 

(なん)せ事実を確かめようにも、その(すべ)が殆どないんだからな。

ㅤいくら社会的な配慮に欠けるマスコミでも、子供相手に『ちょっとパンツ脱いでみてくださいよ』なんて要求するアホは流石にいないだろ。

 

ㅤ……ちょっと待て、今のなし。

ㅤ皮肉にしたって下品だし、オヤジ臭すぎだ。

ㅤ今のはなかった方向で……。

 

「お互いに大変だな。先生の紹介にもあったが、エミール・ロワだ。まあ好きに呼んでくれ。私も一夏くんと呼ばせてもらうよ」

「は、はい。エミールさん!」

 

ㅤ会えて光栄です、などと言って、一夏くんは目をキラキラと輝かせ、握った手を上下に忙しなく振る。

ㅤはは……。さては俺をどこかの有名人か何かと勘違いしてるな、そんな感じの目だ。

 

ㅤ彼のような一般的なティーンエイジャーなら、どこぞのスポーツ選手か何かだろうか。残念ながらその期待には添えられそうにないが……。

ㅤまあ歳の差があるとはいえ、これから3年一緒に苦楽を共にする仲間なんだ。嫌われているよりはずっとマシだろう。

 

ㅤいずれにしても、こうして手を握ってみると彼の手の小ささが際立つ。流石にシャルロットほど小ぶりではないものの……。

ㅤん、いやいや……。ちょっと待てよ。

 

「あー、早速で悪いんだが一夏くん。君、身長は?」

「え、と。ボクは146センチです、よ?」

「ありがとう。なら君の首の為にも、私はこのまま話した方がいいな」

「は、はあ……?」

 

ㅤおっと、今のは流石に無理のある誤魔化しだったか。

ㅤこればっかりは一夏くんも、中身のない会話に怪訝な表情を浮かべて、こてんと首を傾げた。まあ、わざわざ確認しなくてもいい事だったからな。

ㅤ今は1時間目が終わり、休み時間を狙って挨拶にやってきた一夏くんと、椅子に座ったまま応対している俺という構図で、目線がちょうど合うか合わないかくらいの位置にある。

 

ㅤ立てばここに30センチ以上の開きが生まれる為、当然こちらが座ったまま会話を続ける方が望ましい。

ㅤまあまあ、それはさておき……。これは何だか妙だ。

 

ㅤ今の話が本当なら、シャルロットは一夏くんよりも背が高い。それも10センチ前後。

ㅤしかしこちらを見て、目が合うなり意味ありげにウィンクをしてきたシャルロットは、あきらかに一夏くんよりも背が低く見えるし、幼くも見える。

 

ㅤ思わず目を擦り、またシャルロットを見る。やはり小さい。

ㅤ手が小さい、というのもそうだし、見比べてみても理屈に合わないサイズ差があるのは、一体どういう事なのだろう。

ㅤそもそもあれで150もあるのかシャルロットは。いや、今更気にするか普通。

ㅤつっても、身体検査の結果は確かに154とあったような。俺も違和感なく受け入れてたし──。

 

「──と、彼女は君の友人かな」

「え?ㅤあっ、箒……」

 

ㅤ思いがけずこの世の深淵(しんえん)に足を踏み入れたところで、熟考すれば放置する事になるであろう一夏くんを、たまたま近くにいた少女へとキラーパス。

ㅤどうやら2人は知り合いだったらしい。

ㅤ視線の質が他の生徒と違うように感じたのもあり、てんで当てずっぽうというわけでもないが、勘が上手く働いてくれたみたいだな。

 

「…………」

「あいつは──箒はボクの幼なじみで、小学校の頃にあいつが転校してそれっきりだったんです。……ここに来て久しぶりに会ったのに、さっきも無視してくるし……よくわかんないやつですよ」

「まあそういう事もある。……いや、どういう事だろうな。ともかく積もる話もあるだろうし、私の事はいいから、2人で昔話に花を咲かせてきたらどうだ」

「え、でも……」

「久しぶりで、あっちも何を話していいのかわからないんじゃないか。現に目は合うんだから、君から歩み寄ってみれば、数年の溝も存外(ぞんがい)簡単に埋まってくれるだろうよ」

「ううん……。そうかな……」

「そら、男は度胸だ」

 

ㅤとどめに背中を押してやって、これ以上は知りませんと言わんばかりに、片肘(かたひじ)を机について自分の世界に入り込む素振りをする。

ㅤもし本当に仲が険悪そうなら助け舟を出さないでもないが、たしかあの2人は主人公とヒロインの1人という関係だったはずだ。

ㅤまあ俺の存在やシャルロットが最初からいたりと、必ずしもそうなるとは限らないという事だけは念頭に置きつつ、いい歳した学生は若人(わこうど)の青春から身を引かせてもらおうじゃないの。

 

従兄(にい)さん、従兄さん」

 

ㅤ……出たな、刺客。俺に負けず劣らずの矛盾塊。

ㅤやけに従兄呼びを強調しながら、シャルロットが袖を引っ張ってきた。

ㅤ正直休み時間になるなり、俺がここにいる理由について小一時間ほど問い詰められるくらいの覚悟をしてたんだが。

ㅤあの恐ろしげな熱視線も、1時間目が始まる頃にはすっかり消えてなくなっていた。

 

「どうした、シャルロット」

「……ん!」

 

ㅤおおう。さて、そう攻めて来るか……。

ㅤ予想に反し、隣の席でひとり静かにしていたシャルロットは、俺の気を引くなり両手を広げてこちらを向いていた。

ㅤそのジェスチャーが何を意図しているのか、それは特に考えなくてもわかる。問題は見れば見るほど彼女の姿が実際の見た目よりも幼く感じられる点だ。

ㅤ心做しか体が全体的に縮んで見える点についても同じく、とても気の所為(きのせい)とは思えない。……なんだこれ。

 

「ん!ㅤんぅー──!」

 

ㅤにしても、出会った頃からは想像もつかない程の甘えたに育ったな……と。

ㅤそんな事を考えながらじっと見ていると、焦れたのか頬を目一杯(めいっぱい)に膨らませて、広げた手をふるふると揺らした。

 

「ここ、学校なんだが」

「んん!」

 

ㅤこうして甘えてくれる分には一向に構わないのだが、とはいえ時と場所くらいは考えて欲しいのが従兄心というもの。

ㅤ学校だし、今はあくまで授業の合間に設けられた休み時間。甘えるのはあくまで放課後、公の場でない場所で、だ。

ㅤだが、そんなの知ったこっちゃないとでも言うように(かぶり)を振って、シャルロットは口をへの字に曲げる。

 

「お話は終わったよね、なら、ぎゅってして」

 

ㅤ小さく、囁くような声。

 

「……シャルロット」

「してくれたら、頑張るから。空港でお別れした時、胸のとこ、ここがぎゅーって、なって、すっごく寂しかったけど、黙ってた事も全部、うん、全部ね、(ゆる)すよ。家族だもん。……だから従兄さんも僕の我儘(わがまま)のひとつくらい、許してくれるよね?」

「う゛……」

 

ㅤそれを言われてしまうと、こちらとしても弱い。

ㅤ結局のところ謎めいた威圧感も()事乍(ことなが)ら、元より従妹を溺愛している身としては、時と場所云々もわかるが、最終的には甘やかしてやりたい欲が軍配を上げるのだ。

 

「……はぁ参った、降参だ。悪かったよ。ただし、2時間目のチャイムが鳴るまでだからな」

「うんっ」

 

ㅤ大衆の意見に感化されないし、人の目も気にならない。まして他人からの評価なんて全く気にしない。

ㅤそんな自分の生き方に不満なぞありゃしないが、人にオススメ出来るような真っ当な生き方でもない事は重々承知している。

ㅤ子供は大人の背中を見て育つってのはよく聞く話だけどな、こんなところまで俺に似て欲しくはなかったぞ。

 

ㅤ教室に残ってる生徒全員からの、興味本位の視線がびしびし刺さってくるが、それでも構わず抱擁を交わす。

ㅤ人の目に慣れている俺は当然として、普段なら人見知りするシャルロットも同じように、腕を絡めて恥ずかしげもなく力を込めた。

ㅤ俺の左肩にシャルロットが顎を乗せ、間隔を置きながら頬擦りをする。それがまた、こそばゆい……。

 

「……はれ、そういえば従兄さん、いつものサングラスは?」

「ん、片付けた。何せ今日から学生だからな」

「ふぅん……似合ってたんだけどな……」

 

ㅤあれは別に、お洒落で掛けてたわけじゃないんだが。

ㅤまあそんな事をシャルロットが知るはずもないし、いちいち理由を説明して訂正するような事でもないな。

 

「仕方ない。サングラスとブレザーの組み合わせは、正直言って最悪だ」

「すんすん……そっか、それもそうだね……はふ……」

 

ㅤ改めて何故掛けてないのかと()かれれば、学園指定のブレザーとの相性が壊滅的だったので、頑張ったとしか他に説明のしようがない。

ㅤ頑張ったし、運の要素も多分に含まれている。誰かに同じ事をもう一度やれなんて言われても、俺なら無理だと突っぱねるね。

ㅤまあそんな事はさておき、頑張るといえばだ。

 

「どうだ、頑張れそうか?」

 

ㅤ背中をとんとんと叩いてやりながら、(あん)にそろそろ時間だぞ、とそう伝える。

 

「……頑張れそう」

「そか、シャルロットは強い子だな」

「……うん。でも、学校が終わったら、ね。僕と従兄さんは家族だもん。家族だから、家族の時間は一緒にいなくちゃね」

「──?ㅤそうだな、私たちは家族だ」

 

ㅤ改めて確認するように、シャルロットは家族家族と声を上げる。そう何度も繰り返さなくたって、いつだかみたく忘れたりはしないんだがな。

ㅤもっとも、これから3年は寮暮らしになるんで、その辺は以前までの生活と同じようにはいかんだろうが。部屋が別なんだ、少なくともこれまでみたくずっと一緒ってのは難しい。

ㅤまあそうは言ってもだ。そもそも俺がここに来る予定なんてのも端からなかったわけだし、今こうしている事自体が奇跡みたいなものなんじゃないかね。

 

ㅤキーンコーンカーンコーン──

 

ㅤチャイムが鳴り、廊下に出ていた生徒らが戻ってくる。そうでない生徒も自分の席に座り、次の授業に備えていた。

ㅤ間を置かずして一夏くんと箒と呼ばれた少女が仲良く教室に戻ってきたので、ほっと一安心。……んじゃ、こっちも区切りつけないとな。

 

「そら、甘えんぼタイムはお終いだぞ」

「はーい。最後にぎゅっぎゅー……ぱっ!」

 

ㅤおう。我が従妹ながら、親心を(くすぐ)る仕草をよくよく心得ておるな。

ㅤ今のはちょっと効いたぞ……。




家族だからね。仕方ない仕方ない。
なおサブタイトルは

   *   *
*   ㅤㅤㅤㅤ+ うそっこです
 ㅤn ∧_∧ n
ㅤ* (ヨ(*´∀`)E)ㅤ*
+ Y   Y  *

全然っ、余裕見せられてねーじゃん!!!

許す──自由にさせる
赦す──罰を免除する

いつも感想ありがとうございます。先週は土曜休みじゃなかったので、返信が日曜日にずれ込みました。待ってくださっていた皆様には、お詫び申し上げます。

第二回アンケートは第十話投稿まで。最低でも今週の土曜までですな。

エミールにアルコールを入れるか否か

  • 下戸、飲めない
  • 飲めないことはない、付き合い程度
  • ザル、酔わない
  • シャルロットがいるので飲まない
  • 大好きな実験に使う
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