違うんです!ㅤちょっと幸せに(以下略   作:紫芋

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今更ですが、誤字報告に感謝申し上げます。


大人になりきれない彼はそう言った

「従兄さん、僕は今とてもとても、とー──っても、不満なんだけど。どうしてだかわかる?」

 

ㅤそんな言葉と共に2時間目が終わるや否や、ムスッとした様子のシャルロットが、こちらの机を叩く勢いで詰め寄ってきた。

ㅤ何事かと見れば、俺の小さな従妹は鼻筋を赤く染めて頬を膨らませ、眉間に皺を寄せて自分が怒っている様を精一杯アピールしている。

ㅤ……不満か、不満ね。

 

「すまない。わからないから、教えてくれないか」

 

ㅤそう怖い顔してわかるかと訊かれても、俺は超能力者でも(さとり)でもないんだ。こればっかりは素直に答えるしかない。

ㅤただし、ここで彼女の気迫に圧されてもだめだ。苦し紛れにあれかこれかと下手な事を言って、相手の神経を逆撫でするわけにもいかんしな。

 

「そっか、わかんないか。えっとね、僕は事前に部屋の振り分けについて案内されてるし、従兄さんも知ってるよね。僕ら寮の部屋が別々なんだよ」

 

ㅤああ、その件か。

ㅤ話は理解したが、今ここで爆発するのはちょっと早くないか。放課後になってからならともかく、まだ午前中なんだぞ。

ㅤいや、まあシャルロットがこの件について不満を抱くのは大いに有り得た話だ。……俺にそれを解消する力があるかどうかはさておき。

 

「その事か。いやすまなかったな、お前の事を考えてなかったみたいで。けどそれは──」

 

ㅤ俺にはどうしようもない事だったんだ、と弁解の言葉を続けようとするも、話してる途中でシャルロットが食い気味に割って入ってきた。

 

「別に、いいよ、それは。学校の寮なんだから、今までの生活みたいにいかないのもわかるよ、僕ひとりがそこに文句を言っても、ほら、織斑先生と織斑くんだって一緒の部屋じゃないんだし、そもそも従兄さんは今頃本国にいるはずだったんだ、なのにこうして今も同じ場所にいられるんだから、贅沢なんて言ってられないよね、それに部屋は一緒じゃないけど、その分、空き時間を大切にすればいいって、僕は思うんだけど、そうでしょ?」

 

ㅤまあそうだな。従兄さん的には、その時間のいくらかを友達に割いて欲しいところなんだが。

ㅤしかし部屋の割り振りじゃないとなると、一体何が不満なんだシャルロット。物分りの悪い俺にちゃんと教えてくれ。

 

「でもそれなのに放課後、織斑くんのお勉強の面倒を見るっていきなり言ったよね、僕たちに与えられた、僅かな家族の時間を削ってさ」

 

ㅤあ、その言い方は卑怯だぞ。約束を取り付けた俺だけじゃなく、遠回しに一夏くんまで責めてしまう嫌味な言い回しだ。

ㅤつっても、シャルロットに言わせてみれば自分以外の誰かを構ってばかりで(ないがし)ろにされてるようなものか。そりゃ赤ちゃん返りもするわな。

 

(本気ですか。いくら何でも、そうはならないと思いますが)

 

ㅤは、これが可笑(おか)しなものか。お前も少しは頭を使え。シャルロットは物心がつく頃からずっと、誰かに甘えるのを我慢してきた子なんだぞ。

ㅤそれが最近になってようやく我儘を覚えたんだ。流石に赤ちゃん返りは過言かもしれないが、歳に関係なく、ちょっとくらいその反動が来てもおかしくないだろ。寧ろその方が自然だ。

 

(そうですか。確かに、そうかもしれませんね)

 

ㅤそうなんだよ。なんで俺としても家族の時間は極力大事にしたいとこなんだが、どうしてもそれだけってわけにはいかないからな。

ㅤシャルロットには多少の我慢を強いる事にはなる。最悪、放課後の勉強会に参加させれば……いや、流石のシャルロットも放課後になってまで勉強漬けは嫌か。

 

「悪かったよ。放課後の件について何も相談してなかったのは。そうでなくても、君にはひと声掛けておくべきだった。でもそれは──」

「うん、別にいいよ、それも」

 

ㅤあっさり、再びこちらの弁解を遮るシャルロット。

ㅤこれも違うのか……まいったな。じゃあ何が不満なんだ。流石にわからんぞ。

 

「残念だけど、従兄さんは僕だけの従兄さんじゃないし、それに優しい従兄さんが、ひとりで困ってる子を放っておけるはずがないのは、僕もよく知ってるから、誰よりも、ずっとね、そんな従兄さんの事、僕はとっても素敵だと思ってるよ」

 

ㅤそんな風に面と向かって言われると、何だかこそばゆいな。俺も別に善意でやってるわけじゃないんだが、大人としてきちんと責任を果たせている感じがし──。

 

「でもさ、あんな言い方する必要はなかったよね?」

 

ㅤバンッ──。今度こそ本当に机を叩くと、途端にシャルロットの様子が豹変した。

 

「何、何だって?」

「さっきのあれ、本当の事だし、織斑くんの為にやったのもわかるけど、あれじゃ従兄さんが皆から怖い人だって勘違いされちゃうよ、どうするの、ここに知り合いなんて、僕以外にいないんだよ、部屋だって違うのに。それに、従兄さんが悪く思われるの、僕は嫌だな、すっごく嫌。会社の人に訊いても教えてくれないし、ポチも昔の映像記録とか見せてくれないけど従兄さん、ひょっとしてお仕事でもあんな感じなの?」

 

ㅤあんな感じって、どんな感じ……。

 

(代わりにお答えしましょう)

「あ、おいこら」

 

ㅤポチめ、勝手な事を。告げ口だなんて何処で覚えたんだ。教えた覚えなんてないぞ。

ㅤシャルロットもそれでいいのか、携帯端末に視線を向けた。こんな事なら机の上に出しっぱなしにしておくんじゃなかったな。

 

(お嬢様の発言が、マスター・エミールが自分と親しくない人間の間違いを小馬鹿にする様子を指すのであれば──その通りです)

「やっぱり……そうなんだ」

 

ㅤ口をへの字に曲げて、シャルロットがこっちを見る。

ㅤいや、そんな顔されてもな……。

 

(はい。マスター・エミールは世界各地にいる多くの変わり者から好かれている反面、そうでない同業者には相当嫌われています)

「おいポチ、嫌われてるは余計なお世話だ。あんな連中に好かれたいだなんて、誰も思わないだろ。こっちから願い下げだね」

 

ㅤ共に偉大な発見を──とか、歴史に名を残さないか──とか、世界に革命を──とか、そんなん別に興味ないし。実際、話を聞いてもクソつまらなさそうだったしな。

ㅤまあ大半はそうでもないんだが。欧州連合の技術会議なんかに出席すると、多くの人間と話をしなくちゃならない関係上、こいつとは致命的に馬が合わないってやつらが少なからず出てくる。

ㅤ口を開けばやれ富だの名声だのって、そりゃ俺だってそこそこの貯金くらいは欲しいが、楽しんで仕事する気のないやつなんざ論外だ。そういった連中は大概底が知れてるし、好かれる必要なんてないね。

 

「……嫌だ」

 

ㅤ時間的にそれほどでもなかった気がするが。暫くじっとこちらを見ていたシャルロットが、突然ぼそりと呟いて、再びきゅっと口を噤む。

 

「嫌って、何が?」

「従兄さんが別に気にしなくても、僕は従兄さんが悪く思われるのは嫌だな。少なくとも、僕の見える範囲内で知らない人から従兄さんが嫌な目で見られてたら、自分でもどうなるかわからないよ、従兄さんだって、僕が人に嫌われてたら、気分悪いでしょ?」

「それはまあ……確かにな」

 

ㅤ人の好みにも千差万別あるように、目の前の小さな従妹が万人から好かれるってのは理論的に無理な話で、俺もそこんところ理解してるが。それでも居合わせたら『なんだコイツ』くらいには思うよな。

 

「も、もちろん僕から従兄さんに、自分の意見をねじ曲げて、なんて言うつもりはないよ、えへ、へへ……けど少しだけ抑えては欲しいかな、ほらさっきの従兄さん、言葉遣いとか、すごくトゲトゲしかったから、ちょっとくらい厳しくても、ぼ、僕は別にいいけど……ほら、知らない人が聞いたりしたらやっぱり怖がられるかもだし、ちょっぴりオブラートに包んでみるとか、ねえ、どうかな?」

 

ㅤ成程、一理ある。俺の発言が正しく歯に衣着せぬ物言いなのかどうかは、また微妙なところだが。

ㅤにしてもオブラートに包む、か……さてどうしたもんかな。

 

「わかった。まあ、やるだけやってみようか」

 

ㅤとりあえず返事だけして、後の事はその時になってから考えよう。頑張れ未来の俺。

 

「うん、うん。それがいいよ。あ、で、でも僕にはオブラート要らないからね。──っそうだ、放課後僕も織斑くんとの勉強会に参加するから、ちょっと出来の悪い生徒に厳しくする先生みたいな──」

 

ㅤキーン、コーン、カーン、コーン……。

ㅤ話の途中で3時間目の開始を告げるチャイムが鳴り、俺たちの会話に聞き耳を立てていた生徒も、各々の席や教室へと散っていく。彼女らも余程の暇人と見えるな。

 

「ここまでだな。そら、もう席に着いとけ。話の続きはまた後でしよう」

「う、うん……また後でね」

 

ㅤそう言って、何故かシャルロットは酷く肩を落として自分の席に座った。……まあ、すぐ隣の席なんだが。




お疲れ様でした。
作者氏、金土日月全部むちゃ忙しい。なんてこった。
感想返しは時間が確保出来たらします。

アンケートへのご協力ありがとうございました。

白いのと黒いの、どっちが好み?

  • 何がとは言わんが、白いのかな
  • いいや、ここはやはり黒だ
  • どっちとも言えんので灰色だ
  • 素敵な色でオナシャス
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