違うんです!ㅤちょっと幸せに(以下略   作:紫芋

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秘密会談(1)

 休暇明けから一週間。

 ある問題を抱え、俺は社長室を訪れていた。

 

「社長……。いや、今は敢えて叔父さんと呼ばせてもらおうか?」

「……なんだ、藪から棒に……」

 

 口火を切ると、叔父は目を瞬かせた。

 

「娘さん……。シャルロットの件なんだが、うちに住まわせるって?」

 

 話のついでに報告書を提出しながら、知恵の輪を拝借して解く。鬱憤ばらしと、話す順番の整理も兼ねて。

 もちろん了承は得ていない。でもまあ、デスクに二年も放置してるくらいならもうやらないだろ。多分な。

 

「ああ、何かと思えばそのことか。……何か問題があるのかね?」

「ハハハ、いやまったく……。問題しかない」

 

 顔を顰めて、飴を噛み砕く。

 休暇も明け、俺が仕事に復帰して以前のような忙しい生活に戻りつつあるのに、従妹のシャルロットは未だに我が家で寝泊まりをしているのだ。

 どういうことか訊けば、終始ここに住むの一点張りで、父親から許可を得ているとも言っていた。

 俺に一切、何も、全く、相談無しにだぞ。これが無問題だと言えるか。言えないよな。

 

「俺は仕事で忙しいし、帰りも遅い。休みもそんなにない。……いや、別に増やせとは言わないが」

 

 つまり俺が会社にいる間、シャルロットは家でひとりぼっちになる。

 帰りが遅ければ当然食ことも大抵バラバラで、休みがなければ家族サービスだって満足に提供できない。それはあまりにも悲惨だ。

 偏見で物を言わせてもらえば、鍵っ子の約半数は大人になる前に必ずグレるのだ。裕福な生活をさせておけば子供にとっても幸せだなんて思うなよ。

 ……まあ可愛い従妹の場合はそれ以前の問題だが。苦労して厄介な障害も排除したんだ。あの子にはまず、ちゃんとした親の愛情を与えてやらなければ。

 

「ふむ。そうだな。……よし、やはり優秀な執事をひとり手配しよう」

「一緒にいるべき家族がいるのに然るべきこと情もなくただの従兄と住むのは、いくら優秀な執じ……何?」

「お前の言う通りだ。そこで私も誰か家のことを手伝える者をと思ったのだが、娘に嫌だとごねられてな。……あ、あ、あ! んん゛、理由は聞くな」

 

 咳払いをしながら、叔父は顎髭を弄る。

 娘の珍妙なわがままを許す叔父も叔父だし、従兄の家に住みたがるなんて、シャルロットは何を考えてるんだ。

 初めて遊びに行った親戚の家が楽しいのはわかる。すごく、わかる。お泊まりも新鮮で、ワクワクするよな。

 だがな、いつまでも夏休み感覚ってわけにはいかないんだぞ。来年には進学だし、俺が合間を縫って家庭教師するだけじゃ駄目なんだ。

 この世に八月三十二日なんて存在しないんだからな。顔がカラフルになったり、消えたりするのは勘弁してくれ。

 というか何、家のお手伝いだって?

 

「いいや、我が家には執事も羊も必要ない!」

「だがジェイムズは……」

「ああ、ジェイムズか。確かに彼はデュノア家の歴史を全身に刻んでるタイプの使用人だよな。腕利きだし、俺も昔遊んでもらったよ」

 

 俺が幼い頃、船の模型を作って一緒に川まで流しに行った使用人は、今では白髪混じりの食えないご老体だ。

 こないだの一件で、真っ先に病院まで見舞いに来たのは誰だ。両親でも部下でもなく、当然叔父でもない。小言をたんまりと口に含んだジェイムズだ。

 怪我するから危ないことはやめろだって? またまたご冗談を……。俺から楽しい実験を取り上げたら完全な腑抜けになるぞ。

 まあ悪いやつじゃない。デュノア家(ゆかり)の者に仕えることに誇りを持っている、典型的な世話焼き爺やってだけで……。

 

「だが私の家にはもう家事手伝い見習いロボのポチがいる。……じゃなくてだな。今のシャルロットに必要なのは家族の愛だ! これまでの分、ちゃんと父親の愛を注いでやれ! おけー?」

 

 叔父の胸元を人差し指で突っつきながら、新しい飴を取り出す。

 

「はは。愛しているよ……私なりにな」

「おい……そんな顔して話を有耶無耶にしようとするな。ハートフルドラマじゃないんだぞ?」

 

 過去に思いを馳せる……みたいな。

 遠い目をしたところで、話のすり替えにはならない。

 まあ、多少はしんみりとするかもしれないが。

 

「……まったく、お前は兄さんに似ているよ。本当にそっくりだ」

「そりゃどうも」

「だから安心して娘を任せられる。あの子が望むままに」

「…………」

 

 これは無言の、視線で訴える抗議。

 父さんに似てると言われて嬉しいんだか、それを理由にされて悲しいんだか。正直複雑だな。

 

「これまでの分、せめて娘のわがままのひとつやふたつ、叶えてやりたいんだよ。だから、今回は譲らないぞ。これは社長……ではなく、叔父命令だ」

「…………」

「娘を頼む」

 

 ああ、もう……仕方ないな。

 多分、恐らく。今の俺はかなりの渋面を披露しているハズだ。

 実の兄に似てる、似てないとか。安心する、しないとか。こんな時に叔父命令とか言うなとか。バカなのかとか、正気か、とか。

 この父親にして娘……はたまたその逆か?

 色々と釈然としないが、両人がそう強く希望するなら、部屋の空きに余裕はあるし、他に断る理由が見つからない。

 要求を飲むしかなさそうだ。……もちろん、条件はこちらから細々と追加させてもらう。

 

「……わかった。シャルロットは本人と親の望み通り、うちに住まわせることにする。……ただし、週末に家族全員でディナーを食べること」

「ディナーを?」

「シャルロットと奥さんと、それから叔父さんの三人で……ああ、ちゃんと毎週自分から誘えよ?」

 

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□

 

 

「おい、叔父さん。叔父……いや、デュノア社長」

 

 叔父との秘密会談から数日が経った、週末の晩。

 俺はいつだかのように、テーブルを挟んだ向かい側にいる叔父を睨み、前回とは逆の言い回しで口火を切った。

 

「何だね」

「大事な話があるって、そう言ったよな、大事な話って。俺主導の第三世代機計画及びアーク・スフィア再始動の件で!!!」

「ああ……そんなことも言ったかもしれんな」

 

 フォークとナイフを巧みに操りながら、叔父はちらりと俺を見た。

 スかしてんじゃないよ、おい。

 

「あら、あなた。今日のディナーは彼が用意してくれたんじゃなかったのかしら?」

「……ふん」

「あらあら」

 

 そう言って微笑むのはロゼンダ・デュノア。叔父嫁にして、今はシャルロットの母親でもある。

 正直シャルロットと彼女を会わせるのは最後まで不安だったが、叔父との半年に渡る話し合いが功を奏したのか、比較的穏やかな顔合わせになったらしい。

 少なくとも、平手打ち案件にはならなかったようだ。

 よかったよかった……。

 

「よくなぁいっ……!」

「わ、どうしたのエミール? 大丈夫? おっぱいもm」

「いや待て、何処で覚えたんだそんな言葉?!」

 

 この歳にしては豊かなそれを、寄せて上げるように見せるシャルロットの様子に、俺は慌てて止めに入る。

 女の子がそんなことするんじゃありません!

 

「受付のお姉さんが休憩にね、男の人が元気になる魔法の言葉だって」

「…………」

 

 目眩がしてきた。

 何で俺は、デュノア家のディナーに混ざってるんだ?




それはあなたもデュノア家の一員だからです。


感想ありがとうございます。
あまりに文字数意識してると、作品的にも気力的にも長続きしなさそうなので、短くいこうと思った次第。

このまま原作行っちゃう?

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  • いいえ
  • 待て、夜這いについてkwsk
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