違うんです!ㅤちょっと幸せに(以下略 作:紫芋
秘密会談(2)
3月半ば、未明──社長室にて。
「社長……いや、今は叔父さんですか。貴方は自分が何を言ってるのか、ちゃんと理解してるのか?」
「……すまない」
ㅤブラインドやカーテンを閉め切り薄暗くした部屋の中で、俺は叔父と膝を突き合わせていた。
ㅤ互いに渋面を見せ合い、さながら秘密会談といった様子だが、話してる内容は大人の情けない嘆願のようなものだ。
ㅤなんなら以前の、シャルロットを預かる預からないで揉めた時以上に揉めている。
ㅤごめんなシャルロット。情けない話、やっぱお兄さんもダメな大人のひとりなんだわ。いやホントにすまん。
「しかしこのまま隠していても、いつか情報が外部に漏れ出るやもしれん。そうすれば私の力が及ばない場合もある。……政府機関からお前の身柄を寄越すよう要請が出れば、言わずもながな……な」
「いや、だからといってこれは……ないでしょうが」
「すまん。……これしか他に打つ手がなくてな」
ㅤ俺はないわ、ないわ……と煮詰めたコーヒーを飲んでしまった時くらいかそれ以上の変顔を浮かべ、叔父は叔父でただひたすらに平謝りをするばかりで、一向に話が進まない。
ㅤいや、まあこれといって特に進退するような話でもないのだが。問題の手続きは秘密裏に進められ、もはや取り消すことも戻ることも叶わない。学園への出向は決定事項だ。
俺がISを動かせるのを、叔父に知られてしまったばかりに……。
「まずは先手を打つ。お前がうちに所属している社員であることを強調しながら男性操縦者だと発表し、マスコミを利用して世間的にも強く根付かせつつ、大衆にお前の立場を確認させる。もちろん、一通りの手筈が滞りなく済んでからな。そうすれば、上の連中も強くは出れないだろう。文字通り手も足も……というわけだ」
「……ちなみにこの件について、シャルロットには?」
「話すわけないだろう。お前ができない話を、私が説明できるとでも?」
「それもそうか……」
ㅤまあ、そりゃあそうだよな……。
「ともあれ、手筈は整えている。お前も腹をくくれ」
「…………」
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ㅤ慌ただしくも穏やかな時は過ぎ去り、4月。
ㅤあれからシャルロットには叔父との秘密会談についてなにも言えていないので、すぐ隣から『え、何でここにいるの?』的な視線がズビシズビシと突き刺さってくる。
「では、ええっと……
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
ㅤうん、矛盾塊なご紹介ありがとう山田さん。あと生徒さんたちも元気な歓迎ありがとう。
ㅤ俺は今、IS学園の教室で一年一組の生徒に紛れ……られてはいないが、ともかく用意された自分の席に腰掛けている。
ㅤいやはや……。まさかこの歳になって、また学生服を着る羽目になるとは。スーツならまだしも白いブレザーってのがまた、コスプレ感が半端ない。
ㅤそれはさておいても、紹介にあった通りの矛盾の塊こと俺。学生なのに非常勤講師で講師なのに学生で、皆と勉強するのに皆の前で教鞭を執る……。
ㅤ今の紹介聞いて誰も可笑しいと思わなかったのか、俺は思ったぞ。結局どういうことなんだよって。
ㅤそもそもIS開発に関わってる大の大人が、今更IS学園でなにを学ぶんだって話でもありつつ、ちゃっかり現場の人間に授業の講師をさせようとしてる辺り、ここを運営してるやつの抜け目のなさが感じられる。
ㅤ他所のクラスからしてみれば、今年一年一組だった生徒みんなズルっ子だな。ただでさえ担任がアレなのに……。
ㅤと、まあそんなこんなで俺は日本──厳密には国に属してはいないのだが、東京から少し離れた場所にあるIS学園にいた。
ㅤ実に回りくどく面倒な形でひっそり入学した為、恐らくシャルロットも今の今まで俺の存在を知らなかったはず。
ㅤ前後の大まかな流れとしては、昨日日本行きの便に乗るシャルロットを見送り、その足でデュノア社のプライベート機に乗って俺も日本へ向かい、今日の入学式中に理事長の粋な計らいで簡単な自己紹介を壇上でさせてもらった、とそんな具合である。
ㅤ……あー、シャルロットさん。『あんな今生の別れみたいな5分間だったのに、今更どんな面提げて僕の前にいるの?』なんて視線向けられても、本当に申し訳ないくらいしか言えないぞ。
ㅤ凄かったもんな、うん。涙とか鼻水とか、顔面から出るもの全部出ちゃってる感じだったし……。いや、本当にごめんって。
ㅤたとえ身内だろうが知られないようにって、キッつい情報統制敷いてたわけなんだから。叔父も本気で信用出来る腹心以外に計画を話していなかったみたいだし……。
ㅤ新たな男性適合者の発表については、今頃本国の叔父が大勢のマスコミの前で、堂々と記者会見を開いている事だろう。
ㅤ会見内容については概ね想像がつく。『問題の社員は今現在IS学園におり、向こう3年ほどそちらで我が社が開発した第三世代機
ㅤポチが俺の携帯端末に物凄い、凄まじく、
ㅤスルーです。
「それでは皆さん、これから1年間よろしくお願いしますね。…………そ、それじゃあ自己紹介をお願いします。えっと、順番は出席番号の若い人からで」
ㅤさて、知っての通りIS学園は本来女子校であり、男子生徒はもちろん俺を除けば──。
「う、はうう……」
ㅤえー……男、子?
ㅤ生物学上の男性は、昨年度まで在学していなかった。
ㅤところが今年に入って俺という例外が現れたように、この教室にはもうひとり世界で初めてISを起動させてしまった不幸な少年がいる、はず。
ㅤそれに因んでほんの少しだけ、1ヵ月かそこら前に、実は男性適合者がいました、みたいな報道が世界的にちょっぴり流れた。
ㅤなぜかは知らんが、それはあんまり信憑性のない情報として取り上げられ、1週間と経たずに中国で新たに産まれたパンダの赤ちゃんと、日本のペンギンのニュースにかき消されてしまうのだが……。
ㅤともかく、この教室には男子生徒がもうひとりいる。
ㅤ……いる。……はぁずなんだがな……。はてなぁ。
ㅤいや、いるよ。うん。男子用の特注ブレザーを着てる生徒ならもうひとり。
ㅤこっちを見て、同じ境遇の人間を見てホッとしたような安堵の、というか目がキラキラしてるし、大人に対する憧れ、のような……。君のそれ、どんな感情なんだ?
ㅤあからさまに目が合ってしまっている為、無視するわけにもいかず軽く手を振ってみると、パッと顔を綻ばせてコクリコクリと首を縦に振って頷いた。
ㅤなるほど、わからん。もうさっぱりだ。
「織斑くん、織斑くーん?ㅤ織斑一夏くんっ!」
「ひゃ、ひゃぃいっ?!」
ㅤ名前を大声で呼ばれたからか、慌てたようにこちらを見ていた生徒は立ち上がり、山田さんの方を向く。
ㅤその様子が可愛らしかったのか、周囲からくすくすと笑い声があがる。
ㅤあ、やっぱり彼……?ㅤで、合ってるのか。
ㅤ教卓側、真ん中の席で山田さんとマンザイのような掛け合いをする、織斑一夏……くん?
ㅤそこには服に着せられてるような、無理して男装してるような様子の幼い少女……ではなく、少年がいた。
ㅤは、て。こんな感じだったか……?
エミールにアルコールを入れるか否か
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下戸、飲めない
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飲めないことはない、付き合い程度
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ザル、酔わない
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シャルロットがいるので飲まない
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大好きな実験に使う