ドラえもん のび太の異空幻想伝   作:松雨

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いざ、幻想郷へ

「ねえ、ドラえもん! 僕たち2人で、明日の冬休みから何処かに遊びに行こうよ! 皆が行きたがるようなところにさ」

 

 もうすぐ1年が終わろうかと言う12月下旬、外を出歩く気が起きなくなる程寒い中、学校から帰って来たのび太は一目散に2階の自室へと駆けると、石油ストーブの前でぬくぬくと過ごしていたドラえもんを揺すりながら冬休みに何処かに出掛けたいとねだっていた。

 

 せっかく暖かい石油ストーブから出る暖かい風に当たりながら、友達の猫へのプレゼントを用意していたドラえもんは、どうせまたスネ夫辺りに旅行関連での話を聞かされて自分も同様に行きたくなったのだろうと推測をしつつ、念のためにのび太に学校で何があったのかと質問を投げ掛けた。

 内容によっては、いつものようにひみつ道具で何とかしてあげようと考えていたからである。

 

「はぁ……取り敢えず、落ち着こう。何があったのかは大体察したけど、一応聞くよ。のび太君、何があったの?」

「うん、実はね……」

 

 そうして、ドラえもんに落ち着かせられた後に何があったのか言ってくれと促されると、冬休みの間に何処かへ出掛けたいと思うに至った、学校での出来事を話し始めた。

 

 のび太曰く、自身の担当している場所の掃除を手早く終わらせ、教室で帰り支度をして帰ろうとした時にジャイアンに呼び止められ、冬休みの間は何をするのかと言う話になったとの事。

 

 ジャイアンは都外にある両親の実家泊まりに4日間、しずかちゃんは大阪への3日間の旅行に行くと告げ、スネ夫に至っては父親の知り合い家族と5日間のフランス旅行へ行く事をこれ見よがしに自慢したのを見て、とても羨ましくなったらしい。故に、海外は色々な意味で無理にしても、どうにかして国内旅行位は楽しみたいと、ドラえもんに懇願したようである。

 

「無理だね。ホテルや旅館に泊まりたいって言っても、僕やのび太君のお小遣いに早めにもらったお年玉を加算して、安めの旅館やホテル1泊分が関の山だから。お正月まで待って色々な人から毎年貰えるお年玉とかがあれば多少は伸びるかもしれないけど……それって、皆が善意であげようと思ってあげるものだから、毎年同じ額貰えるって確約されたものじゃないからね」

 

 しかし、ドラえもんはそんなのび太の懇願を、金銭的な余裕がないと言う理由から即座に無理であると切り捨てた。実際、現在の2人の貯金額に早めにもらったお年玉を合わせたとしても1万円と少し、お正月に前年と同じ人数から同じ額を貰うと想定しても3万円を超えるか超えないか位であり、1泊2日でも中々厳しい。なので、仕方のない事ではあった。

 

「仕方ないかぁ……」

「まあ、君が有名観光地での単なる散歩と少しばかりの買い物とかだけでも良いって言うなら、今すぐにでも『どこでもドア』で連れていってあげる事は出来るけど、どうする?」

「うーん……」

 

()()()()()()()()()。こんな、今すぐにはどうしようもない理由で断られてしまえば、旅行に関しては流石ののび太も諦めが付いたらしい。ただ、皆が冬休みを旅行などで謳歌する事が出来るのに対して羨む気持ちは消しきれずにいた。

 

 なので、ドラえもんにお泊まりなしかつある程度の買い物をするだけなら連れてっても良いよとの言葉に対しての返答を考えつつ、およそ4ヵ月前に初めて出会い、2ヵ月前に姉である『レミリア・スカーレット』と共に再び遊びに来た吸血鬼少女『フランドール・スカーレット』から貰った、机の上に飾られている翼の宝石を見ながら、また遊びに来ないかなと思っている。

 

「なら――」

「それなら、2人で幻想郷に遊びに来ない? ちょうど土下座してでも誘いに行こうかと思っていたのよ」

 

 頭の中で色々と考える事30秒、旅館やホテルの宿泊や大きな買い物をせず、ただの散歩にちょっとした買い物だけだとしても楽しめはするだろうと結論を出し、ドラえもんの問いかけに対して肯定の意を示そうとした時、突如として女性の声が部屋に響いたと同時に空間に不気味な目玉の見える空間の裂け目が発生したのを目撃した。

 

 本来であれば、奥に目玉が無数に浮かんで見える空間の裂け目が現れれば、多少なりとも恐怖と言った感情が発生するはずであるが、のび太は相変わらず不気味だなとは思いつつも、何度も同じ物を見た事があると言う理由から、そう言った感情は一切発生しなかった。ドラえもんも同様である。

 そして、その不気味な空間から出てきた『八雲紫』と言う妖怪の賢者である女性とも知り合いであるため、2人は特段驚く事はなかった。

 

「あっ……お久しぶりです、紫さん。幻想郷に連れていって貰えるなら嬉しいですけど、土下座してでも誘おうと思っていたとは一体……?」

「確かに、僕ものび太君と同じ事を思いました。紫さん、説明をお願いします」

「ええ、久しぶりね。のび太、ドラえもん。それで、その理由なのだけど……」

 

 で、のび太とドラえもんはスキマから出てきた紫に挨拶をした後、紫が出てくる前に言っていた『土下座してでも幻想郷に2人を誘うつもりだった』とは一体どう言う事なのかとの質問をすると、紫は理由を説明し始めた。

 

 何でも、ここに来る数時間前に幻想郷で様子見を兼ねて紅魔館に行った時にたまたまフランに会い、のび太がいつ遊びに来るのかと言う質問をされた際に何故か、今日来ると言ってしまったようだ。

 

 当然、今すぐにでものび太に会って楽しく話し、幻想郷を案内したりして遊びたいと思っていたフランは紫の言葉を真に受けて非常に喜んだらしく、お兄様のお出迎えするんだと気合いを入れて準備をし始め、玄関前で今か今かと待っている状態になってしまったようである。ちなみに、レミリアもそんなフランからのび太が来る事を聞き、とても楽しみにしているとの事。

 

「なるほど……フランが僕と一緒に遊びたくて仕方がないと」

「ええ。本当は、のび太の友達3人の都合がついてから誘うつもりだったのだけど……申し訳ないわ」

「いえ、大丈夫ですよ。ドラえもん。そう言う訳だから、せっかくだし一緒に幻想郷に行こうよ。何だか楽しくて面白い事が起きそうだしさ」

「うん、分かった。のび太君がそう言うなら、僕も行くよ」

 

 紫からの説明を聞いたのび太は、それによってフランが自分と一緒に遊びたがっていると知り、更に何処かへ出掛けたいと言う抱いていた気持ちもあって幻想郷に行く事を即座に決断し、ドラえもんも行こうと誘った。

 のび太が行くと決めた時点でドラえもんも幻想郷に行こうと同じく即座に決断したため、その問いに対してそう伝えた。断る必要が出てくるような、確たる理由もなかったためである。

 

「ありがとう。じゃあ2人共、このスキマを通って。そうしたら紅魔館の門番妖怪の前に出るから、その妖怪に声をかけて中に入れてもらえれば後はレミリアたちが色々と面倒見てくれる手筈になってるわ」

 

 2人の返事を聞いた紫は、それに対して感謝の言葉を述べた後に幻想郷へと繋がるスキマを開き、通るように促す。その際に、若干申し訳なさそうな表情をしていた事にドラえもんが気付くも、事前に自分のミスでジャイアンやスネ夫、しずかちゃんの都合を合わせて誘えずに申し訳ないと謝っていた事を思い出し、今見せているこの表情もその類いのものだと思ったため、取り敢えず気にしないでおこうと決める。

 

「実際に中に入ると、沢山の人たちから四方八方から睨まれてるみたいで不気味だね。ドラえもん」

「うん。それにしても、紫さんがこんな事をひみつ道具なしでも出来るなんて……凄いなぁ」

「そう言ってもらって嬉しいけれど、こちらとしてはドラえもんの居た未来世界の、下手したら神が起こす事象をいとも簡単に()()()起こせるようになるひみつ道具の方が圧倒的に凄いと思うわ。調べていく内に、自分の顔が蒼白になってくのを感じてく位にはね」

 

 そうしてスキマに入った後は、ドラえもんと紫がお互いの能力とひみつ道具の超常的な効能を褒め合うやり取りが始まった。

 特に、レミリアとフランの現代旅に合わせ、()()()()()のために未来世界の事を調べ、情報を集めていた紫のひみつ道具に対する衝撃は凄まじかったようで、色々な感情が入り交じった返答を返す程である。

 

 ちなみに、のび太は途中から話についていけていなくなったため、幻想郷についた後何をして楽しむか、レミリアとフランは元気で居るのだろうかなどといった事を考えていた。

 

「さてと……着いたわ。ここが幻想郷、目の前にあるのが2人が()()()()お世話になる『紅魔館』よ」

 

 スキマ内部の空間を漂いながら移動する事15秒、幻想郷へと繋がる出口を通り抜けて降り立ち、2人は目的地である紅魔館の門前に到着した。

 どう見ても、自分たちに一番身近であるスネ夫の大きい家よりも二回り位の大きさである上に、庭まで相応の広さである実際の紅魔館を見たためか、大きいと言う感想しか出て来ない様子である。

 

「貴方たちが、紫さんとお嬢様たちが言っていた……のび太君と、ドラさんですね? 私、紅魔館の門番をしている妖怪の『紅美鈴(ホン メイリン)』と言います! しばらく滞在なさるとの事なので、よろしくお願いしますね!」

「はい。美鈴さんの言う通り、しばらく滞在する事になると思うので、よろしくお願いします」

「同じく、よろしくお願いします」

 

 すると、のび太とドラえもんの2人館の敷地内に入るための門の前に立ち、侵入者を防ぐための門番をしている女性から声をかけられると、簡単に自己紹介をし始めた。曰く、彼女は『紅美鈴』と言う名前であるらしい。

 

 で、美鈴の簡単な自己紹介と歓迎の言葉を聞いた後、のび太たちもそれにならって自己紹介をしようとしたものの、レミリアや紫から既に聞いていて知っていたため、よろしくお願いしますと簡単に挨拶を済ませる程度でこの場は留めておく事に決めた。

 

「さてと、自己紹介は置いておいて……早速中に入って頂けると助かります。何せ、特に妹様がのび太君を『お兄様』と夢心地な様子を見せながら何度も連呼する位には、会える事を非常に楽しみにしているので」

「はい、勿論です! ドラえもん、行こう!」

 

 そんな感じで軽めの自己紹介も兼ねた会話を交わし終えた時、美鈴がのび太に対して館に早く入ってくれたらありがたいと言い始めた。夢心地になる位にのび太に会える事を喜んでいるフランを見て、ここで会話を交わすよりはまず合わせてあげたいと思ったようだ。

 当然、ここに来た理由の1つにフランに会いに来た事も含まれている故に、美鈴の促されるがままに会話を中断して館の中へと向かい始める。

 

「あっ……お兄様ぁーーー!!」

「へっ!?」

 

 これから、幻想郷や紅魔館で起こるであろう楽しい出来事に心踊らせながら館の入り口の扉を開けたその瞬間、のび太が来るのを心待ちにしていたフランが勢い良く抱きついて来たため、バランスを取れずに転倒する羽目になってしまった。




ここまで読んで頂き、感謝です。

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