「異世界って言うからどんなところかと思ったけど、所々変な植物とか生き物を見かけるなって位なのね。ドラちゃん」
「そうだね。空気も美味しいし、暖かくて快適だし」
紫によって博麗大結界と異世界の境界線へと連れてこられ、何枚かの地図と共に幻想郷を地球へ返すための異世界探索の旅へと出発したドラえもんたちであったが、今のところは穏やかなムードを維持出来ていた。危険な魔法生物などに襲われる事もなく、遠目に異世界の魔法生物や植物などを見る事が出来ていたからである。
衛星写真から見て最初の目的地である人の住む町まではおよそ30㎞あり、歩きで向かうにはかなり遠いため、本来なら空を飛んで向かうのが1番良い。
ただ、時折森の上空をヘリコプターと同程度の速度で飛行する飛竜に乗って巡回する
後は、肝心な時に故障して使えませんと言う事がない様にするため、念には念を入れて使用頻度を落とすと言った理由もある。
「何か美味そうなリンゴみたいな果物がなってるけど、食えるのか?」
「見た目は食べられそうだけど……ジャイアン、駄目だよ」
「スネ夫。お前は俺を何だと思ってるんだ? 知ってる物ならともかく、似てるからってだけで美味そうに見えても食うわけねえよ」
今皆が歩いている場所には、当然ながら舗装された道などはない。木の根や大小様々な石ころ、地面の盛り上がりや窪み、獣道や狭い足場など歩くにはかなり大変な森である。
が、複数放ったステルス小型偵察機と偵察衛星による現代のGPSに似た簡易的なリアルタイム探査網の構築、バッジ型の発信器の装着によって全員の位置情報が、ドラえもんの持つタブレット端末に表示されている。
なので、皆がバラバラに動いて離れすぎたり、何らかのトラブルによって発信器から発せられる電波が阻害されたりしなければ迷う事はないので、そう言った意味で気持ち的に辛さも軽減されていて、まだ元気がありそうであった。
「お兄様、お姉様。異世界の町が楽しみだね! 一体何が起こるんだろうなぁ」
特に、フランに至っては異世界探索が始まってからテンションがとても高く、のび太にべったりくっついたりレミリアにハグしたりしながら、これから向かう町でどんな楽しい事が起こるかと想像しながら楽しんでいた。
まるでただの楽しい異世界旅行に来ているノリではしゃいでいるフランだが、今居る国は人間至上主義な上に彼女は吸血鬼だ。人間ではないので、万が一バレてしまえばのび太たちよりも危険である。
「確かに楽しみだけど、フランは人間じゃないから気をつけて。魔法もある世界みたいだし、もしもの事があったら僕だと咄嗟に守れないかもしれないから」
「のび太の言う通りよ。私たち自身が魔法も使えて戦えるし、未来の機械のサポートがあるとは言え、油断したら危ないわ」
「……うん、そうだね。私、お兄様
しかし、未知の異世界探索のワクワク感に、実質的な恋人であるのび太や大好きな姉であるレミリアに手を繋がれる幸せが加わり、当の本人はその事が頭から抜けきってしまっていた。
ただ、それについては2人にやんわり指摘されてようやく気づく事が出来たので、変に羽目を外す様な事はもうないと言っても問題はなさそうだ。
「フラン。何だか、私たちをこう……選ぶみたいにして監視する様な視線を感じない?」
「うーん……確かに感じるね。お兄様、危ないから私から離れないで。皆も――」
そんな感じで森の雰囲気を楽しみつつ、目的地である人の住む町へと全員で向かっていると、レミリアがこの場に居る全員を見定める様にして監視する何者かの視線を感じ取り、フランへと伝えた。
当然、レミリアが感じていたそれをフランも感じ取っていたため、まずはのび太へと危機が迫っている事を伝え、 その後に皆に対しても同じく伝えようとする。
「この人間共なら行けそうダ!」
「えっ……」
「「「のび太!!」」」
が、それはおよそ10m離れた茂みからのび太たち3人ををめがけて鉄の剣を振るう、人語を話す二足歩行の豚かイノシシのような化け物が7体も出現した事によって、伝えられる事はなかった。運が悪かった事に、スカーレット姉妹とのび太が集団の外側に居たため狙われてしまったらしい。
「行けると思ったの? ふふっ、馬鹿な玩具たちだこと」
しかし、本当に運が悪かったのは3人ではなく、気配を極限まで落としたスカーレット姉妹を人間と勘違いしてしまい、更にのび太も含めて狙ってしまった化け物の集団の方である。
吸血鬼である自分や姉はともかく、何の力も持たない上に死ぬまで添い遂げようと思う位に好きな人を殺そうとされた激烈な怒りから、どうこう考える前にフランは化け物たちを滅殺しようと反射的に決断、物凄い勢いで向かって行った。
結果、ものの30秒も経たない内に襲ってきた二足歩行の豚かイノシシの様な化け物の集団は、どす黒いオーラが具現化する程に怒り狂うフランの猛攻に、殆んど何も出来ずに全滅してしまった。
頭が陥没していたり、殴り飛ばされ岩にめり込んだりしている化け物も居る中、最初にのび太へと向かった化け物が激しい報復攻撃を食らい、
「もう、コイツらの顔は2度と見たくないわ。不愉快過ぎて堪らないから」
その後、すぐに化け物の死体は結界で囲われた上、フラン独自の火炎魔法によって一瞬で跡形もなく焼き尽くされたため、これ以上グロテスクな光景を見る事はなく済むようにはなった。
しかし、戦闘時を含めて子どもには刺激が強すぎる光景を少しでも見てしまったためか、ジャイアンやスネ夫、しずかちゃんの3人はへたり込んでしまう。
「フランって、こんな強烈な子だったっけ……?」
「相手の割には派手に殺り過ぎてるし……全く、のび太の事となると先が思いやられるわ。でもまあ、私的には良くやったと褒めてあげたいところね」
で、のび太に至っては、普段満面の笑みを浮かべながら可愛い仕草で自身に甘えてくるフランと今とではあまりにも違い過ぎて、グロテスクな30秒間をかき消す勢いで衝撃を受けていた事もあり、3人よりも精神的なダメージは少なく済んだ。
「あっ……お兄様ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
「フラン、落ち着いて! 大丈夫、大丈夫だから!」
「不味いわね……ドラえもん! 何か良いひみつ道具をお願い!」
「分かった! 上手く調整はしておいたから、これでのび太君たちの頭を軽く叩いて!」
最終的に、敵を始末し終えて正気に戻ったフランが、のび太の目の前でグロテスクなものを見せてしまった事に対する激烈な罪悪感で錯乱し始め、混沌とした状況に陥ってしまう。
ただ、ドラえもんとレミリアがひみつ道具の『ワスレンボー』を使って全員の例の30秒間についての記憶を消去し、必死の説明によって抜けた分の記憶を比較的マイルドなものへと置き換えた事で精神的ダメージがなかった事になり、何とかこの事態は納まった。
ふとした拍子に記憶が甦る可能性も全くない訳ではなく、副作用なども判明している訳ではないものの、現時点では最適な対処の仕方と言えるだろう。
そして、念のために周囲にひみつ道具を使って水を撒いた後、ここに留まる事は危ないと思い知らされた7人は、この森の旅を楽しもうと言う考えを即座に捨て去り、ひみつ道具などを駆使して出来る限り早く人の住む町へと向かう事を満場一致で決定し、実行に移した。
「ねえ。私、お兄様の嫌がるものを見せちゃったんだけど……嫌いになったかな?」
「フランを嫌う? そんなの絶対にあり得ないよ。だって、僕の事を守ってくれようとした結果なんだから」
「本当に? これからもずっと、私の事を好きで居てくれるの……?」
「勿論だよ。だから、もう泣かないで」
「そっか……お兄様って優しいんだね。だから、私もお兄様の事が大好き!」
道中、マイルドとなった化け物との戦闘の記憶を辿り、自分のやった行為でのび太に嫌われる事を恐れたフランが突如泣き始める一幕があったものの、いつも通りの対処でのび太が落ち着かせて解決した。
これにより、一層のび太への好意を深めていくと同時に誰かに取られる恐怖も深まっていったフランは、遅くとも今回の探索が終わる日までには正式な告白をしようと固く心に誓う。
希望としてはちゃんと準備を整えた上で、姉を含めた如何なる人物の邪魔も入らない2人きりの場所……紅魔館の自室が1番良いが、ムードに欠ける。
たまに使う、巨大な日傘のある屋上のテラスで月でも見ながら告白はムードが出て良いものの、誰かの目につく確率はぐんと上がる。一体どちらが良いのかと、フランは頭の中で繰り返し自問自答した。
その際、本人は幸せを体現したかの様な笑みを浮かべ、他人の視線はお構いなしと言わんばかりの態度を無意識に示していた。
「フラン、何か嬉しそうね?」
「うん! まあ、秘密だけど!」
「分かったわ。まあ、大方いつ――」
「わーっ! わぁーっ……言っちゃ駄目ぇ! もう、お姉様ってそう言うところあるよね!」
結果、心の中でフランが何を考えているのかが手に取る様に分かってしまったレミリアにより、おふざけでご開帳されかけるハプニングの様な事態が発生した。
当然、顔を真っ赤にしながら必死になって止めるフランだったものの、やったのが大好きな姉であるが故に、恥ずかしがっても怒りの感情はそれ程抱いたりはしていない。
今回はほぼ何も起こらずに終わったものの、これがもし赤の他人である誰かによるものであった場合、その人はほぼ確実にフランから激怒される事となるだろう。
「皆。ようやく目的地が向こうに見えてきたみたいよ。後もう一息だから頑張りましょう」
「「「おーっ!!」」」
ひみつ道具を駆使し、体力の問題などを解決しながらかなりの早さで町へ向かう事8時間、日が完全に沈みきる前に町を視界に入れるところまで来る事に7人は成功した。
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