「ふぅ……森歩きは疲れるなぁ」
「全くだよ。森の途中で、少しは休憩しても良かったんじゃない?」
「でも、スネ夫さん。レミリアちゃんやフランちゃん、のび太さんを襲った化け物が居る以上、疲れを押してでも来たのは正解よ」
あれから急いで視界に入った町へと向かい、門前の警備兵たちとの少し長めのやり取りを交わしたドラえもん一行は、たまたま空いていた旅人や冒険者用の宿に泊まる事を決め、強行軍的な移動で疲れた身体を部屋で癒していた。
と言っても、元から人間を遥かに凌駕する体力を持つ吸血鬼のレミリアとフランはまだ余裕があり、畳の様なものが敷かれた部屋の床に寝そべる程に疲れているのは、2人以外の4人である。
ただ、のび太に関しては7人の中で最も体力がなかったため、フランが付きっきりで回復魔法をかけ続けて疲労を除去していた事もあり、しっかり休めば誰よりも早く回復する感じだ。
まあ、森の広さが尋常ではない上に異世界であり、豚かイノシシの様な化け物に実際に襲われた恐怖から解放されれば、一般人であれば当然とも言える反応だろう。子供であれば、トラウマを植え付けられても何ら不思議ではない。
「運良く町の宿が空いてて良かったわね、ドラえもん。それにしても、異世界転移してからそんなに経っていないのにこの国の通貨の量……助かったけど、良くもまあ紫はこんなに
故に、その様な厳しめな環境から解放されて落ち着ける場所に来れれば、全員の気が緩んで和やかになるのも同じく不思議てはないだろう。
例えば、レミリアが7人全員が泊まれるだけの異世界国家の通貨を紫が渡してきたのを盗ったものだと考えたり、部屋にある魔法が使われた道具をジャイアンたちが物珍しそうに眺めたり、フランがのび太を他の皆から遠ざけて独占に成功し、喜びを隠せなかったりと言った感じだ。
「うーん、明日からどう動こうかしら。流石に調査名目で送り出されてきたからには、町の観光だけで終わらす訳にはいかないわよ」
「確かにそうだね。でも、どの辺を回れば有益な情報が手に入れられるのかな?」
「図書館みたいな場所とかがあればの話だが、そこに行けば少しは手に入るだろ。後は……新聞とかがあれば良いんじゃないか?」
「うーん、人が沢山集まる場所で上手い事話を聞くべきじゃない?」
「それもそうだけど、まずはこの町のルールを知るべきよ。知らない間に私たちが破って、色々と注目を浴びたり捕まったりしないようにもね」
そんなこんなで宿に来てある程度の時間が経った時、レミリアが防音結界を張った上で明日は町のどこら辺を見て回ろうか予定を立てようと言い始めた事により、全員での話し合いが始まった。
図書館かそれに相当する施設を探して書籍を漁るか新聞を探して読む、人が沢山集まる様な場所で変な誤解を生まない様に上手く聞く、それよりもまずは町固有のルールを調べるのを最優先に動くなど、色々と案が飛び出している。
これも今居る場所が外国どころか、魔法や魔獣などのファンタジーなものが存在する異世界故であった。
「じゃあ、しずかの案を主として他の皆の提案も上手く取り入れていくと言う事で良いわね?」
「そうだね、レミリア」
結果、しずかちゃんが提案した町のルール調べを主として、後は全員が出した提案をその場の流れで上手く行うと言う結論が出される事となった。
その際、2つか3つのグループに分けて行こうかとも考えも出たが、何が起こるかまだ殆んど分かっていないこの状況で別れるのは危ないだろうと言う事で、この考えは没となる。
「お兄様、早く疲れを癒して元気になってね! あっ、痛いところがあったら言って!」
「ありがとうね、フラン。今のところは痛いところはないかな」
「そっか。なら良かった!」
明日からの予定が決まり、時間も遅いと言う事もあって各々寝る準備などを済ませる中、そんなの知らんと言わんばかりにフランはのび太のお世話をしながら我が世の春を謳歌していた。
普段は何やかんやで自分1人が独り占めする事を
ただ、実際には回復魔法がもう既にかなりの効力を発揮していて、森の縦断前と同じ位の体力に戻っている故に、フランが付きっきりで世話を焼く理由は既に失われていた。
にも関わらずのび太がこの状況を維持しているのは、彼女の2人きりの時間が欲しいとの意図を察し、それを汲んでいるためだ。後は、自身もこの一時に安息を得ているとの理由もある。
そして、その事には気を遣われているフラン以外の全員が気づいているものの、2人が幸せそうにしている事から言葉に出すのは野暮だろうと、何も言わずに遠目で見守るだけで済ませている。
「ねえ、お兄様。私と一緒に居て幸せ?」
「うん、とっても幸せだよ」
「えへへ……じゃあ、
「勿論、僕もフランと同じ事を思ってる」
「そっか。お兄様
寝る準備を終えた他の皆が眠りにつき、2人きりの一時を謳歌する事1時間、流石に世話疲れして眠くなってきたフランはのび太の布団に潜ると、自分と居て幸せかと問いかけた。ジャイアンたちが幻想郷へと来てから、妙な不安に駆られて行われるようになった行為である。
勿論、告白をされたりしてはいないとは言え、実質的にフランと恋人となっているのび太が不幸せだと答える訳もなく、幸せだといつもの様に答えを返した。
そして、その後のやり取りも多少の差異こそあっても殆んど同じ様な感じで交わし、満足したのび太の腕を抱き枕代わりにして眠りについた事で、終わりを告げる事となった。
――――――――――
「この町で滞在する際に注意しなければならない事……ですか」
「はい。何せ、僕たちはこの町に訪れたばかりで、ルールをあまり知らないんです。なので、是非とも教えていただければと思いまして……」
幻想郷から夜中に森を縦断して異世界の町訪れ、そこの宿で初めて迎える朝、ドラえもん一行は食事を済ませてから手の空いていた宿の女性スタッフに、町固有のルールなどを尋ねていた。目的は昨日の話し合いで出た、調べもののためにこの町に滞在している間、出来る限り穏やかかつ安全に過ごすと言うのを達成するためである。
勿論、知らなければ致命的となる絶対的な国のルールに関しては幻想郷を出る前に伝えられているものの、それ以外のものに関しては完全ではないし、この町特有のルールも同様だ。
「承知しました。それなら、こちらの用意した解説書をお持ち頂ければ大丈夫ですよ。貴方たちの様な旅人や冒険者向けに、出来る限り分かりやすく解説されていますので」
「あっ、何かわざわざすみません」
「いえいえ、この程度の事なら割とありますのでお気になさらず」
すると、ドラえもんに町固有のルールなどについて尋ねられた宿の女性スタッフは微笑みを浮かべながら、それを含めた事柄について解説された本……と言うよりはしおりであるが、それを懐から出して手渡した。
曰く、冒険者や旅人用の宿故にこう言う類いのお願いが割と良くあるため、あらかじめ彼女含めた宿のスタッフ数人によって用意していたらしい。これで、この町を見て回る分には何とかなるレベルとなる。
「なるほど、僕たちにも分かりやすい解説ですね。ありがとうございます」
「そうですか、それは良かったです。皆さん、見る限り全員が人間である様なので、安心してこの町を含めた色々な町や村などに訪れ、滞在する事は出来るでしょう。ただ、貴殿方が心から楽しめるかどうかは……正直、
「「「……」」」
そして、渡された解説本を全員が簡単に流し読みしてからドラえもんが代表してお礼を言ったところ、宿の女性スタッフは数秒笑みを浮かべた後にその柔らかな雰囲気を、その場に居る者に緊張感を与える雰囲気へと180度変えた。
とは言っても、ドラえもんたちに対して敵意を示す意味でその雰囲気を醸し出している訳ではなく、ただ純粋にこの国で過ごす上で色々と心配に思えていて、それ故の変化であった。
急な雰囲気の変わり様に驚く一行ではあったものの、女性スタッフが自分たちに気を遣ってくれている事は理解出来ていたため、恐怖の様な感情は抱かなかった。
「保証出来ない?」
「はい。ご存じかと思いますが、この国は人間至上主義と言う思想を、総力を挙げて掲げています」
「うん、それは知ってる」
「故に、国民の半数強は自然と純粋な人間以外の方々を下に見る傾向があり、露骨なのは珍しくとも所々でその片鱗をどこかで見る事になると思われるので、心優しい貴殿方は恐らく気分を害されるかもしれませんね。まあ、この町は特性上マシな方ではありますが……」
そして、沈黙の中でフランが発した一言を皮切りに女性スタッフによる説明が始まると、いよいよこの町での調査に本格的な不安感を全員が抱き始めた。
特に、実質的な恋人のフランとその姉であるレミリアがこの国で言う見下されたりする対象にガッツリ入っている事で、のび太の抱く不安感は他の誰よりも超えている。だからなのか、誰にも聞こえない位に小さな声で『守ってみせるから』と、独り言を言っていた。
「重ね重ね、僕たちのために色々とありがとうございました」
「いえ、とんでもありません。僭越ながら、貴殿方はどうも私と似た様な心の持ち主であると感じて勝手に説明させて頂いただけなので、気にしないで良いですよ。むしろ、お時間取らせてしまって申し訳ありませんと、こちらが謝罪するべきだと考えてます」
そうして、何だかんだで女性スタッフの話を真剣に聞く事15分、最後にお互いに頭を下げて一言二言交わすやり取りをし終えたドラえもん一行は、早速町中へと出かける準備をするために部屋へと戻っていった。
ここまで読んで頂き、感謝です。お気に入りと評価をしてくれた方も、ありがとうございます。