「綺麗で楽しそうな町ね。色々な懸念材料がなければ心から楽しめていたでしょうに」
「あー……うん、違いないね。まあ、全く楽しくない訳じゃないけど!」
泊まっていた宿の女性スタッフから解説本をもらい、プラスアルファで役に立つ話をしてもらったドラえもん一行は必要最低限の準備を済ませた上で、最初の目的地である図書館へと向かっていた。
早速何か起きそうな不安がない訳ではなかったが、それに反して和洋折衷の綺麗な町は平和そのものである。その上、一部の分野や衛生観念に至っては魔法技術のお陰で、現代日本人でも大した違和感もなく過ごせる環境が整っていて、何もなければ普通に異世界探検を楽しめそうな雰囲気と言えるだろう。
現に、のび太一行は風情ある町並みや練り歩く人々を見て楽しめてはいた。
しかし、亜人と呼ばれる人々を差別する風潮が強い国にある町に居ると言う、本来の姿を強力無比な隠蔽魔法とテキオー灯で隠しているレミリアやフランにとっては懸念でしかない要素が存在していた。
故に、どこか楽しみつつも何か忌避するべき事態に巻き込まれない様に警戒し、いざとなったらすぐさま逃げ帰れる備えもしているため、完全に楽しめているとは言いにくい心境ではあるらしい。
そして、その傾向はフランとの実質的な恋人であるのび太に顕著である。ドラえもんに純粋な気持ちで頼み込んでスペアポケットを借り、銃系ひみつ道具の対人使用をせざるを得ない万が一の事態に備えていた。
勿論、のび太はその様な事態が起こらない様にも望んておらず、起こったとしても強力過ぎるものは使わないで、出来るならショックガンや空気砲程度で済ませておきたいとは考えている。
ちなみに、差別的な扱いを受ける対象となっているレミリアは名も顔も知らぬ有象無象からの悪意などそよ風も同義で、フランに至ってはもはや幻と同義だ。
しかし、
「ねえ、お兄様! あの建物……武器とか持った人の出入りも多いし、何か気にならない?」
「ん? えっと、そうだね。そうなると、図書館を後回しにしてでも先に行ってみると良いのかも」
「確かに、僕ものび太君と似た考えだけど……行ってみる?」
解説本を片手に町を歩き、会話などを楽しみつつ図書館へと向かっていると、フランがとある日本家屋に似て非なる『冒険者協会』と書かれた看板のある建物を指差してのび太に話しかけた。どうやら、彼女が今まで生きていた中でも見た事のない様式の建物、不思議な形の武器を持った人間の出入りがそれなりにあるのも加わる事で、興味を引かれたらしい。
で、フランに話しかけられたのび太やその隣を歩いていたドラえもんも同調し、皆に対して目測60m程離れていた例の建物へ図書館よりも先に訪れてみないかと聞いていた。少なからず、のび太やドラえもんも同様に気になり始めている様である。
「ええ。
「ああ。ドラえもんとフランとレミリアの3人も居るし、反対する理由も特にねえもんな」
「確かに、私も行ってみるべきだと思うわ」
「僕はまあ、皆に任せておくよ」
軽い話し合いをした結果、頑なに反対しなければならない理由も特になかったのもあって全員が賛成の意を示した事で、図書館より先に町の冒険者協会へと立ち寄ると決まった。
今まさに、のび太たち位の子供が出入りしないどころか近寄ろうとすらしていないと言うタイミングであったため、全員ではなくとも通行人や立ち寄ろうとしている人々の注目を少なからず浴びているが、本人たちは気にする素振りは見せていない。
「……お兄様。私たち、スッゴく注目されてない?」
「うん、確かにされてるね。もしかして、僕たちが入っちゃまずいところだったのかな?」
「そんな事はないとは思うけど、何とも言えない心地ね……まあ、彼らからしてみれば
だが、建物の中に入った瞬間に浴びた視線の多さは流石に気にならざるを得なかったらしく、周りを見渡しながら落ち着かない様子を見せる。
更に言えば、冒険者協会との看板がある建物の中に入ってから誰にどう話を聞いたりしようかなどの計画は立てていなかった。故に、こうなるのは決まっていた様なものだろう。
「やあ! 子供だけの冒険者集団なんて珍しいと言うか、私も見るのは始めてだよ」
慣れない雰囲気にどうしようか考えながら、ひとまず観光案内所と似た感じの受付に居た男性に話しかけてみようと向かったのび太たち一行であったが、途中で別の冒険者らしき身なりの女性から話しかけられた事で、少し驚きつつも一時中断を選んだ。
女性曰く、のび太たちが優れた子供で構成された冒険者集団に見えていて、それがとても気になって話しかけてきたとの事らしい。
「にしても、君たちは人間の子供なのに……何故ここまで冒険慣れしているんだ? 実は『人間』ではなく、人に姿の似た長命の種族なのか? でないとするなら、一体どんな……?」
「「……」」
それを受け、のび太一行が当たり前の如く挨拶をすると、話しかけてきた女性はすぐに最初とはまるで違う真剣な雰囲気を纏い、周りの人々が思わず視線を向ける程の猛烈な勢いで疑問に思っている事を口に出し始めた。
当然、冒険者と思わしき女性に話しかけられたのび太たちも自分たちが会話を挟む合間すらない今の状況に困惑はしているが、変える方法が思い浮かんでいない。
あまりにも勢いが凄いので、一応声をかけてから立ち去ろうとの考えも一行に生まれているものの、緊急事態でもないのに流石にそれはまずいだろうと思い直したらしく、このまま口を挟む良いタイミングが訪れるまで待つと小声での相談で決まった。
加えて、この女性が相当な実力派であると感じられる魔力や立ち振舞いから感知したスカーレット姉妹の2人は、敵対的な存在にも同じかそれ以上の力の持ち主が居ると考え、万が一の時にすぐ動ける様に少し意識を向けておくと決めていた。
「……いえ、僕たちは至って普通の
そんなこんなで待つ事5分、口を挟む間もない彼女の疑問が途切れたのを見計らい、代表してドラえもんが自分たちについての説明を始め、この流れを変えようと試みた。
当たり前ではあるが、上手く行っている現状を鑑みてドラえもん自身が実は超高性能ロボットである事、レミリアやフランが吸血鬼の少女である事、自分たちが異世界から来た集団である事など、明るみに出た場合に厄介になりそうな部分はぼかしている。
「何と、そうなのか! つまり、幼少期から腕を磨いていたのも勿論の事、冒険に必要な類いの才能も優れている……うむ、天才的だ。並のトラブルならはね除けて悠々自適の旅を送れるだろうし、正直年齢的に怪しいが……能力的には、冒険者協会に特例での登録が許可されてもおかしくはないな」
「あはは……」
しかし、ぼかされた説明でも冒険者の女性の好奇心を煽るには十分であったらしく、最初と同等かそれ以上とも言える反応を見せ始めた。
今まで、やり取りが始まってからそこそこ経過している上に格好の珍しさも相まって、周りの人々からの注目を徐々に集め始めているこの状況は、ドラえもん一行に対して中々落ち着けないと言う影響を与え始めている。
「リーダー、また悪癖ですか。好奇心が旺盛過ぎるのは目を瞑っても、他人に迷惑かけるのはいただけません」
「全くだ。この場に
最初の会話から10分近くが経過し、流石に強めに声をかけてでもこの場を後にしようかと皆が考え始めてきた時、とある男女がドラえもん一行と冒険者の女性とのやり取りに割り込んできたために、それは立ち消えとなる。
容姿は言わずもがな、威圧感を感じる様な立ち振舞いを素で行う男女2人と視線が合ったスカーレット姉妹以外は驚きを見せるも、敵意が向けられている訳ではない。なので、多少の緊張感は抱きつつも落ち着きをすぐに取り戻した。
スカーレット姉妹の2人に関しては、冒険者の女性だけでなくこの威圧感のある男女の力量を落ち着いて推し量り、感じられる魔力や立ち振舞いから彼女に匹敵する力の持ち主であると知る。
ただし、性格自体が良さそうな冒険者の女性と行動を共にしている事もあり、あまり警戒はしなくても大丈夫だろうと判断を下していた。
「おっと、すまないね。ついついやってしまったよ」
「はぁ、これで今月は6回目ですよ? 小さな子供ならまだしも、リーダーは良い歳した大人なのですから、その辺はしっかりしてくださらないと」
「そうだな。まあ、この性格のお陰で助かってる面もあるんだが」
更に、横槍を入れてきた男女2人と好奇心旺盛な冒険者女性の会話が続く事3分、蚊帳の外と化していたドラえもん一行に向き直り、3人は頭を下げた。主に、貴重な時間を使わせてしまった事に対する謝罪が占めている様だ。
とは言え、合計で30分近く時間を取られた以外にこれと言った事はなく、周りの人々からの注目についても建物の中に入った時点で既に存在していた。更に言えば、自由に使える時間にかなりの余裕があり、精々少し疲れたと思う程度の影響しか受けていなかったのもあって、謝罪を即座に受け入れていた。
「さて……そう言えば君たち、どうして冒険者協会に来たんだい? 私が勝手に思っている事なんだけど、依頼をしに来た訳ではないだろう?」
「はい。実は……」
そして、それらのやり取りを交わし終えた後に、落ち着いた冒険者の女性が何故この場に訪れてきたのかとの質問をぶつけてきたため、のび太たちは答えられる部分を彼女を含めた3人に対して事細かに話し始めた。
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