ドラえもん のび太の異空幻想伝   作:松雨

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紅魔館の案内

「えへへ、久しぶり! 私ね、あの日からずーっとお兄様に会いたくて仕方なかったんだよ! まあ、それは取り敢えず置いといて……元気だった? 私が居なくなってから、何か辛い事とかなかった? 例えば、お兄様に暴力をふるって教室の掃除を押し付けようとした、あの男の子たち(顔も見たくない奴ら)みたいな人が出たとかさ」

 

 八雲紫の手招きによって幻想郷へとやって来て、滞在中の宿泊場所である紅魔館へと訪れたのび太に、会えなかった寂しさを癒すが如く抱きついたフランは、ようやく会えて触れ合える嬉しさを爆発させつつも、とある事について心配そうに問いかけていた。

 何故ならば、自分が居なくなってから辛い出来事がのび太に襲い掛かっていないか不安に思い、仕方なかったためだ。

 

 特に、1ヵ月を超える現代旅の中で、フランの記憶に鮮明に残っている出来事の1つである『教室清掃押し付け事件』の4人組のような存在が現れていないかが気になって仕方がないらしい。

 その強さたるや、幻想郷に戻ってからも時折思い出しては、その4人組を始末してやろうかと言う衝動が沸き上がり、独り言で怨嗟の声をあげる程である。館の妖精メイドに至っては、その時のフランが放つ『狂気』が恐ろしすぎて、5割程の確率で気絶する者も出る始末となっていた。

 

 当然、質問している今も同様に同じ衝動が沸き上がり始めているが、のび太に思う存分甘えられると言う幸せが強力な枷となっているため、端から見れば今のフランは、幸せを噛み締めている女の子にしか見えていない。

 ちなみに、この様子を見ていた妖精メイドの一部は、フランがここまで依存する原因となったのび太を初めて見て、それが何となく分かるような気がしている。

 

「うん。変わらず僕は元気だし、例えみたいな嫌な事とか辛い事とかはなかったから大丈夫だよ。それよりも、フランは元気だった?」

「うーん……正直、お兄様に会いたくて()()()()落ち込んでた時もあったから、完全に元気だったとは言えなかったかな。でもね、今はこうやってお兄様の温もりを感じていられるから、凄く気分が良いの! つまり、今の私はとっても元気なんだよ!」

「そっか。なら良かった」

 

 フランから心配そうに問いかけられたのび太は、あの時からずっと病気などもせず元気だったし、例えに出されたような嫌な事や辛かった事は一切なかったと伝えた後、逆にフランが元気であったかと聞き返した。のび太も同様に、それが気になっていたためだ。

 

 実際、今でこそレミリアや館の皆の努力に加え、のび太に再開出来た嬉しさによって完全に元気を取り戻してはいるものの、幻想郷に戻ってきてからすぐのフランは、本人の想定を超える寂しさのあまり、落ち込んで大泣きしていた位だった。

 

 だが、正直にそう言ってのび太が変に気を使ってしまい、幻想郷を楽しめなくなってしまうのは論外である。そう思ったフランは、大泣きする程落ち込んでいたのではなく、少しだけ落ち込んでいたと言う事にした上で、のび太が来てくれたからもう完全に元気を取り戻していると言う部分をこれでもかとアピールをして、心配させまいと試みる。

 

 果たして余計な心配をさせまいと言うフランの試みは成功し、のび太は安心した表情を見せてくれる結果となった。

 

「さてと……お兄様! 格好的に学校帰りっぽいけど、疲れてたりしない? それと、ドラえもんはどう? 2人に館の皆を紹介したり、中を案内したいなって思ったの」

 

 そうして、ひとしきり抱きついたりなどしてこの状況を堪能した後に、フランはのび太の格好を見て学校が終わってからすぐ遊びに来たのだろうと推測すると、疲れていないかと聞いた。紅魔館にしばらく滞在すると言う事から、のび太を皆に紹介しなければと思ったが故の質問である。ドラえもんに関しても同じ思いのようだ。

 

「あまり疲れてないよ。今日は冬休み前ってだけあって、学校も早く終わったから」

「僕は、のび太君が帰ってくるまで家に居たから疲れてないよ」

「そっか! じゃあ、今すぐ紅魔館の案内と皆の紹介が出来るね! お兄様!」

 

 で、そんなフランからの問いに対して、のび太が冬休み前日で早めに帰れた事もあってあまり疲れていないから大丈夫であると答えたため、紅魔館の案内と住人の紹介をすぐに行う事が決まった。

 

 周りの目などもあった現代旅では気を使わなければいけなかったが、ここは幻想郷……それも、自分の性格などを熟知している家族や住人が住む紅魔館であるため、気を遣わずにのび太と触れ合っても白い目で見る人はいない。なので、フランはこれから館の案内と住人の紹介をしつつも、常識の範囲内でのび太と触れ合いをする気満々である。

 

「ほら! お兄様、どう? ここが地下の大図書館なんだよ! 凄いでしょ?」

「うん、凄いよこの本の量。あっちにもこっちにも、全部びっしり……」

「何千……いや、きっと何万冊もあるよ。知らない本も沢山あるし……」

 

 時折翼をパタパタと動かし、幸せのあまり目に見えて興奮しているフランが最初に案内したのは、地下にある大図書館であった。自分自身にとっては腐る程見た光景故に何の面白味もなかったが、のび太が驚きながらもドラえもんと共に図書館を歩き回り、楽しそうにしている姿を目に出来たためか、フランはとても楽しそうである。

 

「あら、フラン。彼ら2人がレミィの言ってた特別なお客様ね?」

「そうだよ、パチュリー。あっ、お兄様! この人は『パチュリー・ノーレッジ』って言ってね、図書館にいつもいる魔法使いなんだ。で、少し後ろに居るのが『小悪魔』って言う悪魔なの。私を含めて、皆は『こあ』って呼んでるんだよ!」

 

 フランに案内されながら、だだっ広い図書館をのび太とドラえもんが歩いていた時、声をかけてきた紫色の髪を持つ人物が現れた。両脇に分厚い本を抱え、少し後ろを暗めの赤い髪色の人物が後についている。

 どうやらフラン曰く、紫髪のゆったりとした服装の人物は『パチュリー・ノーレッジ』と言い、その少し後ろをついている暗めの赤い髪の人物は『小悪魔』と言うらしい。

 

「なるほど……えっと、僕は野比のび太と言います。幻想郷に居る間は泊まる事になったので、よろしくお願いします!」

「僕はドラえもんで、のび太君の親友をやってます」

「のび太に、ドラえもんね。ええ、よろしく」

「えっと、のび太さんにドラえもんさんですね。よろしくお願いします!」

 

 声をかけてきた人たちの簡単な紹介を聞くと、のび太とドラえもんも続いて軽く自己紹介を済ませ、握手を交わした。

 

「いやぁ、妹様がお嬢様以外にこれ程までに懐くとは……余程、(のび太)の事が好きなんですね。聞いてはいましたけど、ビックリ――」

 

 そうして一通りの自己紹介を終え、フランがのび太たちを連れて次の場所へと向かおうとした時、小悪魔がふとそんな事をパチュリーに向かって話しかけていた。彼女から見て、フランののび太に対する懐き様は、前もって聞いていても驚く程であったらしい。

 

「うん! お兄様の事、大好きだよ! 優しいし、私のために色々してくれるし、何より一緒に居て安心するからね! だから、恥ずかしいけどいつか絶対に勇気を出して、あの時みたいにテンションに任せてじゃなくて、ちゃんとしたムードを作ってからお兄様に……えへへ」

「……レミィの言った通りね」

「みたいですね、パチュリー様」

 

 すると、その会話を聞きつけたフランがのび太を半ば強引に引っ張りながら小悪魔とパチュリーの側まで駆け寄り、2人の驚いているのをよそにその会話に割り込むと、いかに自身がのび太の事を好きなのかと言うのを語り、愉悦に浸り始めた。

 

 話を聞く限り、今のフランがのび太に対して抱いている感情には、かなりの割合で恋愛的な意味での『好き』が混じっているらしいが、恥ずかしいなどの理由があって言葉には出せていないようだ。

 

 ただ、パチュリーや小悪魔には即座に全てを察され、のび太には2ヵ月前の現代旅で、テンションに任せて『私のもの(恋人)』と言った事や、別れ際に唇に軽めのキスをした事もあってか、もしかしたらと疑念を抱かれている状態であったが。

 

「あっ……私1人で勝手に盛り上がってごめんね、お兄様とドラえもん。じゃあ、案内の続き行こ! パチュリーとこあも、何かごめんね」

 

 そんな感じで1人愉悦に浸りながら話す事30秒、紅魔館の案内をすっぽかしかけた事に気づくと、フランは気まずそうにのび太とドラえもんに対して謝り、話に割り込んで中断させたパチュリーと小悪魔に対しても謝ると、紅魔館の住人紹介と案内を再開するために2人を連れて図書館を出て行った。

 

「お兄様、ジャイアンたちの都合っていつつくのかな? ついたとしても、ここに遊びに来てくれるかな……?」

 

 地下の大図書館の案内にパチュリーと小悪魔の紹介を済ませ、館内の案内と妖精メイドたちへの紹介のために歩いてる途中、フランが突然ジャイアンたちの都合がいつつくのか、ついたとしても遊びに来てくれるのだろうかと、心配そうにのび太に尋ね始めた。

 

 その内容は、いつまで自分だけがのび太を独り占め出来るのか気になったからなのと、友達であるジャイアンたちが居ない事によって()()()()内心寂しそうにしているのではないかと思ったとのものだ。本音を言えば、今のこの状況がずっと続けば良いと思っている。

 

 ちなみに、フランはのび太の友達の括りにドラえもんを入れていないが、それは単に友達を超える『家族』のような枠組みで考えているだけであり、決して忘れていたり雑に扱ったりしている訳ではない。少し違うものの、例えるならフランにとってのレミリアのような感じである。

 

「分からないけど、余程の事がない限りは誘えば来てくれると思うから、大丈夫。でも、旅行とかの疲れもあるから来るとしても、多分1週間は先になるかな?」

「そっか。来るとしても、1週間後なんだ……」

 

 友達であるジャイアンたち3人が居ないこの状況で、独占する事を望んでいるフランの本心など知らないのび太は、フランがジャイアンたちが居ないせいで寂しく思っていると思い込んでしまう。故に、誘えば来てくれる事を前提として色々と考えれば、1週間は来ないだろうとの推測を打ち立て、そう伝えた。

 

 結果、最高で1週間はのび太を独占出来ると知る事となり、フランは内心それを非常に喜んだ。勿論、言葉にも顔にも一切合切表さないように細心の注意を払っているため、のび太()()感づかれずに済んでいる。

 

「ねえ、フラン。そう言えば、レミリアって何処に居るのかな?」

「お姉様? 多分、自分の部屋に居ると思うけど……行く?」

「うん。僕たちが遊びに来た事を伝えたいから」

「分かった。じゃあ、お姉様の部屋に行こう!」

 

 そうして3人で歩き回り、紅魔館の皆が食事をとるための大部屋の前に来た際、のび太がレミリアを見かけないのを疑問に思ってフランに居場所を尋ねた事で、次に行く場所がレミリアの自室に決まった。




ここまで読んで頂き、感謝です。お気に入りと評価をしてくれた方も、ありがとうございます。

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