「お姉様! お兄様たちが来たよー!」
「ちょっ、フラン!? 私の部屋に連れてくるの早すぎよ! と言うか、せめてノックくらいして欲しかったわ」
地下の大図書館の案内とパチュリーを紹介した後、話の流れで次に行く場所をレミリアの自室へと決めたフランは、のび太とドラえもんを連れ、意気揚々とレミリアの元へと突撃していった。
しかし、レミリアは自室でのび太とドラえもんを迎えるために魔法鏡の前で身だしなみを整えている最中であった上、2人が来る前にフランと身だしなみをするための時間稼ぎの約束をしていた。
故に、こんなにも早く意気揚々と2人を連れて来られるとは想定外であり、着替えをしていたタイミングであったために見られた恥ずかしさが交じり、フランに対するレミリアの口調は少し強めである。
とは言え、全裸ではなかった事がレミリアにとっては不幸中の幸いであった。すぐさまカジュアルな服に着直し、髪を軽く整えるとのび太とドラえもんのところへと向かっていく。当たり前だが、着替えの最中、2人は後を向いていた。
「ごめんなさい、お姉様。お兄様が来てくれたのがスッゴく嬉しくてつい……」
そんなレミリアを見たフランは、のび太が大親友のドラえもんと
「確かに凄く恥ずかしかったけど、怒ってないから大丈夫よ。それにしても、本当に嬉しそう……まあ、別れ際にのび太と唇を軽く合わせたり、戻ってきてからも寂しさのあまり泣いたり、
「ちょっと、お姉様!? いつの間にそれを……ってか、何でよりによってお兄様の前で言っちゃうのさ!? しかも、そこだけ強調して言ってるし!」
「ふふっ……お返しよ」
ただ、レミリアは着替えを見られた恥ずかしさを味わいこそすれ、それに対して怒りを感じていなかったらしい。しゅんとした様子で謝るフランに対して、笑顔で怒っていないから大丈夫だと伝えていた。
まあ、その後にフランが隠しておいたはずの恥ずかしい秘密を、お返しと称してのび太の居る前で全てではないが喋ったので、怒っている可能性がないとは言えないが。
「さてと……いらっしゃい、2人共。幻想郷に居る間は、うちでゆっくりしていって。何かやりたい事とか行きたいところとかがあったら、出来る範囲で協力するから遠慮なく伝えてくれて良いわよ」
「うん、分かった。ありがとう、レミリア」
隠していたはずの秘密がいつの間にか漏れていた上、一番その秘密がバレて欲しくないのび太にバラされてしまい、顔を真っ赤にして恥ずかしがるフランをよそに、レミリアは笑顔で歓迎の意を示した。
2人はそんなレミリアからの歓迎の意に感謝しつつも、彼女が話したフランの隠しておきたかった秘密に関しては、本人が黙り込む位に恥ずかしがる様子を見たため、それについての話を振られるまでは聞かなかった事にしようと決める。
だが、勿論2人がそう考えている事はフランには分からない。そのため、バレてしまった以上は自身が抱いているその強い気持ちを隠す必要性が薄れたと考え、これからはのび太との関係を自分の望むものとするためにもっと積極的に動こうと、フランは決意を固めた。勿論、積極的にと言っても、のび太に不快感を抱かせない程度にではあるが。
「失礼します。お嬢様、特別なお客様方用の食事のご用意が出来ました」
「あら、随分と早いじゃない。咲夜」
「はい。お嬢様もそうですが、特に妹様がご執心なお客様であるようですから」
その後、恥ずかしがっていたフランが大分落ち着き、レミリアたち4人が部屋で楽しげに会話を交わす事10分、扉がノックされる音が部屋の中に響いた。
断る理由もなかったため、その音を聞いたレミリアが入室の許可を出してから数秒の間が空いた後、中に1人の10代後半の女性が入って来たのを全員が目にした。
レミリアとの会話を聞くに、その女性はどうやら
「のび太様、ドラえもん様。ようこそ紅魔館へ。私、ここのメイド長をしている『十六夜咲夜』と申します。滞在中、お二方の担当をさせて頂きますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。咲夜さん」
「僕からも、よろしくお願いします」
で、食事の準備を済ませたと言うその報告を終えた『十六夜咲夜』と名乗った女性は、のび太とドラえもんの方に向いてレミリアと同様に館への歓迎の意を示すと、2人はそれに対して頭を下げて挨拶をした。
現代旅に行ったレミリアとフラン、紫による話からもう既に名前は知られていたので、この場でも軽い挨拶を交わすに留まっていた。今のところ、自己紹介をしたのは話の流れでする事となった、パチュリーと小悪魔の時のみとなる。
「そう言えば、のび太様とドラえもん様はここに来る前に既に食事を済ませたりしていますか?」
「いや、まだ学校から帰ったばかりの時に紫さんに連れられて来たので、何も食べていません」
「僕も、ここに来るまで家でぐうたらしてたので、のび太君と同じで何も食べてないです」
「なるほど……では、宜しければ一緒にお食事はいかがでしょう? 私を含め、うちの妖精メイドたちが腕によりをかけて作った料理がありますので、是非とも召し上がって頂けると嬉しいです」
そうして、咲夜がのび太とドラえもんの2人と軽い挨拶を済ませた後、幻想郷へと来る前に食事は済ませているのかとの質問を投げ掛けた。レミリアからの指示によって2人分多くの食事を用意し、一緒に少し早めの夕食を取る想定でいたためである。
「夕ご飯には時間的に少し早いけど、まあいっか。お腹も空いてるし、何より僕たちのためにせっかく用意してくれたんだし」
「そうだね、のび太君。えっと、咲夜さん。お願いします」
「分かりました。ではこちらへ……」
若干、食事を既に済ませているか空腹ではないと言われるのではと言う心配を、この場に居るレミリアや咲夜は抱いていた。ただ、その心配は2人が『食事は済んでいない』と答え、更に食事をすると言っために、杞憂に終わる事となった。
「うわぁ……良い匂いがするね。食べた事ない料理もあるけど、全部凄く美味しそう」
「そうでしょ? 咲夜たちの作る料理はスッゴく美味しいの! だからきっと、食べればお兄様も気に入ってくれると思うよ!」
咲夜の案内の下、大食堂へと向かったのび太とドラえもんは、長机に用意されている料理から漂う食欲をそそる匂いに、空腹も相まって自然と笑顔になっていた。
レミリアやフランにとって特別なお客様が来ると聞き、いつも以上に気を遣っている料理である事もあり、この上ない程の出来となっている故に、のび太とドラえもんの反応を見た咲夜や調理担当の妖精メイドは、少し肩の荷が降りた。
「遠慮せず、食べたいだけ食べなさい。のび太」
「お兄様! テーブルマナーとか考えなくても、家で食べるのと同じ様に楽しんで食べてね! ドラえもんもだよ!」
「うん。じゃあ、いただきます!」
「いただきます!」
そうしたやり取りを交わした後、席に案内されて座ったのび太とドラえもんは『いただきます』と、食事前の挨拶を済ませて用意された料理に手をつけ始めると、レミリアたちもすぐ後に続いた。
「スケールが大きすぎてついていけないわ……」
「確かにそうだね! 幻想郷がちっぽけに見えてくるし!」
こうして始まった、いつもの紅魔館の皆にのび太とドラえもんを加えた少し早めの夕食は、レミリアの想定を超えた盛り上がりを見せた。のび太とドラえもんがパチュリーや美鈴たちに今まで経験した冒険の話をしたり、逆に幻想郷に来てからレミリアたちが経験した事を、一部ぼかしつつ話したりしたためである。
「ねえねえ! えっと……のび太だっけ? このカレーとかどうだった?」
「私の仕込んだドレッシングをかけたサラダはどうだったかな!?」
「やった事が殆んどないけど、頑張って作ったお味噌汁はどうだったかな……?」
「勿論、全部美味しいよ。皆料理上手で、羨ましいなぁ」
「そう? やったぁ!! ねえ、咲夜お姉ちゃん! のび太
「「あっ……」」
しかし、その盛り上がりはのび太から料理の感想を聞いた妖精メイドの中でもとびきり純粋かつ精神的に幼い1人が、喜びを表現するためにお兄ちゃん呼ばわりしながらくっついてしまった事によって、何とも微妙な盛り上がりへと変貌してしまった。本人の目の前で起こした行動が故に、どんな反応を示すのかが何となく想像ついてしまったためである。
だが、そんな皆の予想は外れ、のび太と妖精メイドの1人が楽しそうにしている光景を少し見るだけで表面上は終わったため、ホッと一安心する事となった。まあ、内面的にはのび太を妖精メイドに気を引かせないようにと、実力行使を含めた策略を立ててはいたが。
「ねえ、お兄様。ご飯を食べ終わったらさ、今日1日だけでも良いから私と2人きりで居て欲しいの。駄目……かな?」
しかし、色々なリスクを過剰に恐れた結果、立てようとしていた策略を全て取り消して普通にのび太に甘え、就寝時間を含めた今日1日2人きりで過ごす状況に持って行く事に決め、フランはそれを実行に移した。
「2人きりで? うん、分かった。良いよ」
「ありがと! 約束だよ、お兄様!」
結果、上目遣い込みの甘えが効いたのかは不明なものの、望み通りの回答をのび太から引き出す事に成功したフランの様子が元に戻ったのを確認したため、大食堂は再び元の賑やかな雰囲気に包まれる事となった。
とは言え、フランはのび太に対してお兄ちゃん呼ばわりする妖精メイドが気になって仕方ないようで、レミリアたちと話したりしながらもチラチラ見たりしている。仮に恋人として取られそうなら、穏やかに引き離すつもりであるらしい。
しかし、この妖精メイドは館の皆は当然の事ながら、余程の悪人でなければ館の住人でなくても、性別や年齢や種族などは関係なくのび太に対する態度で接する性格である。決して恋心を抱いている訳ではないので、フランの心配は杞憂に終わる事が既に最初から決まっていた。まあ、本人はそれに全く気づいていなかったが。
「じゃあ……お兄様! 約束だから、私のお部屋に行こ!」
「分かったよ……ってフラン!? そんなに引きずらなくても行くってば……あぁぁぁぁ」
「「「……」」」
そうして、食事を終えた瞬間にフランはのび太の手を掴むと、約束だから部屋に行こうと言いつつ高いテンションのままに半ば強引に引きずりながら自分の部屋へと向かっていった。床がアスファルトや砂利などと言ったものでなかったため、引きずられる事による怪我は軽くで済んだのが幸いであった。
ちなみに、部屋に行った後にのび太を引きずり怪我をさせた事に気がついたフランは、顔面蒼白で回復魔法を使用しながら10分もの間、涙目で謝り倒す事になった。
その後は、先程の妖精メイドを超える甘えっぷりをフランはのび太に発揮、言葉にはしなくても1ミリたりとも自分以外に靡かせない意思を明確に示す形となった。それ以外にも絵本の読み聞かせや他愛もない会話、簡単な身体を使った遊びなどをしてもらい、自分だけを見ていてくれる時間を捻出した。
当然、万が一のび太がする事なくて退屈にならないよう、ドラえもんから色々なボードゲームを借りてきたり、大図書館から興味がありそうな本を持ってきては渡すなどのサポートも忘れない。お陰で、数時間部屋に居てものび太が退屈を感じる事は皆無だった。
「今日はありがとうね、お兄様。私、とっても幸せだよ!」
「どういたしまして。僕も楽しかったよ、フラン」
「っ! えへへ……」
そして、夜10時を回ったところで流石に遊びを中断した2人は、時間が時間である事もあって寝る準備を手早く済ませ、ベッドに横になり、自然に眠るまでの間は会話を交わす事を決めて実行に移した。
こうして、のび太たちが幻想郷に来た初日は幕を閉じる事となった。
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