ドラえもん のび太の異空幻想伝   作:松雨

4 / 17
のび太とフランの幻想郷巡り(導入編)

「お兄様! 今日からいっぱい、私と一緒に遊んで楽しもうね!」

 

 のび太とドラえもんが幻想郷へ来た翌日の早朝、1人早く目覚めたフランは、未だ隣で気持ち良さそうに眠っているのび太の寝顔を見ながら悦に浸りつつ、今日は何して遊ぼうかと考えていた。

 

 現代旅の時とは違い、のび太と一緒に来ているのが大親友のドラえもん1人である上、今は自分の部屋に2人きりで居るが故に、起きたばかりでもフランのテンションは非常に高い。

 

 そして、今は親友であるドラえもんと存在感を比べた場合に圧倒的に負けてはいるものの、いずれはのび太の中で両親を除いた()()()()()()()であるドラえもんを圧倒的に超え、自分がその座についてやろうとの野望を内に秘めていた事も、寝起きの高いテンション維持に一役買っていた。

 

 勿論、その野望を達成するために物理的・精神的に強制するなどの手段を、フランは取るつもりは全くない。目先の欲に盲目となったせいで大好きなのび太から怖がられるなどして嫌われると言う、想像するだけで涙が出てくる『痛み』を絶対に味わいたくないと、本能的に思っているためである。

 ただし、のび太が自分に気を向けてくれる様な行為を、強制と取られない程度にしようとは思っているが。

 

「うーん……おはよう。フラン、起きるの早いね」

 

 そんな事をフランが考えていると、ベッドから身を起こし、眼鏡をかけたのび太が寝ぼけた状態のままおはようと、自身に声を掛けてきたのを聞き取った。

 

 本当なら高ぶるテンションのまま、自分とのび太しか居ないこの空間て思い切り抱きついたり、吸血したりと言った感じでスキンシップを堪能したいと考えていたが、流石に朝からそれだとこれからの楽しみがなくなってしまうと考えて自重し、それとなく手を握る程度に留めておいている。

 

「ふふっ、おはよう! ぐっすり眠れた? 私の部屋、暑すぎたり寒すぎたりしなかったかな?」

「ふかふかベッドのお陰でぐっすり寝れたよ。部屋も心地良い暖かさで、快適だったから」

「そっか! お兄様が快適に寝れたみたいで、本当に良かった!」

 

 で、それらの留めておいた行為は想像で補いつつ、フランはのび太に自分の部屋での寝心地を聞いていた。もしも、暑すぎたり寒すぎたり、毛布やベッドがのび太に合わなかったりすれば、気持ち良く寝てもらえる様に、即座に環境を整えるつもりだったからだ。

 

 しかし、その心配はのび太本人から快適であったとの返事をもらったため、フランの杞憂に終わる事となった。

 

「ねえ、お兄様。今日は何して遊ぶ? 私はね、せっかくふ……3人だけなんだから、一緒に外を出歩いて楽しく話したりとかしたいな。でも、それでお兄様たちが楽しめなきゃ意味ないからさ、やりたい事があったら何でも言って! それにするから!」

「そうだね、うーん……」

 

 すると、心配事が解消したフランはのび太に対して、ドラえもんを含めた3人で幻想郷を案内しながら楽しく話がしたいと言う自分の意見を言った上で、何かやりたい事があったらそれにするよと言った。

 

 勿論、のび太の事を考えて何でも良いよと最後に付け加えた訳であるが、内心は幻想郷を案内しながら楽しく話しながら手を繋いでデートがしたいと言う欲望が渦巻いている。だから、自分の意見に誘導するために、フランの頼み方にも熱が入っていた。

 

「フランのやりたい事で良いよ」

「えっ、本当に良いの? お兄様、私のために無理してない?」

「うん、全然無理してないから大丈夫だよ。それよりも、僕とドラえもんとフランの3人で幻想郷を回るの、楽しみだし」

 

 結果、のび太はフランのやりたい事で良いやと決めたらしく、問いかけに対してそう答えた。

 すると、当の本人であるフランは自分で誘導しておきながら、あっさりのび太に了承された事が衝撃的だった様で、自分のために無理してないかと心配そうに訊ねる。あくまでも、のび太の意思が1番と言うスタンスでいるが故の行動であった。

 

 しかし、のび太は幻想郷に来てまだ1日も経っておらず、知識が皆無である。なので、幻想郷にどんな人妖が居るのか、どんな物があるのか、何をしたら危ないのかなど、基本的な所をよく知る事から始めたいと考えていた。故に、幻想郷を一緒に楽しく回りたいフランと利害が一部合致し、了承したと言う訳である。

 

「……っ! 分かった! お兄様が楽しんでくれる様に私、案内を頑張るから任せてね!」

 

 勿論、フランはのび太がそう考えたから了承したとは知らないものの、心から了承してくれたと言うのは理解出来た。そのため、これからやる予定である幻想郷巡りでのび太に楽しんでもらえる様にするとフランは胸を張ってそう宣言し、すぐに歯磨きと着替えとしようと立ち上がったが、その楽しげな気分は割れたガラスの様になっていく事となった。

 

「ちょっとお楽しみの所失礼するわ、2人共」

「あっ、おはようございます。紫さん」

「……紫、今日はお兄様との楽しいデートの日なの。邪魔しないでくれる? ねえ?」

 

 何故なら、そのタイミングで紫がスキマから登場したためである。フランは紫が、何の用事もなしにこのタイミングでスキマを使ってまで来るはずがないと直感していた。

 更に、それによってのび太とのデートの予定まで崩されてしまうとまで思っていたため、自然と妖力が漏れ出てる上に口調も態度もキツいものとなった。これも全て、紫がのび太の友人ではないが故のものである。

 

「違うわ、フランドール。別にデートの邪魔をしに来た訳じゃないの」

「ふーん……じゃあ何なのさ?」

「ちょっと今日は申し訳ないけど、2人だけで遊びに行ってて行っててくれないかってお願いをしに来たのよ」

 

 そんなフランの不機嫌な様子を目の当たりにしても紫は特に慌てず、デートの邪魔をしに来たのではないと説明したものの、未だに納得の行かないフランはじゃあ何なのかと更に詰め寄った。

 しかし、自身がフラン以上の力を誇っている上に、そう言う態度を取られる事は既に想定済みであったため、紫は特に動じる事もなく用件を簡潔に伝えた。

 

「私とお兄様の2人だけで? ドラえもんは?」

「ちょっと()()()()()()()()()()()の事について興味があって、それについての話がしたくてね。本当ならのび太も一緒に居てもらった方が良かったのだけど、()()()()()()()()を邪魔されたくないでしょう?」

「まあ、そうだけど……」

 

 紫の用件を聞いたフランは、本心ではのび太と2人きりでデートが出来ると舞い上がっていたが、それは決して態度には出さず、気を使ってドラえもんの事について疑問を投げ掛ける。

 そして、紫はフランの疑問に対して未来の世界とひみつ道具の事について興味があり、ドラえもんと話がしたいからだと淡々と理由を述べた。のび太を呼び寄せないのは、フランとのデートを邪魔するつもりがないとの意思表示のためだとの事。

 

 かなり、紫の説明に胡散臭さを感じているフランであったが、どちらかと言えばのび太と2人きりで居れる事の方が嬉しかったため、それは気にしない事に決めたようだ。

 

「本当にごめんなさい、のび太。ドラえもんには既に了承を得ているから、その辺は安心しても問題ないわ。それと、今日1日安全に遊べる様に『スペアポケット』とか言うものを借りてきたから、万が一の時は使って」

「えっと、何だか良く分かりませんけど……分かりました」

「うん。お兄様、ドラえもんが居なくて残念だけど……一緒に楽しもうね! 万が一なんかないように、私が守ってあげる!」

 

 対して、のび太は紫のお願いの意図が全く分からずに戸惑っていたものの、ドラえもんの了承は得ていると聞いた上に、フランがドラえもんが居ないと言う事を()()()思いながらも認め、自分との時間を楽しもうとしている様子を見たため、取り敢えず了承する事に決めていた。

 

「さてと、お兄様! えっと……着替えるから、部屋の外に出ていて欲しいな……」

「分かった! じゃあ僕も、ドラえもんの部屋で着替えたりとか、歯磨きとかしたりしてくるね」

 

 そうして、紫がスキマでこの場を去っていった後、フランはのび太に一旦部屋から出ていってもらい、外へ出かけるための準備を始めた。

 

「ジャイアンたちも居ない、ドラえもんも居ない、だからお兄様を1日独り占め……えへへ、幸せぇ」

 

 素早く寝間着から特別仕様のお出かけ着へと着替え、髪型などを吸血鬼でも映る特殊な鏡で整えている時、フランはこの後のデートについて想像し、表情が思い切り緩んでいた。

 

 特にジャイアンたちはもとより、幻想郷に来ているドラえもんも紫に連れられるかしておらず、のび太の気を自分から散らす()()がない事もあって、自分の心の内が独り言となって漏れ出てしまっている。

 

「妹様、入ってもよろしいでしょうか?」

「咲夜? うん、良いよ。どうしたの?」

「朝食が出来上がりましたので、妹様もどうですかと伝えに来ただけです」

 

 そんな感じで過ごす事20分、フランは自分の居る部屋の扉をノックする音が聞こえてからすぐ、咲夜が部屋への入室許可を求めてくる声を聞いた。

 着替えも身だしなみも整え、準備万端であるフランはそれを了承して入る様に促して用件を訊ねると、扉を開けて入ってきた咲夜は『朝食が出来たので呼びに来た』と、そうフランに伝えた。

 

「朝食かぁ。私も歯磨きしたら行くけど、お兄様は?」

「のび太様でしたら先ほど、()()()()()が朝食が出来た事を伝え、食堂へご案内をして――」

「咲夜。その妖精メイド、まさかとは思うけど……昨日、お兄様を()()()()()呼ばわりした挙げ句、くっついて甘えてた子じゃないよね?」

 

 咲夜からそう聞き、自分も歯磨きを終えたら向かうと伝えた上でのび太はどうなのかと聞いたフランは、妖精メイドがのび太を食堂に案内をしていると聞いた瞬間、即座に話を中断させた。

 

 そして、表情を曇らせながら詰め寄るようにして、お兄ちゃん呼ばわりした昨日の妖精メイドではないかどうかを、咲夜に確認を取った。どうしても、昨日の彼女がしていた表情を忘れられず、取られないかと心配になってしまったからである。

 

「はい、勿論ですよ。昨日の妖精メイドとは別の、比較的落ち着いたベテラン妖精メイドでしたので、しっかりと適度な距離感を保っていました。急がなくても、大丈夫だと思いますよ」

「なら良いけど……うーん」

 

 フランからそう聞かれる事を予期していたのか、咲夜は落ち着いてのび太をお兄ちゃん呼ばわりした、昨日の妖精メイドとは違うベテランの妖精メイドが案内をしていたと伝えた。勿論、距離感を適度に保ち、そう言った関係になる可能性は皆無であると、暗に示す。

 

「咲夜。やっぱり心配だから、今すぐ急いで歯磨きしてから向かう事にするね」

「分かりました」

 

 しかし、信頼出来る咲夜からの一言でも、のび太が取られてしまうかも知れないと言う想像の恐怖は完全に拭う事が出来なかったフランは、今すぐ洗面所へと向かって歯磨きなどを済ませ、食堂へと向かう事にすると伝えてから、この部屋を後にした。




ここまで読んで頂き、感謝です。お気に入りと評価をしてくれた方も、ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。