「お兄様! 早く朝ご飯食べてデートしに行こ!」
「ちょっ、分かったからフラン。そんなに急かさないで」
咲夜から朝食の知らせを受け、急いで歯磨きを済ませて食堂へと向かったフランは、館の皆がドン引きする位の速さで朝食を食べ終えると、まだ普通に食べている途中であるのび太を急かしていた。朝食に掛けている時間の1分1秒が非常にもったいないと感じている上、2人きりのデートが楽しみすぎて興奮しているためである。
しかし、言われているは本人はたまったものではない。早食い選手レベルの早さで食べろと言われても、一般人であるのび太には不可能であるからだ。
なので、やんわり急かさないでくれとのび太はお願いをフランにするものの、興奮のあまり聞き取れていないのか急かしを止める様子はない。故に、食事を急いで取らなければいけない状況は、変わる事はなかった。
「フラン! ちょっと落ち着きなさい。のび太が困ってるわよ」
「妹様、お嬢様の言う通りです。そんなに急かしては、のび太様とのデートに支障が出てしまうかも知れませんよ」
ただし、それは2人の様子を見ていたレミリアがかなり強めに注意し、そんなレミリアに同調してフランを諌めた咲夜のお陰で急かしが止まったため、のび太は落ち着いて食事を取る事が出来る様になった。
「あっ……うん。お兄様、急かしちゃってごめんなさい。2人きりのデートが嬉しすぎてつい、興奮しちゃったの」
そんな感じで、レミリアと咲夜に注意されて興奮が収まり、その後すぐにのび太へ申し訳なさそうに謝罪の言葉をかけたフランであったが、その後にのび太が言った言葉ですぐに興奮が最高潮まで達してしまう事となる。
「大丈夫だよ、フラン。僕だって、君との2人きりのデートが楽しみなんだから、その気持ちは分かるし」
「えっ……?」
何故なら、のび太の口から出た一言が、フランとのデートが楽しみと言うものであったからだ。
一瞬、衝撃的過ぎたせいでのび太のその言葉が理解出来ていなかったフランであったが、自分とのデートが楽しみと言う言葉を反芻していく内にどんどん顔が火照っていき、意識せずに表情が緩んでいってしまっていた。
もしも、のび太の性格からして自身を友達として見ているのであれば、デートとは言わないはずであると言うフランの考えも、興奮が高まった要因となっている。
「お兄様が、私とのお出かけをデートって言ってくれた……お兄様も私の事、恋愛的な意味で好きでいてくれてたんだ……えへへ、幸せぇ……」
そして、最終的には椅子をのび太の隣にピッタリくっつけると、食事の光景を邪魔にならない程度の距離から見始め、夢心地となっていた。まだ出かける前なのに、出かけて楽しんでいる時の様な幸せを感じていたため、当然と言えば当然であった。
「あらあら。フラン、とっても幸せそうな表情……さてと、のび太。貴方の事だからそんな事はないとは思うけど、一応確認するわ。その言葉に、
すると、そんなフランの様子を微笑ましそうに見ていたレミリアが突如としてのび太に対し、先ほど言った言葉の中に一切の嘘偽りがないかと、威圧感を出しながら確認を取り始めた。
たった1人の妹であるフランの幸せを思うがあまり、のび太がそう言うタイプの人間ではないと分かっていながらも、万が一があってはならないと、確認を取らざるを得なかったと言うレミリアの意思の現れである。
「うん、勿論だよ」
「……その様ね。ごめんなさい、のび太。愚問だったわ」
「謝らなくても良いよ、レミリア。幸せそうなフランを見て、そう言う風に思うのは当然だろうから」
「ふふっ、当然だよお姉様! 心優しいお兄様が嘘とかノリとかでそんな事言うはずないもん! 私にデートが楽しみって言ってくれた時の目を見て分かったの!」
突然のレミリアから向けられる威圧感に驚いたのび太であったが、実際少しずつではあるものの、現代旅後半辺りからフランに対しての恋愛感情を抱き始めていた事もあって、胸を張って勿論であると答える。
結果、のび太の瞳を見つめていたレミリアも、その言葉に嘘偽りはないと言う判断を下したため、この問題はすぐに終わる事となった。
「あっ、お兄様。食べ終わったね!」
「うん、やっと食べ終わったよ。じゃあ、早速行こう」
「はーい! じゃあ、お姉様!
「ええ、行ってらっしゃい」
「お二人共、行ってらっしゃいませ。後片付けは私たちメイドがやっておきますので、大丈夫です」
そして、食事中にじっと見つめられながらと言う、何だか落ち着かない状況ながらも出された朝食を食べ終えたのび太は、夢心地の状態のフランに半ば引っ張られる様な形で食堂を後にし、ひみつ道具の『テキオー灯』を使い、自分は『タケコプター』をつけてから紅魔館を飛んで後にした。
「それで、フラン。紅魔館を出てきたは良いけど、最初はどこに行くの?」
ゆっくり飛びつつ、2人きりの空の旅を楽しんでいた時にふと、のび太がフランに対して最初はどこへ行く予定なのかと問いかけた。紅魔館を出る前に、フランと目的地の相談などをしなかったためである。
「あっ、お兄様ごめんね! 今私たちが向かってるのは『人里』って言う幻想郷で唯一、普通の人間たちが住むところだよ! お兄様の住む町みたいに大きくなくて、娯楽も比べればあまりないけど、安全だし雰囲気も良いところなの! 美味しい食べ物とかもいっぱいあるから、多分しばらく退屈はしないと思う!」
のび太からの問いかけを聞き、デートが出来る嬉しさで舞い上がるあまり目的地を告げずに向かっていた事に気付いたフランは、その場ですぐに謝った後に、人里についての説明を始めた。
あまり長くなりすぎず、かつのび太にとって出来る限り分かりやすくするため、フランの説明にもかなりの熱がこもっている。
「人里かぁ。一応聞いておくけど、危ない妖怪とかが襲ってきたりとかはするのかな?」
「ないよ! 妖怪は
そんな感じで、今からデートに向かう人里についての説明を聞いたのび太は、そこでする楽しい事を想像しつつ、外から危ない妖怪などの人外的な存在から襲撃をされないか、念のために質問をした。
のび太にとって、幻想郷はまだ未知なる場所であり、ひみつ道具と頼もしいフランの存在があれど、自分の身を脅かす危険な存在に襲われたくはないからだ。
フランは、そんなのび太の心に秘められた不安を解消し、幻想郷巡りを心行くまで楽しんでもらうため、人里の中では妖怪などの襲撃は昼夜問わずに禁じられているから大丈夫だと答えた。
で、そのルールを破った場合は人里内の自警団や、博麗神社の巫女である霊夢を筆頭とした勢力の人に退治されるか、酷ければ紫が出て来て襲撃者を幻想郷から文字通り消してしまう事を伝える。
「なるほどね。教えてくれてありがとう」
「うん、どういたしまして! また何か聞きたければ、知ってる限りの事は答えるから聞いて! と言うか、お兄様を襲う奴とかがいたら、私が絶対に殺……叩きのめしてあげるし、紫に気に掛けてもらってる訳だから、尚更心配しなくても良いよ!」
「分かった。頼りにしてるよ、フラン」
更に、のび太が襲われると言う万が一が起こった際は、自分がその襲撃者を返り討ちにしてあげるし、紫に何かと気に掛けてもらっているから心配などいらないと言い、ようやく安心してもらえる事に成功し、フランはとても満足した。
「おじさん、こんにちは!」
「こんにちは、フランちゃん。そっちの兄ちゃんは……見た事ないな。服装も珍しいし、外来人かい?」
「うん、八雲紫に連れてきてもらった外来人だよ。のび太お兄様って言って、私の恋人なの! とっても優しくて、一緒に居るだけで心が幸せで満たされてね……えへへ」
「そうか。まあ、時間の許す限りはのんびりしていきな」
「はい、ありがとうございます。おじさん」
そんな感じで、これから向かう人里についての説明を終えたタイミングで、眼下に広がる目的地が見えてきたため、入口付近まで飛んで降り、警備をしている里の人にフランは話しかけた。
1人見知った顔の隣に人里はおろか、幻想郷に住む人間ではないと思われるのび太が居るのを見て彼は驚くも、フランが惚気るのを見ているのと八雲紫に連れてきてもらったとの一言、目を見てのび太が穏和な人物である事が理解出来たと言う理由から、警備係の里の人はゆっくりしていってくれと声をかけた上で通す事を決めた。
「凄い……まるで、昔の日本にタイムスリップしたみたい」
「お兄様、どう? まだ少し歩いただけだけど、楽しめそう?」
「少し周りの人たちの視線が気になるけど、楽しめてるよ」
「そっか。まあ、お兄様は外来人だし、格好も人里だとちょっと目立ってるって言える奴だから、しょうがないよね」
警備係の里の人から通された後、フランの案内で人里をのんびり歩きつつ、建物やお店を見て回るなど、のび太はかなり良い感じにデートを楽しめていた。
どの程度かと言うと、フランの楽しめてるかと言う問いに対し、時折里の人たちから注がれる、警戒してるかの様な視線がほぼ気にならないと答える程度である。
そして、その視線もフランと一緒に歩いていく内に少しずつ減ってき始めた。紅魔館の当主の妹であるフランがのび太に対して完全に気を許し、親しげに会話を交わしたりしていたと言うのが、最大の理由だった。
後は、恐れる事なく無邪気に挨拶をしてきた子どもたちに対し、のび太が名乗った上で優しく接していた光景が、それを見た里の人からねずみ算的に伝わり、少なくとも悪い存在ではないと認知されたのもあった。
ただ、その際にスペアポケットからひみつ道具を出し、使って見せてしまった事で、不思議な魔法使いではないかとの噂が立ってしまい、興味の視線が向けられる事となってしまったが。
「お兄様、もうそろそろ次の――」
「よう、フラン。随分とお楽しみみたいだな」
そんな事がありつつも、何だかんだ楽しみながら人里巡りを続ける事1時間、もうそろそろ次の場所へ行こうとフランが提案しようとしたものの、彼女に声をかけてくる人物が出てきたため、一旦中断される事となった。
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