ドラえもん のび太の異空幻想伝   作:松雨

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のび太とフランの幻想郷巡り(中編)

「魔理沙! えへへ、うん! 今、とっても楽しくて幸せなの! 大好きなお兄様と一緒に、2人きりでデートだから!」

「なるほど。要は、愛しの人って訳か……っと、悪い! つい声をかけたんだが、邪魔しちまったな」

「うーん……()()()()()()()、大丈夫だよ!」

 

 のび太との幸せなデートの最中、フランに声をかけてきた少女の正体は、彼女の大親友とも言うべき存在である『霧雨魔理沙』であった。どうやら、見知らぬ格好の人間の少年と楽しそうに歩いているフランを見て、つい声をかけてきたらしい。

 

 本来であれば、楽しく幸せな気分の時に少しでも横やりを入れられてしまえば、多少なりともフランは不機嫌になってしまうが、話しかけられた相手が大親友であったために全くそう言う事はなく、むしろ自慢気であった。

 現に、魔理沙がフランの話を聞き、邪魔して悪かったと謝ってから去ろうとした際、少し考えた後に笑顔で大丈夫だと宣言をしていた程だ。これが、他の少女たちであれば、そうはいかない。

 

「そうか、それなら良かったが……お前、名前は何て言うんだ?」

 

 フランから、笑顔で大丈夫だよと聞いた魔理沙は少しホッとした後、のび太に対して名前を尋ねた。大親友が、これ程にまでデレデレになっている少年についても、気になっている様だ。

 

「えっと、僕は野比のび太と言います。紫さんに幻想郷へと遊びに連れてきてもらって、今は紅魔館でお世話になってます」

「のび太……ああ、そう言えば前に聞いてたな。ちなみに、私は霧雨魔理沙だ。よろしくな!」

「はい! 魔理沙さん、よろしくお願いします!」

 

 魔理沙からそう尋ねられたのび太は、フランが仲良さそうに会話を交わしていた事に安心し、自分の名前と幻想郷に来た経緯を簡単に説明をした。魔理沙ものび太の話を聞き終え、簡単に自己紹介を終わらせた。

 

「ところで、さっきから気になってたんだが……フラン。何で晴れてるのに、日傘がなくても全く平気なんだ? パチュリーの魔法かとも思ったが、魔力を感じないし……」

「パチュリーじゃなくて、お兄様のお陰なの! 日傘がなくても、日光の下で私が遊べる様にしてくれたから!」

「のび太のお陰? へぇ……お前って、不思議な力を使える奴だったのか。外の世界の人間なのに、凄いな」

「ねっ、そうでしょ! お兄様はとっても凄い人なんだよ!」

 

 すると、のび太との自己紹介を終えたばかりの魔理沙が、日光の下でもフランが日傘なしで出歩けている理由が気になったらしく、不思議そうに尋ねていた。パチュリーの魔法の線も考えたが、特有の魔力を感じなかったためだ。

 

 で、フランは魔理沙からの質問に対して、反射的に()()()()()()であると満面の笑みで答えた。自分のために色々としてくれる優しいのび太に、かなり心酔しているためだ。

 その様相は凄まじく、魔理沙がのび太の事を凄い奴だと褒めると、表情を緩めてお兄様はとっても凄い人なんだと、人目も憚らず大きな声をあげる程である。

 

 ちなみに、その様子を見ていたのび太は、周りからの注目の視線が恥ずかしくて止めようと思っていたが、気分の高ぶるフランを止める事が出来ずにただ眺めているだけとなってしまっていた。結果、凄い力(ひみつ道具)を使う外の世界の人間なのかと言うイメージがついてしまう事となる。

 

「さてと、私はそろそろ霊夢のところ……博麗神社に向かうつもりだが、一緒に来てみるか? のび太の奴、幻想郷に遊びに来たんだろう? 勿論、2人だけが良いのなら、強制はしないけどな」

「霊夢のところかぁ……魔理沙と一緒に、うーん……」

 

 そして、フランの興奮がある程度落ち着いた後、魔理沙は2人に対して博麗神社へと一緒に来てみないかと誘いをかけた。のび太が幻想郷に遊びに来た事と、デートのために遊び回っている事を鑑みたためである。

 

 しかし、魔理沙からの問いかけに対して、フランはかなり迷っていた。大親友からの好意を無駄にするのは悪いと言う思いと、誰も余計な人を入れずにのび太と2人きりでデートがしたいと言う思いが、心の中でぶつかり合っていたからだ。

 これがもし、提案してきたのが魔理沙やレミリアでなければ、のび太と2人きりが良いとフランは即答していた。

 

「ねえ、お兄様はどうしたい? 博麗神社の霊夢って巫女さんの居るところに行くんだけど、私と2人きりが良い? それとも、初めての場所だから、魔理沙も一緒が良い?」

「えっ……」

 

 1分間、悩みに悩んだ末にフランが出した結論は、のび太に丸投げすると言うものであった。2人きりが良いと言ってくれれば良し、魔理沙も一緒が良いと言っても、大親友だからそれはそれで良しと思ったからだ。

 

 ただ、決定権を振られたのび太にしてみれば、ある意味でたまったものではなかった。自分だけの事を考えれば、初めての場所であるために魔理沙と一緒の方が良いのかもと思っているが、2人きりのデートをとても喜んでいるフランの笑顔を考えれば、一緒でない方が良いとも思っていると言うのが理由だ。

 後は、のび太自身も2人きりの時間を楽しんでいたと言う、そんな理由も存在している。

 

「えっと、魔理沙さん。博麗神社の霊夢って巫女さんに、僕たちの事を伝えてもらいに先に向かってもらう事は出来ますか? フランと一緒に、もう少し2人きりの時間をここ(人里)で作ってから向かいますので……」

「おう、任せとけ! じゃあ、私は先に行ってるから楽しんでこいよ!」

 

 

 結果、のび太はフランの倍以上の時間を使って悩みに悩んだ末、魔理沙に博麗神社へと先に向かってもらって霊夢に自分たちの事を伝えてもらい、人里でもう少しだけ2人だけの時間を過ごすと言う提案を持ちかけた。

 何故普通に答えるのではなく、この考えに至ったのかは本人も良く分かっていないが、自分の意思も尊重しつつ、フランも喜ばせたいと思ったために生まれた案であった事だけは確かである。

 

 魔理沙も、のび太にピッタリくっついて幸せそうにしているフランの様子を見てその提案を了承し、人里をもう少し楽しんでいけと言い残して博麗神社へと向かっていった。

 

「じゃあ、フラン。もう少しだけ、人里を楽しもう?」

「……うん!」

 

 で、当のフランと言えば、のび太が自分との2人きりの時間を少しでも長く過ごしたいと言ってくれつつ、のび太自身の思いも取り入れてくれたこの案にとても満足していた。気分が高ぶり、今すぐ抱きついたり軽くキスをしたくなる衝動に駆られる程だ。

 

 しかし、今この場でそれをしてしまうと、自分はともかくとしてのび太が恥ずかしさのあまり、デートが楽しめなくなってしまうかもしれないと思い立ち、理性で欲を無理やり抑え込んだ。どうせ、紅魔館に帰ればのび太の許す限り、好きなだけ出来る事であるからと言うのもあった。

 

「ねえ、お兄様。私の事、どう思う?」

「フラン。突然そんな事言ったりして、どうしたの?」

「どうもしないよ。ふと、今のお兄様が私の事をどう思ってるか気になったの」

「うーん……一緒に居るだけで凄く楽しくて、どんな嫌な事があってもそれを忘れられる位に、()()()()()()()()()かな」

「元気で可愛い……ありがと。じゃあさ、近い内(告白をする時)に誰にも話した事のない私の過去、お兄様にも話すから、嫌いになったりしないでね」

「大丈夫。心配しなくても、過去の事で僕はフランを避けたりはしないよ。まあ、ビックリする位はあるかもしれないけどね」

「お兄様……えへへ、約束だよ!」

 

 そして、再び人里巡りを始めた2人であったが、その様子はもう誰が見ても、恋人同士としか思わないものであった。

 している話は比較的重たいものであったものの、それを相殺するかの如く、お互いに距離が近くて雰囲気が穏やかなものであったからだ。

 

 少し前に、凄い力を使う外の世界の人間と言うイメージがつき始めただけに、吸血鬼であるフランの心を虜にする何があるのだろうと、のび太に対する興味も向けられ始めていた。

 これには、のび太自身の性格の良さや人ならざる者に好かれやすい体質、出会った当初のフランの精神状況が上手く噛み合ったからと言う理由があったものの、普通の人間である里の住人には知る由もなかったが。

 

「えへへ、お兄様! お金ならまだあるから、食べたかったり欲しかったりするものがあったら、遠慮しないで言ってね!」

「あ、うん。でも、フランばかりにお金を出させちゃって……何かお礼をしなきゃ」

「私が好きでやってるだけだし、お兄様とデート出来るだけでも幸せだから、お礼なんか別にいらないのに……あっ、そうだ! じゃあさ、紅魔館に帰ったら私とハグしたり……えっと、その、1回だけで良いから……キスしたり、してくれる?」

「……分かった。君がそれを望むなら、やるよ」

 

 その後も、人里にある和菓子屋に蕎麦屋、和洋の品々が揃う雑貨屋へと高いテンションのままに、フランはのび太を連れ回して楽しんでいた。使わずに貯めてあったお小遣いを躊躇いもなく使い、のび太にも楽しんでもらう事も忘れずにいる。

 

 故に、お金を使わせてばかりとなってしまったのび太が、いずれ何かお礼をしなければと思い始めてしまう。その様子を見ていたフランは、一時はお礼などいらないと言いつつも、それに便乗して紅魔館に帰った後にハグや軽いキスなどと言ったスキンシップをしようと考え付き、顔を赤らめながらの上目遣いでお願いを持ちかけた。

 

 のび太は、フランのお願いを聞いて現代旅の際にされたキスの事を思い出し、恥ずかしさのあまり同じく顔を赤らめるも、そのお願いを了承する事に決め、そう伝えた。

 結果、この提案をしたフランは、まさかあっさりと了承されるとは思っていなかったのか一瞬だけ固まったものの、すぐに紅魔館へと帰った後の事を想像し始め、今日1番の幸せを味わう事となる。

 

「さて、フラン。もう結構時間も経った事だし、そろそろ博麗神社に行こう。魔理沙さんと、霊夢って巫女さんも待ってる事だろうから」

「うん、そうだね!」

 

 そんなこんなである程度の時間が経った時、流石にもうそろそろ博麗神社へと向かった方が良いと感じたのび太がフランに呼びかけ、本人がそれを快く了承した事で、人里でのデートは本当に終わりを告げる事となった。




ここまで読んで頂き、感謝です。お気に入りと評価をしてくれた方も、ありがとうございます。

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