「それで、
「ええ。まあ、ただ事ではないのは確かだわ」
のび太やフラン、魔理沙の3人と会話中に神社へとやって来た来客……
霊夢自身や魔理沙だけに対して呼びかけるのならまだしも、スカーレット姉妹を含めた紅魔館や紫を除いた幻想郷の住人には、今現在縁も所縁もほぼないのび太まで呼び止めている事が、大きな訳である。
「本当にただ事じゃないのか。なんとなく想像はつくが……なら、今すぐ全容を話してくれ。紫」
そして、紫のただ事ではないと言う言葉を聞いた霊夢やのび太は勿論の事、魔理沙も真剣な面持ちとなったが、彼女はそれと同じ位に心配な事があったために、あまり集中が出来ずにいた。それは、幸せな一時の流れを真っ二つに切られたフランが、明らかに機嫌が悪くなっていくのを目撃したためである。
これでも、当の本人は精一杯その事を隠しているつもりではいたが、隠しきれずに発されている妖気と魔力があまりにも多かった故に、魔理沙にはバレてしまっていた。
ちなみに、そう言った力を感じ取る能力がほぼないのび太も、無理した笑顔や雰囲気、無意識に抱きつく仕草などからフランがご機嫌斜めだと察しているが、同時に精一杯我慢している事が分かっているので、何も気づいていないふりをしながら頭を撫でている。
「そう……なら、早く説明を頼むわ」
「分かったわ……まあ、
魔理沙やのび太は言わずもがな、何かと付き合いの長い霊夢もフランの様子に当然の如く気づいている。なので、変に刺激して神社を含む周囲に被害が及んだり、その厄介事によるダメージを抑えるために早く説明をしてくれと紫に頼んだ。
そうして、促された事によって始まった紫の説明を聞き、魔理沙と霊夢は驚きつつもまあそうだよなと納得し、のび太は純粋に驚く事となった。何故なら、幻想郷全体に
曰く、具体的にどのタイミングで起こるかやそれを起こす存在の内訳、異変の内容はあまり良く分かっていないらしいが、最高位の神々レベルの存在が幻想郷に大きく影響を及ぼす事だけが分かったとの事。
勿論、そうなるまで手をこまねいていた訳ではなく、最初に結界に対する干渉に気づいた時には即座に対処し、影響が与えられる前に何とか守りきる事が出来ていたらしい。しかし、上手い事その少し外側の空域に同等の強度を誇る『超結界』を張られていた上、隠蔽工作が幾重にも施されていた事が後に判明し、そちらに気づいた時にはもうどうしようもないところにまできていた様だ。
当然、そうなってからも紫を筆頭とした幻想郷の賢者組は解決策を探り当てようと奔走していたが、どうにもならずに頭を抱える羽目になっていたとの事である。
「幻想郷が滅亡する程ではないけれど……始まって以来の大異変とはなるでしょうね」
「「……」」
あまりにもスケールの大きい異変の話に、霊夢や魔理沙ですら一瞬思考が止まってしまい、のび太も今まで経験した事のある冒険の中でも大きい方に分類される出来事に、表情も自然と真剣なものとなっている。
「うん、今までの異変の中で最も大規模なものが外部の存在によって起こるって事は分かった。でも、それだったらどうしてお兄様もこの場にいなければいけないの? まさかとは思うけど、お兄様を異変解決に使うつもり……?」
「ええ、その通り。今回のこの異変、幻想郷守護にのび太とその友人たちに協力してもらおうと考えているわ。ドラえもんからは了承済み、他3人はこれから交渉しに向かう予定よ」
「……」
そんな中、せっかくのデートを妨害された上に、紫がのび太をその異変解決に協力してもらおうとしている事がはっきりと分かってしまった機嫌悪めのフランが、言葉を発そうとした霊夢を威圧で黙らせてからそう問いかけたところ、案の定紫は一拍間を置いた後にのび太や友人たちに協力してもらおうと考えていると答えた。
「やっぱり……紫。今すぐお兄様をあの町へ戻して」
「フランドール……」
「貴女たちは、お兄様が過酷な冒険をして五体満足で生き延びてきた経験と勇気があると知っているから、そう言ってるんだと思う。だけど、幻想郷史上最大の異変……怪我したり、想像したくはないけど死んじゃう可能性だってあるんだよ? 現にお兄様だって、何度か命の危機に見舞われた事だってあるって言ってるのに……」
自分の予想が当たってしまったと知ったフランは、手を繋いでいたのび太の方に寂しそうな表情を一瞬だけ見せると、隠していた妖気や魔力と言った力や、悲しみや怒りなどの感情を全て紫に対して向け、今すぐ
本当なら冬休みが終わるまでずっと一緒に居て、あわよくばしっかりとした告白まで済ませたいと言う思いよりも、危険な場所に向かわせて傷つけさせたくないと言う思いの方が強くなったが故の行動である。
「フラン、ちょっと落ち着――」
「うるさい! 霊夢は黙ってて!」
「くっ……」
今すぐにでも本気の戦闘が始まり、とんでもない事になりかねない雰囲気に霊夢が落ち着いてくれと言おうとするも、興奮しているフランにとってはそれも効かず、むしろいつの間にか出していたレーヴァテインの切っ先を向けられてしまったため、黙るしかなかった。勿論、実際に斬りかかって戦い始めるつもりは全くない様ではあったが、明らかにまずい行為である。
その後も、本気で激昂しているフランが紫や藍たちを責め立て、のび太やドラえもんを今すぐにでも町へ戻してあげろと何回も繰り返し、終いにはお前たちをボコボコに叩きのめしてでも戻させると言い始めるなど、事態は最悪の方面へと向かっていった。
なので、霊夢や魔理沙は戦闘準備を整えたり、神社本殿が崩壊しない様に結界を張るなどして万が一に備え始める。
「ありがとう、フラン。でもね、僕は紫さんのお願いを聞こうって思ってるんだ」
「えっ、どうして……?」
「うーん。困っている友達と
「大切な人……もしかして、私の事……?」
「うん、そうだよ」
しかし、そのタイミングでようやくのび太が緊張しながらも動き出し、今にも紫と戦い始めそうなフランを宥める事によって収まったため、霊夢と魔理沙の備えは完全に無駄に終わる事となった。
ただ、怒りが落ち着いた後に今度はフランがのび太に抱きつき、嬉しさや罪悪感などから大声をあげて泣き始めてしまった事で、別の意味で事態が面倒な方へと傾いたが。
「なので、紫さん。僕やドラえもんが出来る範囲でなら協力します」
「ありがとう。そして、貴方を騙す様な形でここへ連れてきて本当に申し訳ないわ。一応だけど、嫌がっているのに無理やりやらせるつもりは全くなかった事だけは伝えておくわね」
「分かっています。紫さんはただ、幻想郷を必死になって守りたいだけだと」
それから10分以上、フランが大泣きしながら八雲一家以外の3人に今までした行為について繰り返し謝り続け、疲れ果てて抱きついたまま眠りについた後、のび太が改めて紫に協力する旨を伝えた事で、全てが解決した。
が、この様な状況でフランのデートが続けられる訳がなくなってしまったので、のび太は霊夢と魔理沙に挨拶を済ませると、紫のスキマを通って紅魔館へと戻っていった。
「美鈴さん、ただいま」
「はい、お帰りなさい。それよりものび太君、藍さんから聞きましたよ。紫さんのお願いを聞き入れて、一緒に幻想郷をいずれ襲い来る大異変から守る事に決めたと」
「はい。僕には美鈴さんたちみたいに強くはないですけど、出来る範囲で頑張ってみます」
「そうですか。でも、無理はしないで下さい。危ないと思ったら逃げても怒りませんよ。むしろ、妹様が悲しむので……危ない時は逃げてもらわないと困ります」
で、紫にスキマで紅魔館へと送ってもらったのび太は門前に居た美鈴に挨拶をするために声をかけると、博麗神社でのやり取りが藍を通じて伝わっていたらしく、本当に大丈夫なのかと言いたげな表情でその事を話し始めた。
何かしらあって傷ついたり最悪の事態が起こり得る異変に身を投じる本人が心配なのも勿論あるが、誰が見ても分かりやすい位にのび太に恋をしているフランに対して、万が一が起こった際の精神的ダメージが絶大なのが明らかであるから、当然である。
ちなみに、博麗神社でした決意が僅かたりとも変わっておらず、美鈴の言いたい事が何となく理解出来ていたのび太は、無理なく自分に出来る限りの事するに留めると伝えた。
「あら、お帰り。、のび太。ドラえもんもそうだけど、紫からのお願いを聞き入れるなんて随分と勇気があるじゃない。流石、命がけの冒険をこなしてきただけはあるわ」
「あはは……紫さんも随分と困ってる様子で、幻想郷が危ないと言う事はレミリアたちも危ないって事だし……」
「ふふっ、のび太らしいわね……あっ、そうそう。妖精メイドたちが作ったおやつがあるんだけど、良かったらどう? ドラえもんも先に食堂で待ってるわよ」
そして、美鈴とのやり取りを終えて館へと戻り、スヤスヤと眠るフランを部屋に寝かしに向かっている途中でレミリアとすれ違ったのび太は、殆んど先程と似たようなやり取りを交わした後に妖精メイドの作ったおやつを食べないかと誘われた。
「あっ、そうなの? 食べたいけど、フランの分は……」
「大丈夫よ。何故か張り切り過ぎたメイドたちが物凄い量を作ったものだからね」
「なら、フランを寝かせた後に僕も食堂に行くよ」
まだ、紅魔館の料理は初日の夕食と2日目の朝食しか食べていないのび太であったが、その美味しさは既に理解していた。故に、幸せそうな夢を見て寝ているフランの分はあるのかと尋ね、有り余る程の量があると聞いた事で食べに行こうと決めた。
その際、デートをする中で色々と飲んだり食べたりした記憶が過るも、そんなに多く飲んだり食べたりしなかったから良いやと、考えない事にしている。
こうして、のび太は眠っているフランを彼女の自室にあるベッドへと運んで寝かせた後、レミリアたちの待つ食堂へと向かっていった。
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