古来より。
勇者とは剣を振るい、すべてを掌握する力を持った魔王を討伐するものと決まっていた。
ある日、異世界からやってきた人間が無責任に撒き散らした、コルナリオウイルスという病がその世界に浸透してしまった。
魔術や医療で回復はできるが、施術には多くの金が必要になる。
というわけで、民はなるべく外出を控え、国から支給された消毒液でなるべく感染を絶っていたのだが……。
そんなことをしている合間に、勇者は魔王のところまでやってきていたのだった。
「魔王よ……貴様を倒せば、この世界が救われる……悪いが死んでくれ」
「それはできない相談だな……それに、我はここから離れられない……外はなんだか騒がしい見たいだが、我には一切関係のない話だからな」
「とぼけるなッ!!お前がいるから、へんな名前の異世界人がやってくるんだ……この手で今、倒す!!」
「あぁ、始めるとしようか……と」
「「その前に」」
「なんでお前顔隠してんの?」
「そっちこそなんでマスクしてねぇんだ!!アホか!!蛮勇の陽キャか!!」
「自分で認めんの尺だけど我陽キャちゃうわ!!」
「あぁぁぁなんか不安になってきた!おい魔王!!ここ換気してるか!?」
魔王はひぃふぅみぃと指折り数える。
勇者の顔が青ざめる。
「換気という換気を行ったのは三日くらい前か」
「バッッッッッッカヤロォォォォォォォォ!!」
勇者は剣を納め、袋の中をあさり出した。
影薄かったけどちゃんといた仲間たちもあさり出した。
「て、敵前で武器を納めるとは……」
「すっこんでろ鈍感スカポンタン魔王!!」
「へぁ!?」
「みんな、準備はいいな!!」
「はい!」「おう!」「できたわ!」
「掃射!!」
勇者たちは一斉に霧吹きのようなものをあたりに使い始める。
もちろん、自室を急にぷしゅぷしゅされた魔王はたまらない。
「おい待てやめろ部屋が湿気るだろうが!」
「んなことわかってる!」
「は!?」
「それよりも、この部屋が消毒してないのが問題だ!!」
「なにが起こったのだ下界は!?」
消毒!
「あーッ、先代魔王様から賜った賞状がぁ!!」
ひたひたになった賞状に魔王が慌てふためいている間に、勇者御一行は浄化()を始める!!
骨董品を消毒し、玉座を消毒し、扉のドアノブを吹き、少しティータイムし、カップを消毒し!!
霧吹きの中身が空になる頃には、魔王の部屋は水分とアルコールで煙たくなっていた。
「ゲェッホーッ、うぇっほえほ、貴様ら舐めとんとちゃうぞ!!」
「これでようやく戦えるな……いざ!」
「なんも見えねえんだけど勇者馬鹿なの!?」
「そおい!」
「あべしっ、なんで見えてんだ我視界一面真っ白なんだけど!!」
一撃斬撃をくらわせた勇者はふっとニヒルに笑い、空になった霧吹きを見せた。
「道行く先で消毒してたからな!慣れてるんだよ!!」
「拝啓、人間サイドの王様たち。お悔やみ申し上げます」
「隙ありィ!」
「隙あるかァ!」
ひらりと躱した魔王に、雷が直撃した。
「ふふふ……その程度の攻撃蚊ほども効かぬわ!貴様の持つ聖剣でもない限り、我にダメージは与えられんぞ!」
「アイシクルランス!」「天空波斬!」「アロースタンド!」
「ブレストセイバーッ!!」
「はっ、効かぬと言っている!ちゃんと剣で戦わないと我にダメージは」
「「「「四身一体!アルティメットノヴァ!」」」」
「ちょっ、だから遠距離はやめろって」
「ダイナスト!!」「飛翔・天空波斬!!」「リアローストレイト!!」
「バースト……ブレェェェドッ!!」
「やめろっつってんだろチキンか!!頑なに近距離戦挑もうとしねぇな貴様ら!!ちょっとチクチクしていてぇんだわ!!」
魔力をドカ食いする大技を何発も放ち、なおあまりある魔力を手刀に宿して勇者がニヤリと笑う。
「よし効いてるぞ!」
「効いてねぇわ!ってか勇者アレどうした聖剣!アレじゃないとダメージは与えられんぞ!」
「誰が触ったか分からない聖剣なんて怖くて抜けるかァ!!
「勇者しか触れることも叶わないからアレぇ!!」
魔王の右手に魔力が集まる!!
「もう我慢ならん!ギガフレアぁ!」
魔王が詠唱を始める。
ギガフレア。全てを焼き尽くし、あらゆるものを蒸発させる魔法。
「あぁぁっ火気厳禁!!爆発したらどうする!」
「えっなに爆発するの?」
「酒と同じ成分だもんなぁ?」
「そうですね」「そうだな」「そうねぇ」
「やだなにこのパーティ、滅したい」
今度は魔王のターンである。
指先に力をため、ビームを出す為に眼前に指を構えた。
「だめですよー、指先だけじゃなく、手のひらも消毒しましょうねー」
「あっどうも……。…………ちゃうわぁ!!」
「ふぎゃっ」
魔女ダウン!
「どいつもこいつもおちょくりおってぇぇぇぇぇ!」
「がっ、は……」
戦士ダウン!
「特に賞状弁償しろぉぉぉぉぉ!!」
「きゃっ」
エルフダウン!
「ぜぇ……はぁ……ここまで我を怒らせたことは褒めてやる……。勇者よ。最初から言っておきたかったが、我の配下になるつもりはないか?今ならポイントカードと世界の半分がついてk」
「話長くなるなら感染対策したいから
「あっうん……」
仲間を引きずって帰っていく勇者たちを見送り、魔王はアルコール消毒液でひたひたにされた自室のなか、一人呟いた。
「誰か助けてください」
魔王様、ソーシャルディスタンスなのです。ファイト。