【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
運命の梁幽館戦に向けて、梁幽館打線ノックを受ける前に、試合のスターティングメンバーが発表された。
1 珠姫(捕)
2 私(遊)
3 光先輩(左)
4 希(一)
5 主将(中)
6 理沙先輩(三)
7 菫(二)
8 白菊(右)
9 詠深(投)
ベンチには代走に適性を見出された稜が控える。稜の走塁ならば梁幽館のバッテリー相手にも盗塁が通じる脚力があると芳乃は見ているらしい。
もはや光先輩が投手ではなく打撃要員と化していることについて、家で聞いてみると、サッと目を逸らされた。そりゃそうよね。光先輩の打撃力ヤバいし。正直、光先輩の投球にコントロールが付いてきたらエースナンバーはともかくとして打撃もできる投手としては光先輩の方が起用しやすい。詠深をベンチに置いて稜を入れた方が打撃力上がるし…
そんな訳で、梁幽館打線を模したノックを、内野の守備範囲の広い
影森戦から4日後。
舞台は開会式もやったメイン球場の埼玉県営大宮公園野球場。
「開会式より広く感じるな!」
「フェンス高!」
「この球場は埼玉ローカルの地上波で全試合中継されるのよ」
「ほんとだ、ある!放送席!」
「ていうか人多いな!アピールのチャンスだぜ!」
球場に感嘆していた稜と詠深に、地上波で放送されることを教えると、詠深が放送席を見つける。
観客席は、前回の影森戦から比べれば断然多い。もちろん私たちを見に来てるのではなく……三塁側、梁幽館サイドだ。
「出てきたぞ!」
「梁幽館だ!」
「中田頼むぞ!」
「陽さんかわいー」
「吉川だ!ガールズから見てるぞ!」
梁幽館は優勝候補筆頭。人気も高い。
「梁幽館…すごい人気だね。三塁側いっぱい…」
「勝ち進むとどんどん増えていくよ」
「それこそ、梁幽館に勝てばドンと増えるわね。ダークホース現るって」
後攻の梁幽館が先にノックに入る。
「さあこーい!」
「さあいこう!」
「デュオーイ!」
「ナイスキャッチ!」
「いいね!」
「ナイススロー!」
「オッケーイ!」
梁幽館の応援席からの声はノックから既に大きい。
「ノックも上手いけど応援席からの声ハンパねーな」
「プレッシャーは凄そうね。ま、うちのエースは何処吹く風でしょうけど」
「そうだな。応援席からの声は
「野球は精神ゲームの要素も大きいですからね」
「そういう事だ。常に気を強く持て」
「ハイ」
主将は稜と菫にそう声をかけた。菫はそういうの弱そう…二塁側に広めに守ろうか。
「さあ!今更ビビっても仕方ないですよ」
「その通り!先発は予想通りだし、有利な要素もあるからね」
「できることをしっかりこなそう!それに、運良く先攻だ!まずは先制するぞ!」
「おおっ!」
野球では一般的に「先攻よりも後攻が有利」といわれている。相手の出方や試合展開に合わせて動けるため、後攻めの方が勝利しやすい…らしい。
だが、高校野球では、先制点を入れた方が勝ちやすいというジンクス…とまではいかないまでも傾向がある。なので、先攻の方が早く攻撃が回ってくるため、高校野球においては打線優位ならば先攻有利だと私は思っている。そして、芳乃や主将もそれを理解している。
シートノックが交代となり、監督がノッカーを担当する。
内野ノックは菫と稜がそこまで難しくない打球を握り損ねたり弾いたり…詠深が試合の分も今のうちにエラーしとこ、というのも納得だ。稜はほぼ確実に代走で出されるだろう。守備で固くなられては困る。
あと、梁幽館ベンチ!レフトかわいいって、私かと思ったら光先輩かい!
整列して礼をして、守備につく梁幽館が散っていく。
『1回の表、新越谷高校の攻撃は、1番
「お願いします」
こちらのベンチからは珠姫に声が飛ぶ。
初球、珠姫は振っていってミート。センターに返して一塁へ。ノーアウト一塁。さすが。
2番は私。
私は右打席で木製バットをバントに構える。内野が前進守備をとる。
吉川さんが投球フォームに入った瞬間に左足をあげて、バットを引く。バスターだ。甘く入ってきた直球を芯で捉えて、レフト線方向へ速い打球を送る。これがツーベースとなって、ノーアウト二・三塁。
「1年相手にいきなりピンチかい」
「今年は投手がなぁ」
「まあまあまあ1点くらい」
「終わってみればコールドよ」
酷い言いよう…3番打者光先輩は豪快なフルスイングで空振り2つ。さらに1球をレフト線外側へ鋭いファール。4球目、掠って詰まったゴロで奇しくも内野安打となる。ノーアウト満塁。
「おいおい、ノーアウト満塁はヤバいだろ」
「吉川どうした」
野次がうるさいが、これも野球の要素。
『4番、
基本的に、私と希と主将と光先輩にはほとんど自由に打たせてくれる。今回もスクイズの指示は出ていない。
1球目、気合いを入れ直したのか制球の良いスライダー。変化は少ないが、コントロールが良い。恐らく新しく手に入れた技のひとつだろう。珠姫のデータにはなかった。
2球目はストレート。振ったバットに当たりファール。
3球目、外に外したストレートでボール。
4球目…決め球の変化の大きいスライダー。
良い当たりだったが、
ワンアウト満塁。
梁幽館の守備は私からすれば柳大川越の方が面倒くさいと思えるものだった。個人技ならば梁幽館の方が上だろうが、総合的には柳大川越の方が守備力は高く感じる。そんなチームから7点も取れた私たちが梁幽館の守備力で点を取れないわけが無い。
5番の主将。打点、好きですよね?この状況で打てないわけないですよね?
初球カーブ見逃し。2球目をスイング。今度はセカンドを抜いてセンターへ。単打で私と珠姫を本塁へ帰した。ワンアウト一・三塁。
続いて6番理沙先輩。
ボールとファールでカウント2-2。5球目、ライト方向への打球は落ちて、単打となる。1点追加で、なおもワンアウト一・三塁。さすが理沙先輩!かわいいと打力は比例するよね!
「おいおい梁幽館なにやってんだよ」
「初回3失点とか先発失格だろ」
「不調か?」
ここで梁幽館の主将は一塁審にタイムを要求。一度場を落ち着かせる様に吉川さんの周りに集まる。
野次を投げる観客は気づいていないのだ。梁幽館が弱いとか不調なのではなく、新越谷打線が強いのだと。
7番菫。ベンチからはスクイズの指示が芳乃から送られる。初球投球開始と共に一・三塁ランナーが走り出す。サッとバットを倒して
8番の白菊は
1回の裏、梁幽館の攻撃に移る際、応援席からの声や吹奏楽の音が響き始める。
「おおー、強い学校って感じだなあ」
「うちも欲しいね、ああいうの」
「お2人さん、気張らず行きましょ。打たれたって私たちに任せなさい」
「頼りにしてるよ、息吹ちゃん!」
守備に散りながら詠深に声をかける。
『1回の裏、梁幽館高校の攻撃は、1番
6割打者…しかも、私たちのような10試合に満たない数でのものではなく、昨年夏からの通算である。コンスタンスに私の好調時で投手との相性が良い時と同じくらいの打力と言える。
初球見送ってストライク。初球打ちが多い陽さんだけど、1巡目は見ていくように言われているのか…
2球目、ツーシームをポール際まで運ぶ大きなファール。少し風が吹いていればホームランになりえた。レフト線外側のフェンスに当たった。
3球目、あの球に空振った陽さん。スリーストライクでワンアウトとなる。
「陽さんって三振するんだ…」
「フォーク?」
「あの
「いや」
野次もかなりザワつく。4点ビハインドで打者として卓越していた陽さんが空振り三振なのだ。
2番白井さん。ノーデータな二遊間の片割れである。
初球ストレート、2球目ツーシームを見逃し。カウント0-2。
3球目はあの球をハーフスイング…いや、止めた。カウント1-2。
4球目、ツーシームで詰まった当たり。セカンドへ。だが…
「セーフ!」
お馴染みの出塁テーマが流れる。
「私生で聞くの初めてだよ!」
「なんか感動するわよね、自分たちのじゃないけど」
そう、
3番高代さんはバントの構え。ワンアウトから送りバント…なかなかにキレた采配ね。さすが名将ってところかしら?こちらの守備力を初球で洗い出しに来てる…
こちらは順当にツーアウト二塁へと進む。
4番中田さんの前に、内野陣がマウンドに集まる。そう、敬遠策。
中田さんは全国レベルでも強打者…超強打者と言えるレベルの打者。OPSは2前後とほぼ毎打席単打を打てるのと同義であり、高校通算50本以上の本塁打を放っている。いくらリードがあるとはいえ点数を献上するわけにはいかない。
4番中田さんを敬遠。4球を立った珠姫が受ける。
「そりゃないよ!」
「中田観に来たのに!」
「ひきょーもの!」
「せっかく新越応援しようと思ったのにー」
「勝負してよ!」
「不祥事!」
「敬遠球打て中田!」
「せこいぞ!」
希が反論してしまって、博多やんとツッコまれるが…まぁ知らん人からしたら同じやな。
「すまんな。ここは私だって歩かせる。冷静な良い指揮官を持ったな。だが、うちの5番以降も手強いぞ」
中田さんめっちゃかっこよす。ちなみに希のめっちゃいい人!って芳乃のこと褒めてるからだよね?
まぁね、強打者を一塁が空いてる状態で歩かせるのは結構多いよね。
5番笠原さん。
初球あの球から入ってストライク。あの球でストライクがとってもらえるのはありがたい。捕球位置が低い分ゾーンに入っていても取ってもらえないこともある。
2球目もあの球。これも見逃しストライク。
3球目、
4-1で1回を終えた。
運命の梁幽館戦は、激しい打ち合いから幕を上げた。