【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
埼玉県の高校野球のチーム数はおよそ160前後。私たちは今大会でベスト16の位置にいる。だいぶ勝ち上がってきているのだ。つまり、強豪校とのぶつかり合いも増えてきている。
次の5回戦は熊谷実業高校と上尾市民球場で対戦する。熊実の野球はとにかく強力打線。そして、投手は県内最速の久保田さん。下位打線にも理沙先輩クラスの打力がいると言えばその打撃力の強さが分かるかも。その代わり守備は投手の久保田さんの速度頼りで、それすらも安定しない投球となっている。お得意の乱打戦となることが予想される。
「うーん…」
「どうしたのよ」
「次の試合のスタメン…どうしようかなって」
家で芳乃の部屋を覗くと唸っていた。
「それなら理沙先輩がいいと思うわ。適度にあっちも打たせないと…変に投手戦になったら良くないもの」
「それって…」
「いいじゃない、代わりに理沙先輩には勝ち投手の権利をあげられるし」
「そうだね…そうしたら…」
「セカンドには芳乃かしら」
「あはは」
「冗談じゃないわよ?」
「え?」
芳乃はキョトンとした顔をする。
「3~4回くらいならある程度動けなくても、新越谷の初心者の私と白菊が異様な活躍をしているせいで警戒されるし、そもそも梁幽館戦前に芳乃が言ってた通り、1戦で起こりうる守備機会はそう多くないわよ」
「それはそうだけど…私は練習してないし…」
「守備はそれなりにだけど、私の相手を出来るだけの技量はある。打撃だってノックやってるだけあって詠深よりは期待値高いでしょ」
公式戦打率ゼロの詠深よりは。練習試合含めても打率が4分2厘となっている詠深よりは。24打数1安打の詠深よりは。
「馬宮高校の主将さんの言葉を借りるなら前に転がせば何かが起こるって言うしね」
「う…」
「それに、私たちは
「違うよ!」
芳乃は手元にあったコップの水を一気に飲み干してから続ける。
「私は…そんなんじゃないんだよ……」
「いつでも一緒にいたから分かるわよ…昔のことよ、あれは。今なら…」
「でも……」
かつての新越谷野球部の人に幼稚園から小学生低学年の頃に野球で遊んでもらったことが多々ある。
その頃はまだ私たちも身体も神経系も発達途中であった。私は経験的に比較的良く動けていたけど、芳乃はもちろんそんなことはなく、全然運動がダメだった。それを根に持って小中では野球はおろか運動はほとんどしていなかった。もっぱら見るだけ。だからこそ、その観察眼は磨かれた。
だが、私たち姉妹の持つ
私はしたためていたメンバー表を見せる。
1 主将(中)
2 芳乃(二)
3 光ちゃん(左)
4 理沙先輩(投)
5 私(捕)
6 白菊(右)
7 稜(遊)
8 菫(三)
9 詠深(一)
「もしくは稜は捕手で、私がサード、菫がショートっていう配置もありね。希と珠姫は現状疲労が最も溜まっている選手だから温存ね。こういう時は光ちゃんと理沙先輩が体力多い方で助かるわね」
「疲労……」
「やっぱり気づいてなかったか…熊谷実業には生半可な守備は通じないわ。なら、逆に手を抜くのもありよ。できる限り勝ち抜くつもりなら、手を抜いていいところと、抜いてはいけないところを把握しないと、選手をイタズラに消耗するわ」
芳乃だって天才的な指揮官ではあるが、それでも本当に指揮を執るのは初めて。対して私は、多いとは言えないものの前世の経験もある。ベンチウォーマーだからこそ分かる選手の状態。それについてはかなり詳しいと思う。
ちなみに、稜が捕手に入ってもなかなか面白いゲームになると思う。稜は感覚派なので、打者にとって地味にめんどくさいリードをしてくれると思う。
「私はできること全てやって勝ち抜くつもりよ。芳乃はどうなの?」
「わ、私は……」
おろおろと目を左右に振るものの、あいにく家には2人だけ。芳乃を助けてくれる存在はいない…というかそういう環境の時にこの話を持ち込もうと思っていたのだから当然だよね。
戦いは準備8割運2割。勝てる環境を整えてこその準備だ。……なんか上手いこと言った気がする。
なお、私は芳乃が答えを出すまでここで粘るつもりだけど、もしやらないとキッパリ答えを出すならそれはそれで芳乃の選択だから受け入れるつもり。こっちからは言わないけど。
「私は……」
「芳乃、あなた私と珠姫があの時話してて聞いてないと思ったら大間違いよ?」
「え?」
「公式戦ユニフォームを受け取った日の練習終わり。私と芳乃と珠姫と詠深でキャッチボールした時のこと」
「…?」
「あの時あなた言ってたわ。「好きなチームには勝って欲しいし、好きな選手には最高の結果を出して欲しい。そのために私は貢献したいんだ。だから、最後の夏までサポートさせてね」って」
「…!」
悪いけど、私はそこそこ記憶力はある。未だに前世のことを覚えているくらいには。
「芳乃が出ることで、希も珠姫も休める。次の試合で最高の能力を発揮するために、休むことも大事なこと。芳乃も分かってるわよね?」
「うん…そうだね……今の目の前のことにとらわれてて、私自身の望みを忘れてたみたい。分かった、私出るよ。最低限はこなしてみせる!」
「ええ…それでこそ私の妹よ」
私は覚悟を決めた芳乃をみて、無意識に笑みをこぼしていた。
☆☆☆☆☆
翌日、監督と主将と芳乃と私でミーティングを行った。
「次の試合のラインナップの件ですが、原案としてこちらをご覧ください」
1 主将(中)
2 芳乃(一)
3 光ちゃん(左)
4 理沙先輩(投)
5 私(捕)
6 白菊(右)
7 稜(遊)
8 菫(二)
9 詠深(三)
あの日、私の案を元に芳乃が作ったラインナップだ。
「これはどういうことですか?芳乃さんは試合に出すつもりはありませんが…」
「希と珠姫を下げる理由はなんだ?」
監督と主将から猜疑の視線を受ける芳乃に、私が立ち上がる。
「そこは私から回答させていただきます。まず、現行で1年生を中心に公式戦の連続による肉体的・精神的疲労が蓄積しています。特に酷いのが希と珠姫です。この点を認識した上で、2点目―――」
私は芳乃を説得した時とほぼ同じ説明を2人に向けて行う。
「最後に、熊谷実業は盗塁をほぼしませんし、エンドランやバントなども行わない強打のチームです。そのため、捕手や内野手が不慣れであってもある程度対応することが可能です」
「分かりました。ですが、芳乃さんは練習に多くを参加していません。この点はどうするつもりですか?」
「それは―――」
私は間を置く。
そして、ニヤリと笑う。
「
☆☆☆☆☆
その日、練習前に行う部室での全体ミーティング。
監督と主将が前に立っている。芳乃が発表に合わせてホワイトボードに打順と守備位置を記す。
「これより5回戦の熊谷実業戦のラインナップを発表するぞ」
「それでは…1番、ショート川﨑さん」
「え!?」
「返事ははいですよ」
「は、はい!」
稜だけではなく、みんなが困惑していた。
「稜ちゃんは
「ここでか!任せろ!」
私が稜にそう告げると、稜は腕が鳴るぜって興奮していた。
「2番、セカンド藤田さん」
「はい」
「3番、レフト川原さん」
「はいっ」
ここは妥当なチョイスなので、みんな一旦落ち着く。
「4番、ピッチャー藤原さん」
「え、あっはいっ!」
4番でピッチャーがやりたいと言っていたのを詠深たちが聞いて、それを世間話で私と芳乃が知った。それが今回の起用の最大の理由であるが、ちゃんとした理由もある。
「ある程度コンスタンスに打ててかつ
「嬉しいわ」
ちなみに理沙先輩の打点は主将に次いで2位だ。
「5番、センター岡田さん」
「はい」
理沙先輩が打てなかった時や勝負を避けられない様にする役割を担う。言わば影の4番。
「6番、キャッチャー…」
「は―――」
「息吹さん」
「い?」
「はい」
珠姫がキャッチャーと呼ばれた時点で返事をしかけていたが、呼ばれた名前は違かった。
「理由は後で話します。続けますよ」
「あ、はい」
「7番、ライト大村さん」
「はいっ」
白菊はそのパワーで走者が残っていた場合に一掃する打力を求めた。なぜならその後は打撃に不安がある下位だからだ。
「8番、ファースト……芳乃さん」
「ええ!?」
みんなに同音に驚かれる。
「理由は後で話します。最後、9番、サード武田さん」
「は、はい」
これが最終的なラインナップとなった。以下にまとめておこう。
1 稜(遊)
2 菫(二)
3 光ちゃん(左)
4 理沙先輩(投)
5 主将(中)
6 私(捕)
7 白菊(右)
8 芳乃(一)
9 詠深(三)
主将と藤井先生が訳を話した。
「―――という訳で、今日は動きの確認だけして解散、休息を取ってくださいね」
こうして、私たちは熊谷実業戦へと動き出すのだった。
今回は内容薄くなっちゃいました…すみません。明日から頑張る
実は原作で芳乃がプレイヤー登録されていたことを見て、これ絶対試合出ないと行けなくなるパターンだ!って思ったのになかったんですよね…
次回から熊谷実業戦です!