【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

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第19話 トリックプレー

 

 

私たちが相手にしてきた速球派で特に良いピッチャーと呼ばれていたピッチャーと言えば、梁幽館の中田さん、柳大川越の朝倉さんくらい。そこに今日は県内最速投手の久保田さんが加わろうとしていた。

 

 

 

 

 

先発投手は理沙先輩。理沙先輩のストレートはサードからファーストへいち早く届けるための直線的なレーザービームを元にしているため、真っ直ぐ、曲線が小さい重そうな球に見えるのだ。

言わば対空砲と対戦車砲という一見使い方の違う砲でも、軌道が似てるため転用できるのと同じだ。ナチス・ドイツの使っていたアハトアハトも対戦車砲として有名だが、元々は対空砲だ…ったはず。

 

1番打者の平下さんがレフトツーベース。

2番、3番とフライに倒れるも、平下さんはタッチアップで3塁。

ここで迎える4番久保田さん。初球見逃し、2球目を捉えてバックスクリーン直撃のツーランホームランとなる。

 

「うわ…知ってはいてもこれは……」

 

私は球審から受け取った新しい球を持って理沙先輩に近づく。

 

「ドンマイです。序盤は1イニング1~2点ならOKですよ。緩急つけてアウト取っていきましょう」

「ええ、ありがとう」

 

久々に…いや、この世界に来て初かな。配球を考えている気がする。本当に野球は頭脳戦だよね。芳乃キャッチャーでもいいかな。………いや、肩はそんなに強くないからやめておいた方がいいかな。

 

私は指を折って声を張る。

 

「ツーアウト!」

 

 

 

5番の豊村さん。

内角外角、ストレートカーブ、とにかく厳しい。

 

(ど真ん中以外にカーブを)

(ええ)

 

外角低めに入ったカーブでショートフライにうちとってスリーアウト。

 

「いい感じですよ、理沙先輩。ストレートもカーブもちゃんとゾーンに来てます」

「そうね。調子悪くなさそうで良かったわ」

「夢だった4番で先発という舞台です、楽しんでくださいね」

「ええ!」

 

 

 

私はベンチに戻ると、珠姫が手伝って防具を外す。

 

「ナイスリード。捕手経験なしとは思えなかったよ」

「ただの珠姫の真似よ」

「あはは…ランダム投法を前に言われるね」

 

間接的に自分を褒めているのと変わらない。

 

「芳乃、2回以降は()()で行くよ」

「うん、大丈夫だよ。うちのメンバーなら…多分」

 

 

 

1回の裏、新越谷の攻撃は1番稜から。

稜はバットを持って()()()に入る。

 

「お願いします!」

 

稜は右打席とはうって変わった選球眼を見せて四球。

 

 

2番菫も下手に手を出さずに四球。

 

 

3番光ちゃん。

速い球を完璧に捉えてライト前へ。稜は部内2位の快足で三塁を蹴り、ホームへ。ライトもバックホームするが、全然精度が悪くて悪送球となる。

記録はツーベースとエラー。ノーアウト三塁。

 

 

4番理沙先輩。

4番だからか、三塁にランナーがいるのに後退守備を敷く熊谷実業。なんでこのチーム勝ち残ってたんだろ……

三塁方向にバントで転がして、サードのエラーも相まってスクイズが一塁もセーフに。

 

 

5番主将。セカンドゴロで、流石に今度はエラーせずワンアウトランナー二塁。

 

 

6番は私。

左打席に入った私。今回は走塁をメイン。エラー確率高いからね。

きっちりレフトへ飛ばしてツーベース。エラーは無し。これで打点1。

 

 

7番白菊。

ライトへ大きな当たりはキャッチアウト。だけど…犠牲フライには十分。

私は捕球と同時に走り出す。三塁を蹴ってホームへ。正直この後の芳乃と詠深では帰れるか分からない。芳乃の打力は未知数だし…

 

今度はライトのバックホームもちょうど良いワンバン球。クロスプレー…!

 

「…アウト!」

 

審判は右手でアウトを示す。スリーアウトだ。

 

 

 

私は急いでベンチ前に戻る。

 

「ドンマイ、判断は悪くなかったよ。期待値的には熊谷実業のエラー率も含めて走った方が正解だよ」

「ありがとう、芳乃。でも守備ついてね?忘れてない?」

「あ…」

 

芳乃は慌ててヘルメットを外して帽子をかぶり、ファーストミットをつけて一塁へ向かっていった。

 

 

「珠姫、やっぱり大変ね…戻ってきてすぐに防具つけて…」

「まぁね。もう慣れたもんだけど」

 

珠姫はテキパキと防具を私に付けていく。

 

「はい、出来たよ」

「ありがとう、行ってくるよ」

 

私は本塁前に行く。

 

「遅くなりすみません」

 

 

 

2回の表、熊谷実業の攻撃は6番の今関さんから。

私は長打警戒シフトの指示を出す。…というか熊谷実業戦では滅多なことがなければほぼ常に長打警戒シフトだ。

 

「長打警戒よ!」

(芳乃に送球が少ないように、できるだけフライにうちとりましょう)

(インハイにストレートね)

 

光ちゃんが投手だったら、私こんがらがって変なリードしそう…とか思いながら1人目。レフトフライかと思いきや、光ちゃんは追いつかず。ツーベースヒット。長打警戒シフトが仇となったパターンだ。

 

 

次の7番早川さんもライトにシングルヒット。無死でランナー一・三塁でピンチに。

 

 

8番、9番はそれぞれ内野フライにうちとる。これでツーアウト。ランナーは変わらず。

 

 

そして、2巡目の1番平下さん。彼女は1打席目でライトツーベースを放っている。

私はボールを手渡しにいく。

 

「理沙先輩、アレやります」

「わ、わかったわ。全力投球ね?」

「はい」

 

私はキャッチャーボックスに戻り、座る。

理沙先輩が投球動作に入って、投げられた白球は私のミットに………は収まらなかった。

 

 

 

前世で見た、2012年9月1日のプロ野球の試合…そういうだけで反応できた人はなかなか訓練されているわね…そう、若鷹と公の試合で起こった。5回表、点差は無く同点。ワンアウト満塁で公の攻撃。

若鷹の投手陽がワイルドピッチをしたのだ。

だが、その投球はキャッチャーと球審を超えて後ろの壁に当たり、キャッチャーがすぐに抑えてピッチャーに送球。本塁タッチアウトとなったのだ。

 

 

 

それを私は人為的に再現した。

 

 

マスクを外して走る。ボールを確保して、本塁カバーに入った理沙先輩に送球。そして、飛び込んできた三塁ランナーとクロスプレー…

 

 

「アウト!」

「ほ…」

 

スリーアウト。点は渡さなかった。

 

ちょっと壁が柔らかったのかバウンドが弱くてゾッとしたのは秘密だ。

 

 

 

「ナイスリカバリー」

「よく捕逸から刺したね〜」

「そ、そうね」

 

珠姫と芳乃にそう言われるが、故意にやったとは言わない。敵を欺くには味方から。今後もしかしたら使えるかもしれないし。でもこの球場では二度とやらないわ。

 

 

 

 

2回の裏。

8番芳乃。公式戦・練習試合合わせてもちろん初打席。人生初打席と言っても過言でない。

 

パワーは私以上にない。だが…観察眼は()()()()()から芳乃に軍配が上がる。

 

四球。ノーアウト一塁。

 

 

9番詠深。芳乃に代わって監督が盗塁またはエンドランの指示を出す。ここは芳乃の走塁をみたいということか…

 

投球動作を起こしたと同時にスタートする芳乃。空振りした詠深。捕手は投げられず盗塁成功、ノーアウト二塁。意外と足も良さそう…というか間の抜き方かな?

 

今度はバントのサインを送る監督。

バントの構えをとる詠深だが、球威に負けて上に上げてしまう。

何とかキャッチャー前に落ちるものの、二塁走者の芳乃は三塁にスタートしてしまっている。サードに送球したのを見て、二塁に引き返す。サードはショートに送球。三塁側に引き返す!

 

「避けろー!」

「壮絶な鬼ごっこね」

 

ショートはサードにボールを返す。その瞬間、二塁側にまた転進。サードはショートに送球。だが、ショートの捕球時にするりと避けて二塁に飛び込む。

ショートは芳乃を諦めファースト送球。詠深はギリギリのタイミングでアウトが宣告。ワンアウト二塁。

 

 

そして、なおもチャンスで1番稜。

ファールで粘るも、見逃し三振。

 

2番菫もセンターフライにうちとられる。スリーアウト。

 

 

「ナイスランだったよ、芳乃ちゃん!」

「帰れなかったけどね」

「まさかあれを避けるとはな〜」

 

守備に散りながら芳乃に声をかけていくみんな。確かに、あれなら代走でも使えるかも。

 

 

 

 

3回表。熊谷実業の攻撃は1番からの好打順。

 

1番平下さんがシングルヒットで出塁。

 

 

2番の上坂さんはライト前にゴロを打ち一塁アウト。だが、進塁打となりワンアウト二塁。

 

 

3番の広沢さんはセンター前に落として一・三塁。

 

 

迎える4番、久保田さん。

 

「すみません、タイムお願いします」

「タイム!」

 

私の要求したタイムに、内野陣がマウンドに集まる。

 

「芳乃、敬遠?」

「うーん…ワンポイントリリーフ…でもヨミちゃんのあの球、息吹ちゃん捕れる?」

「無理だと思うわ、流石に。いくらコピーしても追いつかないわよ。捕逸したらこの状況じゃあ立て直せないわ」

「じゃあ素直に敬遠しようか」

「そうね」

 

内野陣が守備位置に戻る。

 

「お待たせしました」

 

私は座らずに右手で大きく外すように示す。

 

「…ふん」

 

久保田さんは面白くなさそうに鼻息を吹かすと、一塁へ歩き出した。

ワンアウト満塁。

 

 

5番豊村さんは理沙先輩が新たに習得したカットボールで詰まらせ、6-2-3のダブルプレーでスリーアウト。

 

 

「思わぬ投手戦になってきたね…」

「久保田さんもかなりいい球投げるようになってきてるわ。守備もリズムが良くなってきてる」

「そうだね…5回からは光先輩に継投も視野に…監督、その辺もお任せします」

「ええ、任せてください」

 

 

 

3回の裏。打順は光ちゃんから。

 

空振り、ファール、ボール、空振りでアウト。ワンアウトノーラン。

 

 

4番の理沙先輩。理沙先輩は引っ張り方向へ当たりを出した。レフトヒット。

 

 

5番、主将。空振り三振でツーアウト。だが、理沙先輩は盗塁成功で二塁へ。

 

 

6番の私は、ボールの下を叩いてしまって、キャッチャーフライに倒れた。スリーアウトだ。

 

 

 

4回表。

 

6番今関さんはサードの詠深の好守備(ファインプレー)でサードゴロ。

 

 

7番早川さんはセンターに叩き返されてシングルヒット。

 

 

8番田中さんもライトへ強い当たりでツーベース。ワンアウト二・三塁。

 

 

9番野口さんは空振り三振。ツーアウト

 

 

1番平下さん。

ここは中軸に回さずうちとりたい。ストレートとカットボールの組み合わせでセカンドゴロに打ちとった…かと思いきや、芳乃が捕球エラーで満塁に。

 

2番上坂さんはセンターフライになってスリーアウト。ピンチを凌いだ。

 

「ナイスピッチでしたよ、理沙先輩」

「ありがとう、息吹ちゃん」

 

 

 

4回の裏。この回は三者凡退となって、新越谷サイドの雲行きが怪しくなる。

 

 

残り3イニング。点差は2点。勝負は後半戦に突入した。

 

 

 

 

 




日本シリーズ、3戦目が行われましたね!

巨人の先発投手サンチェスがかわいく見えた私は末期です。
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