【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい   作:風早 海月

21 / 65
第20話 戦術論

5回の表。

打者を迎える前に、私は球審にシートの変更を知らせた。

 

「守備位置変更をお願いします。打順の順に、レフトがピッチャー。ピッチャーがサード。ファーストがレフト。サードがファースト。以上です」

「ええと、3番の川原さんが投手、4番の藤原さんがサード、8番の川口芳乃さんがレフト、9番の武田さんがファースト…であってますね?」

「はい」

 

メンバー表は打順の順に並んでいるので、シート変更は打順の順番の方がわかりやすい。

球審は記録員に伝えに行く。

 

理沙先輩は、投球回4、被安打8、被本塁打1、四球1、奪三振1、失点2、自責点2の力投を見せてマウンドを退いた。

 

光ちゃんが投球練習を始める。

光ちゃんの持ち球は、ストレート、チェンジアップ、スライダー、シュート、シンカー、スプリットの6種類。なので指の本数では指示を出しきれないので、指の形で指示を出す。

ストレートは人差し指のみ。

チェンジアップは親指のみ。

スライダーは人差し指と親指。

シュートは小指と人差し指。

シンカーは小指と親指。

スプリットは五指全てでパー。

といった具合だ。

 

それに加えて高め低め、内角外角のサインがついている。こちらは新越谷投手陣共通だ。

 

 

「プレイ!」

 

球審のプレイと共にプレーが再開する。

私は調子を確認する意味でもストレート内角高めに要求する。

 

(まずは速いのお願い)

(うん、分かった)

 

ポップアップする光ちゃんのストレートは上に伸びるため、ボールの下を叩いてしまう。ファールでカウントを取るもよし、フライにうちとるもよし。今回はその浮き上がる特性で打者に威圧感を与えるのだ。もしかすると見逃してくれるかもしれないし。

 

3番広沢さんは初球見逃してストライク。

 

(もう1球、今度は外角で)

(空振り狙い?)

(そのつもりよ)

 

ストレートの速い球が外角に決まる。打者は振って空振り。ツーストライク。

 

(チェンジアップ。内角低めで)

(打たれない?)

(ゾーン外側でもいいから角に!)

(うん)

 

3球目のチェンジアップはレフト線に転がるファールとなる。

 

(1球仰け反らすわよ)

(ストレート?)

(ええ)

 

4球目はボール。今日の制球、なかなかいいわね。

 

(ゴロでうちとるわ。ど真ん中にスプリット!)

(うん!)

 

スプリットはボールの上っ面を叩き、セカンドゴロ。一塁フォースアウト。

 

「今日制球定まってるわね」

「うん。なんか息吹ちゃんが座ってると、いつもより球が走ってくれる感覚があるよ」

「あー、ヨミも珠姫が座ってる時の方が強ストレートがノビてるものね。そういうのってあるのかしら…まぁ、なんにせよここから変化球バンバン指示するのでお願いね」

「うん、頑張るよ」

 

ワンアウトノーラン。

 

 

 

4番久保田さん。走者無しなので勝負。

 

(久保田さんはストレート勝負が好きだから変化球主体でいくわよ)

(うん)

(まずはシュートで外角ゾーン外に。様子見ね)

(分かった)

 

シュートを見逃しでボール。

 

(内角高めにスライダー。ただし変化は強めに!)

(うん、全力でいくよ!)

 

ミットで受け損なって前に落とすが、ストライク。

今の変化…詠深のあの球並……とまではいかないけどかなりいい変化してる…光ちゃん、もしかして進化してきてる?

 

(スプリットを低めに。ファーストが芳乃じゃなくなったから遠慮なくゴロで!)

(あははは…)

 

スプリットは僅かにゾーンを外れてボール。カウント2-1。

 

(次はカウント取りにいきたいわよね……ストレートを外角外側低めで)

(ファール狙いだね)

 

ストレートを待ってましたと言わんばかりに食らいつく久保田さんだけど、コースが悪かった。というか可哀想なことに球審のマスクに直撃した。

 

「大丈夫ですか?」

「ええ…」

 

球審から球を受け取って、光ちゃんに投げる。

 

(光ちゃんの球にはまだ順応してない。次、シュートで詰まらせよう)

(外角低めだね)

(ええ。でも低すぎない方がいいわ)

(分かった)

 

狙い通りにシュートを振ってきた久保田さん。詰まった当たり。打球は……レフト!

 

「芳乃!理沙先輩、主将、カバー!」

 

声は届いてないかもしれないけど…せめて理沙先輩には届いていれば問題ない。センターの主将がフォローに入るのは普通だからだ。多分問題ないとは思うけど……

 

芳乃が落球点に入ったのか動きを止めて上空を見ている。そして、グラブを掲げた。

 

パシッ

 

安全に確実に、フライを確保した芳乃。

ホッと息を吐く。

 

ツーアウトノーラン。

 

 

5番豊村さんは三振にうちとってスリーアウト。

 

 

 

5回裏。1番稜から打順はスタート。

稜はショートゴロ。

 

 

続く菫。

サード強襲安打で一塁へ。

 

 

3番光ちゃん。

快打な音が響き、フェンス直撃のツーベースヒットとなる。

 

 

4番理沙先輩。

久保田さんが投げた最高の球(ベストピッチ)をライト方向へかっ飛ばし、ホームラン。スリーランホームランとなった。

 

 

5番主将はセカンドゴロに倒れる。ツーアウト。

 

 

6番の私は粘ったものの球威に押されてセンターフライ。スリーアウト。

 

 

 

いそいそと防具をつけて、キャッチャーボックスへ向かう。

6回の表、熊谷実業の攻撃は6番今関さん。

 

現在、ヒットは熊谷実業の方が多い。それで点数が大きく違うのは要所でしめる守備が機能したからだろう。

だが、逆を突けば……

 

カンッ!

 

このように簡単にツーベースを打たれてしまう。

 

 

7番早川さん。

ライトに飛んだフライは白菊がダイビングキャッチを試みるも後逸。二塁ランナーはホームイン。打者一塁へ。

 

「今のは守備のミスだから自責点にはならないわね。気にしないで大丈夫よ」

「うん、大丈夫」

 

 

8番田中さんもレフトへ飛ばす。が、芳乃はライナー性の打球に対応出来ず失策(エラー)。すかさず主将がバックアップについてレーザービームを放ち本塁走塁は阻止した。ノーアウト二・三塁。

 

「タイムお願いします」

「タイム!」

 

2回目のタイムを使う。内野陣が集まってくる。

 

「外野のエラーが続いてるわ。次からゴロを打たせるような配球にするから、内野陣は絶対阻止でお願い」

「任せとけ!」

「この中で稜が1番やらかしそうなのに、さらにフラグ立てないでよ…」

 

私はみんなに小声で耳打ちする。

 

「それでね…ごにょごにょ」

「熊谷実業相手にやれるのかしら?」

 

理沙先輩は不安そうに眉を顰めるが、私は自信があった。

 

「今の光ちゃんならなんとかなります。あとは…運次第ですね。最悪勝ち越されても、下位打線のヨミと芳乃をあの2人に代えられますから…」

「…期待値は足りてるのね。分かったわ」

「ではお願いします」

 

私は本塁に戻る。

 

「お待たせしました」

 

打者の野口さんと球審にそう言って、本塁の前に立つ。

 

そして、マスクを右手に、真上から振り下ろす動作とレフト線側からライト線側に水平に振る動作をする。

 

「川口シフト!」

 

私と芳乃が考案したため名付けられたそのシフト。5人内野シフトのバリエーションだ。通常の5人内野シフトは文字通り内野に5人入れることだけど、この川口シフトは少し違う。

足の速いセンター主将が外野後縁の左に寄り、ライトの白菊が少しレフトよりに。レフトの芳乃が通常のセンター守備位置の前に、ショートとセカンドの稜と菫はピッチャーのそれぞれ左右後方に。ファーストとサードの詠深と理沙先輩が外野と内野の縁にそれぞれ後退そしてラインギリギリに守る。

 

【挿絵表示】

 

※守備位置参考図です。守備番号が振ってあります。

 

このシフトは主将の守備範囲の広さを利用したアウトを取りに行くシフトだ。要はいかにゴロを打たせに行くかが重要な戦術であるため、コントロールが良い私か詠深の専用シフトだったのだけど、光ちゃんの投球内容からいけると判断したのだ。

守備力の低いうちのチームが格上と戦うために作り出した。このシフトは柳大川越や咲桜高校にも通用するだろう代物だと…思う。

とりあえず、打線だけなら咲桜高校などにも匹敵する熊谷実業で試験運用といこうじゃない。

 

「プレイ!」

 

打者は9番野口さん。いいスイングをしてくるバッター。ピッチャー視点から言わせてもらうと、こういうスイングって怖いのよね…

 

(シンカー、足元に投げ込みましょう)

(うん、回転少なめにいくよ)

 

シンクロするようにピッタリと投球が望んだコースに来る。

甘く見えて甘くない、ちょっと甘い球だ。……どこかで聞いたような……

狙い通り初球打ちしてくれて、私の左後ろにいた菫が処理する。ワンアウト二・三塁。

 

 

1番の平下さんは今日打てている打者なので、歩かせて満塁策。

 

 

2番の上坂さんをスプリットとシンカーを中心に組み立ててレフトゴロ…正確にはセンター前にいたレフトの芳乃が捕球して、7-6-3のダブルプレーにしとめる。スリーアウト。

 

 

 

 

「よかったよー!シフトも有効的だったね!」

「芳乃が仕上げたんだもの、予定通りよ」

 

私が発案して、芳乃が仕上げたこのシフト。抜け目は無い。…まぁ長打打たれたらツーベースは覚悟しないといけないシフトなのだが、単打の確率は確実に減らせる。繋ぐ打線である柳大川越を念頭に置いたシフトだ。

 

私は防具を外さずにベンチに座る。中軸までは回ってはこないだろうという予測だ。

 

7番白菊は三振。8番芳乃がバントで出塁も、詠深がショートゴロで併殺。

 

6回の攻撃を終えた。

 

 

「さぁ、ここを抑えれば準々決勝だよ!きっちり抑えよう!」

「よし、しまっていくぞ!」

「おう!」

 

芳乃と主将がチームを引き締める。4点差。満塁ホームランで同点となる点差だ。

 

 

 

 

7回の表、熊谷実業は代打攻勢。

 

3番の広沢さんを下げて代打が出る。シフトは敷かずに通常通りの守備位置。

 

(落ち着いて低めにお願いね)

(うん、大丈夫。あと3つ!)

 

制球乱れて四球。

 

 

一呼吸入れるように、私はボールを手渡しに行く。

 

「次は久保田さんだから内角多めに組み立てるわよ」

「うん。ごめん」

「気にしないでいいわよ。最悪でも私か詠深がいるんだから、ノビノビ投げていいわ」

「うん!」

 

4番久保田さん。

 

(内角高め、ストレート)

(ううん、それは打たれる)

(ならこっちは?内角手元に!)

(うん。スライダーで)

(クロスファイア!)

 

「ストライク!」

 

空振り。久保田さんはニヤリと笑う。勝ち負けを考えずに、今を楽しんでいる顔だ。こんな顔をする人に力みは期待出来ない。

 

(低めにスプリット。外してもいいわよ!)

(うん、振らせる気で!)

 

2球目、スプリットの上っ面を叩いたものの、パワーでレフト前へ持っていく。

 

ノーアウト一・二塁。

 

 

5番豊村さんも退いて代打が出るものの、三振でワンアウト。

 

 

6番今関さんはそのまま打席に入る。

 

(今関さんは今日2本ツーベース打ってる。シンカーとシュートでゴロ狙いよ)

(うん)

(外角低めにシンカーで逃げてくコース!)

 

だが、読まれていたのかレフトに大きな当たりが出て、ツーベースヒット。

 

 

7番早川さんも打てているので代打攻勢から除外されたみたい。

だが、光ちゃんは打たれ始めたことで調子を崩したようで、再び四球となる。

ワンアウト満塁。

 

私は監督を見る。監督は珠姫に指示を出して本塁側に走らせる。

 

「選手交代とシートの変更をお願いします」

 

私は寄ってきた光ちゃんの背中をそっと叩いた。

 

 

私がピッチャー、光ちゃんがレフト、キャッチャーに珠姫が入った。芳乃はベンチに戻る。

 

 

「息吹ちゃん、アレは試す?」

「ううん。アレは準々決勝以降用にとっておきたいから…ランダム投法で」

「分かった」

 

 

 

8番も代打攻勢。満塁だからゴロにうちとりたい。

光ちゃんの力を引き出しきれなかった分、私が…!

 

「ストライク、スリー!」

 

ツーアウト。

 

 

9番も代打。ライトに飛んだヒット。三塁ランナー久保田さんは生還。二塁ランナーも走る。ライトの白菊がレーザービームを放つ。クロスプレー!

 

 

 

 

 

 

 

「アウト!」

 

 

ゲームセット。

 

あの状況で、私ならアウト取れなかったわね……やっぱり本職はすごいわ。

 

 

 

 

 




試合の流れが違うので、久保田さんからのボールを貰う詠深というシーンは生まれませんでした…

ソフトバンクホークス、日本シリーズ優勝!
日本一おめでとうございます!

やっぱりギータ(光先輩のモデル)の一撃ですね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。