【完結】川口息吹は憑依転生者な器用貧乏だけどかわいい 作:風早 海月
準々決勝にて柳大川越を下した新越谷高校は四強入りを果たした。
四強は以下の通りに決まった。
新越谷高校
咲桜高校
美園学院高等学校
椿峰高等学校
の4校だ。
新越谷の名前のところには梁幽館が入るのだろうとの下馬評だったが、今やダークホース新越谷は注目の的だ。
ちなみに椿峰は惜しくも春大では結果が伸びず、Cシードではあるがかなりの強豪校だ。どうやらあいさつは朝でも夜でもごきげんようだそう。本当にそんな学校あるのね。きっと薔薇の名前の生徒会役員がいる。
準決勝は新越谷対咲桜、美園学院対椿峰の戦いとなる。
私としては決勝に進んで椿峰と戦ってみたい。あのお嬢様学校の野球部がどんな試合をするか、生で感じてみたいのだ。
……もしダメだったら大会終わったら練習試合申し込みたいな。
ここに集まっている四強は梁幽館と肩を並べる強者たちだ。そんな相手に私たちは、なお、勝ちにいく。
さて、とは言うものの、咲桜戦のラインナップをとても悩んでいる。監督、主将、そして私たち川口姉妹の4人で会議を行っていた。
「ヨミを3連投は厳しい…だが、咲桜に勝ったとして、椿峰も美園学院も強豪…どこかで光か理沙を投げさせなければならない」
「梁幽館の高橋さんから貰ったデータによると、打撃の咲桜、投手の美園、守備の椿峰、だそうです」
「椿峰は柳大川越のようなタイプということ?」
「柳大川越が研究とパターン分析による守備だとすると、椿峰は高い個人能力と統率の取れた流動的な守備が特徴です。簡単に言えば、相手を研究していちいち対応するよりも、身に染み付いた守備を誰に対しても完璧に行うことの方が効果的という考え方みたいです」
「なるほどな…」
主将が納得する横から、藤井先生が芳乃に質問する。
「咲桜の具合はどうですか?」
「咲桜高校は、最高遊撃手の田辺さんや塁間最速の小関さんを擁している機動力の高いチームです。打撃でも5割打者が複数いるため、出塁率は高めです。ここで光先輩と息吹ちゃんのコンビは使いづらいです。ちなみにショートの田辺さんの守備範囲は広大なので、ゴロで二塁三塁の間は抜けないと思って良いと思います」
「なるほど、美園学院は?」
「美園学院の特色はなんと言っても2年生エースの園川さんが春の全国で21回3失点の好投を見せています。これには正妻の福澤さんの功績も大きいですが、何よりシュートとスライダー、そしてツーシームとスローカーブ。完成されたと言っても過言ではない投手力です」
「コントロールと緩急も最高の投手か…椿峰と美園学院の方はロースコアになりそうだな」
「逆にこちらは乱打戦に持ち込みましょう。先発投手は藤原さん、中継ぎに川原さん、抑えに息吹さん…の予定でいきましょうか」
藤井先生は顎を抑えながらそう芳乃に提案する。
「今度ばかりは総力戦です。決勝に出れれば武田さんのゲームメイクが必要になるでしょう」
現状、うちの先発投手陣は特徴的過ぎて扱いが難しいのだ。
第1にエース詠深。
彼女は研究に弱い点がある。柳大川越で強ストレートやあの球を狙われたり、梁幽館では試合中に攻略されてほぼ毎イニングで失点している。
だが、彼女の良い点はそのスタミナと決め球であるあの球と強ストレートは狙われてもある程度凡打にできる力があること、そしてなにより精神的に強いこと。恐らく決勝に出れたとして、初回を普段通り投げれる先発投手はそうそういないだろう。詠深はそれが出来る投手だ。
第2に光ちゃん。
コントロールが悪く球威不足だったことは、私がキャッチャーに入ることでコントロールの改善により補える。この時点では詠深より良いピッチャーと言える。
だが、その弊害として盗塁阻止が難しくなることが挙げられる。珠姫のようにタマキャノンは持ってないのだ。マネは出来るけど。
第3に理沙先輩。
理沙先輩は主力先発投手としては論外だ。そもそもコントロールがゾーンに入るレベルでしかない。変化球もカーブだけで、重い球のストレートだけが武器である。急造投手であることから、投球数50~70、いっても80が球威の限界であることも足枷だ。さらに、打撃面で急成長していることからそちらに専念させたいという思惑もある。
だが、将来的にコントロールの向上とファストボール系(カットボールやツーシーム)の習得によって化ける可能性は大いにある。
と言った状況で、藤井先生が選択したのは最良と言える。
精神面で比較的強い詠深を決勝に持っていくのだ。
「なら打順とスタメンは重要ですね」
「あぁ」
「主軸は決まっています…というより、芳乃さんに提案したいラインナップがあります」
藤井先生はサマージャケットの内ポケットからメンバー表を取り出した。私たちはそれを覗き込む。
「これは…凄いな」
「大胆な使い方ですけど、これはこれで…いえ、これは面白いことになりますよ!」
「そうね…でもいいのかしら?」
「ええ。私は乱打戦における打順はこうあるべきだと思います」
私たちは視聴覚室で咲桜の試合を見ている仲間たちの元へ作戦を伝えに歩き出すのだった。
☆☆☆☆☆
翌日。
私と芳乃は朝早くから北大宮駅に来ていた。
私たちの試合は第1試合。9時開始だ。
みんな現地集合ということにしているため、8時には球場に集合するようにと言われている。
何故現地集合かというと、うちの学校がバスを持ってないことと、みんなの最寄り駅によってはスカイツリーラインから野田線へ乗り換えるべきか、JRで大宮に出てから野田線で北大宮に出るべきかで料金が変わってくるなら。
例えば詠深は松原団地駅*1が最寄りなので、JRを使わないルートがお得。対して私たち川口姉妹はレイクタウン駅からなので、JR経由の方がお得だったり。まぁ1番のお得なルートは大宮から歩いていくルートだけど、20分も歩きたくないし。
「おはようございます」
「おはようございます」
「お、来たか。お前たちで最後だな」
私と芳乃が一塁側選手通用口の前に辿り着くと、主将がメンバーの到着確認をしていた。
「みんな早いわね」
「ちょっと早く起きちまった!」
稜はカラカラと笑う。
他のみんなもあまり緊張はしてなさそう。梁幽館や熊谷実業や柳大川越に勝ったことが、自信になってるみたい。正直、ここから先は私の原作知識は役に立たないから、経験と
……まぁそれでも私は打つけどね!今日は乱打戦に持ち込みたいし、先攻で初回先制点取りたいよね…
今日は私が主役なのだから…!
本日のラインナップ
1 希(一)
2 菫(二)
3 稜(遊)
4 私(三)
5 理沙先輩(投)
6 光ちゃん(左)
7 白菊(右)
8 主将(中)
9 珠姫(捕)
常に
敵からすれば4番を務めることもあるほどの強打者が8番に控えている上に、その後ろもそこそこ打ててる珠姫。気の抜けない打順形成なのだ。
どこでも中軸どこでも上位打線作戦と、長ったらしい作戦名を監督はつけていたけど…要は打順に関わらない戦力の均一化が目的。
そういう条件下とはいえ、4番を任された私。ここぞで打つことが期待されていると思う。期待に応えていこう。
対する咲桜のラインナップ。
1 小関(中)
2 北内(一)
3 田辺(遊)
4 末原(右)
5 丸山(二)
6 錠(左)
7 野村(三)
8 松原(投)
9 清水(捕)
7番野村さん以外は全員背番号通りのラインナップ。
5番の背番号を背負う3年生茜屋花音さんが3回戦で故障して以来11番の2年生野村さんが入っている以外、スタメンは一切変わっていない。試合途中での代打は多々あるので、全て研究対象なのだけど。
ちなみに茜屋花音さんは咲桜の主将であるものの、足の腱が軽度とはいえ炎症を起こしていることからベンチ入りを見送られており、背番号6の3年生にして県内最高遊撃手の田辺由比さんを主将代行としている。
主将と田辺さんのじゃんけんによって、私たちは先攻となる。
私と光ちゃんはシートノックが始まっても、端でキャッチボールを続けていた。
「調子はどう?」
「まぁまぁね。何とか自責点ゼロを継続したいところだけど、この間は光ちゃんに失点が付いたとはいえ失点しちゃってたから…最終回は誰も本塁を踏ませないつもりで投げるわよ。そういう光ちゃんはどうなのよ?」
「うん、多分良いと思うよ」
私は座って、光ちゃんの投球練習を受ける。
「……変化球もキレてるし、コントロールも悪くないわね」
「じゃあ私が今度は受けるね」
「防具つけなさいよ?」
「うん」
光ちゃんが防具をつけて座る。
私はフォーシームジャイロとツーシームジャイロを試す。
「うーん、やっぱり今日はまあまあね。少し球速落としてコントロール重視で投げるわね」
「うん、じゃあインローのゾーンにツーシーム!」
私はツーシームジャイロを普段より遅めに投げる。
「よし、コントロールは出来るわね。最悪ランダム投法に戻すべきかしら」
「それもありかも。でも、私は息吹ちゃんのジャイロ好きだよ?息吹ちゃんのかわいさが投球に現れてるよ」
「ちょっと何言ってるか分からないけど、まぁ試合しながら調子戻るかもしれないし、それはそれね」
私たちは防具を片付けて、整列に準備する。高校野球の代名詞ともいえる駆け足整列だ。
私たち高校野球に携わる者が必ず色んなところで礼をしたり頭を下げたりするのは、私たちがプレーするのに色々な人の善意で成り立っているからだ。
例えば全国大会で使われる甲子園球場は歴史的経緯もあるが、使用料はタダだったり、放映権料もタダだったり。高校野球を黒字収支で運営できているのは、ひとえにそれに携わる全ての人たちの協力によるものだと認識しているからだ。
それこそ、放映権料を取るならば甲子園なら数十億円の価値があると思う。それを使って運営すれば良いという意見もあるだろうけど、それでは周囲はいつか高校野球に対してメリットデメリットでしか対応してくれなくなるだろう。みんなが協力して作る大会だからこそ、みんなは心から楽しめるし、心から泣けるのだ。
プロ野球も面白いけど、高校野球との違いはこの感情移入だと私は長年アマチュア野球に携わって…まぁ長年といっても前世の18年間と今世の15年間の合計33年……まぁ幼少期を除くとして20年から30年だけだけど、そう感じる。
野球というのは非常に金のかかる競技。それを思いっきりやらせてくれる全ての人たちへの感謝。私はそう思っていつも礼をきちんとしているし、これからもそのつもりだ。
「よろしくお願いします!」
新越谷と咲桜がとうとう激突!
サンサンと照りつける球場
揺らぐ新越谷
次回、第24話 真の強豪
なんかアニメにありそうな次回予告してしまった笑